23.魔王軍との初戦闘 戦況
タブルドの倒し方、分からない……
(エルリス・フルウィール視点)
「ナフリーはん、まるでウチが死んでまうみたいな反応しとったな~。」
ま、それも仕方ないわな。
何せ、ウチじゃタブルドには勝てへんなんて言ってもうたからな。
「せやけど……ウチ、自己犠牲なんてするつもりないんやけどな~。」
さて、ここらで出したるか。
「……アダラジイ……オ゛ンナ……」
「今すぐその口閉じよし。……お二人さん、早速出番やで~。」
ウチがわざわざ来たんやから、ちゃんと自己犠牲以外の理由があるに決まっとるやろ。
「……偶然、防壁付近に居ってくれて助かったわ~。」
ナフリーはんが出た直後、ウチはわざわざ王都を【神速】で走り回った。
一応、人に当たらんように建物の屋根の上をやけど、それでも目当ての人等が居るかは五分五分やったからな。
「……メアリーはん、ロウルはん、頼んだで。」
そう言いながら、ウチは【次元収納】で木箱に入れた2人を解放したんやった……
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(浅山 藤四郎視点)
「……っ!ナフリー、無事だったか!?」
「っ……ぐすっ……ぐすっ……ご主人様ぁぁぁ~!」
ータッタッタッ……ドサッ……
一時は瀕死の重傷を負いつつも、エルリスさんの助けで何とか生還したナフリーが、泣きながら俺の胸に思いっきり飛び込んで来た。
「……凄く……心配したぞ。」
「ぐすっ……申し訳ございませんニャン!……でも……倒したかったですニャン……」
「……だろうな。でも、やっぱり無理があったんだ。」
「……ぐすっ……そうですニャン……せっかくご主人様に強くして貰ったのに……勝てなかったですニャン……本当に……不甲斐ないですニャン……」
……ナフリーは1度も、俺のバフかけに文句を言わなかった。
それどころか、バフをかけて貰ったにも関わらず勝てなかった自分を責めている様で……
「ナフリー、俺こそすまん。……俺が、もっと上手くバフかけ出来てたら……」
「いえ、そんな事は……って、それより!……エルリス様が1人でタブルドと……」
「いえ、1人ではないみたいですよ?」
「ニャン?」
……ナフリーが飛び出した直後、エルリスさんは誰かを探しに王都内に戻って行った。
だから、俺もエルリスさんが誰を連れて来たのかは分かっていない。
「後、ついでですがナフリーさん。……貴女がタブルドにボコボコにされてる間、藤四郎さんを引き留めるの大変だったんですからね?」
「……どういう事ですニャン?」
「つまり、ナフリーさんを助けに戦場へ下りようとしたんですよ。この恋人馬鹿は……」
「……兼人、喧嘩売ってんのか?」
普通、恋人があんな目に遭ってたら助けに行くに決まってるだろ!
「もし戦場に行って藤四郎さんが死んでたら、僕は皆さんに恨まれてしまいますからね。……必死に止めましたよ。」
「……あたしが言う資格は無いですけど、死んだらどうするつもりだったんですニャン?」
うっ、ナフリーの視線が痛い……
こ、ここは話を逸らさなければ……
「あ、エルリスさんが誰かを後ろの木箱から出したぞ!」
「え?それはいったい……」
よし、上手く行った!
「多分、あの方達がエルリスさんの探してた助っ人ですね。」
「……本当に勝てますニャンか?」
エルリスさんが木箱から出した助っ人は、見た目としてはそこまで強そう、という訳ではなかった。
1人は重厚な西洋甲冑で全身を覆い、自身と同じサイズの大盾で武装している騎士。
1人は金髪ツインテールで豪華なお嬢様といった雰囲気を纏った、茜と同年代らしき女性。
……強化したナフリーで勝てなかったのに、その組み合わせで行けるのか?と思っていると……
「あ、あれは……」
「ん?兼人、何か知ってるのか?」
「いや、逆に何で藤四郎さんは知らないんですか!?この世界に来て1ヶ月ですよ!?」
「そ、そこまで言う程か?」
ぶっちゃけ、この世界に来て殆んどの時間をゴブリン退治に精を出して過ごしてたからな……
「ハァ……で、藤四郎さんはともかくナフリーさんも知らないんですか?」
「……少なくとも、故郷が滅ぶまで王都なんて来ませんでしたニャンから……」
「……お二人とも、耳の穴かっぽじってよく聞いてください。あの金髪ツインテールの女性は、この国の第二王女を務めているメアリー殿下ですよ!?」
「「……えぇぇぇぇぇ!?」」
あの金髪ツインテールが、この国の第二王女だと!?
つまり、あのミリセリアとかいう第一王女の妹にあたるって事か……
「だが、何でそんなのがここに……」
「彼女はあの若さで、このズンダルク王国随一の魔法使いとして名を轟かせているんですよ!……本当に何も知らなかったんですね……」
「うっ……では、もう1人の大盾を持った方は誰ですニャンか?」
「恐らく、メアリー殿下の従騎士を務めているロウル・バルガイアさんでしょう。……彼女もまた王国随一の騎士で、あの大盾で敵を潰す姿が語り継がれています。」
「お、おう……」
盾で潰す、か……
というか、あれで女性なのか……
「……とはいえ、ここまでしても倒せるか分からないのがタブルドという魔王軍将軍なんですが……」
「……まあ、信じるしかないよな。」
「それにしても、かなり戦況は悪いですね。」
「……だな。」
俺としてはてっきり、勇者の力で魔王軍将軍を簡単に捩じ伏せられるかと思っていた。
だが、実際の魔王軍の実力はこの1年間で誰1人として魔王軍の将軍すら倒せていないのも納得出来るレベルだった。
「司さんと正義さんが対峙している迷兎将軍 ラビリンスは、どんな攻撃も防御されるのと次々に召喚される魔物が厄介……更に、あれで本体じゃないと来ました。」
「ゲームで言うと、ひたすら配下を呼び出して戦わせるタイプのボスみたいな感じか……」
司と正義の様子を見ながら、兼人と俺はそう分析した。
「続いて茜さんが対峙している王虎将軍 シトラは、小細工無しに圧倒的な攻撃力と防御力を誇っていて、魔王軍将軍の最強格と言われても納得の実力です。」
「ゲームで言うと、攻撃力と防御力が共にカンストしてる裏ボスみたいな感じか……にしても、あの茜がまるで相手にならないとか……」
マジで、茜の力が最強だと思っていた俺達は井の中の蛙だった訳だ。
「……で、最後に欲豚将軍 タブルドですが……奴は、理性も無く、攻撃力も藤四郎さんのバフがあれば生き残れる程度のものですが……特筆すべきは、防御力が桁違いな点ですね。」
「……ゲームで言うと、防御力がヤバ過ぎてどんな攻撃でも全くHPを減らせないボスか……って今思ったんだが、この3体が1度に出て来るってゲームだったら確実にクソゲー呼ばわりされてるぞ。」
「……多分、他の将軍もそんな感じだと僕は予想しています。つまり、そんなクソゲーみたいな環境で1年も生き抜けた事が幸運としか言えないレベルで、この国は危機的状況だったんですよ。」
改めて聞かされると、壮絶な話だった。
多分、王都が比較的平和なのは結界のお陰だろう。
逆に、結界の無いナフリーの故郷みたいな小さな村はどんどん壊滅していったであろう事は想像に難くない。
「……勝てると思うか?」
「信じるしかないですよ。……本当に、何で僕は勇者なのに戦う力を持たないんでしょう……」
「兼人……なあ、少し【補助全般】について調べて貰っても良いか?」
「……え?」
やはり、この危機的状況で何もしないなんて無理だ。
今、冷静になれてるのは犠牲者が出てないから。
……エルリスさんが、最初から勇者任せで兵は出さないと決めたからだ。
いや、よく考えたら何で商人が王都防衛の指揮とってんだよ!?
「……とにかく、俺だってもっと役に立ちたいんだ!」
「ふぅ……分かりました。これも僕が出来る事だと思って取り組みます。」
「ああ、頼む。」
こうして俺達は、安全地帯で自分達が出来る事を始めた。
……全ては、この争いに勝利するために……
ご読了ありがとうございます。
一気に新キャラを2人も投入しました!
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。