35.メアリーの過去
……どうして上手く書けないのか……
脳内イメージが、上手く出力されません。
(メアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
「……メアリー、お前に王家の人間としての確固たる信念はあるのか?」
「えっ……」
……私は今、目の前のトウシロウという男から文句という文句を言われましたわ……ぐすん……
いや、何でこの私がそんな事を言われないと……
……いえ、そもそも彼等をこの世界に召喚し、元の生活を奪ったのは私達王家の人間。
文句を言われるのは当然ですわね。
「……無いのか?」
「い、いえ!ありますわ!」
王家の人間としての確固たる信念……
私にだって、その信念くらいある筈ですわ!
……とはいえ、曖昧な信念だとまた何か言われそうですし、少し私自身の半生を思い返してみるとしましょうか。
私はこの17年間、何不自由なく生きてきましたわ。
例えば幼少期……
「か、可愛い……」
「メアリー第二王女殿下は可愛いです……」
「ふっふ~ん!」
私を見る者全員が、私を可愛いと褒め称えましたわ。
……まあ、今思えば子供を可愛がっているだけなのですが、当時の私にとっては自己肯定感が高くなる切っ掛けでしたわね。
そして10歳にもなれば……
「今日からメアリー殿下の従騎士になりました、ロウル・バルガイアと申します。」
「……あらそう。邪魔だけはしないで頂戴。」
「メアリー殿下、何をなされておられるのですか?」
「魔法の研鑽ですわ。」
この時期になると私は、何となく王城の中庭で魔法の研鑽を始めておりましたわ。
「ふむ……では、私めに向けて撃ってくださいませ!」
「嫌ですわよ!?」
……どうも、この時のロウルは私の魔法を受けて鍛練をしようとしていたらしいですが……今思えばやはり変わっていますわね……
ってロウルの問題発言は別にどうでも良いですわ。
それよりも……
「【水球】ですわ!」
ーヒュン……ドーン!
「うおぉ……近くに水が無いのにこの高威力……メアリー殿下は天才かもしれませぬな。」
「おっほっほっ、もっと褒めてもよろしいのよ?」
私は魔術師の才能がありましたわ。
だから、その後はとにかく練習を続けて……
「メアリー、王城の中庭をボロボロにしたのは貴女ですか?」
「ひぃっ、お姉様!?」
……お姉様に怒られてしまいましたの。
「お待ちを!ミリセリア殿下、メアリー殿下は魔術師としての才能が……」
「それとこれとは話が別です!……練習するなら、せめて周りに気をつけなさい。」
「は、はいですわ……」
お姉様の言葉は正論で、私は何も言い返せませんでしたわ。
ただ、1つ言える事があるとすれば、当時のお姉様はまさに大人びた女性といった雰囲気で、当時の私にとっても憧れの存在でしたわ。
……あの日までは。
それは私が16歳のある日……
「……うむ、部隊は魔王城跡地に辿り着いたか?」
「ええ……この魔水晶で連絡をとったところ、既に魔王城跡地に闇の魔力が集まっていたとか……」
「ミリセリア、それは本当か!?」
「私がお父様に嘘をつく理由がありますか?」
……この日、お父様とお姉様は、数ヶ月前に出発した魔王討伐部隊の魔王城跡地への到着を確認しておりましたわ。
私はあまり深く関われませんでしたが、お父様やお姉様は昔話でよく見る勇者の力を借りず、自分達の力だけでこれから出現するであろう魔王を倒そうとしていました。
「……魔王が誕生した瞬間に、王国の精鋭とも言える2万人の部隊で総攻撃を仕掛ける……もしこれが成功すれば、勇者召喚という悪しき慣習を儂等の代で終わらせられる。」
魔王誕生の瞬間に、2万人の部隊で魔王に総攻撃を仕掛ける……これがお父様の考えた計画でしたわ。
「とはいえ、上手く行くかどうか……」
「勿論、上手く行きますとも!……何せ、私めが世界で最も尊敬している兄、ラウル・バルガイアを始めとしたズンダルク王国の精鋭揃いなのですから、心配ございませぬよ。」
ラウル・バルガイアといえば、ロウルの兄で通称"ズンダルク王国最強の剣"と評される騎士でしたわね……
ただ、何故か言い様のない不安も募りましたわ。
「……本当に行けますの?」
「何やメアリーはん、疑っとんの?」
「だって、魔王と言えば異世界の勇者様しか倒せないと言われ続けて来た相手ですわよ!?」
同席していたデルレン商会の商人、エルリス・フルウィールの問いに対し、私はそう答えるしかありませんでしたわ。
「やからって大人しく勇者を召喚すんのか?……もう、あの娘みたいな犠牲は出したくないんや。」
「エルリス……」
「そもそも、勇者召喚が出来るんは1年後や。……それまでに出るであろう犠牲を考えたら、ここで仕留められた方が何倍も……」
エルリスの言葉は納得が行くものでしたわ。
ですが、不安は増すばかりで……
……と、その時でしたわ。
『こちら魔王討伐部隊!現在、魔王が形を成して……うわぁぁぁぁぁぁ!?』
ードゴゴゴゴ……プツン……
「「「「「っ!?」」」」」
突然、魔王討伐部隊の一員から魔水晶に通信が入ったかと思うと、何やら意味深な事を残して再度通信が切れてしまいましたわ。
「……応答しなさい!……チッ、それならせめてあの魔術が発動しているかだけでも……」
「やっぱ、あかへんかったんか?」
「ラウル兄様……どうかご無事で……」
お姉様は口調が崩れていましたわ。
エルリスは不安で顔を歪めていましたわ。
ロウルはラウルの無事を祈っていましたわ。
……けれど、次の瞬間……
ーザザザァ~……
『……おい、この魔水晶の先に居る奴が余を襲った者共の親玉か?』
「「「「「っ!」」」」」
魔水晶から聞こえる声……しかし、それは先程の兵士の声とは似ても似つかぬ声でしたわ。
「……貴方は、魔王ですか?」
『そうだ。……凶龍魔王 ドラグ、それがこれから人間を滅ぼす余の名だ。』
「凶龍魔王……ドラグ……ですか……」
お姉様はドラグと名乗った魔王の名を確認するかのように口に出し、真剣な表情を浮かべておりましたわ。
『それはそうと、これはどういう事か説明せよ。』
「"これ"とは何ですか?」
『知らばくれるな。……余の体を縛り付ける、亡者共の魂で出来た楔だ。』
「おや、ちゃんと作動したようで何よりです。」
……この時、私は事態を上手く呑み込めておりませんでしたわ。
何せ、部隊からの連絡が途絶えたかと思ったら魔王から連絡が来て、その魔王を亡者の魂が縛り付けてるというのですから……
「お姉様、これはいったい……」
「【執念の楔】……という、魔王討伐軍2万人の部隊全員の命が尽きた場合にのみ発動する魔法です。」
「えっ……」
「……保険として用意していた魔法ですが、ちゃんと発動したようで何よりです。」
……この時の私に湧いた感情は、憧れていたお姉様への失望でしたわ。
「お姉様、まさか最初からこのつもりでしたの!?」
「いいえ、あくまでも保険です。……もし部隊が全滅しても、その死が無駄死ににならないように。」
「お待ちください!その魔法が発動しているという事は、ラウル兄様は……」
「ええ、死んでます。」
「っ……そう……ですか……」
顔色1つ変えずに淡々と、ロウルにラウルの死を告げるお姉様。
絶対、お姉様も思うところはある筈なのに……
『……お主等、いつか余の配下の手で殺してやるから覚悟しておくが良い!……ふん!』
ーガシャン!……プツン……
「……魔水晶を割られましたか……とはいえ、妥協出来る結果にはなりましたね。」
「そうだな……だが、儂としては犠牲になった者達に申し訳ないと……」
「悲しんでいる暇はありませんよ?……恐らく、ここから1日に多くて何万人もの死者が出ます。ですから、私達はどうにか1年後まで……」
ここからの話は、よく覚えておりませんわ。
結局お姉様やお父様は、何とか1年間国を保たせ、勇者召喚を成功させましたわ。
……私に何1つ伝えずに。
だからこそ、私の信念は……
「おいメアリー、聞いてるか?」
「……そういえば、さっきから私呼び捨てで呼ばれてませんこと?」
「……ここまで言ったら不敬どころじゃねぇから、開き直ったんだよ。」
「まあ、そうですわね。……それより、信念を聞きたいのでは?」
「ああそうだ。……言ってみろ。」
あのお姉様を見て、私が辿り着いた結論。
その結論は……
「……私の信念は、私が関わった者から誰も犠牲者を出さないという……」
私が出した結論。
それは討伐隊の命を魔法の礎にしたお姉様への、ささやかな当て付けも込めたものでした。
そして、その信念……と呼べるかは分かりませんが、私の目標であったそれは……
「……論外、理想主義にも程があるな。」
……トウシロウに、呆気なく一蹴されたのでしたわ……
ご読了ありがとうございます。
ミリセリアも非情という訳ではなく、寧ろ民を思うが故に出来る限りの事を尽くしただけなのですが、良くも悪くも比較的理想主義的なメアリーの目には非情な人間に映りました。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。