6.欲豚と迷兎
読まれなくても更新!
(浅山 藤四郎視点)
「ご、ご主人様……どうかされましたかニャン?」
「いや、目の前の光景を上手く処理出来てないだけだから、心配するな。」
「……お兄ちゃん、やっぱりおかしいよね?」
「それはどの事だ?ナフリーの強さか?それともゴブリンキングやオークが出現した事か?」
「う~ん、どっちも?」
……現在、俺と茜はナフリーの強さに驚愕しつつ、魔石の回収を行っていた。
ちなみにナフリーにかけたバフは戦闘終了と共に消滅した事から、少なくとも戦闘中のみ効力を発揮すると推測される。
「ナフリー、取り敢えず攻撃力の高さは俺のバフによるものだとして、あの身のこなしはどうしたんだ?」
「……あたしの故郷では、あんな動き普通に浸透してましたニャン。」
「マジか……」
「ただ、今回のゴブリンキングとオーク……明らかに生息域から外れてるのが気になりますニャン。」
「あ、やっぱり普通は出て来ないのか……」
「そうですニャン。……ここには、基本的に斥候役の雑魚ゴブリンしか来ない筈ですニャン。」
なるほどなるほど……
こりゃ、冒険者ギルドに相談確定案件だな。
「さて……念のため大袋を持って来ておいて良かったのか悪かったのか……全部詰め終わったか?」
「うん、私の方は全部入れたよ~。」
「あたしも終わりましたニャン!」
「そうか……なら帰るぞ。」
「OK~。」
「分かりましたニャン!」
こうして袋に魔石を全部詰めた俺達は、再び片道数時間の道のりを歩んで行くのであった……
そして数時間後……
「え、今何と……」
「……ゴブリン退治の依頼をこなしてたら、ゴブリンキングとオークが1体ずつ出現したって言ったな。」
「……逃げて来たんですよね?」
「いや、俺の奴隷が倒した。」
「きゅ~……」
ーバタン!
「あっ……」
……説明しよう。
ゴブリンキングとオークを倒した件を冒険者ギルドの受付嬢さんに伝えたら、そのまま倒れてしまいました。
これ、"俺、何かやっちゃいました?"ってやつか?
「う、うう……すみません、取り乱しました。」
「いや、別に気にしねぇが……そんなにその2種類は強いのか?」
「いえ、討伐難易度は銅ランクなのでそこまで強くはないのですが……まさか、鉄ランクの依頼地域で出現した上、奴隷の方が倒してしまうなど前代未聞でして……」
「そうなのか?」
「はい……」
……うん、普通に考えて初心者の奴隷が倒せる相手じゃなかったって話か……
いや、それよりも鉄ランクの依頼地域で出現したのはそこまで異常事態なのか。
「ハァ……何か嫌な予感がしますが、取り敢えず切り替えて行きましょう。……さて、魔物の魔石を買い取らせていただきたいのですが……」
「ああ、分かった……茜、ナフリー、取り敢えず袋から出すぞ。」
「は~い。」
「承知しましたニャン。」
ージャラジャラジャラ……
「……きゅ~……」
ーバタン!
「……流石に殺り過ぎたか……」
後から聞いた話だが、そもそもゴブリンがここまで大量発生する事自体が珍しい事だったらしく、ゴブリン退治の経緯をこれでもかと根掘り葉掘り質問される羽目になるのであった……
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(俯瞰視点)
……ナフリーがゴブリンを殺りまくった平野から数十km離れた地点にて……
『シュルルルル……ラビリンスさん、タブルドさんの様子はどうでシュルか?』
「どうもこうもないですピョンよ。……行き場の無い性欲を我慢するために、私がわざわざ召喚したゴブリンやオークに当たり散らかしてますピョン。」
バニーガール姿にピエロの仮面を被った女性が、特殊な水晶玉を介して誰かと会話していた。
『シュル……まあ、それはそうでシュル。ですが、それも仕方なき事シュル。』
「……確かに、ゴブリンやオークは人間も苗床にする魔物ですピョン。でも、オークはモノが大き過ぎて女の腹を裂いちゃうピョンから、ゴブリンと違って性欲だけを持て余しますピョン。」
『その中でも、一際性欲を持て余して限界を突破しているのがタブルドさんという訳でシュルからね。』
「その結果があれとは……本当に力だけで将軍になってる感じですピョンね。」
バニーガール姿の女性こと迷兎将軍 ラビリンスは、水晶玉の先で話す相手に愚痴をこぼしていた。
『……それはそうと、計画は順調でシュルか?』
「まあ、大丈夫ですピョン。……あ、でも1つ気になる事があるピョン。」
『……と言うと?』
「今日、大量のゴブリンに加えてゴブリンキングとオークを斥候として王都ネルフラに行かせたんですピョンが、それが完全に全滅したんですピョン。」
『……ほう、つまりそれ程の強者が居るという訳でシュルか……』
「もしそうなら、今回の侵攻は見送るべきピョン。」
ラビリンスは危惧していた。
自らが召喚した魔物を屠れる存在が敵の中に居るのではないかという事を。
だが、それに対して水晶玉の相手が出した提案は驚きのものだった。
『ふむ、それならシトラさんを投入するのが得策でシュルね。』
「し、シトラピョンか!?」
水晶玉の相手が出した名は、王虎将軍 シトラの名であった。
『おや?不満でシュルか?』
「だってシトラ、いつも"自分より弱い奴はいたぶりたくない"とか言って未だに人間を1人も殺してないんですピョンよ!?そんな奴を前線に投入とか馬鹿みたいですピョン!」
『まあ、シトラさんは純粋な魔物ではありませんからね。……でシュルが彼女のスキル、【覇王】は強力そのものでシュルし、性格も戦闘狂なので強者の相手になってくれるでしょう。』
「……だと良いんですピョンが……」
ラビリンスは内心不満だらけだったが、それをぐっとこらえる。
『ではラビリンスさん、よろしく頼みまシュルよ。』
「……承知しましたピョン、スネイラ様……」
ラビリンスが会話していた相手……それは魔王軍において毒蛇宰相と呼ばれるスネイラであった。
『シュルルルル……期待してまシュルよ?"意思ある迷宮核"に"限界突破したオーク"、それに"スキル【覇王】を持つ者"を投入シュルのですから、それこそ勇者でも居ない限りは失敗など許されませんからね?』
「……肝に銘じておきますピョン!」
『いや、ラビリンスさんに肝どころか臓器なんて1つも無いでシュルよね?』
「言葉の綾ですピョン!」
スネイラとラビリンスは、今回の侵攻も上手く行くと思っていた。
だが、2人は知らなかった。
既に勇者召喚が行われていた事も、かつてタブルドが蹂躙した里の生き残りが斥候役の魔物を殺した事も。
そして、勇者と共に召喚された男が最も厄介な者だという事も……
『とにかく、この件は任せまシュルよ。』
「はっ!必ずズンダルク王国を火の海にし、王族を1人残らず殺し尽くして見せましょうピョン!」
……自身達の前に立ち塞がるであろう壁を知らず、勝ちを確信する外道2人。
そこに近付く者が1人……
「ブホォォォォォ!……オデ……オ゛ンナ……オガスゥゥゥゥゥゥ!」
ーズルズル……
「またゴブリンキング殺したピョン?いい加減に兵を減らすのは辞めるピョン!」
『タブルドさん、いつ見ても理性が崩壊しててゾンビみたいでシュルね。』
ゴブリンを引きずりながらやって来たのは、白目を剥き、ゾンビのように理性が無くなったオーク……タブルドであった。
「……オ゛ンナァァァァァ!」
『……ラビリンスさん、後は頼みまシュルよ。』
「ハァ……【迷宮創造・簡易版】!」
「ブフォォ!?」
ラビリンスは簡易的な迷宮を作成し、タブルドを幽閉した。
『……では、計画開始予定の1ヶ月後まで閉じ込めておきましょう。』
「そうですピョンね。」
『では。』
ープツン……
「ええ、お任せくださいピョン。」
……こうして魔王軍の話し合いは幕を閉じた。
そして、その言葉の通り1ヶ月後に大きな戦乱が幕を開けるのであった……
ご読了ありがとうございます。
ここからしばらくは魔王軍登場しませんで、そのおつもりで。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。