62.先代勇者物語 夢想
エルリスの過去が今、少しだけ明かされます。
(エルリス・フルウィール視点)
「メサイアはん!また無駄遣いしたんか!?」
「わ、妾が何に金を使おうと勝手なのじゃ!」
「その金は旅の路銀やで!?」
「うっ……煩いのじゃ!」
……ん?
この光景は……夢やろな。
何せ、ウチが言い合っとる相手はメサイア・エルレンデはんっちゅう……かつて共に旅をした悪友なんなから……
「ガララララ……雇われの身の俺が言う事じゃねぇガルが、もう少し仲良く出来ねぇガルか?」
「出来へんよ!……ちゅうか、タイガーラはんも何か言ってぇな!」
「いや、俺から言える事はねぇガルな……」
「やったら余計な口出しせんといてぇな!」
今、余計な口出ししたんはかつての旅の仲間で虎人族の戦士やったタイガーラはん。
この女性ばっかりのパーティーで唯一の男性やったけど、最終的にパーティーの誰ともくっ付かずに故郷の幼馴染みと結婚したっちゅう意志の強い男やったっけ……
「ふふふ、相変わらずエルリスとメサイアは仲が良いでありんすね。」
「ハァ?寧ろ悪いやろ!」
「そうじゃそうじゃ!」
ウチとメサイアはんを仲が良いと抜かすんは、かつてウチの親友やった……ミツエ・ササザキはん……
……異世界から来た勇者やった。
「……いやいや、寧ろそうやって喧嘩しつつも平時は仲良く出来てる時点で仲悪いはかなり無理があるでありんすよ?」
「そ、そんな訳があらへ……」
「隙ありなのじゃ!」
ーガシッ!
「ひゃっ!?……やりはったな!」
ーガシッ!
「「ぐぬぬぬぬ……」」
メサイアはん、しょっちゅうウチの頬を引っ張って来たっけな……
まあ、ウチもやり返しとったんやけど……
「……仲良く頬を引っ張り合ってるようにしか見えないでありんすよ……」
「……それはそれでどうかと思うガルが……」
……今思えば、この頃は楽しかったな~。
何だかんだ天然で善人やった勇者のミツエはん、ちょっと脳筋やった雇われ戦士のタイガーラはん、しょっちゅう路銀を散財してはウチに怒られとった何ちゃって修道女こと女僧侶のメサイアはん……
この時の思い出は、今でも鮮明に思い出せるわ。
せやけど……
「……3人とも、ようやくこの最終決戦の場まで来たでありんすね……」
ん?
何や場面が変わったな……
確か、ここは魔王城の門前やっけ……
「ガルァ!俺達4人、生きて帰るガルよ!」
「魔王を倒せば褒美が山の様に貰えるのじゃ!」
「メサイアはん、ウチも同感やけど聖職者がそれ言うんはどうなん?」
この時は全員、生きて帰るつもりやった……
それこそ、勝った時に貰える褒美を考えるくらいには軽く考えとったんや。
「よし、前祝いとして各々の武器を合わせて円陣でも組むとするでありんすよ!」
「ガララララ!良いガルなァ!」
「良いアイデアなのじゃ!」
「……ほな、やるで?」
そうして、ウチ等は円陣……ちゅうか、円になって各々の武器の先端を合わせた後に空に掲げた。
……確か、ミツエはんの武器は天剣 ハルヴァーグっちゅう白銀の剣で、転移時に得たスキルは【救世主】。
タイガーラはんの武器は破槌 キングクラッシャーっちゅう大きいトゲ付きハンマーで、所有スキルは【覇王】。
メサイアはんの武器は黄金杖 ゴールデンステッキっちゅう十字架が上部に象られた黄金の杖で、所有スキルは【善神の加護】。
そんでウチの武器は煙管杖 タソガレっちゅうパッと見は煙管にしか見えへん杖で、所有スキルは……別に、自分のをふり返る必要もないな。
とにかく、ここまでの戦力なら大丈夫やと、そう思っとった。
……魔王を倒すまでは。
「お、おのれぇぇぇぇぇぇ!……この堕天魔王 サタゴーラが倒れるなど……あり得ぬ、認めぬ、終わらぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ードゴォォォォォォォォォン!
何やかんやあって、先代魔王こと堕天魔王 サタゴーラを倒したウチ等やったけど……
……当然、こっちも無事やなかった。
「ゴフッ……ウチは……限界や……」
ウチは、もう一生魔術師を続けるんが不可能な程の大怪我を負った。
「ハァ……ハァ……妾は……何とか動けるのじゃ……」
メサイアはんは後方支援やったんもあって後遺症が残る怪我はなかったけど、それでも酷い有り様やった。
「お、俺は……片腕が失くなっちまったのを除けば大丈夫だガル……」
タイガーラは、利き腕やった右腕を欠損して、その上で全身に怪我を負っとった。
そんで、残るミツエはんは……
「ふふふ……皆、何とか生きてて良かったでありんすよ……ゴフッ!……でも、あちきは駄目みたいでありんす……」
……もう、死にかけやった……
「っ!……メサイアはん、回復を……」
「む、無理なのじゃ……完全に魔力切れなのじゃ!」
「やったらウチのポーション……はもう使い切ったんやった!」
サタゴーラとの戦いは熾烈やった。
メサイアの回復魔法、全財産を叩いて買った高性能ポーションの山……それ等全てを使い切っての勝利やったんやから……
「わ、妾が無駄遣いなんてしなければ、こんな事にはならなかったのじゃ!」
「いや……これはポーションで……ゴフッ!……どうにかなる怪我じゃないでありんす……だから……メサイアは責任を感じなくても……良いでありんす……ゴフッ!……」
いくら高性能ポーションでも、今にも死にそうな人を助けられる効果はない。
メサイアはんの回復魔法も、限度がある。
……やけど、それでも一縷の希望にすがりつきたくなったんや!
「何で……何でミツエはんが死ぬんや!元の世界に戻りたいって、何度も言っとったやん!」
「……その話でありんすが……あちき、ちゃんとこの世界も好きになれたでありんすよ?……ゴフッ!……」
「え?」
「……あちきは元の世界では遊女だったでありんす。なのに、そんなあちきに良くしてくれたこの世界は……今のあちきにとって第二の故郷でありんす……」
……元々、ミツエはんは元の世界で遊女……つまり風俗仕事をやっとった人やった。
何でも、平民の子供やったけど誘拐されて、遊女になる羽目になったとか前に聞いてたんや。
「……そんな、死ぬ前みたいな事言わんといて!」
「ふふふ……こればっかりは……無理で……ありんす……」
そうして、徐々にミツエはんの声は小さくなった。
タイガーラはんはずっと黙っとったけど、その表情はとても辛そうやった。
「ぐすん……ミツエ、死んで欲しくないのじゃ!」
メサイアはんは泣きじゃくっとった。
「ふふ……皆、あちきは……先に死ぬでありんす……だから……さよならでありんす……」
ーガクッ……
「っ……ミツエはん!ミツエはん!……何で、こうなったんや……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!ミツエが死んだのじゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「お前等、今は好きに泣くと良いガル……俺も、少しだけ泣くガルから……」
そうして、ウチは親友を喪った。
この後、当時のズンダルク王国国王に褒美は山程貰ったんやけど……何に使ったかはいまいち思いだせへん。
そんくらい、ショックやった。
でも、ウチの悲しみはこれだけでは終わらんかったんやっけ……
「……タイガーラはん……80歳で病死かいな……」
今から40年前、子供どころか孫、曾孫も大きくなっとったタイガーラはんの訃報がウチに届いた。
80歳で、病死やった。
そんで……
「……遂に、メサイアはんも逝くんか……」
「わ……妾も……歳には勝てんのじゃ……」
「もう、メサイアはんも110歳やもんな……人間は短命であかんわ……」
「エルフが長命なだけなのじゃ……寧ろ、妾は長生きしとる方じゃぞ……」
今から10年前、聖都 ラフロンスで女教皇にまで登り詰めたメサイアはんの最期にも立ち会った。
……若い頃は違和感の塊やったメサイアはんの口調も、老人やと自然やのに……何故か悲しくなった。
「……これで、ミツエはんのパーティーもウチだけになるんか……」
「……1人にはさせんのじゃ。」
「ん?」
「……かつての親友と仲間を喪ったエルリスから、悪友の妾まで居なくなったら……エルリスは1人じゃろ?」
「いや、弟子くらいおるわ!」
「弟子は、エルリスが全てを吐き出せる仲かのう?」
「うっ……」
「じゃから、妾はいずれ黄泉の国から舞い戻ってやるのじゃ……エルリスを……1人に……させぬためにな……」
ーガクッ……
「……ほんま、どんな最期の言葉やねん……」
ーポタポタポタ……
そうして、ウチの悪友は死んだ。
110歳の大往生やった。
そして、ウチは夢から覚める。
勇者パーティーの先輩として、後続を導くために……
ご読了ありがとうございます。
エルリスは何人かの弟子が居ますが、本心を完全に明かせたのはかつてのパーティーメンバーだけになります。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。