表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鈴鳴堂怪奇譚  作者: 秋月大海
2年生編
8/12

六の話 無貌面(上)

このお話は、何者かになろうとする人々のお話。様々な葛藤を経て自分を探す人々のお話。

見ようによっては、「自分」という仮面に囚われすぎて、すべてを見失った愚か者のお話。

鈴鳴堂怪奇譚 六の話 無貌面(むぼうのめん)

~マジナイ屋ト乙女達、邪仙ト対峙ス~


序の幕 「(おもて)」についての小考

黒井晃 「器物の怪異―その発生要因と対応について―」

大和大学歴史民俗研究会編『民俗咒法研究紀要』第三十巻 第五号 三十五頁―七十五頁 弊聖二十三年

(第一章第二節 より抜粋)


(前文略) ……古来、優れた技術を持つ人物の作り出した存在には、神霊が宿ると伝えられた……(中略)……著名な逸話では、あまりにも達筆が故に夜な夜な抜け出して障りを成した円山応挙の幽霊画(注一)、水差しの中で花開き芳香を漂わせた水仙の竹細工を作り出した左甚五郎(ひだりじんごろう)(注二)。日本刀などの界隈でも、名刀と呼ばれるものほどその作刀の優れた事を語る為に、または所蔵された神社仏閣の箔をつけるために様々な怪異譚が伝わる(注三)こととなる。……(中略)……その中でも、面という物は格別であろう。面は、実在する存在であっても、非実在的存在であっても現世に即時的に似姿を生み出せるという点で、他の器物以上に神霊と密接なる関連性を持ってきた。……(中略)……面に宿る怪異として、面霊気という逸話が知られる。能の始祖たる世阿弥の記した『風姿花伝』には、飛鳥の御世に居たとされる、渡来系氏族である秦氏の始祖、(はた)(かわ)(かつ)(注四)が(うまや)(との)(とよ)()(みみの)皇子(みこの)(みこと)が自ら彫り上げた六十六の神の面を用いて、神楽(かぐら)を奏上したことを『申楽(さるがく)』の祖として扱い、鳥山石燕はその逸話を引きながら『百器(ひゃっき)徒然(つれづれ)(ぶくろ)』にて「面霊気」という妖怪(注五)を創作した。優れた者が作り、優れた者が扱った面、それに九十九を遥かに超える歳月を重ねれば、神霊も宿ろうか、と。

古来、面という物は神聖なものだ。『風姿花伝』を引くまでもなく、人がこの世ならざる神や仏、鬼や化け物をこの世に表そうとした時、面に頼る。面とは、己を消し、己以外を己の身に降ろす装置なのである。我が国の古典のみならず、大陸の国々、西洋諸国、砂漠の国から、南洋の島国に至るまで判例を上げれば無数になる。……(中略)……面とは神霊を宿す物、否、面そのものが、既に神霊そのものであると言えるのではなかろうか。 ……(後文略)


(注一) 特に著名な絵画として、津軽国弘前市にある護国山観音院久渡寺に所蔵の、天明四年二月三日に弘前藩家老森(もり)(おか)(しゅ)(ぜん)(もと)(のり)が寄進した「返魂香(へんごんこう)之図」があり、本邦初の「足のない幽霊」として知られる。絵を寄進した森岡主膳の死別した妻や妾の供養として応挙に絵画の作成を依頼したという逸話が伝えられている。この絵画の巷間への周知に至った経緯としては、三遊亭圓朝が語った落語において題材として取り上げられたことに端を発している。その後に、太聖年間に至り講談の形として因縁譚が大いに語られるようになり、人気の演目となっていった。

(注二) 左甚五郎は、講談や浪曲、落語などにおいて多く題材として取り上げられる。実在の作品として著名なものは日光東照宮の陽明門に掘られた「眠り猫」や「三猿」などである。しかし、職人としての活動期間が三百年を越えるなど単一個人としては異様であり、複数人の職人集団の中で継承されてきた一種の襲名であるという論も存在している。実際、まるで命が宿ったかのように優れた彫刻作品を多く残したこともあり、それが逸話の数に拍車を掛けたのだろう。

(注三) 例として、戦で受けた刃の傷を蛍が寄り添って癒したという「蛍丸」、持ち主の夢の中に現れる悪鬼を切ったという「鬼丸国重」、渡辺(わたなべ)(のつな)の佩刀として知られ、茨木童子の腕を切り落としたとされる「(ひげ)(きり)」など、逸話には事欠くことはない。そもそもが、刀の原型たる「(つるぎ)」は、その切断する器物という形状と意味そのものに咒的な意味を付与されてきた。そのため古来魔を祓う儀礼に多く用いられ、日本の神話や民話にも神剣と呼ばれるものが多く登場する。『古事記』や『日本書紀』に名が見える素戔嗚尊が(やま)(たの)()()()を退治する際に振るった「遠呂(おろ)(ちの)(から)(さいの)(つるぎ)(別名として天羽々(あめのはばきり))」や、倒された遠呂智の尾より現れた皇位継承のレガリアである「天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)」、国譲り神話に登場した建御雷尊(たけみかづちのをのみこと)の「布都御魂(ふつのみたま)」などが著名である。

(注四) 百済の氏族、弓月君に出自をもち、四世紀頃に帰化したと言われる。応神天皇の御世に多くの人々を伴って帰化すると共に、当時の大和朝廷に大陸由来の技術をもたらし、近畿一帯に勢力の基盤を置いていた。観阿弥、世阿弥親子は自らの箔付けのために秦河勝の血縁と意識した発言が散見される。一説によると「秦」の始皇帝の血族とも百済の王族に連なるとも言われる。学会では否定されるが、一部の超古代史信奉者の中には秦氏を古代イスラエル王国から逃れた失われた氏族と結びつけ、日ユ同祖論の中核的論証と考える者もいる。駿河国で発生した邪教、常世神の征討を行うなど、夷を以て夷を制すという側面も持ち合わせた可能性が検討されている。後代には神として信仰される側面もあり、太秦(うずまさ)の名の由来として、また「大避(おおさけ)神社(じんじゃ)」の祭神として祀られることもある。

(注五) 鳥山石燕『百器徒然袋』の該当項には、「聖徳太子の時、秦の川勝あまたの仮面を製せしよし。かく生けるがごとくなるは、川勝のたくめる仮面にやあらんと、夢心におもひぬ。」と記しており、仮面を作ったのは秦河勝であり、その神威によって生きたように感じられるとしている。つまり、面霊気で取り上げられた面は、秦河勝が舞で用いた面そのものであり、それに強烈な霊威が宿り、まるで生きているようにも見える、と解釈しており、器物の神霊に言及はすれど、妖怪としての怪異への言及は成されずいる。今日の器物の怪異としての言及は、照和の時代に流行した低年齢向けの妖怪辞典などで形成されてきたものである。




間の幕 囁き声

鏡を見る。鏡の中の顔を見る。

メイク道具を取りだして、時間をかけて、納得のいくまでメイクをする。

そうやって作りあげた自分の顔に満足し、今日も私はインスタを更新した。

早速、通知が止まらない。

大きな波のように押し寄せる「いいね」の数。

嬉しい。みんなが私を褒めてくれている。

私はそれに応えていく。もっと可愛く、もっと綺麗に、もっと、みんなに褒められる私に。

みんなが私を可愛いという。みんなが私を綺麗だという。

私もそう思う。

鏡の中の私を見る。鏡の中の、私を見る。鏡の、中の、これ、はなに?

違う、これは私じゃない。

メイク道具を取り出す、丁寧に、丁寧に、時間をかけて、肌をケアして、まつ毛をカールさせ、アイラインを引いて、リップを選んで。鏡の中で私が出来上がっていく。

出来上がった私を見て、私が、二人いる?





第一幕 昼休みの屋上

遮るもののない太陽が容赦なく屋上を焼いている。吹き抜ける風は暑さを増すだけで、体を冷やしてはくれない。

それでも、今の私はここに居るのが丁度良かった。

教室にいると、ありとあらゆる人の声が、反響して増幅されて、まるで巨大な象の群れの移動を延々聞かされているようなとんでもなく五月蝿い状況に耐えられなくなる。それだけならまだし、霊的なものの多い場所では、その声まで拾うようになってしまった。

「参ったなぁ」

そう言って、私の隣に座っている黒井(くろい)麻由美(まゆみ)先輩は大きな溜息をつきながら、背中の方に思い切り倒れた。少し筋肉質な手足が、女子の夏制服から伸びて、日焼けの度合いが増してきていた。ちょっと目にかかるくらいの栗色の前髪を掻き上げながら、先輩は私を覗き込んだ。

「助手ちゃんの中の菊理媛(きくりひめ)は全然言うことを聴いてくれんね」

私は先輩の言葉の裏に、たくさんの心配の言葉や、励ましの言葉、先輩が先輩自身を否定する言葉を聴いた気がした。

私、平坂桃は自分の置かれた状況に困り果て、かつ疲れ果てていた。

前回の「逆鬼子母」事件の中で覚醒した私の中にいる神様? である菊理媛(きくりひめ)と、意富加牟豆美(おおかむづみ)に振り回され続けていた。菊理媛は「理を聴くもの」と名乗り、この世の真の報せを届けるという力を発揮して事件解決に大きく貢献した、けれど。日常生活の中ではその大きすぎる神威が私の霊的な制御を突き抜けて機能し、周りの人間の発するありとあらゆる声を私の耳に届けるようになってしまった。

私も、先生の元で修行を積んできた。心の閉じ方や声の流し方、悪意の無視の仕方も習ってきたし、実践もしてきた。だけど、菊理媛はそれら全ての声を私の耳を通じて聴こうとする。菊理媛にとっての「声」とは、その人間が紡ごうとしている「言ノ葉」全てだった。だから、今の私が誰かの言葉を聞いてしまうと、一気に濁流のように言葉が押し寄せる。私の耳と菊理媛の耳はどうやら同じらしい。菊理媛はそれで満足なようだけど、私はすっかり精神を削られていた。

教室にいるのなんて自殺行為もいい所だ。三十人以上の人間が喋るなら、今の私の耳には三百人か三千人が一斉に喋っているようにすら聴こえるのだから。

最近はそれから逃れるための屋上通いが増えていた。先輩からは、聴覚を含めた感覚を自分の支配下に置いて、鈍くも鋭くも出来る方法の訓練を受けている。成果は……特に何も無い。

「すぅーっ、はぁーっ」

それでもゆっくり息を整えていると、体の気の巡り方は安定を強めていき、副次的な効果として父や母との同調はこれまでにも増して深くなっていった。

「今の助手ちゃんに隠し事しても意味ないしな。分からんもんは分からんから、調べて、整えてを続けるしかないんや。ウチに出来ることは、助手ちゃんの咒具を助手ちゃんの理想の通りに動かせる様に近づけるだけやから」

先輩は寝そべりながら天を仰いでいる。

この人とも、「逆鬼子母」事件の後に距離がだいぶ縮まった気がする。一方的に私が全てを覗いてしまった訳だけど、先輩はおかげで胸のつかえが取れたからとむしろ感謝してくれた。その後も私の二人目の先生として熱心に授業をしてくれているのは、私としても嬉しい限りだったけど。

先輩はおもむろに起き上がって、私を後ろから抱き締めた。

「あの、暑いんですけど」

「せやな。今日は三十二度越すらしいで?」

「じゃあ、涼しい方がいいでしょ?」

「せやな?」

「……暑いんですけど?」

「いや」

「先輩、嫌じゃなくって」

「いーやーやっ!」

「このっ!」

私は先輩のハグから脱出するため、関節の動きを調整して体を思い切り、瞬間的に縮めた。ハグに出来た隙間をすり抜けるようにして下方向に体を滑らせる。

先輩も負けじと私を追跡し、私の腕を掴んで逃げないように拘束しようとするが、今日は私の方が一歩早く対応出来たようだ。ハグからは無事に脱出できたけど、急に動いたせいで汗が吹き出てきた。

「余計に暑くなったじゃないですか!」

「ぶーっ! 助手ちゃんのケチんぼ!」

「なっ、誰がケチですか! 勝手に抱きついてこないで下さいって何度もお願いしてるじゃないですか!」

「ええやん、減るもんじゃなし」

「減ります、主に私の神経が」

「おかしいなぁ? 普通高校生って、ちょっとエッチなお姉さんに抱き締められたらドキッとして嬉しいんとちゃうの?」

「セクシーなポーズをしないでください。それは男子の話です。私は女です、ついでに今の先輩は単なる痴女ですっ」

「助手ちゃん、酷くない? ウチ、助手ちゃんと仲良うなりたくて……ウチ、スキンシップ好きなんや。助手ちゃんも、誰かを抱き締めたり、頬擦りしたら幸せな気分になれへん?」

「目を潤ませて嘘泣してもダメです」

「ちぇっ」

「それに、私はスキンシップが好きじゃないんです。この話何回目ですか?」

「慣れたら好きにならへん?」

「なりません!」

こんな不毛なやり取りを何度となく繰り返してきた。先輩との朝の訓練の成果が、実践的な身のこなしとして体に染み付いたのは今後のことも考えるといい事なんだろうけど、それの確認がセクハラスキンシップ攻防戦ってどうなんだろう? それに、先輩の過去は分かったとしてもこの病的なまでの「ひっつき癖」は本当にどうにかならないんだろうか?

そんな事を考えていたら、菊理媛がどうとか、そっちが大分どうでも良くなってきた。心なしか、気持ちも落ち着いた気がする。

「そろそろ戻ろっか? 助手ちゃん」

「……そうですね、暑いですしね」

今日もこんな不毛なやり取りで、昼休みが過ぎていった。









間の幕 囁き声

今日も、インターネットを通じてオンラインゲームで友達と遊んでいる。

学校の連中は何も分かっちゃいない。

本当の俺なんて。

俺が何を考えていようと、アイツらは気にしやしない。

分かろうともしない。

聞こうともしない。

でも、こいつらは違う。

最高だ。

俺の気持ちを理解して、話を聞いてくれる。

俺の居場所はここだ、ここなんだ。

あそこじゃない。

あそこにいるのは。

あそこのあれはなんだ?

あそこにいるのは?






第二幕 マジナイ処「鈴鳴堂」

「ううむ」

先生が唸り声を出しながら資料を漁っている。先生が次から次に本を仕入れたり借りてきたりするものだから、店の接客スペースもだいぶ散らかってきてしまった。その度に、先輩が本をまとめて先生に押付けて二階へ上がらせる。

先生は、私の体質についてより深く調べると言っていた。だけど、あまりに前例が無さすぎるとのことで、調査そのものが行き詰まっているらしい。店を開けてみると、ボロボロのソファの周囲に大量の本と大量のメモ用紙が散乱していて、その真ん中で胡座をかいて、髪を掻きむしりながら唸っている先生、という図をここ最近何度も見ている。

「兄さん、お客さんがビックリするやろ? 客商売しとる自覚あるん?」

店を片付けながら先輩が愚痴る。

「この店に来る客は大概僕の事は先刻ご承知だよ。多少汚れてようが散らかってようが、マジナイ屋が居れば事足りると判断すりゃあ依頼もするさ」

私の、高校の世界史の教師でもあり、私のマジナイ屋としての先生でもある黒井(くろい)(あきら)先生は、白髪混じりのボサボサの髪を掻きながら反論した。

「兄さん、最近の店の様子を知らんやろ?」

「なにぃ?」

「最近、先輩の作ったフード目当てのお客さんが多くなってるんですよ。お店の売上に目を通してないんですか?」

「帳簿は君に任せてあるだろ、助手君」

私は自分がさぞ渋い顔をしているだろうなぁと他人事のように考えていた。薄々感じてはいたけど、先生は生活とか収入とかその辺の事にまったく気を払わない。今までも講師としての給料だけで、なんか適当に暮らしてきただけなのだろう。思わず溜め息が漏れた。

「先輩のお料理、ほんとに人気なんですよ? カツサンドに厚焼きの玉子サンド、スパゲティナポリタンにオムライス、それにパンケーキとか。主にテイクアウトですけど、リピーターさんだって付いてるんですよ?」

「ほう?」

「いや、何回か味見してもらいましたよ?」

「味見? んぁあ? あぁ……?」

「気づいてなかったんですか?」

「ええんや、助手ちゃん。兄さんてこういう人やから」

先輩が、額に青筋を浮かべながら先生に本を押し付けた。

「つーまーりっ、兄さんはウチの作った納豆サラダスパゲティも、お好み焼きも、エビフライ入りオムライスも、ベイクドチーズケーキも! 覚えてないんやねっ!」

「んぉぉぅっ!? いや、待てマユミ。そうだ、この前のサバの燻製のサンドイッチは美味かった記憶があるぞ」

「……それは別の店でテイクアウトしたヤツやっ!」

先輩は先生の横っ面を持っていたメモ用紙の束で思いっきり叩くと、肩をいからせながらキッチンに入ってきた。

少し惚けたようになっている先生にどう声をかけたものかと考えていたが、大きくため息とも唸り声ともつかない音を立てて、押し付けられた本を持って二階へ上がっていってしまった。

「ったく、なんも変わってへんやん、兄さんのダアホっ」

先輩は先生に対する恨みを小声で呟いている。とは言え、この喧嘩も割と日常茶飯事だ。無神経な先生の態度が気に障るらしく、普段にこやかな先輩もこの時ばかりは声を荒らげる。

とは言え、菊理媛のせいで憎からず先生のことを先輩が思っていることも筒抜けになってしまっている。少し気まずい。

逆に先生の声は、どう聞いても裏があるように聴こえてこなかった。このことを前に話したら、心を閉じて漏らさないコツがある、とはぐらかされたが、先生はその心を閉じる技術を知っているということなのだろう。今度ちゃんと聞く必要がありそうだ。


私と先輩はキッチンで洗い物を片付けていく。今日も、フードのテイクアウト目当てのお客さんが結構来ていた。キッチンも開店からだいぶ動いていた気がする。先輩の作るレシピは、覚えやすく、かつ材料を揃えやすく、作りやすい。その上、味はピカイチなのだから、大したものだと思う。

「結局な、ウチはマジナイの式をよくいじるやろ? ほんでマジナイの道具もいじる訳やけど、これ料理の試行錯誤と同じやねん。どこをどう変えたらどんな結果になるのかって何回でも積み重ねることが、良い咒具を作ることに繋がるし、料理を作ることにも繋がるわけなんや」

そう言いながら、先輩は私の分も含めた厚焼き玉子ときゅうり、そしてハムのホットサンドを作ってくれた。玉子サンドなんて、ゆで卵をマッシュしたものを具にするのだと考えていたけれど、先輩や先生の馴染みの味は厚焼き玉子に辛子マヨネーズを使うらしい。食べていたら私もハマってしまった。

先輩と二人で、遅めの昼ごはんを食べていると、店のウィンドベルが、かろん、と来客を告げた。


私たちと同じ学校の制服を着た、日に焼け過ぎて真っ黒になった肌が印象的な、ガッシリした体つきの男子だった。店の中をキョロキョロと見回して、私たち二人の姿を認めると、おっかなびっくりという感じで店の中に足を踏み入れた。

「いらっしゃいませ」

私はそう言いながら彼を観察する。

身のこなしはキビキビしている。全身に筋肉は着いているけど、足の筋肉の方がよく付いている気がする。足元の靴は、有名なスポーツブランドで、サッカーに力を入れている企業だった。背中に背負っているバックも、サッカー部の子達が持っているのをよく見かけるモデルだった。

「お客さん、はじめてなん?」

先輩が気さくに声をかける。手にメニューを持って彼の元に駆け寄り、メニューを差し出した。

「それ、テイクアウト用のメニューな。今日はスパゲティ系は売り切れやけど、サンドイッチならまだ余裕あるで?」

「あ、いや。そういうんじゃなくてッスね」

男子の声は大分嗄れて聞こえた。きっと、普段の部活でたくさんの声を出して枯れているんだろう。その声の奥にたくさんの困惑と、僅かな期待の感情が漏れている。

「あの、相談のご希望、ですね?」

「はい。そうっす!」

「せやったん、じゃ、そこのソファに座って待っといてな?」

「はい!」

緊張、しているんだろう。あとは単純に女性に慣れていなさそうだ。今も頭の中でぐるぐると色んな感情が渦を巻いてしまっているらしい。

「すみません、相談はワンドリンク制で、三十分で千円からになるんですけれど」

「構わないっす。コーラ、いいっすか」

特に間を置かずに男子は即答した。このお店が、マジナイの相談を受け付ける店だと知ってやってきたのだろう。

私は、キッチンスペースから椅子を取りだして男子と向かい合う位置に座り、先輩は先生のソファの横側に軽くもたれる形で男子を見ていた。

最近は、大概の依頼は私と先輩で片付けていた。私が相談を聞く係、依頼を受けるかどうかは先輩が判断し、手に余るようなら先生の判断も仰ぐ。

「まず、お名前を聞いていいですか?」

「あ、オレ、井川修二(いかわしゅうじ)っす。二年のサッカー部っす」

「本日のご相談は、どんな内容でしょうか?」

「あの、オレの友達のことで相談したくて。そいつチームメイトなんすけど、最近ガッコに来てねえんす」

「何日くらい来てないんですか?」

「もう二週間っす」

「元々休みがちでしたか?」

「違うっす、そいつ、健康なのが取り柄で風邪なんか引いたことねえってのが自慢なんすよ。腹壊したのも見たことねえし、一年生の時は皆勤だったっす」

「……このお店の事はどのくらい知っていますか?」

「サッカー部の顧問の、小崎先生に教えてもらったっす。皆さんに動いて貰えるなら安心だって言ってたっす」

小崎先生、確か先生と仲のいい人だ。何回か名前を聞いたことがある。前の事件の時か、協力してくれた事があるはずだ。

「わかりました。学校の先生がココを指定したってことは、マジナイ絡みの可能性が高い様です。お友達の様子で気になることは?」

「そいつ、なんつーか、ポジティブなやつだったんすよ。考えるより動くっつーか、悩んでるくらいなら練習っつーか」

「つまり、健康自慢だったことも合わせると、二週間休む様な人ではない、ということですか」

「そうっす。でも、今から二週間くらい前に様子が変で、なんすかね、すげー暗くて」

「その時に何か言ってましたか?」

「んー、もうすぐにインターハイの県大会が迫ってて、レギュラーの発表が近かったんすよ。でもアイツ、なんかスランプだったらしくて。どんな練習しても上手くいかねえって。そんで、Tick Tackとかでトレーニングの動画とかよく見てたみてえなんすけど、どんどん暗くなって」

話を聞いていた先輩は、うーんと小さく唸って井川さんに切り出した。

「なぁ、しょーねん」

「え、オレっすか?」

「この場でしょーねん言うたらしょーねんしかおらんやろ?」

「はぁ、まぁ」

「なぁ、話聞いとったんやけど今までの話やとカウンセラーとか、それこそ小崎センセの仕事のうちやと思うんやけど」

「その、こっからがおかしすぎるんすよ!」

「どうなるんや?」

「アイツと最後に部活で会った時に、アイツ「おれって、何なんだ?」って変なこと言ってたんすよ。そんで、その日からぱったり来なくなって」

「せやからな」

「違うんすよ! その後、オレ気になって家まで行ってみたんす。アイツのかーちゃんに聞いたらずっと部屋に閉じこもってるって、そんで、オレ」

「もしかして、直接会ったんか?」

「会ったっす」

井川さんの友達は、部屋の隅で布団を被って震えていたという。井川さんはその光景があんまりにも不気味で、声をかけたと言う。

「そしたら、ゆっくりと布団が上がって、アイツの、顔、見えて」

その時の友人の顔は、全くなんの表情もなく、まるでお面のように見えたのだと。しかも、布団を脱いで立ち上がろうとしたら、彼の「顔がズレた」と言う。

「アイツ、の顔が、ズルって、ズレて、そんで。ごとって音して床に落ちちまったんすよ……そしたら、アイツ……」

友人の顔は、無くなっていた。

まるで、ゆで卵の表面のようにのっぺりとしたものが、顔だった位置にあったという。

「アイツ、そしたらパニクって、慌てて落っこった顔を拾って押し付け始めたんすよ、そしたら」

今度は、顔が元通りになった、と。

「のっぺらぼうになったり、顔が戻ったりしたァ?」

先輩は呆れたような声を出した。

「でもそうとしか言えねえんすよ! 顔が戻った時、アイツ、「なぁ、おれって誰なんだよ、何なんだよ、教えてくれよ」って俺に詰め寄ってきたんすよ、俺、自分が変になったんじゃないかって急いで逃げだしたんすよ!」

「こりゃ、確かに妙やな。でもなぁ」

「信じてくれないんすかっ!?」

「しょーねん、一遍コーラ飲んで落ち着きいな」

先輩はコーラを勧め、井川さんがどうにか落ち着こうとしている間に考えをまとめているようだった。

「のっぺらぼうに、顔が落っこちる?」

「先輩、心当たりはないんですか?」

「いや、うーん、せやなぁ?」

先輩の歯切れは悪かった。多分、今までのケースに当てはまらない怪異がまた起きつつある、という事なんだろう。

「なぁ、しょーねん。君があった時の友達は、確かにきみの友達やったんやね?」

「間違いないっす」

「んー、調べて、みようか助手ちゃん」

「気になるんですか?」

「んぁぁ、うん。しょーねん、この件ウチらが引き受けます。小崎先生にもそう伝えてください。ただ、ウチらも慈善事業でやってる訳やないんで、対応するとお金がかかります。そこはええね?」

「もちろん、大丈夫っす、ありがとーござぃまぁぁすっ!」

井川さんは思い切り頭を下げ、今日の分の相談料とドリンク代をきっちり支払って帰って行った。



間の幕 囁き声

ボクは絵を描くのが大好き!

たくさん絵を書いてたら、最初はせんせーが褒めてくれた。

嬉しくて絵をたくさん書いたら、今度は友達が褒めてくれた。

だからもっと絵を書いたら、もっとたくさんの人が褒めてくれた。

ボクの絵は凄いんだ!

みんなが笑顔になる絵だよ!

だから今日もボクはたくさん絵を書いた。たくさん、たくさん絵を書いた。

あれ、みんな褒めてくれない。

あれ、なんで? なんで? なんで? じゃあ変えてみよう!

やった、みんな褒めてくれた! あれ、また褒めてくれない? じゃあ、変えてみよう!

やった、みんな褒めてくれた! あれ、また褒めてくれない? じゃあ、変えてみよう!

やった、みんな褒めてくれた! あれ、また褒めてくれない? じゃあ、変えてみよう!

あれ、こんな絵書いたっけ?  あれ、これは、誰の絵だっけ?

あれ、ボクの絵って、なんだっけ?




第三幕 石井川特別診療所

三条市の駅前商店街の坂を抜けて、市街を少し歩いていくと住宅街の中に煤けたクリーム色をした、お豆腐みたいに四角い病院がある。「真蛇」事件以降ウチの先生と懇意にしている、石井川さんの病院、「石井川特別診療所」だ。この街では、街を流れる龍脈の関係もあるのか、他の街より怪異が発生しやすい。そして普通の病院だと、怪異絡みだと判断されてしまった患者さんは受け入れたがらない。それを引き受けるのが、ここなのだ。

石井川さんは、咥えタバコを灰皿で揉み消しながら、軋む事務椅子を回転させて私たちに向き合った。

「そっちのオネーサンははじめてっすよね? どぉーも、三条で監察医をしてます、石井川っす」

「お初にお目に掛かります、黒井晃の、妹、の黒井麻由美です」

先輩は妹を強調して自己紹介をした後で、石井川さんが差し出した手を軽く握った。石井川さんは少しヤニの染み付きと八重歯がめだつ歯並びを見せて、にやりと笑った。

「わざわざ申し訳なかったっすね、お呼び出ししちゃって。でもねえ、アタシだとどうにも出来なくってね」

挨拶はそこそこに、私たちは石井川さんの後に続いて二階に向かった。

さっき通された部屋は診察室。石井川さんは普段はそこに居るんだそう。他の病院から受け入れた患者さんは二階にある白いタイル張りの広い部屋に、ベッドを並べて寝かせておく、との事。

部屋に通されると、既にベッドが二つ並べてあって、患者さんの姿が見えた。

「アタシもまぁまぁ、色んなもんを見させてもらって来ましたけどね、こりゃあ始めてでしてね?」

石井川さんに伴われて、一人の患者さんの間近まで来た。顔が、布で覆われている?

「石井川さん、この方は?」

「年齢は十九歳の男性。この辺の工場に務めながら、夜はバーとかスナックで楽器を演奏して稼ぎを得てたみたいっすね。今の状態になって発見されたのは、一週間前っすかね。工場を数日欠勤したんで、同僚がアパートに行ってみたら、ってとこっすか」

私の質問に、相当正確に石井川さんは答えてくれた。そして、ゆっくりと布を捲った。

「……ほんまに、のっぺらぼう、やな」

目の前にある筈の男の人の顔には、目も、鼻も、口も、眉毛も、その人の顔を判別するパーツは何も残っていなかった。肌色ののっぺりした曲面があるだけ。それが、普通の目にも見えている。

「この人、話はできるん?」

「出来ますよ。口も無いんすけど、食事の時は、なんつーか、口のあるはずの位置に穴が開くんすよ。その中に歯とか、舌とかはあるんすよ」

「なんやそれ、ありえへんやろ?」

「いや、現になっとるやろがい!」

緊迫した雰囲気を、先輩と石井川さんがぶち壊してきた。この二人は案外ノリが近いのかもしれない。二人して、ニタニタした笑顔を浮かべているのがなんとも言えない。

「先輩、実際どうなんでしょう?」

「せやなぁ」

私は二つ目の瞼を開けて患者さんを観てみる。先輩の瞳も琥珀色の輝きを濃くしている。

異変は顔に起きている。顔の周囲から、妙な気配を感じる。咒の様な、そうでないような。先輩は、この人の魂の気配を観ているようで、顔を顰めて私の肩を軽く叩いた。

「妙やな。魂が欠けとるわ」

「魂魄の魂という意味のですか?」

「せや。それが一部分、綺麗に抉られたみたいに欠けとる。こんなん、始めてみるわ」

石井川さんは、肩を竦めてため息をついた。

「お二人でも分かりませんか、そうなるとアタシはお手上げですよ」

実際に、手を挙げて降参のポーズを取った。

「可能な限り調べてみます」

私は、顔のない患者さんに語りかけてみた。

「あの、聞こえますか」

少しの間返事はなかったが、その人の顔が私の方に向いた。

「聞こえるよ」

患者さんから声が聞こえる。何かを隔ててくぐもった様な妙な響きを持った声だった。

「いま、俺は目も鼻も口も無いんだろ? でも、喋れもするし、飯も食える。不思議だよな……」

患者さんはどこか他人事のように呟いた。

「あの、名前を教えてくれますか?」

そういった途端、患者さんの雰囲気が変わった。顔だった場所が激しく震えている。全身もわなわなとベッドの上で震え、ベッドが軋んだ。

「名前、名前か!? なぁ、あんたらの方が知ってんだろ!? もう聞くなよ、なぁ、名前、俺の名前だろ! 俺は、俺は? なまえ、俺、あれ? あれ?」

患者さんは困惑の色を深めている。

石井川さんは、眉間に深く皺を寄せて患者さんの様子を見る。

「今この医院には二人、この症状の患者さんがいますけど、どっちの人も自分が誰なのか思い出せないんですよ。自分に関する記憶だけすっぽり抜けてるみたいに」

石井川さんは、手早く注射器に薬を充填してそれを患者さんの腕に刺した。あまりに見事で流れるような動きだった、患者さんの興奮がだんだんと納まってきた。

「ちょっとした鎮静剤っすよ。大丈夫、認可を受けた合法的なクスリなんで。即効性は高いけど、効き目は弱目なんで」

「ねーさんも底の知れん人やね」

先輩が呆れ半分、感心半分と言ったふうに返すと、石井川さんは肩を竦めた。

「この街で医者なんかやってっと、色々覚えるんすよ。ほら、もう話しても大丈夫っすよ?」

今度は先輩が話しかける。

「度々ごめんなぁ。イタリア地方の歌曲をなんていうか分かる?」

「あ? カンツォーネ、だっけ?」

「弦楽四重奏に必要な楽器を挙げてみて?」

「バイオリン、ヴィオラ、チェロにコントラバスか?」

「オペラの楽曲で有名なものを二つ上げてくれる?」

「え、「フィガロの結婚」とか「カルメン」とかか? だから何だっての?」

「ははぁ、休んでるとこ堪忍な」

先輩は、私と石井川さんを連れて患者さんたちから離れるように促した。余計な情報を与えると混乱させて暴れさせてしまうかもしれないので、リスクを回避するためだと説明された。

一階の診察室に戻ると、先輩は手近な椅子を引き寄せて私に座るように示すと、私の膝に座ろうとしたので断固拒否し、もう一つの椅子に先輩を座らせた。

「確かに、石井川のねーさんの言う通りやな。あの男の人、普通の人より賢いくらいやで。自分に関係しない記憶だけはしっかりしとった。本当に自分の記憶だけ抜けとるん?」

「間違いないっすよォ? 警察とアタシで何度も何度もチェックしたんで。名前から年齢、住んでる場所、仕事から同僚の名前や友達の名前もスッポリ抜けてます。記憶喪失って奴っすね」

「そんな都合のいい記憶喪失なんてあるんですか?」

私は素朴な疑問をぶつけた。

「んー、まあ、記憶が抜けるのは「健忘」って病気なんすよ。精神的な原因の時は「解離性健忘」ってんですけどね? 記憶そのものがガッポリ抜ける事もあるんすけどねぇ。この患者さんたちの場合は、特定のカテゴリとか、系統だった記憶が丸々抜けてるんで、この場合は「系統的健忘」と分類されます」

石井川さんは、腕を組んで息を吐いた。

「だけどねえ、顔と一緒に記憶が抜ける、なんて症例は見たことないっすよ? しかもおかしいのは、何回も持ってた免許とか、スマホの中身とか確認して、お名前はお伝えしてるんすよ。でも、ほんの数分経つとそれをまるっきり忘れてしまうんです。ね、異様でしょう? こういう異様なことってのは、それこそ平坂さんたちのご専門なんじゃ?」

私は先輩を伺ってみたが、先輩も渋い顔をしていた。

「いやぁ、そう言われても。ウチもあんな状態始めて見たし」

先輩はこれまでの経験や知識が私よりも豊富な人で、世にいう有り得ないモノを沢山見ているはずだけど、そんな先輩でも見覚え、聞き覚えがないのか。

「あの、そもそも、のっぺらぼうって状態はなんなんですか?」

私の問いに先輩は唸りながら答えた。

「のっぺらぼう、はなぁ。本来は顔がない事を言う訳ちゃうねん。伝わってる話を正しく言うと、「こんな顔」の怪って奴なんよ」

「……こんな顔?」

「夜道で綺麗な着物の若そうな女の子が蹲って泣いてます。スケベな男はどうしますか? はい、助手ちゃん!」

「え? ええっと、えーっ、あ、話、かける?」

「正解! で、話しかけてみると、女が振り向いて、その顔は――って言うのが「こんな顔」の怪やね。顔は、目も口も鼻も何も無いのっぺりとした顔の時もあるし、化け物みたいに恐ろしい場合もあるけれど、パニクった男が助けを求めた先の家とか、屋台とか、そんな所にいる奴らも全員「同じ顔」をしとるって筋書きで、最後は男が気絶して終わりやね」

「え? じゃあ、その、のっぺらぼうって妖怪がいるとか、のっぺらぼうって怪異があるとかじゃない?」

「んー、まあそうなんよ。後世の創作に近いんやないかな。原因も、キツネとかタヌキ、カワウソ、ムジナに化かされたって落ちが付くことが多いし」

「あ、えーと黒井さん。記憶喪失とは結びつかないって認識でいいすか?」

「あ、そうです。まあ化かされてた後の記憶が曖昧で、とか見ず知らずの場所に倒れてて、とかありますけどね。それは見た側の話で、のっぺらぼう自体が記憶喪失って話は聞き覚えないですねぇ」

「んん、そうっすか」

石井川さんは、あまり整えられていない頭を掻き毟り、唸った。

「魂が欠けてる、なんて言われましても、それが何が原因なのか分かんなくちゃ手の打ちようがねえ」

私は、その時はっと記憶に蘇ったものがあった。

「あ、石井川さん、この患者さんたちの、その、お家に、お面は落ちてなかったですか?」

「は? お面? お面て、あのお祭りとかで売ってる、あのお面っすか?」

急に変な質問をされて石井川さんは当惑していた。私は、私たちに依頼を持ってきた井川さんの話を共有した。

「自分の顔がお面みたいに取れて落ちたァ? うー、ますます分かんないすね!」

バインダーに閉じられた資料をめくりながら、石井川さんは言う。

「うーん、発見した人たちの報告にも、その後の警察の立ち入り調査の時にも、それらしいものは発見されてないみたいっすけど。その、井川さん? のお友達の家には行ってみたんすか?」

私は、その言葉に唇を噛んだ。

「ウチらも、調査のために行こうとはしたんやけど……」

「歯切れが悪いですね、どうしました」

「その、追い返されましてん」

石井川さんから患者さんたちのお話を聞く二日前に、井川さんのお友達の家に足を運んで、お見舞いと言う体で会おうとしたら、お母さんに門前払いを食らってしまったのだ。曰く、息子はもう誰にも会いたくないと言っている。刺激したくないから帰ってくれ、と。

諦めきれずに、私は父と目鼻を繋いで家の中に探りを入れてみたけれど、顔面に包帯か布かを巻かれて顔が見えないようにされており、それ以外に情報は得られなかったのだ。

「私の勘の話になって、申し訳ないんですが。その、顔から落ちてしまったお面が大事な気がするんです。先輩の話では、のっぺらぼう自体にはあまり、その、意味が無いんですよね」

「せやな。正直顔がないってだけやから。見慣れてもうたら不気味やけど怖いとか実害が出るとか言うもんでも、まぁ、ないし? やって、目も耳も無いけど、食事も意思疎通も問題ないんでしょ?」

「問題ありませんね、今んとこ。記憶が顔ごと無くなるって大問題はありますけどね?」

この人たちが何でこうなったのか、分からなければ調べようがない。怪異の起こり方が分からない限り、どんな咒を使って治療すれば良いかも分からないのだから。

「何か、持ち物でおかしなものはありましたか?」

石井川さんは、顎に軽く手を添えて考え込んでいるようだった。おかしなもの、は特になかったのかもしれない。

「んー、異常事態なんで、お二人で見てみますか? アタシの目だと、特に変な所とかは無かったんすよね」

「ええんですか?」

「まぁ、異常事態なんで。言い訳は何とでも立ちますわ」

そう言いながら、石井川さんは診察室に置いてあったタブレット端末を私たちに手渡した。

「ここに入る患者さんは、その、訳ありが多いんでね。何かあったとき用に、当人の意思確認はした上で、持ち物のお写真は撮らせてもらってるんですよ」

私と先輩は、今回の患者さんの荷物を一つずつ見させてもらった。タオルとか、スマホ、イヤホン、お財布、ギターの弦に生理用品の入ったポーチ、ラバーストラップ。どちらの人の持ち物にも、特に変な咒具とか咒符になるような物は見当たらない。変なものが無いなら、共通点でも探そうかと写真を流し見していると、一つの物が目に付いた。

「先輩、これなんでしょう?」

「これ? サプリの袋やろ?」

今いる患者さんは、石井川さんの話だと、十九歳の男性と二十二歳の女性だそう。二人の接点になるような経歴は、警察の情報でもなかったという。

「同じサプリを持ってるって」

「繋がりとか接点て言うには弱い、と思いますけどねぇ?」

石井川さんは言う。

「今じゃサプリなんて無数に出てますしね。一般販売されてるのから、限定的に売ってるものまで調べようと思ったら一体どんだけある事やら」

先輩の反応は少しだけ違う。

「これって、現物あります?」

「へ、サプリの現物っすか? いやぁ、どうだろ、警察が証拠物件として持ってってる可能性が高いっすよ?」

「出来たら手に入れて欲しいんやけど?」

「へ? 無茶言いますねぇ。周藤さん担当だったんで、連絡してみますけど。気になります?」

「んー、ねーさんには悪いけど、勘みたいなもんやね」

「うへぇ、勘っすか?」

「馬鹿にしたもんでもないと思うで? 兄さんや助手ちゃんと違うて、ウチは元々咒師を狩る側の人間、嗅覚は猟犬並みなんよ?」

不敵に八重歯をむき出しに笑う先輩は、妙に頼もしく見えた。

「……分かりました。手配しますよ」

石井川さんも、釣られたように笑う。

「末恐ろしい娘さん達ですねえ、本当に。アタシも治療や解決はしたいんでね。協力しますよ」

私は思う。本質的にこの人達は近いのかもしれない。

目の前には、まるで血に飢えた獣が二匹いるかのような錯覚に、私は思わず失笑した。

間の幕 囁き声

まだ射れる。ウチはまだ射れる。

早く、美しく、もっと正確に!

射れる、まだ射れる!

諦めるのはウチじゃない。

辞めるのはウチのする事じゃない!

前へ進め、ウチの心、体、高く、先へ進め!

なんで止まるんだ?

なんで壊れるんだ?

違う、こんなのはウチじゃない!

ウチは諦めない! 辞めないんだ!

動け!

動け、ウチの体! ウチの心!

動けっ!

こんなの、こんなのは、ウチじゃ、無い……

第四幕 マジナイ処 鈴鳴堂

「君達は何ァニを考えとるのかねっ」

先生は、作務衣姿のままソファに胡座をかき、お客様用のソファに座った私たちを睨んでいた。眼鏡は半分下に降ろされている、間違えを犯した生徒を叱る時の先生お決まりのポーズだ。

「マユミぃ、お前勘違いしとるんじゃあないかっ、警察には、我々はあくまでも一般的模範市民として協力しとるんだぞぅ ? ええ? いくら怪異の原因究明のためとは言えだぁ、警察を顎で使うなんざぁ、身の程を弁えないのも甚だしいぞっ!」

先生は、社会の常識には妙に厳しい。マジナイ屋という特殊な職業でいる以上、社会の枠からはみ出過ぎてしまえば差別や排除の対象になる。可能な限り社会の枠の中で生きることを覚えるべし、と。

「ハイ、ゴメンナサイ」

先輩は数分前からこれを言う機械になってしまっている。

「助手くぅん?! こういうことがないようにだァ? マユミの暴走を止める役としてだよォ、ぼかぁ君をマユミと組ませてるんだぞゥ? なのに君はその役を放棄して剰え一緒に暴走したダァ!?」

「スイマセン」

私もすいませんをいう機械になっていた。

ここまでの剣幕になった先生も珍しいが、先輩が逸脱しすぎていた感も否めない。少なくとも、警察の、捜査一課の刑事さんを顎で使う女子高生なんて聞いた試しは無い。

「ったく、周藤刑事には僕から詫びを入れておいたぞっ! 彼が温厚な人間だったことを感謝したまえっ!」

「ハイ、ゴメンナサイ」

「スイマセン」

先生はそう言うと、冷めたミルクコーヒーを一気に煽ると鼻からふはっと大きく息を吐き出した。

「まったく、やはりとんだ「じゃじゃ馬」だっ。いくら証拠を手に入れたとしても、こんなやり方は通用せんぞっ」

先生は大きく鼻から、ふはあっ、と音を立てながら、手に持ったものを机に放り投げた。

ビニール袋に入っているそれは、私たちが石井川さん経由で周藤さんに手配をお願いしたものだった。被害者二人がもっていたサプリの袋である。投げられた時にカサカサと音がしたので、多分まだ中身も少し入っているんだろう。

「しかし、着眼点は流石、猟犬というべきだね。このサプリメント、改めて調べて貰っているが販売元は株式会社ポータラカ。だが、住所にガサ入れしてみれば案の定もぬけの殻だったそうだ。レンタルオフィスとして使われてたものだそうだ。電話対応は一切やっておらず、問い合わせはメールかSNSでのメッセージのみ、それも基本自動応答機能による返信でしか無かった。ついでに製造元は不明ときた。とんだ眉唾もんだぞ」

先生は、もう一つ袋を取り出す。それは、封の開かれていない新品のサプリだった。どうやら、捜査に踏み切る寸前に警察がサンプルとして入手したものを分析用に分けてもらったらしい。

「値段は一袋ニ千円、高校生の小遣いでも買える程度の額だ、なんと良心的な値段だろうね。服用は、一日一回の九十粒入り。素晴らしい。約三ヶ月も持つのなら余程経済的だっ」

先生は皮肉を並べながら早速封を開けて、中身の吟味を先輩と開始した。

「さて、マユミ。お前にはどう視える?」

先輩は、手のひらにサプリを一粒取り出した。見てくれは、何の変哲もないオレンジ色をしたカプセル剤だ。それを、先輩はまじまじと観察している。

「外見は、いかにも健康食品って感じやね。カプセルの中には、うん、顆粒薬みたいなもんが入ってる」

私もパッケージに目を通してみる。シンプルな銀色のパッケージに、女の人が胸の前で祈るようなポーズをとっているイラストに、商品名だろう「UKA 2000」と書いてある。裏には、簡単な成分表示と服用上の注意。そして、「なりたい貴方へ……今の貴方の殻を破り、新しい貴方になるために……」という、説明文が乗っている。サプリというとお薬なのかと思ったら、特定健康食品、と書いてある。お薬では無いのか。

「薬機法という薬に関する法律ではね、そもそも効果を過大に謳うのは違法なのだよ助手君。痩せ薬と世間で認知されてるものの多くは、医療機関で提供可能な医薬品としての効能は保証されていないので、薬としては販売できんのだよ。一方、これは食い物だと言い張れば多少のお目こぼしがある訳だ。そのため、ダイエットサプリ群は大体が特定健康食品だぞ」

今度からお店で買う時に注意してみてみよう、と、どうでもいい事に頭が割かれてしまった。それくらい、傍目にはおかしな所がない。

「『智慧の眼』には何が視えるね?」

「ちょっと待ってや」

先輩の目に気が集中し、瞳の琥珀色の煌めきが増えていく。先輩の目は、先生とその友人の咒具師、遊之助さんの作った義眼型咒具「智慧の眼」だ。その目で「みた」モノの本質、真の姿を捉えて移し出す。

「んん? なんやこれ? このカプセル、妙な気を帯びてる。何やろこれ、術がかかってる訳でもないみたいやし」

「ふむ、気はいつから纏わりついていると思うね?」

「この雰囲気と弱さだと、作る過程で気を込められた、としか考えられんわ。ウチら咒具師が咒具に気を込めたのと、ちょっと似た雰囲気があるわ」

先生は、改めて私たちの方にパッケージを見せる。成分表示のところに指を置いて、とんとんと叩く。

私たちは改めてその成分表示を見てみた。私はいまいちピンと来なかった。難しい漢方の薬の名前が並べられている、としか思えない。先輩は、じっと表示を見て、小さく息を漏らした。

「え、(てん)(さん)(よう)()粉、(てん)(れい)(がい)粉に、(たい)(さい)粉、竜骨粉、雄黄(ゆうおう)粉、(すい)(ぎょく)粉、(たん)(しゃ)粉、華池赤塩(かちせきえん)牡蠣(かき)粉、赤石脂(しゃくせきし)粉、礬石水(ばんしゃくすい)三五神水(さんごしんすい)……これって、兄さん」

「僕もこの資料が届いてから大急ぎで周藤刑事に成分を調べてくれるように連絡をしたよ。流石にマユミは勘付いたか? この成分表に書いてあるものは、無知な人間には漢方か何かの羅列のように見えるだろう。実際、助手君は頭から湯気を出しそうな雰囲気であるしな」

確かに、何が変なのかを知りたかったが、知識がないせいで何が変なのかは全く分からないどまりだった。でも、先輩はキツく唇を噛み締めていた。先輩から、悔しいという感情が流れ込んでくる。

「いいかね、諸君。ここに書いてある成分表示を可能な限り現代語訳しよう。するとだ、冬虫夏草、人間の頭蓋骨の天辺、真性粘菌の巨大集合体、古生物の化石、硫化砒素、翡翠、硫化水銀、崑崙山産岩塩、カキの殻、二千年間土中で育った琥珀、ミョウバン水溶液に、五行日月星の理に即して精製した純水。これがこの薬の成分だ」

「え、水銀に、ヒ素? 人間の頭蓋骨、化石……? そんなの、単なる毒じゃないですか?」

「普通こんなモノの混合物を飲んだら人間は死んでしまうよ。助手君の言うように猛毒の寄せ集めにも見えるだろうがな。だが、この並びは我々マジナイ屋には別の意味合いを持っている」

先生は先輩に目線を合わせる。

「これ、普通の薬やのうて仙薬(せんやく)の材料や。しかもこのレシピやと、本当やったら出来るのは九転太清神丹(くてんたいせいしんたん)って種類になる、筈やけど……本当の仙薬には冬虫夏草とか頭蓋骨、化石なんて混ぜへんで?」

先輩は確証が得られずに首を捻っている。私は先生に視線を向けた。先生は鼻からふはっと息を吐いた。

「流石に調薬(くすりづくり)は助手君に教えていない範囲だからな、分からなくとも無理は無い。いいかね、仙薬とは、かつて古代中華帝国で流行した神仙道、つまり神や仙人を人の身で目指すというとんでもない信仰体系の中で生まれた、人間の身を捨てて不老長生を経て、更に神仙に身体を作りかえるための極めて咒的な薬だ」

「仙人になるための薬ですか?」

「そうだ」

私は頭が痛くなった。この店に入ってから色々な事件を見てきたけど、今度の事件は今までとはまた毛色が違う。

「あの、そもそも仙人って実在するんですか? あの、昔の絵本とかに出てる白くて長い髪と、お髭で、白い服で杖をついて」

先生が私を睨み付けた。先輩も苦笑している。

「助手ちゃん、ボケとる訳ちゃうよな?」

「……無知ですみません」

「ええよ。仙人ってそもそも、結構面倒くさいんよ。『(ほう)朴子(ぼくし)』って本が昔書かれてな? その中に仙人について細かく書かれてんねん」

先輩は、宙に目を彷徨わせた。昔読んだ本の内容を思い出しているようだ。

「俗世間から離れ、心身を清浄とし、仙術をもって鬼神を従え、山河に遊んでその恵みを用いる。智慧を尊び、終には太極を会得し、天に至る」

先輩は呪文のように本の内容を暗唱した。

「要はな、人間より上の存在になって、人間の嫌な社会とか人生を抜け出よう、って所から始まったんやけど、その内に「自然と一体化する」ってのを目指しだしたんや」

「自然との一体化ですか? ……ヴィーガンとか自然派思考とかとは、違います、よね?」

「そんな生易しいものでは無いぞ、助手君。本来の神仙道の究極は文字通りの自然との一体化だ。自身の精神の檻を破壊し、肉体の殻を捨て去り、大いなる天然自然と合一するのが最終目標だ。そうすれば、何者をも恐れぬ「永遠不滅の存在」になれる、と考えたのだろう」

「え? だったら自分の思いとか、気持ちとか、記憶とかはなくなりませんか?」

「だが、存在は自然の一部となって永遠にこの世に留まる。助手君にはまだ分からないかもしれんがな、この世より消え去るという、死とは別の恐怖が人間の中にはあり、それを回避する方弁として神仙道は機能する、はずだった」

つまり、消えるはずのない大自然と一緒の存在になれば、いつまでも死なず、自分の存在は在り続ける、と言いたいのか。

「その途中段階に、不老長生を目指すって段階があってな。要は自然との一体化の前に、それに適応する体づくりというか、人間から仙人に進化するステップがあんねん。そこで出てくる、仙人に身体を作りかえるための薬が仙薬な。一番上等なのは金丹の中の丹華。期間は上等な薬ほど早いんやけど、最短で薬一粒飲むと仙人になれるって『抱朴子』には書いてあったねんけど」

先輩は眉間に皺を寄せ、口を引き結んだ。

「この仙薬、材料を揃えるのもアホみたいにムズいし、調合が無茶苦茶時間かかるし、複雑やし、超繊細やねん。なんやったら、黒井の家やて何遍も調合を試みてるけど成功したなんて聞いた事ない。正直、必要やからつくれって言われて一億円積まれても、ウチやったら断る。できる保証なんてないもん」

もしかしたら、先輩もどこかで調合しようとしたことがあるのかもしれない。やりたくない、という気持ちが驚くほど伝わってきた。

「まあ、俗人たちは別に自然と合一なんぞ出来なくて良かったんだ。欲しかったのは不老長生(けんこうでながいき)……から更に不老不死(おいずしなず)へと変化し、その為の薬として仙薬を求め始めた。ちなみに、このサプリメントの成分が本当であれば、劇薬ではあるが一粒呑んだ程度では死なんね。例えば、ヒ素や水銀は確かに猛毒ではある。が、ごく微量の摂取だと中毒症状が徐々に回る事こそあれ、即死はしない。かつての中華帝国の愚か者どもは、日々水銀を摂取し、砒素を呑み、硫化物を飲み下し……それで逆に寿命を縮めた」

先生が大きくため息をつく。

「結果、今の我々マジナイ屋の基礎技術の一つである気を練ることの原型である、気を用いた体の中からの肉体改造法が提出されたのだ。元からの方法は外丹、後からの方法は内丹などとも言うのだがね」

「待ってください、じゃあ、効果不明の仙人になるためのお薬が、しかも何人もの人の手に渡るくらいに出回ってる可能性がある、てことですか?」

「そうなる。これを見たまえ。周藤刑事から届いたURLだ。このサプリの宣伝動画に繋がっている。見てみようじゃないか」

先生は自分のスマホを操作して、動画を再生した。

小さな画面の中で、白い上品な服を着た若い女性や男性が微笑みながら過ぎていく。

「今の自分に満足していますか? 変わりたい、なりたい自分へ。わたし達は、あなたの変わりたい、なりたいを応援します。なりたい自分へ、殻を脱ぎ捨てて……」

画面いっぱいに美しい蝶? 蛾?が蛹から羽化するイメージ画像が映し出される。最後に、商品のイメージ画像が出て、画像は終わった。

「この動画は、U tubeを中心とした動画サイトの広告として挟まれている。一体何十万人が見ているか見当もつかんし、その内の何万人がこの薬を手に入れているかも分からん事態だ」

先輩は沈黙し、ソファに身を埋めている。私も段々と事の大きさに気付き、寒気と怖気が体に走り始めた。

先生もため息を盛大に着いた上で、ソファの上で胡座を組み直していた。

「「友斬葬」事件の比では無い、何者の仕掛けたことかはまだ分からないが、無作為な人間たちに大量の仙薬と思しき毒物がばら撒かれている。僕はこれから、マジナイ屋の協会に問い合わせておく。杞憂ならば良いが、これは杞憂には留まらないだろう」

私は、目の前が一気に暗くなるのを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ