28.初戦闘の後日談
これにて、第1章は終わりです。
(浅山 藤四郎視点)
「う、うぅ……」
……俺が眠りから目覚めて最初に見たのは、知らない天井だった。
いや、違う。
……眠りじゃなくて、気絶だ。
「ナフリーは……どうなった?」
……俺が意識を朧げにしつつも気絶する直前まで感じていた激痛、あれをナフリーも感じていたのだとすると心配で仕方がなかった。
と、ここで……
「あ、トウシロウはん……目ぇ覚めたんやな。」
「エルリス……さん?」
俺が何とか寝かされてるベッドの前方を見ると、そこにはおしぼりや桶等の看病用の道具一式を持っているエルリスさんが居た。
「……トウシロウはん、肉体に傷はあらへんけどナフリーはんの痛みを共有しとったからな~。……ショック死寸前やったんやで?」
「えっ……」
……確かに、俺の体に傷はなかった。
って、それよりもだ。
「ああ、ナフリーはんなら横見てみよし。」
「横?……あっ……」
俺のベッドの横にも幾つかベッドがあり、俺のすぐ横のベッドにナフリーは居た。
……全身包帯まみれの状態で。
「ナフリーはん……幸いにも一命は取り留めたけど、未だに意識が戻っとらん。……アカネはんもや。」
「茜も?」
よく見ると、ナフリーのベッドの更に横のベッドに茜も寝かされていた。
……ナフリーと同じく全身包帯まみれで、だ。
「ツカサはんとジャスティスはんは、更に横のベッドに居るわ。」
「え?……ああ、本当だ。」
「やあ、目覚めたみたいで何よりさ。」
「ぶっちゃけ、俺チャン達だけ大した傷じゃないのは申し訳ないっしょ。」
茜のベッドより更に向こうで、司と正義がベッドに横たわっていた。
しかし、ナフリーや茜とは違って2人とも元気そうであり、俺は胸を撫で下ろした。
……が、エルリスさんは不満そうであり……
「大した傷やないって……2人とも、魔力が尽きるまで雑魚狩りやっとったやん。……それで魔力欠乏症を発症してもうたから入院しとるんやろ?」
「ふむ、すまない……」
「マジごめんっしょ……」
……どうも、2人は魔力欠乏症を発症してしまったために入院しているらしい。
とはいえ雑魚狩りと言えば聞こえは悪いが、要は2人ともラビリンス分身体を倒した後もゴブリンキングやオークの討伐をしてくれていたという事であり……本当に頭が上がらねぇな。
「……そういやエルリスさん、タブルドとの戦いはどうなったんだ?」
「ああ……タブルドなら、ナフリーはんが一撃で倒しはったよ。……ま、直後にナフリーはんは全身から血を出して倒れはったけどな。」
「え、全身から血!?」
……うん、【無制限の愛】はここぞという時にしか使わないようにしよう。
絶対に、だ。
「ま、後の雑魚共はツカサはんにジャスティスはん、メアリーはんにロウルはん……それからシトラはんが片付けてくれたから、こっちの犠牲者は0や。」
「そ、そうか……あ、そういえばシトラは……」
「帰ってもうたよ。……『これで貸し借りは無しガル。あ、次会ったら敵同士ガルからな?』ってアカネはんへの伝言を残してな。」
「……何か光落ちする敵みたいな奴だな……」
これは茜がシトラに気に入られた事を同情すべきか、それともシトラが茜に惚れられた事を同情すべきか、悩むな……
「ほな、伝える事も伝えたし、後はカネヒトはんからでも聞いてぇな。」
「ん?そういえば兼人は……」
「あ、藤四郎さん!意識が戻ったんですね!」
「噂をすれば、か……」
兼人もエルリスさんと同じく、おしぼりや桶を持って病室に入って来た。
「ん?そういや、今ってあの侵攻から何日だ?」
「……まだ1日ですよ。それより藤四郎さん、命を懸けさせるようなマネさせて、本当にすみませんでした!」
「いや、別に気にしてねぇよ。……あれがなきゃ、勝てなかったんだからな。」
「そ、そうですか……」
……俺が許した後も、兼人の表情は暗いままだった。
うん、これはかなり気にしてるな……
「ほな、ウチはもう帰るわ。」
「ああ、忙しい中ありがとうな。」
「ま、今後の事を考えた先行投資やよ。」
「……そういう事にしとくよ。」
そうして、エルリスさんは帰って行った。
だが、この時の俺はエルリスさんの先行投資という言葉の真意を、上手く読み取れていなかったのであった……
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(ミリセリア・ズンダルク・レブラトラ視点)
「お姉様、只今戻りましたわ!」
「ミリセリア殿下……このロウル、只今戻りました!」
「メアリー、ロウル、ご苦労ですね。」
たった今、妹のメアリーとその従騎士のロウルが、戦場跡地の分析から戻って来ました。
それと同時に……
「ミリセリアはん、ウチも来たで~。」
「エルリスさん……貴女もですか。」
「露骨に嫌そうな顔するな~。」
「当然です。……今回、貴女は呼んでいない筈なのですが……」
「ま、細かい事はええやん。……それより、やっぱ勇者の力は絶大やな~。」
……エルリス・フルウィールは私の嫌そうな顔を全く気にせず、話を進めました。
まあ、エルリスさんの言葉には同意しますが……
「この1年間、誰も倒せなかったタブルドの討伐は確かに快挙ですが、その立役者は勇者ではなかった筈ですよ?」
「ま、勇者のオマケには変わらんよ。……それにラビリンス分身体を破壊して、シトラはんに気に入られた。これも立派な快挙や。」
……確かに、そうなのでしょう。
迷兎将軍 ラビリンスは、分身体すら誰も倒せていませんでした。
王虎将軍 シトラは、人こそ殺しませんが誰も傷1つ負わせられませんでした。
そして欲豚将軍 タブルドは、誰もその防御力を突破出来ませんでした……
だというのに、今回の戦いはそれを全て覆しました。
「……本当に今回の防衛戦、勇者様達には感謝してもし切れませんね。」
「……せやけど、勇者召喚の仕組みは本当に胸糞悪いと思うわ。」
……やはり、先代勇者様の1人と共に旅したエルリスさんには思うところがあるのでしょう。
「……私やお父様だって、勇者様達の人生を奪ってしまった事は分かっています。でも、そうしないとこの国は限界だったのですよ!?」
この1年間で、数百万人を越える犠牲が出ました。
王都の様に大きな都市は結界がありますが、小さな集落はその限りではありません。
更に、結界も魔王軍幹部の攻撃を何度も耐え切れる性能をしていませんでした。
結果、小さな集落から大きな都市まで、幾つもの人々の営みが滅びました。
「ほんま、この1年はどうにか防衛するんがやっとやった。……せやけど、勇者召喚するっちゅうんがどんなに罪な事かは……」
「知っています。……だから、私とお父様は勇者様に殺されても良い覚悟で召喚に挑みました。」
勇者様は、この状況を逆転させてくれる存在。
例え本来なら不敬罪に当たる事でも見逃しましたし、殺されそうになったら私とお父様の命だけで勘弁して貰えるように説得するつもりでした。
……これは、私とお父様で決めた事。
勇者様の元の世界における人生を奪う以上、こちらも人生を捧げる覚悟を持っておくべきだと。
「……ほんま、5人とも善人で助かったわ。」
「ええ、運が良かったと言うべきでしょう。……それで、エルリスさん……」
「分かっとる。……あの5人……いや、ナフリーはんを入れて6人は、ウチが責任を持って魔王城まで連れてく。……この旅がウチの死に場所にならへんように、精々祈っといてくれや。」
……エルリスさんは、未だに死に場所を探しているのでしょうか?
およそ100年前に、親友であった先代勇者様を亡くしてからずっと……
「あの、お姉様!私も旅に同行したいですわ!」
「……理由を言いなさい。」
「私も、民のために魔王を滅ぼしたいと思ってるからですわ!」
「ふむ……まあ、良いでしょう。その代わり、ロウルをちゃんと連れて行くのですよ。」
「勿論ですわ!」
「私めにお任せを。」
メアリーとロウル……この2人も、連れて行けば必ず役に立つでしょう。
……私は第一王女として、この国を守ります。
だから貴女達は……勇者パーティーとして世界を救って来てください。
「……後は頼みましたよ。」
「任せてぇな。」
「分かってますわ。」
「……承知しました。」
こうして私は、3人と別れました。
勇者様達に恨まれるのは私とお父様だけで良い。
だから勇者様が、どうか世界を救いますよう……
そう祈りながら、私は静かに自室へと戻るのでした……
ご読了ありがとうございます。
……やっぱり、文才が無いのはキツいです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。