87.鼠の最期
チューグロスとの決着です。
(チューグロス視点)
『チュッチュッチュ……本体が戦っているあのキザったらしい勇者は、かつてお前の分身体を倒した者の1人だったっチュな……』
『……魔王城にも鼠の1匹置いてたなら、どうしてバーバが作戦を実行しようとしていた時に身を隠していたんですピョンか?』
数ある俺様の内の1匹……魔王城に待機させといた奴がラビリンスと雑談してやがるっチュ……
『ああ、確か"コドク"だったっチュか……生憎、俺様は誰かに強制される実験を好まないっチュ。……だから、バーバの奴が俺様を探してた時は居留守を使わせて貰ったっチュ!』
『……つまり、その実験には興味が湧かなかったんですピョンか?』
『少なくとも、俺様は辛抱強い性格じゃないっチュ!そんな俺様が、メープシーの奴の主導する長期作戦に付き合わされてる時に並行してバーバの奴を手伝うと思ったっチュか?』
そもそも、バーバの奴が試してた"コドク"は俺様好みの実験じゃないっチュ。
俺様はもっと、スピード感が欲しいっチュ。
『……よほど、メープシーに付き合わされた鬱憤が溜まっているんですピョンね……』
『当然っチュ!……人は魔力生成用の贄にするから殺せないし、作戦は無駄に長期だし……何より、今戦ってる相手は病原菌が効かないっチュ!』
『……ご愁傷様ですピョン……』
ええい、ラビリンスの奴との話は終わりだっチュ!
……とにかく、俺様はこのラフロンス以外にも"鼠"を待機させてるっチュ……
つまり、ここで倒れる事はないっチュ!
「さあ、さっさとお前を殺すっチュ……ん?」
……何だか、目の前の勇者から感じ取れる気が変わったっチュ……
「……さあ、ボクから君に死刑宣告を下そう……」
俺様はこのすぐ後に、こいつをすぐ殺せなかった事を後悔する事になるのだったっチュ……
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(扇羽 司視点)
ボクは"格好良い王子様"だ。
だが、ボク1人で出来る事には限りがある。
とてもじゃないが、【完全自立命令系統】のスキルを持つチューグロスに自害させる事は出来ない。
ならば、どうする?
「……さあ、ボクから君に死刑宣告を下そう……」
簡単だ。
殺せると思えば良い。
……チューグロスとは圧倒的な力の差がある訳でも、ラビリンスの様に本体が何処かに居る訳でもない……と、思いたい。
少なくとも、ボクはこのチューグロスを本体だと仮定して、更にあちこちに分身たる"鼠"も居ると予想している。
「ボクの前に立ち塞がった事、後悔するが良いさ!」
ボクのスキルはイメージが重要だ。
だから、見るからに強い強敵相手には通常の攻撃と同じ効果しかないし、ラビリンスの様な理解不能な相手にも同じく萎縮してしまう。
でも……チューグロスはそれ等の理不尽に比べたらずっと単純だ。
「……【美しき王国】!」
新たなボクの力は、至って単純。
「チュッ!?……す、姿が変わったっチュッ!?」
チューグロスの言う通り、ボクの身なりは変わった。
頭には白銀の王冠が乗せられ、肩からは白銀のマントが垂れ下がり、手には白銀の細剣が握られていた。
まさしく、戦う王子……いや、王と言うべきか……
「不敬だね。……今、この場を支配しているのはボクの方だぞ?」
ボクは格好良く戦う王。
病をばら蒔くチューグロスを、断罪せし者。
「チュゥ……関係ないっチュッ!」
ーぞろぞろぞろ……
「「「「「「「チュゥゥゥゥ!」」」」」」」
ーサ~ッ……
「ふむ、懲りずに向かって来るかい……」
愚かだ。
もっと強そうにすれば良いものを……
「関係ないっチュゥゥゥゥゥ!」
ードドドドド……
「「「「「「「チュゥゥゥゥ!」」」」」」」
「……【絶対王政】、チューグロスよ止まれ!」
ーピタッ!
「う、動けないっチュ……」
当然だ。
何せ、今のボクはこの場を支配しているのだから。
それこそ、【完全自立命令系統】の更に上から命令を下せる程に……
「さて……」
ーカッカッカッ……
「な、何をするつもりっチュか!?」
「……今から君と君の"鼠"、そして君の作った病原菌を除去する。……そのための準備さ……」
「そ、そんな事が出来る訳ないっチュ!」
確かに、普段は出来ない。
でも、今のボクは何だって出来る。
「【絶対王政】……罪人チューグロス及び当該罪人を構成する鼠、並びに当該罪人が生成した病原菌の……処刑を執行する!」
ーカ~ン!
ボクはチューグロス、チューグロスの"鼠"、チューグロスの生成した病原菌の3つに処刑を言い渡し、細剣の剣先を地面に叩きつけた。
そして……
「チュ、チュゥ……」
「所詮は鼠の王……だとしても、これならナフリー君の従魔のネズ君の方がよっぽど好感を持てるよ……」
「う、煩いっチュ!」
「……なら、ここで終わりとしよう……」
ここはボクの国ではない。
しかし、今この瞬間だけは世界がボクの王国だ。
ならば、当然チューグロスを処刑する権限だってある訳さ。
「や、止めろ……止めろっチュゥゥゥ!」
「……【断罪の落星】!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
ボクが細剣を天に向けて【断罪の落星】と唱えると、無数の光が細剣から放たれた。
なお、その内の幾つかは……
ーバシュバシュバシュ!
「ヂュゥゥゥゥゥ!?」
「「「「「「「チュ……チュゥ……」」」」」」」
ーバタッ……
ボクの目の前に居たチューグロス、及びチューグロスの体を構成していた"鼠"の全個体を貫いた。
また、残った光の大半は街中に飛んで行き、更に一部は街の外に飛んで行ったのだった……
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(ラフロンスの医者視点)
「くぅ……何故だ、何故治せぬのだ!」
5ヶ月前からラフロンスで流行っている謎の病。
私はずっと、その患者を治そうとしていたが……未だに進展はなかった。
「病床の数にも限りがある……既に、私の診療所を含め何処も病床がギリギリだ……」
ああ、もう駄目なのか……
現時点では死者こそ出ていないが、それは死すら許さぬ苦しみを意味している……
「いったい、どうしたら……」
ーヒュンヒュンヒュン!
「ん?……何だ!?」
今、よく分からん光が病室の方に……
「こ、こうしちゃおれん!今すぐ行かねば……」
「先生!例の病気の患者の皆様が……」
「っ!?やはり何かの攻撃だったか!?」
「いえ……光が患者様の体に入った直後、症状が無くなりまして……」
「ハァ!?……それは本当か!?」
……まさか、あり得ない……
だが、本当に本当なのか?
「はい!……脈拍正常、魔力放出も止まりました!」
「き、奇跡だ……他の病院にも確認しろ!」
「分かりました!」
……あの光は、神の恵みだったのだろうか?
今となっては知る由もないが……この奇跡を、私は生涯忘れはしないだろう……
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(チューグロス視点)
「俺様が負ける訳には……」
ーバシュ!
「チッ、また殺られ……」
ーバシュ!
「チュゥゥゥ!」
ーバシュ!
……糞がっ!
俺様の残機たる"鼠"共が、聖都の内外を問わずどんどん殺られていくっチュ……
「まだこの体は無事……」
ーバシュ!
「ヂュゥ!?」
ああ!
まただっチュ!
あいつの放った光が、全ての俺様を1匹残らず殺してやがるっチュ……
「いや待つっチュ!……残りの"鼠"は……」
ーバシュ!
「ヂュゥ!?」
マズいっチュ!
……もう、残る"鼠"は……
「ん?……どうされましたピョンか?」
「流石に魔王城なら俺様に攻撃は当たらんっチュ!」
ーバシュ!
「ピョン!?」
「……へ?」
俺様が……貫かれたっチュか?
「……ほう、特定の相手にしか干渉しない攻撃ですピョンか……それで誰にも邪魔されなかったと……」
ラビリンスの言葉が、上手く聞き取れないっチュ……
「死にたく……ないっチュ……」
「ふん……案外呆気ないですピョンね……」
ラビリンスの失望した声……
もはや、俺様に残機はなかったっチュ……
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……死にたくないっチュゥゥゥゥゥ!」
体から温度が消えて行くっチュ……
……もう、俺様も終わりだっチュね。
「あは……あはは……あ~っはっはっは!」
俺様は、自身が事切れるまで笑う事しか出来なかったっチュ……
……出来る事なら……もっと楽しみたかったっチュ……
そう考えながら、俺様の意識は消失していったのだったっチュ……
ご読了ありがとうございます。
【断罪の落星】は、防ごうと思えば防げる技なのですが……力の弱いチューグロスには不可能な事でした。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。