50.埋められた外堀
……もう、やけくそです。
(浅山 藤四郎視点)
「……うおぉ、まさかロウルさんが一方的に負けるとか思わねぇよ……」
俺は今、目の前で起きた事が信じられなかった。
あの、タブルドとそこそこ打ち合えていたロウルさんが、まさかタブルドに敗走したというナンドレアさんに負けるとは……
……いや、そもそもナンドレアさんがどれだけ戦ったのかも聞いてねぇ。
もしかしたら、長時間粘った末の敗北だったのかもしれねぇし……
ただまあ、そんなのはもう1つの衝撃に比べたら弱かった。
何せ……
「それにしても、あれがロウルさんの素顔か……凄ぇ美人じゃねぇか……」
……兜が取れて白日の元に晒されたロウルさんの素顔は、とても美人だったのだ。
髪は灰色のボーイッシュヘアーで、向かって右側に少しだけ赤のメッシュがあった。
そして、その素顔は美人としか言えず……どこか可憐な雰囲気も醸し出していた。
「……綺麗だな……」
ーガシャ……ガシャ……ガシャ……
「お~い、トウシロウ殿~!私めに支援魔法をかけてくださりませんか~!」
ードキッ……
「え、あっ……ロウルさん、兜は?」
「あ、忘れておりました。……失敬失敬、ですな!」
不意にもドキッとしてしまった。
俺には既にナフリーとメアリーという恋人が居るというのに……
「ハァ……」
「おや?……トウシロウ殿、どうかいたしましたか?」
「別に何でもねぇよ。……それより、まさかロウルさんが敗北するとは思わなかったぞ。」
「……所詮、私めは防御一辺倒の盾使いなので。」
「そうか……」
ヤバい、話が全く入って来ねぇ……
何というか、まさかロウルさんがここまでの美女だとは思わなかったもんだから、ギャップがヤベェ……
「……話、ちゃんと聞いておりますか?」
「ちゃ、ちゃんと聞いてるぞ?」
「なら良いのですが……どうも、私めだけでナンドレア殿に勝つのは不可能の様ですな。」
「……みてぇだな。」
「ですが、私めは諦めませぬ!」
「おう、頑張れ。」
ロウルさん、こういう所で心が折れねぇのはぶっちゃけ凄ぇよな……
……と、思っていたのだが……
「いえ、頑張れではなくでですな……」
ーチラッ……チラッ……
「……まさか、俺のバフかけに頼るのか?」
「そういう事ですぞ!」
ロウルさんのチラ見、未だに素顔なんで可愛さが半端ないんだが……それとこれとは話が別だ。
「……駄目だな。」
「へ?」
「いつまでも俺が一緒にロウルさんと居る訳じゃねぇ。ロウルさんにメアリーを守るという使命がある以上、これはロウルさんが越えなきゃ駄目な壁だ。」
「なっ……そんなの……」
「一応、その場だけの支援だけならしてやったんだが……ロウルさんの場合はそうも行かねぇ。」
ここで甘やかしてバフをかけても、それはロウルさんのためにならねぇ。
……だからこそ、例えロウルさんが俺より年上で強くても、安易にバフをかける訳には行かねぇんだよ。
「……そうですか……」
「まあ、そう気を落とすな。」
とまあ、話が一段落したタイミングで……
「おや、小生はてっきりトウシロウ君が魔法をかけるかと思ったのですニャンが……」
……ナンドレアさんが、俺達の側にやって来た。
「……生憎、これじゃあ俺が居なくなった後にまた同じ事になりかねねぇし……」
「ナフリーやメアリー第二王女殿下を恋人にしたというのに、居なくなるつもりなのですニャンか?」
「あっ……」
確かに、少なくとも俺はメアリーと一緒に居る事が確定してるな。
となれば、その従騎士であるロウルさんも一緒に居る事になる訳で……
「……だとしても、こないだの迷宮の件もある。」
「確かに、あの時の様に分断されたら私めも守り切れるか分かりませぬな……」
「だろ?……だから、自分で守り切れる様になっとくべきなんだよ。」
ふぅ……思い返せば、ロウルさんがメアリーの従騎士である内は一緒に居る事になる訳か……
……尚更断らねぇと、お互いのためにならねぇな。
「むぅ……トウシロウ殿の言う通りですな……」
「……それはそうとロウルさん、正面からの攻撃に対する防御力は凄ぇよな……」
「それは勿論、私めが持つ【鉄壁】というスキルに加えて日頃の鍛練で筋肉がついております故。」
「そ、そうか……で、【鉄壁】ってのは?」
「スキル所有者の防御力を大幅に底上げするスキルですな。……ナンドレア殿以外で私めの防御を掻い潜ったのは、【閃光】というスキルを持っていたラウル兄様だけという程には強力ですぞ。」
ロウルさんのスキルである【鉄壁】は強力らしく、搦め手とはいえ破られたのはナンドレアさんとラウルさんだけらしい。
「ちなみに、【閃光】は?」
「身体の形状を保ったまま、一瞬だけ光速で動けるスキルですぞ!」
「……光速?高速じゃなくて?」
「はい!」
……うん。
ラウルさんも、なかなかに化け物染みた性能してたみてぇだな……
「……と、とにかく!ロウルさんは自分の弱点を自力で克服するしかねぇんだぞ?」
「うぅ……」
「トウシロウ殿、少しくらい援助してあげても良いのではないですニャンか?」
「いや、それだとロウルさんのためには……」
「ですが、このままやっても改善する気配がないですニャンよ?」
「それでも、駄目なものは駄目だ!」
……ナンドレアさんはやけにロウルさんの肩を持ってる気がするな……
いや、多分もう鍛練に来て欲しくねぇだけだろうな。
「そうですニャンか……ではロウルさん、少しでも状況を良くする方法をお教えいたしますニャン。」
「っ!?……それは、何でしょうか!?」
「……何か、嫌な予感がするんだが……」
ナンドレアさん、顔がニヤついてるんだが……
「それは、ロウルさんがトウシロウ君の恋人になる事で……」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ナンドレアさん、何を言って……
「ふむふむ、私めがトウシロウ殿の恋人に……」
「ロウルさん、聞くな!……ナンドレアさん、何を言って……」
「少しでもトウシロウ君のハーレムを増やせば、それが小生からナフリーへの贖罪となるんですニャン。」
「チッ、そういう事か……」
ナフリーは、俺のハーレムが増えて自分の家族が増える事を願っている。
そして、ナンドレアさんはナフリー相手に罪悪感を抱いている。
つまりそれ等が合わさった結果、ナンドレアさんは俺とロウルさんをくっ付けて俺のハーレム要員を増やそうとしてるって訳か……
「……トウシロウ殿の事は悪く思っておりません。寧ろ、個人的には気に入っておりますな……」
「いや、待て……」
「しかも、トウシロウ殿なら結婚してもメアリー殿下と共に居る事が出来ますし、万事解決ではございませぬか!」
「勝手に自己完結すんな!」
駄目だ、この人……
「とはいえ、トウシロウ君もロウルさんの素顔にはドキッとしたのではないですニャンか?」
「なっ……それも想定して兜を殴ったのか?」
「ええ。」
……ヤバい、このままだと押し切られる……
いや、まだ手はある!
「……いや、俺だって男だ。流石にナフリーとメアリーに話しもせずにハーレムを増やすのは……」
「ああ、そこは問題ございませんニャン。……商人たる者、根回しは万全ですニャンから。」
「え?」
根回し?万全?……まさか……
と、その時……
「チュ~!」
「キシャァァァァァ~!」
「ん?ネズにヘビー?……って、何か咥えてる?」
俺の足元に、何か手紙の様な物を咥えたネズとヘビーが居た。
そして……
「伝書鳩でエルリス様に手紙を飛ばしたのですが、まさか従魔で返して来るとは……」
「いや、まさか……」
俺は急いで、手紙の中身を確認する。
結果……
「えっと……こっちが『あたしは、ロウル様をご主人様のハーレムに入れる事に賛成しますニャン。』で、もう片方が『私としても、ロウルが私と同じトウシロウの妻になる事には賛成ですわ。』……え、マジで?」
「という訳で、よろしく頼みますぞ!」
「あ、あはははは……こちらこそ、よろしく頼む……」
……こうして外堀を完全に埋められた俺には、ロウルさんと付き合う以外の道は残されてなかったのだった……
ご読了ありがとうございます。
……次回、ロウルとのデート回!
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