80.装備屋での一幕
さっさと進めないといけないのに、全然進まない……
(??視点)
「……まさか、この街に魔王軍幹部のシトラが居た理由が只の観光でござったとは……まあ、これで勇者陣営が真相に1歩……否、数十歩近付いたと思えばまあ……」
ハァ、締まらんでござるな~……
……とはいえ、彼女達は放っておいても大丈夫そうでござるな。
「……となると、拙者が向かうべきは……」
拙者は駆ける。
……拙者1人では為せぬ事を為すために……
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(浅山 藤四郎視点)
「う~ん……何か嫌な予感がするんだよな……」
教皇と会えなかった時のエルリスさん、メサイアさん、そして正義の反応……
あれは、確実に何かしらの厄介事に巻き込まれる前兆にしか見えなかった。
「……ご主人様のお気持ちも分かりますニャンが、こればっかりはあたし達が考えても……」
「そうですわよ。……そもそも、私達4人が知恵を出したところでたかが知れておりますわ……」
「そうですな!……ところで、この辺で良い鍛冶屋は居りませぬかな~!」
3人とも、自分達が考えたところで何の解決にもならねぇ事を分かっていた。
「……まあ、確かに考え過ぎも良くねぇな。……それと、流石に今のロウルさんは目立つから早めに素材を渡したいところだな……」
現在、ロウルさんは赤盾竜の古くなって剥がれた鱗を、袋へ大量に詰めた状態で運んでいた。
「ハァ……トウシロウ殿、目立つ程度で臆する私めではありませぬぞ!」
「少なくとも、俺は気まずいんだよ……」
「あたしもですニャン……」
「私もですわ……」
ただでさえでけぇ赤盾竜の鱗を入れた袋は、更にとんでもなくでけぇ。
当然、そんな大袋を持ってりゃ横に居る人間まで目立つってもんだ。
「……って、何か丁度良いタイミングで鍛冶屋……もとい装備屋が見つかったな……」
「後は、盾の生成をしてくれるかどうかですな……」
「まあ、こればっかりは祈るしかありませんわね……」
「もし、ここでロウル様が使い物にならなくなったりしたら大変ですニャン……」
ロウルさんの強みを活かすには、新しい大盾が必要不可欠になって来る。
「……どうか、盾の製造もやってるか……若しくは、強い盾を売ってるか……」
そう祈りながら、俺達は装備屋に入ったのだった……
そして……
「……という訳で、この素材を使って私めの新しい大盾を作っていただきたく……」
「んだ?……ちょいと値段は高くなるべが、それでも良いだべか?」
少々喋りに訛りが残っている装備屋の男性店主に盾の製造を頼んだところ、値段こそ高くなるが出来るという答えが返って来た。
「えっと、どのくらい必要だ?」
「う~ん……普通なら最低でも白金貨1枚にはなるんだべが、今回は貴重な素材を持ち込んでくれたべから……特別に金貨10枚で作ってやるべ!」
「まあまあ高いが……こんなもんだろ……」
俺の推測では、白金貨1枚は10万円、金貨10枚は1万円になる。
……オーダーメイドの装備を頼んでいると考えると、元の値段ですら少し安いぐれぇだ。
「おっと、自己紹介がまだだったべな!……オラはドワーフのベガンダっていうべ!」
「俺はトウシロウだ!」
「あたしはナフリーですニャン!」
「私はメアリーですわ!」
「私めはロウルですぞ!」
店主はベガンダさんという名前で、ドワーフとの事だった。
確かに、言われてみれば背が低くてガタイが良くて髭がかなり生えてて……ドワーフのイメージそのものって感じの見た目はしてるが……
……と、その時……
「……ん?向こうの工房っぽい所にあるでっかいハンマー、何か見覚えあるような……」
ふと、店の奥の工房らしき場所に置かれているでっかいハンマーが俺の視界に入った。
そのハンマーは俺の身長よりも大きく、何やらトゲが沢山付いていて……
「あ?……ああ、あれは破槌 キングクラッシャーっていう優れ物で、100年ぐれぇ前に王都に住んでたオラの師匠が生前最後に作り上げた代物だべ!」
「……凄いのか?」
「そりゃ勿論だべ!……何せ、かつて先代魔王を倒した先代勇者パーティーの一員、タイガーラ様が使ってた武器なんだから当然だべ!」
「っ!?」
タイガーラさん……確か、エルリスさんやメサイアさんのかつての仲間で、メサイアさん復活のMVP……
その人の武器が、どうしてここに?
「あ、何でそんな武器がここにあるのかって顔してるべな?」
「あ、ああ……」
「……タイガーラ様の子孫から、整備のために預けられたんだべ……」
「子孫?」
タイガーラさんの子孫が整備のために渡した?
……でも、あれは確か……
「そうだべ。……名前は確かシトラスとかいったべかな……この街には観光で来たらしいんだべが、念のため整備を頼むとか何とか……」
「ご主人様、どうされましたニャン?」
「……これ、タブルドによる王都侵攻の時にシトラが持ってた武器そっくりなんだよ……」
「……っ!?……じゃあ、まさかこの街にシトラが居るんですニャンか!?」
確実に、あれはシトラが使ってたハンマーだ。
なら、タイガーラさんの子孫を名乗るシトラスなる人物の正体もまたシトラの筈……
「……シトラって王虎将軍 シトラだべか?」
「ああ、前に見た時にあんな感じのハンマーを持っていやがってな……」
「……もしそうだとしても、あの方はオラの大切なお客様だべ!」
「……別に、俺も何かするつもりはねぇよ。……強いて言うなら、妹がシトラに一目惚れしてるだけだ……」
「そ、そうだべか……」
……にしても、シトラがこの街に……
企みとかするタイプじゃなさそうだし、本当に観光だったりして……というか、案外茜と出くわしてる可能性も高いのがまた……
「……何かすまんな……」
「あ~……オラこそ話し過ぎたべ。……というか、こっちとしてはシトラより教皇猊下暗殺未遂事件の犯人をどうにかして欲しいべ!」
「……あ、そういやその事件って何が……」
「あ?……何でも3ヶ月ぐれぇ前に、東方にある国の笠と狐面を被った狐獣人が教皇猊下を暗殺しようとしたらしいんだべ……」
「……また、かなり目立ちそうだが……」
「それが捕まってねぇから凄いんだべが……早く捕まって欲しいべ……」
東方の笠と狐面を被った狐獣人……
また、キャラが個性的だな……
「まあ、俺達も注意しとくか……」
「そうですニャンね……」
「そうですわね……」
「そうですな……あ、それでは頼みましたぞ!」
「おう!立派な盾を夜までには仕上げてやるべ!」
「いや早過ぎだろ!」
「オラは仕事が早いんだべ!」
いったい、何をどうしたら立派な盾が夜までに出来上がるんだよ……
……まあ、もし出来が悪ければ返品すりゃ良いか……
「……もし出来が悪ければ……分かってるよな?」
「そこまで心配しなくても大丈夫だべよ……まあ、時間が時間だから疑われるのは分かるべが……」
「ま、取り敢えず今はは信用しとくよ。……今はな!」
「おうよ!期待して待っとくべ!」
そうしてきっちりと念を押した俺達は、装備屋を後にしたのだった……
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(??視点)
「ふむ……あの者達ではいつまで経っても真実に辿り着きそうにないでござるな……ただ、あの男は何故か気になるでござるが……」
装備屋での会話を盗み聞きしていた拙者が言うのも何でござるが、お主等はこんな事をしている場合ではないでござるよ!?
……なんて、言いに出る訳にもいかないでござるし……
「今の拙者はお尋ね者でござる。……だからこそ、徹底的に影に隠れるでござる……」
1度表に出て失敗した以上、下手な手は打てないんでござるよ。
「……さて、では次に向かうとするでござるか……」
拙者は駆ける。
この街を救える者を探すため……
ご読了ありがとうございます。
次回は司と正義のデート風景を書く予定です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。