74.死神との決着
メサイア側も決着をつけます。
(メサイア・エルレンデ視点)
「やはりエルリスは凄いのう……魔法を殆んど使えん筈じゃというのに、竜を打ち倒しよったのじゃ……」
もっとも、これは相手を対話の場に引き摺り込んだだけで、これが理性の無い魔物なら話は変わった……いや、変わらんじゃろうな……
「エルリスは手札が多いからのう……もはや自前のスキルと【泥人形作成】の様な低威力の魔法しか使えない身体だというのに……」
「……俺には何が起きてるのかさっぱり分からねぇガルが、エルリスも頑張ってるみてぇだガルな……」
「そうじゃな。……じゃが、妾達も負けては居れぬのじゃ!」
「そうガルなァ!」
エルリスが竜に勝ったのは凄い事じゃ。
じゃからこそ、妾達も今日で決着をつけなければ……
と、妾が思った直後……
「カ~タカタカタカタ!……さあさあ、今日も現世に行けるかどうかを決める勝負の時間でヤンスよ!」
「待ってたのじゃ!」
「待ってたガルァ!」
例の死神が、今日も勝負を持ちかけてきたのじゃ。
……当然、死神は余裕そうじゃのう……
「お、今日もやる気満々でヤンスね~!」
「そりゃそうじゃ。……何せ、妾達としては今日でこの勝負も終わりにするつもりじゃからのう!」
「……諦めるって感じじゃなさそうでヤンスね~……」
「勿論、今日で勝つという意味じゃ!」
「……本気でヤンスか?」
死神は本気で心配している感じだったのじゃ。
まあ、かれこれ10年の付き合いじゃからのう……
「……思えば、お主には世話になったのう……」
「恨んでるでヤンスか?」
「いや、寧ろ感謝しておるのじゃ。……本来、死神は冥界神に仕える使いっ走り集団で、正確には神の一柱ですらない……じゃというのに、妾達2人でお主を倒せば片方だけゴーストとして現世に行けるなどという破格の好条件を冥界神が提示したのは、お主が色々と無理を通してくれたからなのじゃろう?」
「別に、単純に2人がかりでもあっしには勝てないからでヤンスし……」
この死神、こう見えてお人好しじゃからな……
しかも、それを隠したがる癖まであるのじゃ。
「本当にそうじゃとしても、わざわざこんな事をする理由は無いじゃろ?……本来、1度冥界に来た霊魂は現世への干渉が禁じられるというのに……」
「……念のため言わせて貰うでヤンスけど、期限はあるでヤンスよ?」
「……で、その期限はいつまでじゃったかのう?」
「エルリス・フルウィールがその生涯を終えるまででヤンス!」
それを期限だと言える辺り、人とは違う尺度で物事を考えておらぬか?
「……それ、いつまでなのじゃ?」
「そうでヤンスね~……少なくとも、寿命は数百……いや、軽く千年は残ってるでヤンスけど……」
「それだけあれば充分過ぎるじゃろ!?」
「そうでヤンスね……」
死神もようやく気付いた様じゃが、普通に人間の寿命を超越しておるんじゃよな……
「まあ、妾達が勝てた場合の机上の空論を話す暇があるなら、さっさと勝負を始めるのじゃ!」
「ハァ……これが最後になると良いでヤンスね~……開始でヤンス!」
死神によって宣告された勝負開始の合図……
そこからは早かった。
「ガルァ!」
ーダッ!……ヒュン!
「いきなりでヤンスか!?」
タイガーラが、冥界の地面を蹴って死神に肉薄出来る位置まで距離を詰めたのじゃ!
「ガルァガルァガルァガルァガルァガルァガルァ!」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「妾も【光の矢】じゃ!」
ーヒュンヒュンヒュン!
タイガーラの拳による連続攻撃と、妾が後方から放つ【光の矢】……
この組み合わせに死神はというと……
「うぐっ……って、この組み合わせは少し前に見たでヤンスよ?」
ースパッ
少し前に見せた戦法という事もあり、妾達は呆気なく上半身と下半身に両断された。
……されたのじゃが……
「【霊魂再生】だガルァ!」
「【霊魂再生】なのじゃ!」
ーギュッ……
「……ハァ!?」
妾とタイガーラが【霊魂再生】と言い放った瞬間、両断されていた上半身と下半身は再度繋がったのじゃった。
そう。
これが妾達の奥の手であり、冥界での修行の果てに手に入れたスキル……【霊魂再生】じゃった。
「……どうせ避けられない攻撃なら、再生能力を高めて受けよう作戦は大成功なのじゃ!」
「ガルァガルァガルァガルァガルァガルァガルァ!」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「ぐぬぬ……いや、いくら何でも再生するのが早過ぎるでヤンス!」
「そりゃあ、10年間の努力の結晶じゃからのう。……ぶっちゃけ妾達、見えない速度の斬撃を避けるのは早々に諦めておったのじゃ。……代わりにそこから10年近く、ひたすら霊体の再生速度を上げてここまで来た訳じゃがな!」
「ガルァガルァガルァガルァガルァガルァガルァ!」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「そ、そんなのありでヤンスか!?」
「ありなのじゃ!」
妾達の作戦は単純明快。
10年かけて霊体の再生能力を高め、俗に言うゾンビ戦法に持ち込むというものじゃった。
そのために、これまで体を両断されても本気の再生能力は隠し続けたのじゃからな……
「ガルァガルァガルァガルァガルァガルァガルァ!」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「【光の矢】なのじゃ!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
「斬っても斬っても再生……これはこれは……こんなの、あっしが勝てる道理は無いでヤンスよ……」
死神が発したその言葉から感じ取れたのは、諦めと納得じゃった。
そして……
「ガルァガルァガルァガルァガルァガルァガルァ!」
ーバシバシバシバシバシバシバシバシバシバシ!
「続けて【光の矢】じゃ!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
「……魂滅の斬撃だけは使いたくないでヤンスし、そうなると必然的にあっしの負け……でも、不思議と悔しくないでヤンスね……」
妾とタイガーラの攻撃を捌きながらも、どんどん劣勢になって行く死神はそんな事を呟いておった。
……その魂滅の斬撃とやらは、この戦法を取る妾達にとって確実にヤバそうじゃが……使わぬのならありがたいのじゃ!
「……この10年間、良くもまあ飽きずに相手してくれたガルよ……だがよォ、そんな日々もこれで終わりだガルァ!」
ーブンッ!
「……ようやく、でヤンスか……」
ーボゴォッ!
「うわっ……綺麗に顔面に入ったのじゃ……」
妾達による絶え間無い連続攻撃の最中に隙を晒した死神の顔面に、タイガーラの拳が綺麗にクリーンヒットしたのじゃった……
そして数分後……
「……おや?……あっしが負けたんでヤンスね……」
タイガーラの拳を顔面に食らい、気を失っていた……いや、死神が気絶って意味不明じゃが、とにかく気を失っていた死神の意識が回復したのじゃった。
「お主は強かったのじゃ。……それこそ、過去に渡り合った誰よりも……」
「そんな訳ないでヤンスよ……あっしじゃ堕天魔王 サタゴーラには勝てないでヤンスし……」
「じゃが、妾達は……」
「……所詮、あっしは速さだけでヤンス。……それに加えてあっし等、現世には介入出来ないでヤンスし……」
そう話す死神の言葉からは、何故か悔しさがにじみ出ていたのじゃ。
「……で、メサイアは現世に行けるガルかァ?」
「勿論、それは問題ないでヤンス。……ついでにあっしからスキル、【死神の加護】もあげるでヤンス……」
「……とかいって、実際は監視目的じゃろ?」
「あはは……ま、貰っといて欲しいでヤンス……」
まあ、使えそうじゃし貰っとくかのう……
さて、それじゃあ……
「……それは貰うとして、妾は何処へ向かえば現世に行けるのじゃ?」
「ああ、それならあちらでヤンス……」
「……色々と世話になったのう。……もしこっちに戻って来た暁には、エルリスと共に土産話を山程してやるのじゃ!」
「……楽しみにしてるガルよ……」
「あっしはその前にもちょくちょく会いそうでヤンスが……まあ、楽しみにしとくでヤンス……」
次に冥界に来る時は、土産話を山程用意せんとのう。
「……という訳で、そろそろ妾は現世に行かせて貰うのじゃ!」
「ええ。……死神長たるあっしの権限により、エルリス・フルウィールが死ぬ日までメサイア・エルレンデの現世滞在を認めるでヤンス……」
……何か今、死神長とか言わなかったかのう……
まあ良いのじゃ。
「……じゃあ、またなのじゃ!」
「またガル!」
「またでヤンス!」
そうして妾はタイガーラと死神に別れの挨拶を済ませると、現世に向かって足を進めたのじゃった……
ご読了ありがとうございます。
死神長に敗因があるとすれば、それは非情になれなかった事……もし魂滅の斬撃を使えば、相手の霊魂は完全に消滅するので……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。