65.真逆の思い出
この第3章、先代勇者の話になると何故か筆が乗っています。
(浅山 藤四郎視点)
「ハァ……何かすまんな~。呼んどいて碌な話もないとか……」
「本当だな……で、これで終わりか?」
「あ~……うん、せやな。……一応、敵との戦いも言えるっちゃ言えるんやけど……これ以上は、ウチの方が限界来そうやわ……」
「……あんまり無理すんなよ?」
見ると、エルリスさんの目に涙が溜まっていた。
まあ、死んだ友人の話をしてりゃ当然か……
「あかんな~。……人に話したらちょっとはマシになるかと思たんやけど……逆効果やったわ……」
「……やっぱり、悲しいか?」
「当たり前やろ。……ま、あんまり油を売っとる暇もないし、ここらが話の辞め時やな……」
そうしてエルリスさんは、重要そうな事は殆んど話さずに過去話を切り上げた。
「さ、早く聖都 ラフロンスに行くで。……そろそろ祝神祭の時期やし、どうせなら参加もしよか……」
「祝神祭?何だそれ……」
「ん~?……まあ祭りの一種とでも考えといてくれたらええで~。……後、ラフロンスでは僧侶系の仲間も雇いたいし……やる事ばっかりやな……」
何かはぐらかされたが、どうも聖都 ラフロンスでは祝神祭なる祭りが開催されるらしい。
後、僧侶系の仲間も雇いたいらしいが……それ、下手したら俺の立場が無くなる気が……
「おい、僧侶系の仲間って……基本的にどういう事をするんだ?」
「ん?……ああ、別にトウシロウはんの仕事を奪う訳やあらへんで?……確かに僧侶職の冒険者がやる事と言えばバフかけやったり回復やったり……それに浄化やったりが該当するけど、バフに関してはトウシロウはんの方が確実に上やし……」
「そ、そうか……」
つまり、バフ以外の回復や浄化?は僧侶職の方が優れてるって訳か……
「……それに、大所帯なこのパーティーをトウシロウはん1人でカバーするんは無理があるやろ?」
「まあ、それは確かに……」
「せやから僧侶なり修道女なり、聖職者の参入も必須なんやよ。」
「……そういう事なら、俺は何も言わねぇよ……」
……にしても、僧侶系か……
RPGでは必須の職業だが、あんまり堅過ぎると上手くやれる気がしねぇな……
「……こんな時メサイアはんが居ってくれたら楽やったんやけどな~……」
「いや、遠い目をされても困るんだが……そういや、聖都 ラフロンスは近いのか?」
エルリスさんがどんどん情緒不安定になっていくので、俺は急いで話題を変える。
「せやな~。……海路が使えたら7日ちょいなんやけど、今は海路機能しとらんし、短く見積もっても1ヶ月はかかるわ~……」
「……そこまで差が出るもんなのか?」
「この先は大きい湾になっとってな?……前は湾の間隔が狭い所を7日かけて船で進んでたんやけど、魔王軍が誕生してからそうも行かんくなってしもてな~。……湾に沿って進むしかないんやけど、それが1ヶ月かかるくらい長い道のりなんよ~。」
「な、なるほど……」
つまり、この先1ヶ月の旅路か……
「とはいえ、ずっと陸っちゅう訳にもいかんのやけどな?」
「え?」
「何せ、メサイアはんの墓が湾上の小島に建てられとるんよ~。……幸いにも陸から近いし、ウチが皆を【次元収納】に入れて【神速】で水上を走れば何とか行けるんやけど……」
ーチラ……チラ……
……エルリスさん、よほどメサイアさんの墓参りに行きたいんだな……
まあ、当然か……
「お、俺は別に構わねぇぞ?」
「私も~。」
「あたしもですニャン!」
「私も同感ですわ。」
「私めも同意しますぞ!」
「僕も構いません。」
「ボクもさ。」
「俺チャンもっしょ!」
「……ほな、14日くらい後に行くから、そのつもりで居ってぇな。」
「……そうするよ。」
こうして、メサイアさんの墓参りが正式に決まった。
「じゃあ、ウチは馬車を動かしに外行くから、好きにくつろいでて貰えん?」
「言われなくても、そのつもりだ。」
「言う様になって来たな~。……あ、最後に1つだけ話があるんやった。」
「何だ?」
「……ウチとメサイアはん、性格は正反対やったんやけど、何故か好みは一致しとったんよ~。」
「……んん?」
「それだけや……」
そう言い残したエルリスさんは、そのまま外に出て行ってしまった。
いや、今の言葉ってまさか……
「お兄ちゃん、あれはもうそういう事だよ……」
「……冗談、だよな?」
「そうですね……エルリスさんの言葉に嘘偽りがあるようには見えませんでしたが、同時に進展したがっていない様にも見えます……」
「……余計に訳が分からないんだが?」
最後にエルリスさんが投下した爆弾の威力は半端なかったが、あのエルリスさんが俺に恋慕とか納得出来る訳がない。
と、ここで茜が更に言葉を続け……
「う~ん、私も兼人君の意見には賛成かな。……爆弾は投下したけど、エルリスさん自身に恋を楽しむつもりがないというか……何かこう、人生そのものを諦めてる感じが見え隠れするんだよね~……」
「やはり、そう思いますか?」
「うん。思うね……」
エルリスさんが、人生を諦めている……
茜が言うと、真実味が増している。
「……やっぱり、そうなのか……」
「ん?……藤四郎さん、やけにあっさり僕達の言葉を信じるんですね?」
「まあ、茜が言ってるしな……」
「……前から思ってたんですけど、茜さんってどうして人の考えてる事をある程度察せるんですか?」
……兼人からの質問は、もっともなものだった。
少なくとも、茜はこの世界に来てからも何度か人の考えてる事を察してる。
誤魔化しは、通じないだろう。
「……茜、言っても良いか?」
「……うん。ただ、私は部屋に戻るね?」
「……好きにしろ……」
「は~い……」
茜はそう返すと、部屋に戻って行った。
「……さて、話すが……これは3年前の事なんだが、茜はとある女性アイドルにガチ恋しててな?」
「え、いきなり何の話ですか?」
まあ、普通はその反応になるだろうな……
「まあ聞いてろ。……だが、突如としてアイドルの不祥事が発覚した。……芸能界で顔が利く既婚者のプロデューサーの不倫相手だって不祥事がな……」
「あ~、そんな事もありましたね……」
「当然、茜は信じずに反発した。……まあ、この段階ではデマの可能性も否定出来ねぇしな。……でも、その後も証拠はわんさか出て来た。……どうもそのアイドル、裏ではかなり嫌われてたらしい……」
「しかも、嫌われた理由が完全に自業自得だったのがまた……」
「それでも茜は信じ続けた。……騙されたのかもしれないだの、脅されたのかもしれないだの、毎日そんな事を言い続けてやがったっけ……」
あの日々はマジで怖かったな……
当時の茜は何かこう、ホラー映画にでも出てそうな感じの雰囲気だったからな……
「……で、どうなったんです?」
「ほら、あの後そのアイドルがSNSで罵詈雑言を吐き出し始めただろ?……元々は清廉潔白な純粋路線で売ってた筈だったのに、突然そんな事を始めて……しかも、心が壊れたとかそんなんじゃなくて、寧ろ開き直り満載な暴言だったのがまた……残ってたファンですら擁護不可能になっていったよな……」
「ええ、もう不祥事を事実って認めちゃってましたっけ……」
「結果、そのアイドルは引退したが……茜はそのちょっと前から、現実を思い知ってたな……」
「それが、どう人の機微を見破る事に……」
「まあ聞けって。……現実を知った茜は、推してたアイドルを攻撃するでもなく、買いまくってたアイドルのグッズを無心で捨て始めたんだよ。」
「無心で、ですか?」
「ああ。……好きの反対は無関心って言うだろ?……だから茜は完全にアイドルに興味を失って、今後も同じ轍を踏まない様に人の考えを読めるようになっていったらしいんだよ……」
「そ、そんな簡単に行きますか?」
「知らん。……俺も、それ以上は知らねぇんだよ……」
……本当に、あの時の茜は怖かったな……
「まあ、そんな思いをした結果ならギリギリ納得は出来ますが……」
「……茜、いつも明るく振る舞ってる割に碌な思い出がねぇんだよな……」
「ある意味、エルリスさんと真逆ですね……」
「……だな。」
そうして、俺と兼人は話を終えた。
……エルリスさんと茜、完全に真逆な過去の2人を案じながら……
ご読了ありがとうございます。
楽しい過去と辛い今のエルリスと、辛い過去と楽しい今の茜……って感じの対比をしているものの、第3章の中で茜を軸に据えるつもりはありません。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。