45.目覚めと後悔
読まれずとも、書き続ける。
(浅山 藤四郎視点)
「んっ……んん……ん?」
ーパチリ……
「……知らねぇ天井だ。」
……いや待て。
状況を整理しよう。
「えっと、完全に病室……って、ナフリー!?」
俺は周囲を確認するも、分かったのはここが病室だという事と、ナフリーが俺を覆う掛け布団の上に上半身を横たわらせていた事だけだった。
ちなみに、隣のベッドはカーテンがかかっていて中を見れない仕組みになっている。
「……取り敢えず、ナフリーは無事か。」
多分、ナフリーの事だから俺を看病してる内に寝ちまったんだろうが……
とはいえ、ナフリー以外はどうなった?
俺は記憶を辿る。
「えっと、確か蟲毒の迷宮を進んでて、青鱗大蛇に追いかけられて……青鱗大蛇が吐いた"何か"を浴びてからの記憶が曖昧だな……」
俺の記憶は、蟲毒の迷宮でメアリーを庇った辺りから曖昧だった。
「そういや、メアリーは大丈夫だったのか?……というか、そもそもどうやって迷宮を出たんだ?」
俺が病室に居る以上、脱出はしたのだろう。
ただ、状況が分からない。
そもそも、全員無事とは限らねぇし……
と、俺が考え込んでいると……
「……トウシロウ、目覚めたのですわね?」
「……メアリー、無事……じゃなさそうだが、取り敢えず生きてたか。」
先程までカーテンが間に有った筈の隣のベッドだが、カーテンが開いて中が見れるようになっていた。
そして、そこに居たのは体のあちこちに包帯を巻いたメアリーだった。
「……トウシロウ、私に対して何か言う事がありますわよね?」
「え?……いや、ちょっと待っ……」
ーズキン!
「いだっ!」
突然、頭痛が走った。
そして……
「あら、思い出しまして?」
「……ああ、ばっちり告ったな。」
……。
…………。
………………。
いや、何してんだ過去の俺ぇぇぇぇぇぇぇ!
マジでいい加減にしろよ!
ナフリーという心に決めた女性が居ながら!
死にかけて意識が朦朧だったとはいえ!
メアリーに告るとかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「お~ほっほっほ、トウシロウも悩んでおりますわね~。」
「当たり前だろ!?……ああ、ナフリーに何て言い訳すれば良いんだよ……」
「何を、言い訳するつもりですニャンか?」
「そりゃ勿論、メアリーに告った事を……」
……。
…………。
………………。
あ、終わった。
ナフリーに、俺がメアリーに告った事がバレた。
あはは……もう破局まっしぐらだよ。
「トウシロウ、戻って来るのですわ。」
「……ナフリー、俺の事は煮るなり焼くなり好きにしてくれ……」
「いや、別にそんな事はしませんニャンよ!?」
ナフリー、そこで見せるべきなのは優しさじゃなくて怒りであって……
「トウシロウ、貴方の故郷が一夫一妻制なのは聞いておりますわ。……ですが、この世界は一夫多妻が認められている世界ですのよ?」
「だから何だ?……ナフリーへの事前承諾もなくメアリーに告った時点で、俺はナフリーを裏切ったも同然なんだよ!」
例えナフリーが許してくれても、俺自身が許せねぇ。
……本当に、嫌になる。
「あの、ご主人様……あたしは別に気にしていませんニャンよ?」
「まあ、ナフリーならそう言う事は想定内だ。……だが、それじゃあ駄目なんだよ。」
「なら、どうするおつもりですの?」
「……どうするべきだろうな……」
ナフリーに思いっきり殴って貰うのも考えたが、ナフリー自身がそういうのを嫌いそうなので辞めた。
……じゃあどうするか?
「ご主人様?」
「……この件は一旦保留だ。」
「え?」
「ニャン?」
「先に……事の顛末を教えてくれ。」
メアリーへ告白した事は一旦後回しだ。
……先に、俺が気絶した後に何がどうなったかを知りたい。
「別に言う程の事はございませんわ。……青鱗大蛇を倒して、迷宮全体を解析して出口を見つけて、ロウル達と合流して脱出しただけですもの。」
「……なら、全員無事なんだな?」
「ええ、何なら目立った怪我をしてたのが私とトウシロウだけだったくらいには全員無事でしたわ。」
「そうか……」
俺は、ようやく安心出来た。
茜とロウルさんも無事だったなら、特に心配する事も無くなったからだ。
「まあ、それはそうと私とトウシロウはしばらく絶対安静ですわね。」
「……そういやメアリー、その怪我は……」
「【無制限の愛】の副作用ですわ。……魔力制御でナフリー程は酷くなりませんでしたけど、代わりに肝心の魔力回路がズタボロになっていて、元に戻るまでしばらく入院生活ですわね。」
「……何か、すまん。」
あれ程使うのを躊躇っていた【無制限の愛】をあっさり使うとか……あの時の俺は本当に何を考えてたんだよ!
「もう、あの時の俺の気持ちが分からねぇよ……」
「では、私の事はもう好きじゃないんですの?」
「いや、全然好きだが……」
「そ、そうですわよね!」
「……今、自信無くしてましたニャン?」
「う、うるさいですわね!」
「……2人とも、仲良くしてくれよ?」
ああ、何だか疲れてきた……
……だが、その直後……
「あ、お兄ちゃん目覚めてるよ!」
「藤四郎さん、心配しましたよ!」
「ふむ、藤四郎君が目覚めて何よりさ。」
「マジ心配したっしょ!」
茜、兼人、司、正義の4人が、病室に入って来たのだった。
「……ハァ、こんな時に来るのかよ……」
「あ、もしかしてお兄ちゃん……修羅場ってる?」
「いや、俺が1人で悩んでるだけだ。……それより、エルリスさんは居ないのか?」
俺とメアリーへの見舞いと思われる茜達の集団の中に、エルリスさんが居ない事が気になった。
「あ~……エルリスさんなら、タルコス防衛について街のお偉いさん達と話してるよ。」
「……やっぱり、ラビリンスが居たからか?」
「そ~ゆう事。」
……やはり、魔王軍幹部のラビリンスが居た上に何かを企んでいた以上、対策しねぇ訳にはいかない。
しかも、バーバとかいう別の魔王軍幹部まで関わってると来たら気が気じゃねぇな……
「あ、藤四郎さんとメアリー第二王女殿下……僕が改めて聞くのも変ですけど、本当にラビリンスはバーバと言ってたんですか?」
「言ったが……どうしてだ?」
「私も聞きましたわ。」
兼人は、やけにラビリンスが本当にバーバと言ったかを気にしていた。
「茜さんとロウルさんの言った通りでしたか……」
「だから、何なんだよ。」
「……賢馬将軍 バーバは、基本的に猛牛将軍 ミノガルとセットで行動してるらしいんです。」
「……マジか?」
「はい。……実際、ミノガルとバーバによって滅ぼされた都市の数は10を越えるとか……」
ラビリンス、バーバに加えてミノガルだと?
……っていうか、都市を10個以上も滅ぼしてる?
「……つまりあれか?今回の敵も魔王軍幹部3人だって言いてぇのか?」
「そうです。……しかも、今回は王虎将軍 シトラの様に甘い敵ではありません。」
「まあ、今回の相手は実際に都市を幾つも滅ぼしてるみてぇだしな……」
「そうなんですよね……」
ラビリンス、バーバ、ミノガル……また王都侵攻の時みたいな事が起こるのかと思うと、今にも胃が痛くなりそうだった……
「……で、そのバーバとミノガルはどんな能力を持ってるんだ?」
「……ミノガルは一撃が即死レベルの物理技を、バーバは一撃が即死レベルの魔術を、それぞれ使用するとの事です。」
「え、それだけ?」
「そう言われても、それしか本に書いてなかったんですから仕方ないじゃないですか……」
要は物理最強と魔術最強ってところか……
……果たして、俺の出番はあるだろうか。
「……取り敢えず、そういうのはエルリスさん達に任せよう。」
「まあ、素人が騒いだところで意味ないですしね。」
「そういう事だ。」
こうして、俺は兼人との会話を終えた。
だが、俺達は知ろうとしなかった。
不穏な影が、城塞都市タルコスに迫っている事を……
ご読了ありがとうございます。
ミノガルやバーバとの戦いは、もう少し先です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。