89.甦る怨念
ここから、第3章のラストスパートです。
(金村 正義視点)
「グゴォォォォォォォォ~!」
「え?」
何処からか鳴り響く怪物らしき鳴き声……
……これ、まだ終わってないな……
と、冷静に考えていると……
「ハァ……ハァ……勇者殿、ご無事ですかのう?」
「ん?……あ、教皇猊下……気が付いたっしょ?」
「ええ。……ただ、まだ終わっていませんのう……」
「そうっしょ!……これ、外で何が起きてるか分かるっしょ?」
俺チャンは、意識を取り戻した教皇猊下に現在の状況を聞いた。
すると……
「ふむ。……簡単な事ですのじゃ……」
「というと?」
「チューグロスにメープシー……あの2体は、自分達が倒された時のための保険を用意していたのじゃよ。……堕天魔王 サタゴーラを強制的に復活させる術式という保険をの……」
「なっ!?」
堕天魔王 サタゴーラ……確か先代の魔王だったか……
それが復活って……マジで言ってるのか?
「ただ不幸中の幸いじゃったのは……術式の発動が2体の死をトリガーとするものじゃった影響で、時期尚早の不完全な状態で復活したらしき事かのう……」
「何で、そう言える訳よ?」
「完全な状態であれば鳴き声ではなく言葉を発する筈じゃし、そもそもこの場所も崩壊しとる……」
「……改めて、完全体の魔王って怖いっしょ……」
「じゃからこそ、討伐には異世界の勇者が必要なのじゃよ……」
とにかく、完全体でないならまだ対処可能な筈……
そう思い、動き始めた時だった。
「あれ?」
ーフラッ……
「っ!?大丈夫ですかのう!?」
こ、これは……
「……やっぱり、【ありきたりな英雄譚】は脳への負担が大きかったっしょ……」
「……勇者殿、鼻血が……」
「ごめんっしょ……俺チャン、最低でも数時間は戦えそうにないっしょ……」
やはり、【ありきたりな英雄譚】は周囲一帯の人物の精神に干渉する関係上、脳への負担がえげつない。
俺チャンの見立てでは、今から数時間はスキルが使えないだろう。
「……と、とにかく避難するのが先決ですのじゃ!」
「あはは……じゃあ、この人達起こすっしょ……」
ここに魔の手が押し寄せるのも時間の問題……
せめて、他のパーティーメンバーが何かしてくれる事を祈るしかないか……
そうして俺チャンは一縷の希望に望みを託しつつ、今までメープシーに洗脳されていた人達の避難を始めるのだった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(浅山 藤四郎視点)
「なぁ……あれ、何だ?」
「……嘘やろ……」
「妾だって、そう思いたいのじゃ……」
俺達は今、マクセリス教本部の前に居た。
理由は単純。
先程マクセリス教本部から謎の光が飛び出したため、エルリスさんによって【次元収納】からの【神速】で連れて来られたのだ。
なお、ロウルさんとシトラは装備屋に武器を取りに行き、ナフリーとメアリーと茜はそれに付き添っていて不在だ。
だが、そんな事よりも……
「グゴォォォォォォォォ~!」
「おい兼人。……あれ、何だ?」
「何だって言われても……何でしょうか?」
俺達の目の前……マクセリス教本部の中庭から身を乗り出し、建物の屋根に手をかけているのは……身の丈10mはある巨大な骸骨だった。
いや、この言い方には語弊がある。
例えるならば、元の世界で妖怪に居た"がしゃどくろ"を黒くして、悪魔の様な角を生やし、背中には3対6枚の黒い翼を生やし、頭上に黒い天使の輪を浮かせている怪物と言うべきか……
「……サタゴーラ、やよな?」
「骨だけにはなっておるが……妾もそうとしか思えないのじゃ……」
サタゴーラ……確か、その名前は……
「先代の魔王……堕天魔王 サタゴーラ、ですか……」
「え、それヤバいんじゃ……」
「ヤバいで?……まあ、流石に全盛期よりはだいぶ弱体化しとるけど……」
「……それでも、充分脅威なのじゃ……」
サタゴーラ……エルリスさんとメサイアさんの話を聞く限りでは、ヤバい相手としか思えねぇな……
「グゴォォォォォォォォ~!」
ーキョロ……キョロ……
「……知能もだいぶ落ちとる……もう、自我すら残ってへんみたいやな……」
「お陰で、今も気付かれずに済んでおるのじゃ……」
まだ、サタゴーラは俺達に気付いていない。
それどころか、辺りをキョロキョロして周囲の状況を確認している。
と、次の瞬間……
ーピタッ……
「……言った側から気付かれたみたいやな……」
「最悪なのじゃ……」
「「え?」」
流石に気付かれたらしく、サタゴーラは俺達の方を向きながら静止した。
そして……
「グゴォォォォォォォォ~!」
「あかん!何か来るで!」
「あらぁ♥️?……エルリス様も来たのぉ~♥️?」
「シュラ坊か!」
「ここはアタシに任せて進みなさぁ~い♥️!」
……多分、エルリスさんの話に出てたメルシュラさんだろうか。
ただ、だいぶマッチョなおっさんが女装してる姿は結構キツいな……
「グゴォォォォォォォォ!」
ーギュン!
「【愛の衝撃】よぉ♥️!」
ーバキュン!
……サタゴーラが口からビームらしき光線を発射し、それに対抗するかの様にメルシュラさんは魔力をハートの形に固めて撃ち出した。
その結果……
ードゴォォォォォォン!
「うおっ!?」
「ぐっ……」
お互いの攻撃は相殺され、辺り一帯を衝撃波が呑み込んだ。
「シュラ坊、鍛練は続けてたみたいやな……」
「本当に、エルリスの弟子は化物揃いじゃの……」
ナンドレアさんの時も思ったが、エルリスさんは商人相手に何を叩き込んでいるんだ……
「あ、トウシロウはん誤解しとるかもしれへんけど、ちゃんと商人としてのイロハも叩き込んどるで?」
「ナチュラルに心を読むな!」
「そう言われても、表情で察せてしもたもん。……ま、さっさと中に行かな……」
「でも、メルシュラさんがここに残るとなると……碌な戦力が居ねぇぞ?」
メルシュラさんを除いた現在の戦力は、俺、兼人、エルリスさん、メサイアさんの4人だけ。
司と正義が戦える状態とも限らねぇし、マジでヤバい……
頼む……装備屋に行った内の誰か、すぐに来てくれねぇかな……
「……ん?藤四郎さん、何か飛んで来ますよ?」
「え?」
ーヒュ~……ドシィィィィィン!
「……ったく、面倒なのが現れやがったガル……」
突然飛んで来た"何か"はシトラだった。
いや、ずっと気になってたんだが……お前は本当に"こっち側"なのか?
「シトラはん、ほんまに協力してくれるん?」
「……オレは、この街の奴等を見ちまったガル……その上で見捨てるとか、出来る訳がねぇガル……」
「……やっぱり、シトラはんは優しいんやな……」
少なくとも、今回のシトラは味方らしい。
というか、シトラが来たという事は……
「も~!……シトラスちゃん、先々行かないでよ~!」
ーバサッ……バサッ……
「チッ、追い付いて来たガルか……」
やっぱり、茜も飛んで来た。
……これは強い増援だ。
「ガルァ!……あれは何だガル?」
「先代の魔王……堕天魔王 サタゴーラの成れの果てやよ……」
「さしずめ、怨念魔王 スカルサタゴーラとでも言うべき相手じゃな……」
怨念魔王 スカルサタゴーラ……まさかの先代魔王が相手とか、冗談だろ……
「兼人、サタゴーラの弱点は?」
「えっと、今調べ……」
「心臓やよ。……せやけど、それはあくまでも生前の話や。……今は分からへん……」
「しかも、生前のサタゴーラを倒した時は……エルリスの魔力回路、タイガーラの右腕、そしてミツエの命を代償として失う結果になったのじゃ……」
……うん、無理じゃね?
もう、どうにもならねぇよ……
「行くで。……まずはシトラはんとアカネはんが隙を作って、その次にウチとメサイアはんが協力して動きを封じる……そっから、どうするかや……」
エルリスさんの表情は、とても険しかった。
それだけ勝ち目が薄い勝負に、俺達は身を投じる事になったのであった……
ご読了ありがとうございます。
スカルサタゴーラに自我はもう残っておらず、ただ目に入った敵をひたすら潰して行きます。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。