29.大人の階段
第2章、突入です。
(浅山 藤四郎視点)
あの侵攻から元の世界の言い方で1週間が経過した。
「いてて……ご主人様、今回は大変ご心配をおかけしましたニャン。」
「俺は別に気にしてねぇよ。」
「シトラちゃん……貴女は今、何をしてるの?」
侵攻防衛直後は意識が無かったナフリーと茜も、すっかり元通りに……いや、茜が恋の病にかかっちまった点を除けば、概ね元通りになっていた。
「……で、エルリスさん。いったい何の用だ?」
それはそうと俺達は今、王都のとある飲食店で、エルリスさんからの呼び出しに応じて馳せ参じていた。
「そんな怖い顔せえへんといてぇな。……勿論、今後の勇者活動に関する事やよ。」
「ゆ、勇者活動って……」
勇者って、そんな軽く扱って良いもんでもないだろ。
「ん?何か文句でもあるん?」
「いや……そもそも、俺は勇者じゃ……」
「でも、立派な勇者パーティーの一員やん。」
「うっ……」
何も言い返せなかった。
「……ま、御託はええわ。それより本題やけど……他の3人が来てからにしよか。」
「え?」
「ニャン?」
「ん~?」
他の3人、って事はまさか……
「あれ?……藤四郎さんに、ナフリーさんに、茜さんも居るんですか?」
「ふむ……これは勇者全員勢揃いって感じかな。」
「マジ、何か裏あるっしょ。」
……兼人、司、正義まで来たとなると、マジで勇者活動とやらを話し合うのか……
と、思っていると……
「6人とも、単刀直入に言うわ。……明日から、魔王城に向けて出発するで。」
「ハァ?」
「ニャン!?」
「えぇ!?」
「僕もですか!?」
「んん!?」
「ちょっ、マジで!?」
俺、ナフリー、茜、兼人、司、正義の順番で、エルリスさんの言葉に驚いた。
……いや、急にも程があるだろ……
「ほんまはトウシロウはんが目覚めた日には決まっとったんやけど、こっちで調整しとったら言うんが遅れてしもてな?」
「だ、だからって……」
「せやから、王都での最後の1日や。……皆、楽しんでくれたらありがた……」
「いや、今更楽しむ事もねぇよ。」
「確かにそうですニャン。」
「寧ろ、早く行きた~い。」
「まあ、僕は持ち物の整理をするつもりです。」
「ボク達は……どうしようかな。」
「俺チャン達は別れの挨拶でも済ませるっしょ。」
「……え、普通は最後に思い出を残すとかせぇへん?これが最後の王都かもしれへんのやで?」
エルリスさんの言い分も分かる。
だが、俺達はそんな事をするつもりはねぇ。
「俺達は、必ずまたここに戻って来るつもりだ。」
「ふふ、次はシトラちゃんとデートするんだ。」
「僕も、そのつもりです。」
「ボクも同じく。」
「俺チャンも。」
「あ、あたしもですニャン!」
かつて仲間を失ったエルリスさんからしたら、余計なお節介をしたつもりだったんだろう。
それでも、俺達は誰一人欠けるつもりはねぇよ。
「……若いってええな。」
「そうだろ?」
「せやけど……ウチはもう、その希望を失ってもうたんよ。」
「今からだって、遅くはないぞ。」
「ほんま、あんた等輝いてんな~。……ま、それじゃあ明日迎えに行くから、こないだの魔王軍侵攻防衛地点集合な?」
「……ああ、あそこか。」
「せやよ。……ほんま、ウチも後100年若かったら良かったんやけどな~。あ、欲しい物有ったら言ってぇな。」
「え?」
「折角ここに連れて来たんやから、好きな物奢ったるわ。」
……てな訳で、俺達は色々とエルリスさんにご馳走された。
それはもう美味くて……本当に異世界に来て初めての豪遊だった。
そして、数十分後……
「ふ~、食った食った……」
「ご主人様、幸せでしたニャン~。」
「結構行けたね。」
「う、うっぷ……満腹です……」
「ふむ、体型は気を付けないとね。」
「マジそれっしょ。」
俺達は全員、満腹になるまで料理を食べた。
ただ、この量だと料金も馬鹿にならない筈だが……
「何や、もう満腹かいな。」
「……結構食ったぞ?」
「そ、そうやな……ま、後々の事を考えると残しといた方が良さそうやな。」
「ん?」
「何でもあらへん。こっちの話やよ。」
どうもエルリスさん、私財を使い切る事を考えていたように見えたが……
とはいえ、それより気になる事を思い付いたので、そちらを聞くとしよう。
「……そういや、何で1ヶ月も待ってくれたんだ?普通、すぐにでも魔王城に向けて出発しても……」
「それじゃあ、あんた等の実力が心許ないやろ?ちょっと自分の能力に慣れさせてから出発させるっちゅう事で王家とは話がついてたんやよ。」
「……まあ、確かに合理的と言えば合理的か。」
能力に慣れていない内に旅に出しても、無駄死にする可能性が高いからな……
「そもそも今回の侵攻を抜きにしても、旅の道中は長い。途中で魔王軍の将軍が襲って来てもおかしくないんやからな?」
「は、はい。」
……確かに、今回の顛末を考えても初期状態で旅に行くのは悪手だっただろう。
「……ほな、ウチは支払い終えて帰るから、あんた等も各々の過ごし方しよし。」
「……分かった。」
「は~い。」
「はいですニャン!」
「わ、分かりました。」
「ふむ、そうさせて貰うよ。」
「司チャンに同じくっしょ!」
そうして、俺達はエルリスさんと別れた。
そして、それから宿屋に戻った俺は、数時間程荷物を整理したり、部屋を掃除したりして……
「……もう、こんな時間か……」
「本当に、早いですニャンね……」
気付けば、宿屋の外はもう暗くなっていた。
「……この王都の光景も、当分は見納めだな。」
「下手すると、もう戻って来ないかもしれませんニャンしね。」
「ん?俺達が死ぬって言いてぇのか?」
「ふふ、違いますニャン。……あくまでも、旅の道中や魔王城で、元の世界に戻れるってなる可能性があるってだけですニャン。」
「……確かに、その可能性はあるか……」
自分達が死なねぇって事ばかり考えてたが、よく考えりゃ途中で元の世界に戻れる事になる可能性も0じゃねぇよな……
「……その場合、ご主人様はどうしますニャン?」
「……勿論、魔王は倒すさ。いくら何でも、この世界の民を見捨てられる程、俺も薄情じゃねぇしな。」
知らない世界がどうこうなったところで、俺は対岸の火事を見るように冷静で居られただろう。
だが、俺はこの世界を知ってしまった。
今更、見捨てるなんて出来ねぇよ。
「……良かったですニャン。」
「ま、明日も早いしさっさと夕食済ませて寝るか……」
「待ってくださいニャン。」
ーガシッ!
「へ?」
……何か良い風に話を切り上げようとした俺の腕を、ナフリーは思いっきり掴んだ。
いや、何故?
「ネズさん、ヘビーさん、誰もこの部屋に入って来ないようにしてくださいニャン。」
「チュー!」
「キシャァー!」
どこかで待機していたと思われるネズとヘビーに、わざわざ誰も入って来ないように頼むナフリー。
うん、何となくこの後の展開予想出来ちまったな。
「さて、ご主人様。……あたしの初めて、貰ってくださいニャン。」
「いや、だから早いって……」
「寧ろ遅いくらいですニャン!……女性が誘ってる時は、素直に乗ってくださいニャン!」
「うぅ……」
駄目だ。
俺だって童貞、こういうのに興味がないかと言われたら答えは"ある"だ。
「あたしは……全然良いですニャン。」
「……一応言っとくが、俺も初めてだぞ?」
「ふふ、嬉しいですニャン。」
ああ、本当にナフリーは艶かしくて、 《ピーー》 で、 《ピーー》 で、 《ピーー》 で……
……結局、俺達が夕食を済ませる事はなかった。
では、何をしていたか。
1つだけ茜達に言える事があるとしたら、俺とナフリーは大人になった、という事だけであった……
ご読了ありがとうございます。
第2章以降も、ナフリーは活躍します。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。