85.鼠と王子
先に言っておきます。
チューグロスは弱いですが、同時に倒しづらくもあります。
(扇羽 司視点)
「チュ~ッチュッチュッチュ!……俺様を倒そうなんて100年早いっチュ!」
「……【美しき神弓】8連射!」
ーヒュンヒュンヒュン!
「回避だっチュ!」
ーぞろぞろぞろ……サ~ッ……
「「「「「「「チュ~チュ~……」」」」」」」
ーバン!バン!バン!
「……避けてばかりだね……」
チューグロスは、無数の鼠に分裂……というか、人の形を保っている鼠を別行動させて、ボクの攻撃を難なく避けていた。
「チュ~ッチュッチュッチュ!……そのままお前を魔力切れに追い込むのみっチュ!」
ーカランカラン……
「……ランタンで相手の位置が分かっても、これでは意味がないな……ふむ、ボクはどうするべきか……」
何発か撃ってみたけど、チューグロスは避けてばかりで攻撃をして来ない……
……いや、それは違うかな?
「チュッチュッチュ~ッ!……気付いたっチュか?」
「うむ……ここには既に、君の作った病原菌がばら蒔かれているな?」
「そうだっチュ!……もっとも、あんまり広範囲に蒔くとメープシーの手駒を減らしかねないっチュから、この辺だけっチュけどね!」
……やはり、チューグロスは病原菌を蒔いていた。
「でも、ボクには【汚れ無き世界】があるからね……効かないよ?」
「ま、そうっチュね。……でも、俺様を無視も出来ないっチュよね?」
「……痛い所を突いて来るね……」
これは……相手にボクを倒す手段がないとはいえ、ボクが勝たないとマズいのは確かだ。
こいつを逃がしたら、何人死ぬか分からない……
「さあ、鬼ごっこの始まりだっチュ!」
ーぞろぞろぞろ……サ~ッ……
「ふむ……【美しき神弓】10連射!」
ーヒュンヒュンヒュン!
「当たらんっチュ!」
ーサ~ッ
「「「「「「「チュ~チュ~……」」」」」」」
バン!バン!バン!
あ~もう当たらない!
やはり、鼠の様な小さな的を射抜くのは難しい。
何というか、素早い上に狙いづらい……
「……だけど、あいつを逃せばパンデミックは確実……いや、そもそもお前がこの街であんな中途半端な病気を流行らせた狙いは何だ!」
ずっと気にはなっていた。
魔力を放出し続けはするが、何故か死なない……
そんな中途半端な病気を流行らせた訳を。
「チュ?……それで、はいそうですかって言うと思ったっチュか?」
「……いいや、君は言うよ。……ボクはこれでも色々な人を見てきたから、その者の人となりが何となく分かる様になっていてね……」
ハッタリだ。
ボクは正義君みたく人の考えを読んだり出来ない。
だから……これは、ボクの直感だ。
「まあ、俺様も研究者の端くれだっチュ。……特別に教えてやるっチュ!」
「ふむ……」
研究者であるが故に、自身のやった事の意味を言わなければ気が済まない、といったところか……
「……とはいっても、俺様はメープシーの奴に言われた通りの病原菌を作っただけっチュ……」
「……なら、メープシーの目的は?」
「……今、ラフロンスには俺様の病原菌によって放出された魔力が大量に大気中に漂っているっチュ。……そして、その魔力を使って……先代魔王を復活させるつもりらしいっチュ!」
「……ハァ?」
今、何と言った?
先代魔王を……復活させるだと!?
「お、驚いてるっチュね!」
「そ、そんな事が可能だとでも?」
「そんなの知らんっチュ。……俺様はただ、メープシーの要請に従っただけで……まあ、継続的に魔力を搾取するためにも発症者を死なせちゃ駄目だったのは苦労したっチュが……」
「っ!……研究者を名乗るなら、自分の研究に責任くらい持ったらどうだ!【美しき神弓】15連射!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュン!
「うおっ!?……どんどん数が増えてるっチュ!」
ーぞろぞろ……サ~ッ
「「「「「「「チュ~チュ~……」」」」」」」
バン!バン!バン!バン!
「またか……」
こいつは研究者を名乗る割に、自分の研究の末にある物すら見ていない。
物語に出て来るマッドサイエンティストですら、研究の結果を重視するというのに……
「チュッチュッチュ!……さあ、今度は俺様が攻める番だっチュ!」
ーぞろぞろぞろ……サ~ッ……
「……大量の鼠で押し切る気か!」
「さあ、その肉貪らせて貰うっチュ!」
「「「「「「「チュゥゥゥゥ!」」」」」」」
ーカチカチカチ……
ボクに迫るは、チューグロスを構成していた大量の鼠型魔物達。
チューグロスの言葉からして、肉食性だろう。
しかも、よほど腹が減っているのか歯をカチカチと鳴らしてる。
それなら……
「ふむ……なら、ボクは後退するよ……」
ータッタッタ……
「逃がさんっチュ!」
……これはマズい。
小さい獲物は【美しき神弓】での狙い撃ちが難しい上に、間合いに入られた場合はどうしようもない。
一応、奥の手として【美しき神炎】は残しているが……こんな所で使ったら、火災が起きて大惨事になる事間違いなしだ!
「ハァ……ハァ……魔力と体力、その両方を削って来るとは厄介だね……」
「「「「「「「チュゥゥゥゥ!」」」」」」」
ーカチカチカチ……
「しかも、ここに居る鼠が全てとは限らない……もしかしたら、街の外にも居るかもしれない……」
……こいつは間違いなく、ラビリンスと同じタイプの相手だ。
そして、ここに居る鼠がチューグロスの本体なのかすらも分からない……
「……さあさあ、さっさと俺様に貪られるっチュ!」
「ねぇ……君は、今までどれ程の人間を殺して来たんだい?」
ここは、適当な話をして時間を稼ごう。
……それも、どうにか士気を上げられそうな内容を。
だが……
「……知らんっチュ!」
ーぞろぞろぞろ……サ~ッ……
「え?」
ータッタッタ……
「そもそも、俺様は【病原菌生成】で作った適当な病原菌をあちこちにばら蒔いてるだけっチュよ?……どれだけの集落や都市の人間を死滅させたかなんて、俺様自身にも分からんっチュ……」
「お前……」
本当に、こいつは吐き気を催す。
ただでさえ見た目が気持ち悪いのに、性格まで悪辣で残忍で……もはや悪役としての魅力すらない。
まあ、この世界の魔王軍は殆んどそんな奴等ばかりではあるけれど……
「別に今更っチュよね?……俺様達魔王軍に何を期待してるんっチュだか……」
「期待はしていないよ。……でも、せめて倒されるべき悪役としてどれだけ殺したかは堂々と言い張るかと思ってたんだ……」
「そんなの求められても困るっチュ……」
「うん。……君は結果は無視して過程だけを楽しむタイプの様だね……しかも、作る病原菌は適当と来た……」
本当に、チューグロスは研究者でもマッドサイエンティストでもない……病原菌を作れるだけの何処にでも居る愉快犯だ。
「チュッチュッチュ!……それがどうしたっチュか?」
ーぞろぞろぞろ……サ~ッ……
「「「「「「「チュゥゥゥゥ!」」」」」」」
ーカチカチカチ……
「……不愉快だ。……すぐに消えてくれないかい!」
また肉食鼠の大群……
病原菌が無効と知ってもなお向かって来るとは……
「……これは、ボクも新しい力を試してみないと駄目だろうね……でも、まだ考案してから数時間しか経っていないんだけど……まあ、使えるか……」
ボクのスキルは自信が命。
上手く出来ると思えなければ、当然スキルは上手く発動しない。
「ごちゃごちゃ何を言ってるっチュ!」
「……ふむ、やるしかないようだね……」
ボクは決心した。
新たな力を使い、目の前の下衆鼠に"処刑"の2文字を叩きつけるのだと……
ご読了ありがとうございます。
狙うタイプの攻撃は当たらず、広範囲攻撃は火災で一般人巻き込んで共倒れしかねない……今の司の状態はこんな感じです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。