36.メアリーの決意
文章が、上手く纏まらない……
(浅山 藤四郎視点)
「論外、理想主義にも程があるな。」
俺はメアリーに対し、そう言い放った。
いや、俺だってその気持ちは分かる。
1度でも関わっちまった人間は、守りたくなるのがマトモな人間ってものだ。
だが、それを言って良いのは主人公とかその仲間とか、そういうポジションの人間なんだよ。
メアリーみてぇな魔王軍に侵攻されている王家の人間が言っても、ただの無責任な理想論でしかねぇ。
「……な、何ですって!?」
あ、俺に信念を一蹴された事がようやく理解出来たみてぇだな。
「理想論だって言ったんだ。」
「理想を語って何が悪いんですの!?」
「お前は王家の人間だろ?……人を纏める立場の人間は、理想だけでは生きてけねぇんだよ!」
「っ……」
民のためなら手を汚し、国のためなら清濁併せ持つのも統治者だ。
だというのに、メアリーは良くも悪くも清濁の"清"しか見てねぇ。
「……よほど大事に育てられたんだな。」
「だったら何ですの!」
「いや……魔王軍に劣勢の王族があんな無責任な理想論を、建前じゃなくて本音で語れるなんて思わなかったからな。」
「うぐっ……じゃあ何ですの!?トウシロウもお姉様と同じで、部下の死すら利用するのが良いとおっしゃるつもりですの!?」
「ん?どういう事だ?」
お姉様って……多分、ミリセリアさんの事だよな?
……これは、何かあった感じだな。
「……この際だから教えてあげますわ!あれは1年と少し前……」
そうして俺は、メアリーから魔王誕生の瞬間に起こった事を聞いた。
ミリセリアさんが、魔王討伐部隊の命を利用した魔法を仕込んでいた事や、その中にロウルさんのお兄さんが居た事も含めて……
「……ん?何か間違ってるか?」
「ハァ!?……部下の死すら利用してるのですから、間違ってるに……」
「でも、その魔法がなけりゃ部隊の人達は無駄死にだったんだろ?」
「そ、それは……」
聞いた感じ、最初から魔法を発動させるのが目的だった訳じゃなさそうだし、普通に保険として見ればかなり良い判断だと思うんだが……
「ちなみに、その【執念の楔】って魔法はどんな魔法なんだ?」
「……発動の礎になった者の魂が寄り集まって楔を構成し、対象を拘束する魔法ですわ。」
「礎になる人間の人数や強さは関係あるのか?」
「……礎になる人間は数が多くて力が強い程、楔の効果もより強力になりますわ。」
ふむ、なるほどな。
「じゃあ最後の質問だ。……魔王は今も拘束されてるのか?」
「分かりませんわ。……ですが、少なくとも前線に出て来た事は1度もありませんわ。」
……つまり、【執念の楔】は確かに効力を発揮しているという事だろうか。
と、そこに……
「……トウシロウ殿、ここからは私めがお話させていただいても?」
「ああ、良いが……」
今まで何処に居たのか?
ロウルさんが何処かから現れ、メアリーの話を引き継ぐと言い出した。
「……とはいえ、その前にメアリー殿下を許してはくれませぬか?」
「いや、別に許す許さないの話じゃ……」
「ちょっ……ロウル、何を言ってるんですの!?」
「メアリー殿下、お黙りください。……私めから見ても、メアリー殿下は甘過ぎます。」
「なっ……まさか、ロウルまでお姉様のやり方を支持するなんて言いませんわよね!?……実の兄の魂が楔の一部にされて、平気とでも言うつもりですの!?」
……ロウルさんのお兄さんも魔王討伐部隊の一員だったからか、メアリーはロウルが自身を宥める側に立っているのが理解出来ていない様子だった……
「……ラウル兄様は、死してなお魔王を封じ込める役割を貰えた事を喜びそうですけどね。」
「だ、だとしても……」
「……ミリセリア殿下のやり方は間違っておりませぬ。いや、確かにメアリー殿下は思うところがあるでしょうが、あの時はあれが最善策だったのです……」
死ぬ事を計画に入れるのは馬鹿、という言葉を聞いた事があるが、寧ろ死んでそのまま失敗するくらいなら相手を拘束させる道を選ぶよな。
どうせ、魔王討伐部隊の人だって死ぬ可能性くらい考えてただろうし……
「……そんなの、認めませんわ!私は、関わった民や兵を見捨てたりなんて……」
「ですので、ミリセリア殿下はその道を行ったのでしょう。……メアリー殿下に、民や兵を見捨てる決断をさせないために。」
「なっ……」
……メアリーの性格形成には、ミリセリアさんも確実に関わっている筈だ。
なのにメアリーが統治者の何たるかも分かっていないのも、ミリセリアさんが統治者という辛い道をメアリーに背負わせまいとした結果なのだろう。
……いや、俺も別に統治者の何たるかなんて知らねぇんだけどな。
「……メアリー、俺がお前の信念に口出すのはお門違いだって分かってる。でも、関わった民や兵を見捨てないのなら、王位を継ぐのだけは辞めとけ。……確実に、お前には無理だ。」
「えぇ……きっと、そうなのですわね。」
「ん?」
案外、呆気なく認めたな……
「……元々、お姉様に失望してから王家そのものを良く思えなくなっていましたもの。」
「そ、そうなのか……」
「それでも一応、第二王女として相応しくあろうと思っておりましたが……辞めますわ。」
「何をだ?」
「……第二王女をですわ。」
「「……え?」」
あれ?
俺の聞き間違いか?
「……念のため言っておきますが、聞き間違いではありませんわよ?」
「いや、だから無責任な事は言うなと……」
「無責任ではありませんわ。……この魔王討伐の旅が終わってから、お父様とお姉様に話を通すつもりで居ますわ。」
「……ロウルさん、一応聞くけどこの世界の王女って辞めれるのか?」
「い、一応は可能ですが……王女ですと貴族に嫁ぐ以外では貴族になる方法がございません。」
「つまり?」
「……平民まっしぐらですな。」
……メアリー、平民まっしぐらだってさ。
「だったら何ですの?……私、魔術師としては高い実力を持ってますし、これでも冒険者ギルドで金ランクの冒険者をやってますから大丈夫ですわ!」
「え、金ランクって……俺達ですら銅だぞ……」
「あ、ちなみに私めも金ランクの冒険者をやらせていただいておりますな。」
「……道理で強ぇ訳だよ!」
メアリーとロウルさんは、まさかまさかの金ランク冒険者だった。
……というか、そんな2人でダメージ与えられなかったタブルドって何だったんだ?
もしかしなくても、魔王軍幹部って全員あんなのばっかりなのか?
「……聞いてますの?」
「あ、ああ……」
「とにかく、私は1度でも関わった民や兵を見捨てるなんて出来ませんわ!……そんな事をするくらいなら、私は王族を辞めますわ!」
「か、覚悟だけは凄いな……」
ただまあ、その方が良いだろう。
少なくとも、メアリーは王族に向いていない。
「……さて、これで2人ともタルコスまでの数日間の旅路も仲良く出来ますな?」
「え、タルコスまでそんなにかかるのか!?」
「そりゃ勿論、王都に迫るとも劣らない規模の都市ですからな。……ある程度離れているに決まっているではありませんか。」
「そ、そうだよな……」
……エルリスさんがタルコス付近は虫系魔物が多いとか言うから、勝手に近いのかと思ってたが……これでも近い方か?
「とはいえ、休める都市があるだけ良いのかもしれませぬな。」
「ん?」
「旅の後半に行く予定の地域は、大きな都市も破壊されて人間が皆無ですし……」
「……まあ、推定死者が数百万人ともなれば、そんな都市もあるよな……」
きっと、蹂躙されたのはナフリーの故郷みてぇな小さな集落だけじゃねぇ。
結界が張られてる都市さえ、破壊される時は呆気ないのだろう。
「では、そうならない事を祈って良い旅を過ごしましょう。」
「そうだな。」
「そうですわね。」
……こうして俺は、ひとまずメアリーとの話に区切りをつけた。
結局、本質的には何も改善していないし解決もしてねぇんだが……まあ、メアリーがそれで良さそうなので何も言わないでおこうと思う俺なのであった……
ご読了ありがとうございます。
結局メアリーの諸々は本質的に何も解決していませんし、藤四郎とのわだかまりも残ったままです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。