51.ナンドレアの信念
……ロウルの深掘り、碌に出来なかった……
(浅山 藤四郎視点)
俺は失念していた。
ナンドレアさんが、商人だという事を……
「……だからって、まさかこんな事になるとか思うかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
まさか、ロウルさんが俺の恋人になるとは予想もしていなかった。
……まあ、完全に外堀を埋められた上で、だが。
「……やはり、私めの様な婚期を逃した女は好みではありませんでしたか?」
「んな訳ねぇだろ!ロウルさんみてぇな美人なら全然好みだよ!」
だからこそ困ってんだよな……
なまじ、好みじゃなければどうにか断れた。
だが、ロウルさんの見た目は普通に好みだし、性格も会話に難こそあるが概ね好ましい……
……断る理由が全くねぇ……
「本当ですかな?」
「本当だ。……見た目は美人だし、性格も良いし、何だかんだ話してても嫌な気分はしねぇし……」
「おお……そう素直に褒められると、私めとしても嬉しいやら恥ずかしいやら……」
「へぇ……ロウルさんにも恥ずかしいって感情はあったんだな?」
「勿論ありますとも!……とはいえ、並大抵の事では恥ずかしがったりませぬが……」
未だに兜を被らず素顔で居るロウルさんは、俺に褒められ頬を紅潮させていた。
……いや、滅茶苦茶可愛いじゃねぇか……
って、これじゃあ話が全く進まねぇ!
「なあ、ナンドレアさん。……どうして俺とロウルさんをくっ付けようと思ったんだ?……他にも適任は居る……いや、どうだろうな……」
自分で言っといてアレだが、現時点で他に適任は居ねぇんだよな……
茜は論外、司も想い人は他に居る……というか、十中八九あいつだろう……で、最後に残ったエルリスさんも全然考えが読めねぇから苦手だし……
……ロウルさんしか居ねぇな。
「……ん?どうされましたニャン?」
「いや、ロウルさんしか居なかったわ。」
「まあ、そうですニャンね……」
いやまあ、そもそもハーレム築いてる事の方が異常なんだけどな?
絶対、元の世界だったら刺されてるだろ……
……と、俺が考えていると……
「……トウシロウ殿、少々よろしいですか?」
「ん?」
「私めは思うのです。……やはり、付き合ったと言えどお互いを知らなさ過ぎると。」
「ん?そうか?」
「ええ……少なくとも、これでは話が弾んでいるとは言えませぬ。」
「……そう言われてみればそうだな。」
交際を始めてから現時点までの俺とロウルさんの会話は、お世辞にも弾んでいるとは言えなかった。
「だから、その……私めと2人っきりでデート、してみませぬか?」
ーチラッ……チラッ……
「……俺は別に良いぞ?」
「っ!で、では今すぐ行きましょうぞ!」
ーパ~ッ……
「……ロウルさん、満面の笑みだな……」
「そりゃあ、私めなどとデートをしてくださるのですから、喜ばない訳がありませぬよ。」
「……ロウルさんは充分……いや、かなり魅力的だと俺は思うんだがな……」
「へ?……そ、そうですかな?」
多分、ロウルさんは女性扱いされた事が少ないんじゃないだろうか?
じゃねぇと、こんな美人なのに自分を卑下なんて出来ねぇ筈だもんな。
「……まあ、とにかく俺も2人でデートするって案には賛成だ。」
「では行きましょう!今すぐ行きましょうぞ!」
「まあ待てって……」
「待っていられる訳がありませぬ!さあさあ行きましょう!」
ロウルさんが完全に興奮し始めた。
多分、これ何言っても駄目だな……
「……って訳でナンドレアさん、俺達はデートに行かせて貰う。」
「ええ、小生としては構いませんニャン。」
「……ナンドレアさんもエルリスさんと同じで、何考えてんのか分からなくなって来たな……」
「あはは……小生の考えは単純ですニャンよ。」
ナンドレアさんは、本心が分からねぇ笑みを浮かべてそう呟きやがった。
「じゃあ、それを聞いてから行く事にするか。」
「……城塞都市タルコスの経済を回し、有事の際は命をかける……小生の考えはそれだけですニャン。」
「故郷や同胞の復讐は諦めたのにか?」
「諦めてタルコスをとったからこそ、今後こそ命をかけないと……小生は全てを失ってしまいますニャン。」
……ああ、この人は俺とは違う。
いや、それは分かり切ってたが……復讐を諦めたって言うから、俺と同じで命を捨てるのが惜しいタイプかと思っていた。
だが、この人は単純に取捨選択しただけ。
自身が死んでタルコスにもたらされるであろう損害を考えて、復讐を諦めただけなのだ。
「……ナンドレアさんも、自身の命を罪無き民のために使える人間なんだな。」
「……だとしても、小生が復讐を諦めた事は事実ですニャン。」
「でも……」
「……もっとも、もしもタブルドがここを攻めていた場合は、タルコスの民が逃げるための時間を稼いでいたと思いますニャンが。」
「……そうか。じゃあな。」
「はい。また今度お会いしましょうニャン。」
こうして、俺はナンドレアさんと会話を終えてロウルさんとのデートへと向かった。
でも、最後に見たナンドレアさんの顔は……どこか、悲しそうな表情であったのだった……
そして数分後……
「ナンドレア殿は恐らく、ルルネンなる者がナフリー殿を引き取ってなかった場合は自身がナフリー殿を引き取って育てていたのでしょう……私めから見ても、そう確信出来る人柄でした。」
「……十中八九そうだろうな。」
ナンドレアさんがやった事を擁護する気は全くない。
復讐を諦めたまでは擁護出来るが、その後にナフリーを知らないと言ったのは……一応本人に言った訳ではないとはいえ、許される事ではない。
……しかし、本人なりに自身が関わるべきではないと思っての事であり、ナフリーを大切に思っていない訳ではないのは見ていれば分かった。
「さて……ナンドレア殿の話はこれで終わりにして、私めと楽しいデートを過ごしましょうぞ!」
「とは言ってもな……俺、元の世界で恋人が居た事ねぇから、デートでどういう事をすれば良いのか分かんねぇんだよな……」
「ふむ、私めも同じですな。……しかし、トウシロウ殿はこの世界でナフリー殿やメアリー殿下と交際を始めているのでは?」
「メアリーとは付き合ったばっかだし、ナフリーともデートって言えるデートはしてねぇんだよ。」
「そうですか……」
つまり、この場に居るのはデートの何たるかを全く知らない男女2人という訳だ。
「一応、元の世界でのデートと言えばスイーツ店を巡りだったり、雑貨店を巡ったり……いや、違ったか?」
「なるほど、スイーツに雑貨ですか……私めは要りませぬな……」
「……だと思ったよ。」
行動に女子らしさ0のロウルさんとするデート……
正直に言って、難題過ぎた。
「私めが好きなのは……鍛練ですな。」
「他には?」
「ありませぬな。」
「……本当に?」
「ええ、昔から時間が空いたらラウル兄様と鍛練をしていて……今思えば、碌な思い出が残っておりませぬ。」
「……なら、いっそのこと走るか?」
「おお、良いですな!」
……まさか、鍛練しか楽しみがねぇとか……
まあ、俺としても体を鍛えとくのは良い事だし、少しロウルさんとランニングでもするか。
「じゃ、行くぞ。」
ータッタッタッ……
「はい!」
ーガシャン……ガシャン……ガシャガシャガシャン!
「うおっ!?……ちょっ、ロウルさん速過ぎ……」
ロウルさんが、予想外に速かった。
少し気を抜いただけで、どんどん距離が離されていっちまう……
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!……トウシロウ殿、もっと速く走れますぞ!」
「いや、俺が追い付けねぇよ!」
「えぇ?……すみませぬ、声がよく聞こえ……」
「いや、待ってくれぇぇぇぇぇぇ!」
「何ですかぁぁぁぁぁぁぁ!」
ロウルさんは、俺を置いて見えなくなる程向こうに行ってしまった……
だが、俺は足を止めなかった。
「……ロウルさん、絶対に追い付いてやるからな!」
「あっはっはっ!」
「……多分、聞こえてねぇな……」
そうして俺は、日が暮れる頃までロウルさんを追いかけ続けた。
なお、最終的に止まったロウルさんに追い付けたのは数十分遅れだったが、いつかは隣で走ってやると俺は心に刻んだのだった……
ご読了ありがとうございます。
ナンドレアもまた、罪無き民のために命をかけられる者。……特に、罪悪感に苛まれている今はいつも以上に……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。