53.タルコス防衛戦 侵入
ようやく、山場です。
(浅山 藤四郎視点)
ロウルさんが恋人になってからの俺の日々は、いつも同じ事の繰り返しだった。
「スーハースーハー……クンクン、今日もナフリーは可愛いし、良い匂いがするな~。」
「……ご主人様、ちょっと気持ち悪いですニャン。」
「じゃあ、ナフリーは俺がナフリーのあちこちを吸ってるのは嫌なのか?」
「……あたしは、ご主人様が好きだから気にしませんニャン。」
「ほんと、良い恋人を貰ったよ。」
朝は、ナフリー相手に猫吸いをして……
「おう、メアリー。……見舞いに来たぞ。」
「トウシロウ、今から私の愚痴を聞きなさい!」
「えぇ……」
「拒否権はありませんわよ!」
「……はいはい、聞いてやるよ。」
昼は、メアリーの見舞いに行って……
「あっはっはっ!……トウシロウ殿、置いて行きますぞ~!」
ーガシャガシャガシャン!
「ハァ……ハァ……ちょっ、待ってくれ……」
「ふぅ……しょうがないですな~。」
「いや……ハァ……ロウルさん……ハァ……速過ぎ……」
夕方は、ロウルさんとのランニングデート……
こんな感じの日々を、1週間程過ごした。
そして、今日……
「私、完全復活ですわ~!」
「メアリー殿下、ご退院おめでたいですな!」
「メアリー第二王女殿下、あたしもお祝いいたしますニャン!」
「……また騒がしくなりそうだな。」
遂にメアリーの魔力回路が完全に回復し、退院出来る事になったのだった。
まあ、いつもの調子で話して軽く失言をしちまった気はするが……別に良いだろ。
「トウシロウ、それどういう意味ですの?」
「別に、言葉の通りだ。……騒がしくて、楽しい日常がまた来るって事だよ。」
「あら……好意的に言ってたんですわね……」
失言の真意をちゃんと話せば、メアリーはちゃんと分かってくれた。
ま、それはそれとして可愛い恋人3人に囲まれてる今がとてつもなく楽しいのだが……だからこそ、元の世界に帰るという目標は忘れない様にしなければ。
……あ、その時は3人とも連れていく……というか、2つの世界を行き来出来る様にしたいな……
「……人様……ご主人様!」
「ん?……あ、すまん。考え事してたわ。」
「もう……本当にご主人様はいつもいつも考え事をしてばっかりですニャンね……」
「あれ?ナフリー、だいぶ言う様になって来たな……」
最近、ナフリーの当たりがキツい。
いや、まだ愛されてるのは分かるんだが……どんどん素のナフリーが出て来てるみたいで嬉しいな。
「ハァ……トウシロウ、顔がにやけてますわ。」
「ふむ、トウシロウ殿といえばいつもそうですな!」
「……いや、俺ってどう見えてんの?」
……とまあ、俺達はいつも通りの日常を過ごしていた。
今、この時までは。
「もしも~し。城塞都市タルコスの皆様、聞こえてますピョンか~?」
「「「「っ!?」」」」
突然、上空からアナウンスの様に聞こえて来た知ってる声……
間違いなく、ラビリンスの声だった。
だが、ラビリンスは俺達を意にも介さず淡々と言葉を続けて……
「え~、今から皆様には死んで貰いますピョンが、必死で逃げれば生き残れるかもしれませんピョン。」
「おい、あいつ何を言っ……」
「だから……精々逃げ回ると良いですピョン。」
「ん?ラビリンスだけじゃ……ない?」
上空の、恐らく結界外と思われる場所に浮いていたのはラビリンスだけではなかった。
「ンモォォォォォォォォォォォォォ!そろそろ暴れて良いモォ?」
「……肯定……しかし……しばし待て……」
ラビリンスの魔法か、それともスキルか……
ラビリンスらしき影の両端で浮いていた2つの影の言葉もくっきりと聞こえた。
「なあ、あれって……」
「……モ~モ~言ってる方がミノタウロスで、口数が少ない方がケンタウロスですニャン。……で、それが空飛んでラビリンスと一緒に居るって事は……」
「ほぼ間違いなく、ミノガルとバーバですわね。」
「チッ、また防衛戦か……」
それにしても、何であいつ等はあんな所に陣取ってるんだ?
普通、結界で侵入を阻まれるのは目に見えてる筈だというのに……
「……トウシロウ、迎撃の準備をしますわよ!」
「え、でもあいつ等結界の外で……」
「その結界がある都市を多数破壊してきたのが、ミノガルとバーバですわよ!?」
「えっ……」
思えば、前に結界がある都市も幾つか滅ぼされたと聞かされた気がする。
だけど、まさかそんな相手がこのタイミングで……
「さ、そろそろやって貰いましょうピョン!……ミノガル、出番ですピョンよ!」
「ンモォォォォォォォォォォォォォォ!ようやく俺様の出番だモォォォォォォォォ!……【筋肉増強】だモォォォォォォォォォ!」
ームキムキムキ……
「……なあ、何か影がでかくなったんだが……」
「……あれは、マズいですわね……」
どんどんと大きくなる、ミノガルと思われる影。
そして、遂に……
「ンモォォォォォォォォ!……ここの結界も、壊してやるモォォォォォォォォォ!」
ーブンッ!……パリィィィィン!
「あっ……」
タルコスをドーム状に覆っていた結界の内、ラビリンス達が居た上空部分をミノガルと思われる影が割り、そのまま侵入して来た……
ードシーン!
「やっぱり浮かされるのは性に合わないモォォォォォォォォォ!」
「おいおい、多分街の中心部に落ちた筈なのに、まだ声が聞こえて来るぞ……」
「……ここから中央部まで、全力で走ってもそこそこかかりますな……それと、あの辺りは確かデルレン商会タルコス支部が有った筈ですが……」
ーピクッ……
「……ロウル様、今すぐ向かってくださいニャン!」
「え?」
ナフリーは、ミノガルの落下した地点がデルレン商会タルコス支部の周辺だと聞いた瞬間に焦り出した。
「……あの人は、絶対に殿を務める筈ですニャン……」
「分かりました、間に合ってみせます!」
ーガシャン……ガシャン……ガシャガシャガシャン!
「良かったのですの?……ナフリーはあの者と縁を切った筈ではなくて?」
「良いんですニャン。……それより、次の侵入を警戒しないと……」
「……おいおい、マジかよ……」
ミノガルが空けた結界の穴、それを通って落下して来たのは……
……大量の虫系魔物や、ジャイアントトードの大群だった……
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(扇羽 司視点)
「ふっ……ふふ……ふふふふふふふふふふふ……」
「あ、司チャンが壊れたっしょ……」
無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!
虫や蛙が苦手なボクにとって、今回の敵は……
「正義君!」
「ハァ……今回は住民の命がかかってる緊急事態で四の五の言ってられないっしょ!……とりま【意識改変】っしょ!」
「ふむ……うん、魔物達がただの球体に見えるよ。」
正義君のおかげで、敵の魔物は球体に見える様になった。
これで……戦える。
「あくまで球体に見えるのは敵の魔物だけだから、派手にやると良いっしょ!」
「分かったよ。……【美しき神弓】100連射!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン……
「お、どんどん飛んでくっしょ。」
ボクの背後から撃ち出された魔力の矢は、続々と上空の球体に飛んで行き……
ーグサグサグサ!
「キチィィィィィ!?」
「グシャァァァァ!?」
「ゲコォォォォォ!?」
球体に突き刺さり、魔物と思われる断末魔が響き続ける。
「ふむ……ここはボクが引き受けよう。……雑魚魔物は1匹たりとも、生きて地面は踏ませないよ?」
ボク達は、ボク達なりの戦いをする。
恐らく、幹部格は倒せないけど……
「司チャン、一緒に頑張るっしょ!」
「うん。……望むところだよ!」
こうして、ボクは結界から落下してくる魔物を、ひたすら撃ち続けたのだった……
ご読了ありがとうございます。
ミノガルのスキルは、シンプルに筋肉を増やすというものです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。