83.疑わしき狐の報告
……主人公の存在感がどんどん薄く……
(浅山 茜視点)
迷子の女の子を保護者に届けて十数分後……
「……という訳で、もしかしたらこの街に魔王軍幹部が潜入してるかもしれなくて……」
従魔競争っていう元の世界の競馬っぽい公営賭博の会場でエルリスさんを見つけた私達は、魔王軍幹部がこの街に潜入している可能性を説明していた。
……後、何故かエルリスさんの横には兼人君とよく分からない女装したおじさんが立ってたけど……今はスルーしておく。
「う~ん……それだけやと根拠として弱いな~……」
「まあ、この反応が当然だガルな……」
「そ、それは私も思ったけど……」
「せやけど、仮説としては充分あり得るから無視する訳にも行かへんのよな~……」
エルリスさんは私達の話を聞いて、何とも言えない表情を浮かべた。
まあ、これが当然の反応だよね……
「……ねぇねぇ、エルリス様ぁ♥️?」
「ん?……何や、シュラ坊……」
「鼠……悪鼠将軍 チューグロスの能力は何となく分かったけど、老羊将軍 メープシーの能力って【憑依】だけだったかしらぁ♥️?」
「……いや、それは種族としての特性で固有の能力とちゃう……メープシーの能力は……」
「【夢遊の誘い】という洗脳スキル、ですよね?」
「……カネヒトはんの言う通りやよ……」
兼人君が突然言い放ったメープシーのスキル……
それは、洗脳系統のスキルらしかった。
「メープシーのスキル攻撃を受けた相手は、まるで夢を見ているかの様な気分になってまう……で、気付いた時にはメープシーの傀儡にされとる……っちゅうんが、ウチの聞いた情報や……」
「はい、僕が読んだ本も同じ事が書いていました。」
「……まあ、100年前の旅では最後まで会わへんかったから、伝聞の情報になってまうんやけどな……」
「ん?……じゃあ、そこからずっと潜伏してたの?」
先代魔王の代から居るとは聞いてたけど、よくそんなに潜伏出来たね~……なんて思ってると……
「……ちゃうな。……少なくとも、魔王が生み出した魔物なら魔王の死と共に消滅するんやけど……」
「え、そうなの!?」
その情報、初耳なんだけど!?
「……で、そもそもメープシーは100年前の時点では正体不明の魔物やったんやけど、先代魔王の死と共に姿を見せんくなった……せやから、しばらくは魔王が生み出した魔物やと思われとった……」
「……でも、シトラちゃんはメープシーを外様だって……やっぱり、普通に潜伏を……」
「……それが違ったんよ。……シトラはんなら知っとるやろ?」
「……まあ、あんまり言い過ぎると混乱を招くと思って言ってなかったガルが……メープシーの正体は、魔界の低級悪魔だガル……」
「っ!?」
私はメープシーを知らない。
でも、魔王軍の幹部が低級悪魔って……
「ウチも、それを知って驚愕したわ……」
「え、何でエルリスさんが知ってるの?」
「あちこちでシトラはんが魔王軍の内情を言いまくっとるからやけど?」
「……シトラちゃん、よく消されないよね……」
シトラちゃん、魔王軍の機密情報漏洩しまくってるじゃん……
「まあ魔王様曰く、『魔王の顔も3度まで』で許されてるガルよ……」
「……何それ……」
「オレが、魔王軍に下る条件にした件とは別枠で、3回までなら特例を許す約束だガル。……1度目はオレがオレより弱ぇ人間側勢力を殺さねぇ事、2度目は王都侵攻で魔物共を狩ったのを謹慎だけで済ませる事……にそれぞれ使っちまったガルから、後1度しか特例は通せねぇガル……」
「ああ、そう……」
サラッと重要情報を言ったけど、あんまり深く詮索するべきじゃないって本能が告げてた。
「まあ、内情喋りは何だかんだ特例なしで有耶無耶にされてるガルが……」
「……寧ろ、それが1番駄目な様な……」
「って、話が逸れたガル!……とにかく、メープシーは洗脳特化で物理も魔法攻撃も苦手で防御力もダメダメだガルが、その洗脳がヤバい……らしいガル……」
「シトラちゃんでも勝てない?」
「いや、遠くからハンマーぶん投げるガルが?」
「あ、そう……」
逆に言えば、遠隔攻撃しか効かないと……
「……とにかく、チューグロスとメープシーがもし居ったら最悪の組み合わせや……どっちも単純な戦闘力はだいぶ低いらしいんやけど、固有能力が洗脳と病気やからな……」
「……なら最悪の報せでござるが……その2体、本当に居るでござるよ?」
「「「「「っ!?」」」」」
エルリスさんが話してる中、突如として誰かが会話に乱入して来た。
そして、その人物は……
「……拙者はしがない旅の狐。……深く詮索するのは辞めて欲しいでござる……」
……和風な笠と狐面を被った女性だった。
「あらぁ……こいつ、教皇猊下暗殺未遂事件で指名手配されてる娘よぉ……」
「いかにも。……しかし、それには深い理由があるのでござる……」
教皇猊下暗殺未遂事件の犯人が、のこのこ私達の前に姿を現した。
「……取り敢えず、何で他の人は気付かないの?」
「拙者の姿は、拙者の妖術によりお主等にしか見えておらぬでござる。」
「よ、妖術!?」
「……魔法とは似て非なる術やよ。……東の国でしか使われとらん筈やけど……」
「それはそれ、これはこれ……そろそろ本題に移っても良いでござるか?」
何かこう、全然詮索させる気が皆無というか……
……本当に何者?
「……じゃあ端的に言って?」
「拙者が暗殺しようとしたと言われている教皇猊下に、メープシーが【憑依】しているのでござる!」
「……それで、暗殺しようとしたとしたんか?」
「いやいや!……拙者もどうにか【憑依】を解除しようとしたのでござるが、その前に暗殺未遂の冤罪をかけられてしまったのでござる……」
「……本当かな……」
教皇にメープシーが【憑依】してる……何だか、信じられるような信じられないような……
「せやけど、それがほんまなら教皇に会いに行った時の違和感も分かるわ……教皇のタイボルドはんは、暗殺されかけたからって閉じ籠る様な人とちゃうもん……」
「確かに……数ヶ月も姿を見せないのはアタシも変だと思ってたわぁ~……」
どうも、教皇のタイボルドさんは暗殺されかけても閉じ籠る様な人じゃないらしい。
……エルリスさんが違和感を抱く訳だよ。
「……ああ、思い出したのじゃ!……タイボルドってあの生真面目で正義感の強かったあのタイボルドか!」
「……エルリス様の今の話し方、メサイア様そっくりじゃないの!?……どういう事かしらぁ♥️?」
「……メサイアはん、いきなりウチの口で喋らんといてぇな……あ、シュラ坊にも勿論説明するで?」
メサイアさん、タイボルドさんの事を思い出したは良いけどエルリスさんの口で喋っちゃ駄目だよ……
……というか、自分の後任を忘れるって……
その後、エルリスさんはシュラ坊こと女装したおじさん相手にメサイアさんの復活について説明していた。
「……メサイア様、友人思いねぇ~♥️……」
「……それはそうと、自分の後任を忘れるかいな……」
「うぐっ……こ、後継者決めは他の者に任せっきりじゃったからのう……さぞ、血が流れた事じゃろ……」
「いや、全会一致でタイボルドはんに決まったで?」
「……マジかのう?」
「……マジやわ……」
……タイボルドさん、人望も厚かったんだ……
だからこそ、現状の違和感も凄かったと……
「……でも、どうするのぉ♥️?……本当か嘘かはともかく、正面からじゃ会えないでしょぉ~♥️?」
「……そりゃ、侵入するしかないやろ……まあ、ウチはせぇへんけど……」
「じゃあ、誰がするんですか?……僕は無理ですよ?」
「……まあ、ウチも頼むんは心苦しいんやけどな……ウチ等のパーティーで、洗脳と病気に対応出来そうな2人を送り込むしかないやろ……」
「……ああ、あの2人ですか……」
どうも、エルリスさんと兼人君の間では話が纏まったらしい。
……にしても、洗脳と病気に対応出来そうな2人組ってやっぱりあの2人だよね……
「……本当に大丈夫かな……」
ここであの2人を失うのはキツいよ……
そう考えながら、私はエルリスさん達の話に耳を傾けたのだった……
ご読了ありがとうございます。
次回、潜入……
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