31.最悪の再会
ちょっと火種を投下します。
(浅山 藤四郎視点)
旅立ちから数時間後……
「ナフリー、可愛いぞ。」
「ご主人様……愛してますニャン。」
……俺とナフリーは、自室でイチャついていた。
ベッドの上で俺の上に乗るナフリーと、それを見上げる俺……
……勿論、お楽しみの最中だ。
と、その時……
『皆~、ちょっと外に来てくれへんか~?』
「ん?」
「ニャン?」
……折角楽しんでたんだが……まあ、もう既に数時間はヤってたし、そろそろ頃合いか……
「……行くか。」
「ご主人様に従いますニャン。」
そうして俺達は諸々の後処理を終えて部屋を出て、そのまま馬車の出口へと向かった。
そして、馬車の外に出ると……
「あ、ナフリーはん。……ここ、見覚えあるやろ?」
「ニャ……どうして、ここに……」
……そこは、鬱蒼とした森の中央に出来た、特に何もない開けた空間だった。
「ナフリー、何か知ってるのか?」
「ここは……あたしの故郷の成れの果てですニャン。」
「あっ……」
つまり、ここはナフリーの故郷である猫獣人の里の跡地って訳か……
だが、それにしては"何もない"ってのは気になる。
普通、こういうのは廃墟とかが残ってるもんじゃ……
「……エルリスさん、ここの建物って……」
「ああ、やっぱトウシロウはんは気になる?」
「……というか、皆気になってても言い出せないだけだと思うぞ。……ナフリー、何かすまん。」
「あ、それはあたしも気になってたので別に良いですニャンよ。……本当に、元々有った家が何も無くなってますニャンから……」
他の皆はおろか、ナフリーすら住居が無くなっていたのは気になっていたらしい。
やはり、誰かが解体したのだろうか?
……と考えていると……
「……ナフリー、久しぶりですニャンね。」
「えっ……ナンドレア叔父様ですニャンか!?」
突然、謎のピンク髪をした猫獣人の男性が現れた。
いや、ナフリーの言葉を信じるなら、ナフリーの叔父に当たるのだろう。
「ええ、小生の名はナンドレア。……ナフリーの叔父に当たりますニャン。」
「つまり、この里の生き残りって事か?」
「それは少し違いますニャン。……小生、若い頃に里を飛び出しておりまて、厳密にはこの里の一員ではありませんニャン。」
「ああ、なるほどな。」
つまり、若い頃に里を出奔していたがために里の生き残りではないと……
「それでも、時折里には商売目的で帰っておりましたニャン。……兄様からナフリーを紹介されたのもその時ですニャン。」
「商売?」
「ええ……あ、申し遅れましたニャン。小生、この先にある城塞都市タルコスにて、デルレン商会タルコス支部の支部長をしておりますニャン。」
「……そ、それで商売をしにここに来てたんだな。」
「まあ、ここはタルコスより王都の方が近いのですが、やはりコネがあると商談がスムーズに進むんですニャン。」
「……そ、そうか。」
結局、どこの世界もコネか……
だが、急にナンドレアさんは暗い表情を浮かべ……
「そして……あの里が滅んだ日は普段と違い、ルルネンさんを連れて猫獣人の里を訪れる予定だったんですニャン。」
「……ルルネンさんを連れて?」
「ええ。……ルルネンさんとの会話から、この里にも労働力として普通奴隷を売ってみようという話になったんですニャン。……勿論、ルルネンさんが視察してから最終決定は下す予定だったんですニャンが……」
「待つニャン!……あたしが聞いた話では、遠出した商談の帰り道って……」
「ルルネンさんに誤魔化して貰ったんですニャン。……そもそも、ナフリーには小生がデルレン商会所属という事すら伏せてましたニャンし……」
「だからって……だとしたらあの時、ナンドレア叔父様は何をしてたのニャン!?」
恐らく、ナンドレアさんは何か訳アリなのだろう。
だから、ナフリーに自身の存在を徹底的に隠した。
そして、ナンドレアさんは静かに口を開き……
「……小生は生存者を探しながら、タブルドに挑んでいましたニャン。」
「ニャン!?」
……ナンドレアさんも、タブルドに挑んでいた。
その話を聞いたナフリー……いや、エルリスさん以外の全員が驚いた表情を浮かべていた。
「そもそも、オーク倒して気絶しとったナフリーはんを見つけたんはナン坊なんや。……ルル坊は、あくまでもそれを預かっただけや。」
「な、何で自分の存在を隠したニャン!?」
「……もしタブルドに挑んで小生が死んだら、ナフリーは肉親を更に失う事になりますニャン。……その時点では兄様を始めとしたナフリーの家族の安否は分かっていませんでしたが、ナフリーが1人で逃げていた時点である程度は察せましたニャンから。」
「だから、自分の存在を隠した……とでも言いたいんニャンか!?」
「そう思っていただいて構いませんニャン。」
……肉親が更に死んだ事実を隠すため、そのためだけにナンドレアさんはナフリーに対して自身の存在を隠したって訳か。
「……で、タブルドに挑んだニャンか?」
「ええ。……結果は惨敗でしたニャン。ただ、棍棒で思いっきり吹き飛ばされた時に防御が間に合ったのと、小生が男だったのもあって深追いはされず、何とか一命は取り留めましたニャン。」
「……それから、ずっとどうしてたニャン?」
「タルコスに戻って、支部長の業務を続けましたニャン。……小生は、タブルドに負けて心が折れてしまったんですニャン。」
「……復讐を、諦めたニャンか?お父様……ナンドレア叔父様にとっては実の兄を殺されたのに!」
……ナンドレアさんに対し、復讐すら諦めてしまったのかと質問するナフリー。
だが俺達はナフリーとナンドレアさん、どちらの気持ちも理解出来た。
「……あれには勝てない、小生はそう思ってしまったんですニャン。……勿論、悔しかったですニャン!でも、どうにもならなかったんですニャン!」
「あたしに会いに来なかったのも、それと同じ理由ニャンか!?……てっきり、あたしの生存を知らなかったからかと思ってたニャン!でも、ナンドレア叔父様がルルネン様と知り合いなら、あたしの生存だって知ってた筈ニャン!」
「……復讐の道を選んだナフリーに、小生が会う資格なんてないと思ってたんですニャン!」
ナフリーにとっては辛い事実だろう。
再会した叔父は、復讐を諦めた後ろめたさからナフリーに会いにも来なかったんだから。
「エルリス様は知ってたニャンか?」
「……いや、ウチやって聞かされたんは昨日や。それまでナフリーはんはルル坊が拾ったんやとばかり……そもそも、ナン坊が大怪我負ってたなんて初耳や。」
「ルルネンさんに頼んで秘密にして貰いましたニャンからね。……表向きは、病気による療養って事にしましたし……」
「それだけやない、ナフリーはんがナン坊の姪って知ったんも昨日や。……ウチが1回確認とった時もナン坊は親戚関係否定したしな。」
「エルリス様、どんどん火種を増やさないでくださいニャン!」
……ナンドレアさんが、どんどん擁護不可能な状態になっていく……
「じゃあ、ルルネン様があたしに優しかったのもそれが理由ニャンか!?」
「それだけは違いますニャン。……ルルネンさんは小生の姪だからって特別扱いする人じゃありませんニャン。自身の扱う奴隷全てに、等しく慈愛を与える人ですニャンよ。」
「……それに比べてナンドレア叔父様は……もう、顔も見たくないニャン!」
……端から見ていた俺達にも分かった。
この2人の関係は、完全に破綻したと……
こうして、ナフリーとナンドレアさん……俺達すら何も聞かされていなかった再会は、その関係を修復不可能なものにしたのだった……
ご読了ありがとうございます。
ナンドレアは良くも悪くも真面目な性格だったため、復讐を諦めた自分が復讐の道を選んだナフリーに会う資格がないと思ってしまいました。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。