21.魔王軍との初戦闘 迷兎
どんどん書きます!
(扇羽 司視点)
あれは、確か1年前だったかな……
「キャ~!司様~!」
「こっち向いて~!」
「うっ……」
ードサッ……
「こ、この娘倒れたわよ!?」
この時、ボクは高校で……俗に言う"王子様"ポジションに居た。
ボクを見た女子達は黄色い声援を送り、中には気絶する娘も居た程だ。
「うん、やはりボクは今日も美しい。」
何より、ボク自身がそれを良しとしていた。
というのも、昔から男っぽい格好に憧れがあったボクは徹底的に"王子様"らしく自分を磨き続けて来ていたからね。
……でも、そんなボクでも嫉妬を向けられる事はある。
「あいつ、女子の癖に男みたいな格好しやがって……」
「ほんとキモい。」
「ってか、イタいよね?」
……ボクは、それを無視し続けていた。
いや、聞かない事にしていたという方が正しい。
だが、それは悪手だった。
「司の奴は女をエロい目で見て……」
「体育の着替えとか隔離した方が……」
「女を取っ替え引っ替えしてるって噂が……」
「あの男女、何が王子様だよ。」
……ボクに対する悪い噂は、瞬く間に広がった。
別にボクは同性愛者ではないのに、ただ男装しているだけでそうだと決めつけられた。
弁明すると、ボク自身は同性愛者の方に偏見は持っていない。
だとしてもボクが同性愛者だというのは見当違いだったし、女を取っ替え引っ替えもしていない……
なのに、それは事実として広まり、ボクに黄色い声援を送っていた娘達もボクから離れていった。
「……ボクを応援していたのは、ボクから好意が向けられないと思っていたからなのかい?」
誰も声援を送らなくなった廊下で、ボクは1人呟いていた。
でも、事態はそれで終わらなかった。
「あ~……皆も知っていると思うが、この度女子生徒の下着が盗まれるという事件が発生した。……犯人は今名乗れば、警察沙汰にはしない、というのが被害生徒からの言葉だ。」
高校の女子更衣室で起きた女子生徒の下着盗難事件。
当然、犯人捜しが始まるが……
「司じゃないのか?」
「あの女好きならあり得るな。」
「遂にやらかしたか。」
「幻滅した……」
女子更衣室に入れて、下着に興味がありそうという理由でボクは疑われ……それもまた、事実として広まった。
「だから、ボクはやってないと……」
「司……今なら警察沙汰にならない、白状するべきだと思うぞ。」
「っ!?……先生まで噂を鵜呑みにするのかい?」
先生まで噂を鵜呑みにしている姿を見て、ボクが抱いたのは失望だった。
ボクはただ、"王子様"に憧れていただけだ。
別に制服はきちんと女子用を着用していたし、校則違反な格好をしていた訳でもない。
なのに、ボクはいつしか悪者にされ、居場所を無くしていった。
物的証拠がないので、警察には突き出されない。
でも、周りの生徒や先生すら、ボクを犯人だと疑っていた。
……今思えば、あの学校が歪んでいただけだろう。
でも、当時は世間なんてこんなものだとボクは思い込んでいた。
だからボクは学校外に助けを求めず、どんどん孤立していった……
……あの時までは。
「お、近頃噂の"王子様"チャンじゃね?」
「……誰だい?このボクに話しかけるのは……」
近所の街中を歩いていたボクは、突然何者かに話しかけられた。
「俺チャン?俺チャンは金村 正義!キラキラネームなのはご愛敬っしょ!」
「……癖が強いね。」
「"王子様"チャンにだけは言われたくないっしょ!」
この時、ボクに話しかけて来た男……当時他校の生徒だった正義君との出会いは、ボクを孤独から救ってくれるんだけど……うん、もう時間かな。
過去を思い返していたボクの意識は、そこで現実に引き戻される。
ースタッ……
「うおぉ……司チャン、大丈夫っしょ?」
「え?あっ……うん。……少し昔……正義君と初めて会った時の事を思い出していてね。」
「……あの司チャンが暗黒絶望期だった頃ね。」
「ふふ、そうだね。」
……ボクと正義君は、この世界に転移させられる前からの付き合いだ。
でも、それを話すと逆説的にボクの過去まで話さなきゃいけないから、皆には隠している。
「ま、それは一旦置いとくっしょ。……で、お前がラビリンスって訳?」
「ふふふふふ、そうですピョンね~。」
「ふむ、見るからに不気味だね。」
ボク達の目の前に居たのは、空中浮遊しながら不気味に躍り、顔にはピエロの仮面を被ったバニーガール姿の銀髪女性……の形をした人形だった。
「……こいつを殺れば、魔物はこれ以上生み出されないっしょ。」
「ふむ、では倒すとするか。」
ボクは、すぐに戦闘態勢に入る。
だが、ラビリンスは特に何もせず……
「ふふふ、ここが何処か分かってますピョン?魔物の群れの中心ですピョンよ?」
「「「「「グギャァァ!」」」」」
「「「「「ブヒィィィ!」」」」」
「う~ん、これはヤバいっしょ。」
「……これは想定内かい?」
「勿論っしょ!」
ラビリンスは、ボク達の能力を知らない。
なら、それを利用する。
「……【絶世の美】!」
「……【意識改変】!」
「「ゴブリンキング及びオークは」」
「同士討ちをせよ!」
「同士討ちするっしょ!」
ボクと正義君は、周囲の魔物に同士討ちの命令を下す。
すると……
「グギャァァ!」
ーザシュ!
「ブヒィィィ!」
ーゴシャ!
「……ふむ、洗脳系のスキルですピョンか……」
同士討ちを始めたゴブリンキングやオークを見て、ラビリンスはボク達のスキルを理解したらしい。
……でも、これで終わりにするつもりはない。
「ラビリンス、次はお前さ。」
「ふふふ、そうですピョンかそうですピョンか……でも、残念だったピョ……」
「ラビリンス、自害せよ!」
「ラビリンス、自害するっしょ!」
ボクと正義は、共にラビリンスに自害を命じた。
……が、
「ふふふ、人の話は最後まで聞くピョンよ。」
「なっ……」
「ちょっ……」
……命令は、実行されなかった。
「私にはスキル、【完全自立命令系統】がありますピョンから、他者からの命令は完全無効ですピョン。」
「……つまり、よりにもよってボク達と相性が悪いって訳か……」
「なら、実力行使に切り替えるっしょ!」
「そうだね……【美しき神弓】8連射!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュン……
洗脳系スキルが効かないと分かった瞬間、ボクは咄嗟に【美しき神弓】を8発撃っていた。
でも……
「私は非力ですピョンからね。【防御障壁】ですピョン。」
ーパンパンパンパンパンパンパンパン!
「ふむ、防がれたようだね……」
ラビリンスは魔法陣の様な【防御障壁】を展開し、あらゆる方向から不規則な軌道で迫り来る魔力の矢を全て防ぎ切った。
「続いて【迷宮創造・即席版】ですピョン!」
ーブワ~ン……
「グギャァァァァァァァァ!」
ラビリンスは……何をした?
【迷宮創造・即席版】と告げた瞬間、ゴブリンキングより遥かに大きなゴブリンが現れて……
「ゴブリンロード、そいつ等を潰すピョン!」
「グギャァァァァァァァァァァ!」
ゴブリンロード……これは厳しいね……
「正義君、行けるかい?」
「それはこっちの台詞っしょ!」
ボク達は、ラビリンスと対峙する。
勇者として、ここでラビリンスの分身体を倒して魔物の軍勢をこれ以上増やさないために……
ご読了ありがとうございます。
司と正義の過去の続きは、また先の回で。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。