71.エルリスの悩み
第3章、まだまだ山場に行けません………
(扇羽 司視点)
「……思えば、遠くに来たものだね……」
「……ま、どうにか帰る方法は探すっしょ……」
過去を一通り振り返ったボク達は、ただただ遠い目をしていた。
……思い返せばボク達が異世界に転移させられた時、正義君だけはチートに喜ぶ浅慮な行動をしていたけど……十中八九、あれは演技だね。
そうする事で相手の油断を誘って、あの場に居た全員を品定めしていたのだろう。
「……ボク達、このままで良いと思うかい?」
「ん?何が言いたい訳よ?」
「……少なくとも、ラビリンスの分身体は単体での戦闘能力が高くない。……なのに、ボク達はそんな相手に割と苦戦させられていたよね?」
「う~ん……確かに、これは俺チャン達のパワーアップ必至っしょ!」
「……そういう事さ!」
ボク達、別に弱い訳ではないとは思う。
でも、このまま魔王に挑むのが悪手だという事は分かった。
「……でも、どう強化するっしょ?」
「ふむ……正義君から見て、ボクはどうするべきだと思う?」
「……やっぱり、司チャンは今の方針で伸ばすべきだと思うっしょ。……自分が美しいと思った事なら何でも出来る、そんな感じの……」
「そうかい……なら、次はボクが考える番だね。……とはいえ、正義君の能力も充分無法だからね……それこそ、ひたすら強化するしか……」
「……どうやる訳?」
「うむ……」
そうしてボク達は悩んだ。
自分達の殻を破るには、何が必要なのかを……
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(浅山 藤四郎視点)
「……教皇暗殺未遂事件?」
馬車を引かせる馬を休ませてる間の休憩時間、俺はエルリスさんからとある話をされた。
「せや。……だいたい3ヶ月前にラフロンス起こって、今も犯人が捕まっとらん事件なんやけど、どうもそれから教皇はんが部屋に籠りっきりになっとるらしくてな?」
「いや、そんな話聞いてねぇんだが……」
「言っとらんからなぁ。……ちゅうか、言ったら不安になってまうやろ?」
「じゃあ、何で俺には言ったんだよ!」
「……皆にどう打ち明けたらええか、一緒に考えて欲しかったんよ……」
「えぇ……」
……ちょっと前まで、俺はエルリスさんをマトモでしっかり者だと思っていたが……かなり抜けてる人だな……
「いや、勘違いして欲しくないんやけど、ウチは前のパーティーではマトモ枠やったんやで!?」
「じゃあ、何でこうなってる?」
「……多分、前のパーティーはウチ以外が天然、脳筋、散財癖持ち……ちゅう面子やったから、どうにかウチがマトモになるしかなかったんや……」
「で?」
「せやけど、このパーティーは意外と皆しっかりしてるやろ?……そりゃロウルはんは怪しいけど、他はアカネはんですら意外としっかりしとるし……」
「つまり?」
「……気ぃ、抜いてもうたんよ……」
「……そうか……」
……多分、エルリスさんの本質はこうなのだろう。
言う情報と言わない情報を取捨選択して、言わなかった情報は言うべき所で言う。
それ自体は寧ろ良い。
だが、それをどう言うかを俺に委ねるって……ん?
「……で、どう話すんがええと……」
「これ、嘘だろ?」
「え?」
「いくら何でも、流れが杜撰だ。……別に言うタイミングを後にしてたのは別に気にしねぇ。……それこそ、先に言われても混乱するだけだしな。……でも、だからって俺を頼るのが分からねぇ。……そういう話が得意なのは兼人だろ?」
「……やっぱり、バレてもうたか……」
「……本当に、嘘なのか……って、この言い方だとややこしいな……」
流石に、俺に相談するのは筋違いというものだ。
特に、エルリスさんに限っては。
「……一応言うとくと、事件自体は本当やで?」
「なら尚更、俺に相談するべきじゃねぇな。」
「……トウシロウはん、自己評価低いな~……」
「当たり前だろ!……未だに、何で俺なんかが3人も恋人作れてんのか疑問なくらいだ……」
いやまあ、ナフリーは経緯が経緯だし、メアリーは躊躇なく言い争ったのが良い方向に作用しただけだし、ロウルさんは単純に気に入られただけだし……
……更にエルリスさんからも惚れられてるとか、考えたくねぇよ!
「……思いの外荒れてますね……その様子だと、やはり僕の案は失敗した感じですか……」
「か、兼人!?」
……というか、今何て言った!?
「カネヒトはん、すまんな~……」
「いや、エルリスさんのせいでは……って、否定したいんですがね……」
「む、無理なんか?」
「藤四郎さんの言う通り杜撰なんですよ!……後、貴女程の御方なら藤四郎さんの内心も読めますよね!?……それとも恋で藤四郎さんの内心も読めないぐらい盲目になりましたか!?」
「うぐっ!?……あかんわ~……もしメサイアはんが生きとったら笑われとる……」
「ハァ……僕、異世界に来る前は小心者のビビリだった筈なのに、どんどん強かになってる感じがするのは気のせいですかね?」
……やっぱり、エルリスさんは俺に惚れてるのか?
だとしても、何で……
「誤解せんといて欲しいんやけど、ウチは別にトウシロウはんと付き合いたい訳やないんよ……」
「え、そうなのか!?」
「……エルフは長命で、ウチですら何人かの最期を看取って来て……もう、嫌になってもうたんよ……」
そう言ったエルリスさんは、悲痛そうな表情を浮かべていた。
「……それは……」
「そんな中で、長年会えへんかったウチのタイプど真ん中の男が現れるとか……」
「いや、俺みてぇなのに長年会えないって逆にどんなタイプなんだよ!?」
「善人やけど小物臭くて、それでも愛する者のためなら命すら張れる男や!」
「……この条件、案外居そうで居ないらしいですからね。例えば僕なんか罪無き民を守る事は出来ても、愛する者なんて想像すら出来ませんし……」
「……兼人、思ったより闇深そうだな……」
……愛する者を想像すら出来ない、か……
いやまあ、世の中にはそういう奴も居るって聞いた事はあるが……
「他にも善人やけど勇者に選ばれた皆みたく罪無き民のためなら命すら捨てられる人間はウチには眩し過ぎるし、小物臭い人間やと善人は居らへんし、そこから愛する者だけには命を捨てられるって……見つけられる訳がないやん?」
「そ、それもそうか……」
「せやけど……どうせトウシロウはんもウチより先に死ぬやろ?」
「まあ、普通に行けばそうなるな……」
愛する者が出来ても、共に墓には入れない。
それこそ、愛する者が死んだ時に自死するしか……
「ここでウチから豆知識や。……森の奥地で短命種と交流せずに生涯を過ごしたエルフの死因は老衰が殆んどなんやけど、森から出て短命種と交流したエルフの死因は自殺が殆んどってくらい、ウチ等の種族は欠陥種族なんやよ……」
「……って事は、やっぱりエルリスさんは……」
「でも、ウチはもうトウシロウはんが死ぬ時まですら保ちそうにあらへんわ……色々と、限界なんよ……」
「……そこまで、精神を磨耗させてたのか?」
「一応、緊急時にオンオフは出来るで?……それに、魔王軍を倒すまでは生きるつもりはあるし……でも、その後はもう分からへんし、最悪魔王を倒すために命投げ出すかもしれへんし……」
「そ、そうか……」
一応、今の状況で積極的に死にたい訳じゃなさそうではあるが……
何かもう、危うい人しか居ないのか!?
「……それこそ、ウチが老衰で死ぬまで隣に居てくれる友人か伴侶が居ったら話は別やったんやろうけど、ウチ他の長命種とは反りが合わへん節があるんよ」
「それは惜しいな……」
エルリスさんと仲が良かった者は皆、エルリスさんを残して逝ってしまったのだろう。
……本当に、何と返して良いものか……
「ちょい話がズレたな……まあ、そんな訳で今回の交流もただの思い出作りで、トウシロウはんと付き合いたい訳やあらへんのよ……」
「そ、そうか……」
こうして最初の話題等どこへやら。
俺はエルリスさんの悲痛な本音を聞かされ、複雑な心境となったのだった……
ご読了ありがとうございます。
エルリスは、もう諦めの境地に居ます。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。