49.手合わせと弱点
ロウルの深掘りです。
(ロウル・バルガイア視点)
あれは、1年と数ヶ月前……
「ラウル兄様、本当に行かれるおつもりですか?」
「ああ。……俺が留守の間を頼むぞ。」
ラウル兄様が魔王城跡地に出発する当日。
数ヶ月かけて魔王城跡地に向かう予定のラウル兄様は、普段と変わらず……凛々しいお姿でした。
ですが、当然私めにも理解出来ない事はありまして……
「……どうして、ラウル兄様が行くのですか!?……本来、ミリエリア殿下の従騎士たるラウル兄様が行く必要など無い筈だというのに……」
「……俺は"ズンダルク王国最強の剣"だ。……剣は相手に突き立ててこそ意味があるだろ?」
「ですが……それなら、私めも……」
「お前は"ズンダルク王国最強の盾"なんだから、徹底的に守りに入れ。……んで、もし俺達が失敗した時にはメアリー殿下を守ってくれ。」
「そんな、失敗などと縁起でもない事を……」
「……ロウル、これはそんな簡単な話じゃない、全員の命をかけた作戦だ。」
「うっ……」
「だからこそ、皆を頼む。……信じてるぞ。」
「……分かりました。」
結局、ラウル兄様との最後の会話は呆気ないものになりました。
今思えば、この時のラウル兄様は生きて帰れないと知っていたのでしょう。
それでも魔王を刺し違えてでも倒すか、或いは楔となって魔王を縛るために……旅に向かったといったところですかな。
ですが、謎もあります。
何故、ラウル兄様はミリセリア殿下も守ってくれと頼まなかったのか?
……それはきっと、私め如きには一生分からないのでしょうな。
……。
…………。
………………。
「ロウルさん、小生をお呼びですかニャン?」
「……おっと、過去を思い返してる内にナンドレア殿がやって来るとは……」
「いやロウルさん、自分からナンドレアさんを呼んどいてそれはどうかと思うんだが……」
「……トウシロウ君、ロウルさんにそれを言っても無駄ですニャンよ?」
……私め、失礼な事をしてしまった様ですな。
「いや~、すみませぬな~。」
「悪いと思ってませんニャンね。」
「そりゃ勿論、貴方がナフリー殿にした事を思えば当然でしょう。」
「……そうですニャンね。」
ふむ、やはり気に病み過ぎでは?
確かに1度はナフリー殿を知らないと言った過去があれど、それをここまで悔いるとは……
……やはり、生真面目な方なのでしょうな。
「では、早速手合わせを願いたく……」
「いやロウルさん、ナンドレアさんに対して棘の有る言葉を言った直後にそれ言うのは……」
「む?」
ああ、またやってしまいましたぞ。
脳内で考えを完結させてしまい、口に出す言葉に連続性が無い……
ラウル兄様からもよく注意されましたっけ……
「トウシロウ君、別にこれも気にしないでくださいニャン。……ロウルさんが脳内で考えを完結させがちというのは、ここ数日で嫌という程知りましたニャンから。」
「……マジでロウルさん、何やらかしたんだ?」
ああ……トウシロウ殿から私めへの信頼が、ガラガラと音を立てて崩れて行くのが分かりますぞ……
「と、とにかく手合わせをしましょうぞ!」
「……分かりましたニャン。」
「……ロウルさん、ゴリ押ししたな……」
もはやトウシロウ殿からの信頼は地に落ちましたが、それはそれとしてナンドレア殿との手合わせを始めるとしましょうか。
「では、裏庭に向かいますニャンよ。」
「はい、そういたしましょう。」
こうして私め達は、手合わせのためにデルレン商会タルコス支部の裏庭へと向かうのでした……
数分後、デルレン商会タルコス支部の裏庭……
「さて、それでは始めますニャン。」
「ええ、どこからでもかかって来てくだされ!」
私めの防御は最強。
故に、正面からは誰も突破出来ない……
「では、小生から行きますニャン。……【獣化】ですニャン!」
ーシュン!シュン!シュン!
「ナンドレア殿の姿が見えなくなった……ですが、ここまでは想定内ですぞ!」
これでナンドレア殿に挑み始めて5日目……
当然、この高速移動も見慣れて来ました。
ースタッ!
「隙有りですニャン!」
「っ!」
ナンドレア殿が背後に……
「【硬質化】ですニャン!」
「ふ……」
ーギ~ン!
「一時離脱ですニャン!」
「くっ……」
……盾を振るうも間に合わず。
拳を硬質化したナンドレア殿に鎧の関節部分を攻撃されてしまいました。
「まだ行きますニャンよ!」
ーシュン!シュン!シュン!シュン!
「くっ……ふん!」
ーブンッ!……スカッ……
「……再び【硬質化】ですニャン!」
ーギンギンギンギンギ~ン!
「うぐっ……」
私めの攻撃を掻い潜り、その隙を狙って硬質化した拳を鎧の関節部分に叩き込む……
正しく、私めがこの5日間で何度もしてやられた手ですな。
「ふぅ……相手の弱点にひたすら攻撃を叩き込む……かつてエルリス様やルルネンさんに教えられた攻撃方法ですニャン。」
ーシュン!シュン!シュン!シュン!シュン!
「ふむ、確かに理に適ってはおりますな!」
しかし、それをこうも簡単に実行するとは……
「やはり、騎士としては嫌なやり方ですニャンか?」
「いいえ!……私めはあくまでも騎士の家系であるが故に騎士になっただけの女です!……騎士道は不要、勝つためなら何でもやるというのは私めも同じですぞ!」
ーブンッ!……スカッ……
「ほう、そうですニャンか……」
ーシュン!
「それより気になるのは、ルルネンなる人物!確か、王都で奴隷商をしている人物だと私めは記憶しておりますが……」
「そのルルネンさんで合ってますニャン。……彼は今でこそ一線を退いていますニャンが、かつては"傀儡使いのルルネン"と呼ばれた優秀な魔法使いだったのですニャンよ?」
「ほう、それは是非全盛期に戦いたかったですな!」
そんな強者が王都に居たとは……やはり、私めの視界は狭いですな。
「さて、無駄話もこの辺にしましょうニャン。」
ーシュン!……スタッ……
「ふん!」
ーシュン!……スカッ……
「ふむ、手合わせ初日から薄々思ってはおりましたニャンが、やはりロウルさんの攻撃は大振り……よほど体が大きく鈍重な相手でなければ避けやすい攻撃ですニャン。」
ーシュン!シュン!シュン!
「……そんなの、私めが1番分かっております!」
「いえ、分かってませんニャン。……【硬質化】ですニャン!」
ースタッ……
「やはり、背後に……」
ークルッ……
背後に立ったナンドレア殿に対抗するため、私めはすぐに背後を向こうと……
「……それも想定内ですニャン。」
ーシュン!……スタッ……
「なっ……」
私めが背後を向いた直後、ナンドレア殿は私めの左方向に高速移動して……
「……これで、小生の勝ちですニャン!」
ーギ~ン!……カランカラン……
……ナンドレア殿は私めの左方向からアッパーを放ち、私めの兜を吹き飛ばされました……
そして……
ーフッ……
「……これが実戦なら、私めが負けておりましたな。」
「ええ、ロウルさんの負けですニャン。」
私めの顔の目と鼻の先で止められたナンドレア殿の硬質化された拳を見て、私めは負けを悟りました。
「これで、私めの5敗ですか……」
「……ロウルさんの防御力は凄いですニャン。ですが、小生に翻弄されてしまう程にスピードは遅く、咄嗟の判断力もワンテンポ遅い……これでは、いずれメアリー第二王女殿下を守れなくなりますニャンよ?」
「ええ、分かっております……」
やはり、動きと判断力が足りない……
……ならば、それをどうにかしてみましょう……
何せ、そのために私めはトウシロウ殿を連れて来たのですから……
ご読了ありがとうございます。
ナンドレアやルルネンは、エルリスから一通りの戦い方を学んでいます。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。