168.残る災厄
フェニルムは封印され、邪神も地に落ちた……
最終決戦も後半戦突入です!
(俯瞰視点)
ードシィィィィィィィィィィィン!
邪神が地に落ちた。
そんな光景を前に……
「……あれが邪神ですニャンか……小生達でどうにか出来ると良いんですニャンが……」
……ナンドレアは、そう呟くしかなかった。
が、それに対し……
「あらぁ♥️?……ナンドレアちゃん、今更怖じ気づいちゃったのぉ~♥️?」
「何事も諦めないのが肝心ですのねん!」
……メルシュラとルルネンが、冷静さを保ったままそうナンドレアに告げた。
「そうは言いますニャンが、これは……む?……あの邪神、何やら銛を引き抜こうとして……」
ーブチブチブチ……ブチュッ!
「「「っ!?」」」
『あ~、流石に【神獲りの銛】が引き抜かれたであ~るか……取り敢えず、さっきまで【神獲りの銛】に回してたエネルギーをトドメ用の【崩雷砲】に回し始めるであ~るから、しばらく時間稼ぎを頼んだであ~る!』
蛸足を使い、自身に刺さった銛を刺さった部位の身ごと引き抜いた邪神。
それを見たプルスレゼスは、トドメ用の【崩雷砲】を撃つ準備に舵を切った。
「……先程上がった花火が確かなら、既にフェニルムは討伐済みという事ですニャンよね……ああ、小生胃が痛いですニャン……」
「うふふ♥️……こっちも負けてられないわねぇぇぇぇぇぇ♥️!」
フェニルム討伐の報を受けていた事もあり、胃を痛めるナンドレア。
対するメルシュラは臆さず闘志を燃やしていて……
「なら、まずは私が行きますのねん!……【傀儡召喚】、からの【傀儡の行進】なのねん!」
ーファンファンファン!……ドドドドドドドドド!
先発としてルルネンが【傀儡召喚】と唱えると何処からともなく大量の人間サイズの木製人形が召喚され、ルルネンが【傀儡の行進】と唱えた瞬間にその人形の軍団が邪神へと走り出した。
「ほんと、いつ見ても壮観ですニャンな……」
「さ、アタシ達も行くわよぉ~♥️!」
ルルネンの傀儡部隊に続く様に、ナンドレアとメルシュラも前へと進む。
……地に落ちた邪神に引導を渡すべく、商人達は命をかけるのだった……
時を同じくして、戦場の魔王軍側後方にて……
「……あ、あの遠くに見える山の様に巨大な大蛸はドラグ様の創造主様でシュルか!?……否、それより先程フェニルムさんの魔力反応が消えた事も気になりまシュル……」
邪神の出現と、フェニルムの魔力反応消失。
それを受け、戦線の後方で戦場全体を見ていたスネイラは分かりやすく狼狽えていた。
「ふぅ……呪いで雑兵を強化したまでは良かったでシュルが、まさか向こうも人海戦術を使って来るとはこのスネイラも予想だにしていなかったでシュル……加えて、創造主様の出現とフェニルムさんの魔力反応消失……これはどう考えても想定通りに行けないでシュルね~?」
冷静に現状を把握しようとするも、スネイラは何処か焦りを見せていた。
というより前提として、スネイラは後方支援を得意とする魔王軍幹部だった。
だというのに、いよいよサボり魔のフェニルム以外の幹部が居なくなり、自身が表舞台に上がる羽目になってしまった。
よって、そもそもの実戦における経験が浅かった。
「チッ!……これはもう少しだけ手駒を増やすべきでシュルね……【毒魔召喚】でシュル!」
ーファンファンファン!……ぽよぽよ……べちゃっ!
手駒を増やすべくスネイラが召喚したのは、紫色の体色が特徴的な人間サイズのスライムこと、ポイズンスライムの大群だった。
「さあ皆さん、人間共を根絶やしに……」
疑似ゾンビ化した雑兵魔物に加えてポイズンスライムの大群……
スネイラからすれば、兵力は万全になったと思われた。
が、スネイラの命令が終わる前に、その人物はやって来た。
「はいそこまでやで~?……"解毒ポーション"、大盤振る舞いや!」
ーぽいぽいぽいっ!……パリン!パリン!パリン!
「なっ!?……や、辞めるのでシュル!」
突如としてそこにやって来たエルリスが、ポイズンスライムの大群に向けて"解毒ポーション"を大量に投げまくったのだ。
すると……
ーぷるるるる……ぷしゅ~……
解毒されてしまったポイズンスライムが突然震え始め、そのまま溶けてしまった。
「ポイズンスライムは解毒すれば死滅する……この世界なら誰でも知っとる常識やで?」
「あ、貴女の事は知っていまシュル……先代魔王を討ち倒した警戒対象の1人、エルリスとかいう名のエルフでシュルね!」
「正解やで~。……ついでに、人間陣営の遥か後方で聖歌隊による強化を受けて戦場の味方に毒や呪いが感染せん様にしとるんはウチの昔からの仲間や!」
「ぐぬぬ……」
顔は目の模様が書かれた布に隠れて見えないとはいえ、スネイラの言葉からは悔しさが滲み出ていた。
「あ~、良い気味や良い気味や。……ほな、さっさと用件済ませよか~っと!」
「そう簡単には負けませんシュル!」
こうして始まったエルリスとスネイラの勝負。
ただの行商人?と魔王軍の宰相の衝突は、極僅かの者以外には気付かれる事すらなく、静かに幕を開けたのだった……
更に時を同じくして魔王城、玉座の間にて……
「ククク、余の創造主が地に落ちたか……実に滑稽なものだな!」
今もなお玉座に縛り付けられたままのドラグは、まんまと現世の地に落とされた自らの創造主……邪神を嘲笑っていた。
「余等に現世の侵攻を命ずるだけ命じて丸投げしていた創造主が死のうと、余の知った事ではないが……うむ、そろそろか?」
ドラグにとって邪神は、自らの創造主という以外に思うところはなかった。
元より邪神への忠誠心はない。
かといって翻意がある訳でもない。
何処まで行っても、ドラグにとって邪神は自らを作り出した創造主であり、それ以上でも以下でもなかった。
そして、そんなドラグの興味はすぐに他の事柄へと移った。
と、次の瞬間だった。
「頼も~~~~~~!」
ーバンッ!
「ククク、ようやく来たか……今か今かと待ち焦がれたぞ、勇者共よ!」
勢い良く開かれた玉座の間の扉。
それに対し、ドラグは嬉々として扉を開けた者達を迎え入れた。
「おい茜、何やってんだよ!」
「え~、この掛け声ってそんなに駄目~?」
「いやいや、開けた瞬間に攻撃を撃ち込まれてもおかしくなかったっしょ!」
「やれやれ……茜君は本当に……」
「……ふむ、こいつが今代の魔王でありんすか……」
扉を開けた招かれざる客は、言わずもがな勇者の面々だった。
そして、その姿を見たドラグは口角を上げ……
「嗚呼……余がこの世界に生まれ落ちた直後、余の手で殺した亡者共に動きを封じられた時は思わず怒り狂ったものだが……何事も慣れるものだな……」
「よく言うよ。……実際、その状態でも玉座の間くらいなら動き回れるんでしょ?」
「ほう、知っておったか……」
ドラグの両手足と腹を貫く魂の楔。
それを恨めしそうに擦りつつも、ドラグは茜の言葉を否定せず、寧ろ肯定した。
「……ほんと、私がそれを知った時は無理ゲーだと思ったよ……」
「そうかそうか。……であれば、余はお主が言うところの無理ゲーらしく……圧倒的な理不尽でお主等を蹂躙してくれようぞ!」
ートントン……ピキピキ……ガシャァァァン!
ドラグが小刻みに自身が座る玉座を爪で叩くと、そこからヒビが入り、やがて玉座がバラバラに崩れてしまった。
「……皆、来るよ!」
「さあ勇者共……余と思う存分死合おうぞ!」
そうして玉座から解き放たれたドラグは狂喜的な笑みを浮かべながら、目の前に立つ勇者達へと宣戦布告をするのだった。
こうして3ヶ所で始まった熾烈な争い。
その勝者が誰になるかは……この世界で神すらも分からない事であった……
ご読了ありがとうございます。
邪神は弱体化し、スネイラも戦闘は不得意なので、そこまで尺はとりません。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。