56.タルコス防衛戦 迷兎
ラビリンスと茜の勝負が後半にあります。
(浅山 藤四郎視点)
「エルリスさん!兼人!無事か!?」
「ん?……そう言うトウシロウはんも無事みたいで良かったわ~。」
「ええ、馬車に残っていた僕達は無事ですが……他の皆さんは、既に戦いに出てしまって……」
「そうか。……こっちもロウルさんとメアリーがそれぞれミノガルとバーバに戦いを挑みに行って、ナフリーはキャノンビートルを呼んでどっか行っちまった。」
「ああ、それでさっきナフリーはんのキャノンビートルが飛んでったんかいな……」
魔王軍幹部による城塞都市タルコス侵攻……
その直後にロウルさん、メアリー、そしてナフリーとも別行動になった俺は、急いでエルリスさんや兼人との合流を済ませたのだった。
「……で、今の戦況は?」
「せやな。……避難しとった住民から聞いた情報や事前に聞いとった情報を合わせると、ツカサはんとジャスティスはんが次々侵入して来とる魔物の討伐、アカネはんがラビリンスと戦闘、メアリーはんがバーバと戦闘、そんでナン坊がミノガルと戦闘しとる状況や。」
「……ロウルさん、無事に間に合ってると良いが……」
ナンドレアさんに思うところはあるが、だからって死んで良い訳がない。
そう、俺が思っていると……
「心配せんでも、ナン坊は強い。……この城塞都市タルコスで1番強くて、"硬拳のナンドレア"って異名まで付けられた男やで?……きっと、無事やよ。」
「……そうだと良いな。」
確かに、ナンドレアさんはロウルさんを翻弄出来るレベルには強い。
……でも、同時に民を守るという目的のためなら命すら捨てかねない危うさもある。
「た、ただ問題は敵の強さです!……少なくとも、このままではメアリー第二王女殿下やナンドレアさん、そしてロウルさんに勝ち目はありません!」
「……分かっとるよ。」
「あ、2人にバフかけしてない……」
「……藤四郎さん、本気で言ってます?」
「あの時は侵攻でパニクってて……」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!
メアリーとロウルさんと……戦闘しない事を祈るがナフリーさえも、バフがけしてねぇ!
どうするべきだ?
「……藤四郎さん、遠隔でバフがけって出来ますか?」
「いや、無茶言うなよ……」
「……恋人の皆さん、好きなんですよね?このままだと死んじゃいますよ?」
「分かってるが……いや、やってみるか……」
取り敢えず、メアリーとロウルさんに諸々のバフをかけたい……
集中して集中して集中して集中して……
「……魔法もスキルもイメージが大事や。そんで、恋人が大切なトウシロウはんなら……」
エルリスさんが何か言ってるが、集中している今の俺にはよく理解出来ない……
と、その時……
「……ん?何かメアリーとロウルさんが何処に居るのか分かって来た……」
「え、本当ですか!?」
ロウルさんは街の中央部、メアリーは結界内部上空……うん、これなら行けそうだ。
「ロウルさんには【体力増強】、【攻撃力上昇】、【防御力上昇】、【速度上昇】、【HP自動回復】!」
まず、物理特化のロウルさんには物理攻撃向けのバフをかける。
そして……
「メアリーには【体力増強】、【攻撃力上昇】、【防御力上昇】、【魔力上昇】、【速度上昇】、【HP自動回復】、【MP自動回復】!」
魔法特化のメアリーには魔法による攻撃向けのバフをかけた。
「え、本当に編み出したんですか!?」
「兼人、驚くなら最初から言うなよ……」
「……本当に、藤四郎さんって……」
言い出しっぺの兼人が一番驚いているが、多分マジでやるとは思わなかったんだろうな……
「これで、勝ってくれよ?じゃなきゃ……また、あれをやる羽目になっちまう。」
愛の証明といえば綺麗だが、あれは文字通り命を削りかねない最終手段……
【無制限の愛】を使わずに勝てるなら、それに越した事はないのだから……
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(俯瞰視点)
その時、2人の女性は驚いた。
「あら?……力が湧いて来ますわね?」
「ふむ、これはもしや……」
その時、2体の魔王軍幹部は怪しんだ。
「……何だ?……急に……相手の魔力が……」
「ンモォ?……何か、さっきと変わったモォ。」
藤四郎のバフは確かに届いた。
だが、本当の勝負はここからだった……
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(浅山 茜視点)
「ラビリンス、絶対に逃がさないからね!」
ーヒュン!
「ピョンピョンピョン……だったら、これでも食らってくださいピョン!」
ーヒュン!……ブワン……
「ゲコォォォォォ!」
「グシャァァァァァ!」
「そんなの、今更効かないよ!」
ーブンッ!……ドガーン!
私に追いかけられて空中を縦横無尽に逃げ回るラビリンス。
ちょくちょく魔物を何処かに作った蟲毒の迷宮から魔物を転送してるっぽかったけど、その全てを私は斬り捨てて行った。
「……やっぱり、そうですピョンか……」
「ん?何を言って……」
「その能力、燃費悪いですピョンね?」
「っ……」
……うん、まあバレるよね……
というか、言っちゃってたかも……あれ?どうだっけ?
「だったら、このまま逃げて逃げて逃げ回って魔力切れを起こさせるのが得策ですピョンね。」
「……何で、わざわざそれを……」
「……言えば、余計に焦って魔力を消費するからですピョン。」
「……効率を突き詰めてるね……」
やっぱり、生き物と会話してる感じじゃない……
何と言うかこう……心のないロボットと話してる気分なんだよね~。
「さあ、どんどん魔力を消費するピョン!」
ーヒュン!……ブワン……
「キチキチキチィィィィィ!」
「カチカチカチ!」
「あ~もう、面倒臭~い!」
ーブンッ!……ドガーン!
「やっぱり、戦力としては使えませんピョンね……」
マズいよ、これ……
このままじゃ、ジリ貧だよ……
「……というか、何でラビリンスには当たってくれないの!?」
「……さ~てさてさて、後どのくらいで魔力切れを起こしてくれますピョンかね~?」
……多分、ラビリンスは攻撃がどう来るか分かってる。
だから私の攻撃を避けられたし、司ちゃんの攻撃も防御し切れた……
唯一の弱点があるとすれば、幻影なんかに弱い事。
でも、それすら克服してる可能性も……
「……って、何を弱気になってるの私!」
私は決めた筈。
シトラちゃんを救い、恋人になる事を……
そして、それとは別にもう1つ……
「……ラビリンス、お前が幽閉してる名も知らない可愛い兎ちゃんも、助けてあげるんだから!」
正直に言うとラビリンス、見た目だけなら好み一直線なんだよね。
だからこそ……同じ見た目なら、他人の幸せを願える優しい娘の方を選ぶのは当然だった。
「おや?勇者アカネはシトラが好きなのですピョンよね?」
「人間、そんな単純なものじゃないよ。」
「……訳が分かりませんピョン。」
勿論、私だって浮気のつもりはない。
きっちり、筋は通すつもりだ。
でも……
「私だってお兄ちゃんみたく、可愛い女の子で構成されたハーレム築きたいんだよ!」
「えぇ……」
「百合ハーレム、サイコォォォォォ!」
「これが人間?本当に何なんですピョンか……」
ああ、ラビリンスがドン引きしてる。
心がないのに……いや、心がないからこそ訳が分からないって感じかな。
「じゃ、さっさと勝負つけちゃおっか。」
「ピョン?」
「【戦乙女】の神器2番、【雷神の大槌】!」
ードンガラガッシャーン!……バチバチバチ……
「なっ、それはシトラに傷を付けた武……」
「食らいなさ~い!」
私は【雷神の大槌】を手の中に出して、ラビリンスに突っ込んだ。
「ピョン!?……そ、そうはいきませんピョン!」
ーヒュン!……ブワン……
「グシャァァァァァ!」
「ゲコォォォォォ!」
「無駄無駄無駄ぁぁぁぁぁ!」
ードガァァァァァァァァァァァァァァァーン!
「あ、これ衝撃から逃げ切れませんピョ…」
ージュッ……
私の【雷神の大槌】は魔物とぶつかり、衝撃が周囲に伝播した。
当然、私も前回同様の傷を負う事にはなるだろうけども、その代わりにラビリンス分身体を衝撃に巻き込み、灰にする事には成功したのだった……
ご読了ありがとうございます。
【雷神の大槌】は使ったら自分が使い物にならなくなるので茜は使っていませんでしたが、もう後がないと思って使いました。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。