58.タルコス防衛戦 贈与
……何かこう、文章が上手く書けません……
(未来のメアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
「トウシロウ!目を開けなさい!命令ですわよ!」
「メアリー殿下、こればかりはどうにも……」
「ロウルは悲しくないんですの!?……貴女だって、トウシロウの恋人ですわよね!?」
「……勿論、悲しいに決まっていますぞ……」
これは私にとって遥か昔で……過去の私にとってはすぐ後の未来だった筈の光景。
出会って数ヵ月も経っていない筈なのに、愛し合って恋人になった男の死に顔。
……あれから何十年と経ったのに、私は未だに忘れられませんわ。
「……ご主人様、どうしてあたしを置いて逝ったんですニャン?……どうして、こんなすぐに死んじゃったんですニャン?」
「……お兄ちゃん、どうして死んじゃったの?……こんなに可愛い娘達を残して、何で死んじゃうの?」
「……いくらトウシロウはんが2人を愛しとっても、人間の体には限界があるんや。……そんくらい、分かっとったやろ?」
「ああ、僕が藤四郎さんに遠隔バフがけなんて試させなければ……」
「兼人君は悪くないよ。……とはいえ、ボクも複雑な気分だね……」
「……俺チャン、藤四郎チャンの事は割と気に入ってたっしょ……」
……ナフリー、アカネ、エルリス、カネヒト、ツカサ、ジャスティスもまた、トウシロウを喪った悲しみに明け暮れておりましたわ。
そして……これはまだ、転落の始まりでしかありませんでしたの……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(メアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
「……トウシロウが……死ぬですって!?」
「ええ。……理由はさっき言った通り。ですが、それでは終わりませんでしたわ……」
「……まだ、何かありますの?」
「魔王軍に……敗北しましたの。」
「……そうですのね……」
トウシロウが死んだ未来の私達は、何があったのか魔王軍に敗北した……
……でも、何となく納得出来ましたわ。
「あの日以降、私達パーティーの空気は悪くなりましたわ。……まあ、初めてパーティー内で死者が出たんですから、そうもなりますわね……」
「……一応聞きますが、先の街では何が……」
「それは言えませんわ。……私が変えられるのは、この勝負の結果だけ……後は、変えられませんの。」
「つまり、言えないって事ですわね……」
このバーバ戦の後も、何かあったのでしょう。
結果として、未来の私達は魔王軍に負けた。
……この女性の話を信じるなら、そういう事なのですわよね……
「……私は魔王軍から敗走して数十年、魔法を極め続けましたわ。」
「それで、挙げ句の果てには過去に戻って来たとでも言うつもりですの?」
「ええ、そうですわ。」
「……呆れましたわ。ですが……この状況を見る限り、時間魔法を使えるのは本当みたいですわね……」
時を遡って来たと話す私そっくりの女性は怪しさ満点でしたが、少なくとも周囲の時間が止まっている以上は時間魔法を使えるのは確定ですわね……
「……分かりましたら、さっさとバーバをどうにかしますわよ。」
「分かりましたわ。……でも、まさか過去と未来を行き来する域にまで達しているとは流石に……」
「おっほっほ……行き来は出来ませんわ。」
「……ハァ?」
やはり、この女性が語った話は嘘でしたの?
……と、私が考えると……
「【片道だけの時間旅行】……それが、私がこの時代に来た魔法の名前ですもの……」
「え?」
今、何て言いました?
いや、私の耳が腐ってなければ……その魔法の名が意味するのは……
「……生憎、この魔法は行きだけですの。だから、元の時代には戻れませんわ……」
「それなら、貴女はずっとこの時代に居座るつもりなんですの!?」
「それも無理な話ですわ。何せ……私は役目を終えれば、消滅する定めですもの。」
「なっ……」
……自分が消滅するって……何ですの、その魔法……
「そもそも……私が居た世界線を世界線αとすれば、この時間軸が歩むべき道は世界線β……つまり、私の居た世界線はもうこの世界と交わりませんの。」
「わ、訳が分かりませんわ……」
「ええ、使用者である私ですらよく分かっていない原理なのですから、完全に理解する必要はありませんわ。……ただ、少なくとも未来から来た私が消滅するのは確定事項というだけの事ですことよ。」
何で、この女性は自身が消滅するというのに平気そうなんですの?
……いえ、もう認めますわ。
「貴女、本当に未来の私ですのね……」
「……という事は、やはり過去の私も同じ事をしますのね。ま、分かりきってはいましたが……」
私は、目の前の女性を未来の私だと認める事にしましたわ。
だって、確実に私も同じ事をしますもの。
「で、未来の私は何をしてくれますの?」
「……私の力を、過去の私に与えますわ。」
「あら……本気ですの?」
未来の私の力……今の私が使いこなせるかは分かりませんわね……
「……まあ、与えると言っても、既に殆んどの魔法は過去に来るにあたって削ぎ落としてますわ。この時間魔法も、与える力には入っておりませんし……」
「では、何をくれるんですの?」
「……【高速演算】、【多重詠唱】という2つのスキルと、私に残された膨大な魔力……これを過去の私に譲渡しますわ。」
「……分かりましたわ。」
また強いスキルを……
ですが、やはり納得いきませんわ。
「……では、譲渡いたしますわね。」
「ええ……ありがたくいただきますわ……」
未来の私がこの力を得るまで、どれだけの辛い思いをしたのか……
私には分からない事ばかりですが、未来の私が本当に未来の私なら……かなりの苦労をした事は想像に難くありませんでしたわ。
だからこそ……違う世界線だとしても、未来の私がこんな終わりを迎えて良い訳、ないじゃないですの!
「……さあ、私の無念を晴らしてくださいませ……過去の私……」
「ええ、お望みの通りに。」
私の信念は、関わった人間全員の命を守る事。
なら、やる事は1つだけですわ……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(未来のメアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
今思えば、バーバとの戦いでトウシロウを喪ってからの私達は散々でしたわね……
聖都 ラフロンスでは、魔王軍幹部の謀略により勇者ツカサと勇者ジャスティスを喪い……
技術都市 ケールでの大敗では、ロウルを始めとして多数の死者を出しましたわ……
そして、そのまま雪だるま式に死者は増えていきましたっけ……
「……【贈与】、発動ですわ……」
【贈与】……私の能力全てを明け渡すスキルですが、これそのものは渡す対象に出来ないんですわよね~……
「ゴフッ……ふ、負担が大きいですわね……」
「まあ、過去の私には負荷が強過ぎますものね……」
過去の私は、私のスキルに耐え切れなかったのか吐血しましたが、問題はありませんわ。
「……確かに、受け取りましたわ。」
「ふふ、それじゃあ後は頼みましたわよ?」
私としてはもっと話してみたかったのですが……
……もう、時間がありませんの。
ーポロポロポロ……
「……体が光の粒子になって消滅するんですわね……」
「おっほっほ、そういう事ですわ……」
確かに私の体は今、少しずつ光の粒子となって消滅していっておりますわ。
ですが、最期に良い思い出は出来ましたので、そこそこ満足ですわね……
「……ええ、任せなさい。……そして、貴女にも私の勇姿を見ていて貰いますわ!」
「え?」
……この時、私はとても重要な1つの事実を忘れておりましたの。
……かつての私が、とても諦めの悪い性格だった事実を……
「……【#※€$₩#】ですわ……」
そう呟いた過去の私、そのまま光に包まれる私の体……
【多重詠唱】によって常人には何を呟いたかすら分からないでしょうが……
「本当に……過去の私は甘いですわね……」
……ああ、過去の私……
貴女は、消滅覚悟でこの時代に来た私すら救おうとする程に甘いのですわね……
ただ、その甘さは……いえ、今は何も言わないでおきますわね。
そう考えた直後、私の体は完全に光に包まれたのでしたわ……
ご読了ありがとうございます。
未来から来たメアリーにとって、自分が居た世界線は魔王軍以外誰も幸せにならない世界線だったので、過去を変える事に躊躇はありませんでした。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。