164.フェニルムの処遇
フェニルム戦のその後です。
(少しだけ時は遡り、フェニルム視点)
シトラが目前に迫ってる。
この距離は確実に逃げ切れない。
「ちょっ、タン……」
「タンマもコンマもねぇガルァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
あ、これ駄目だ~。
俺っち死んだ~。
「………………………」
……何か目に写る光景がゆっくりになったけど、別に俺っちの体がその分早く動いたりはしない。
ああ、そういえば聞いた事あったっけ~。
死ぬ直前の光景は、ゆっくり見える事があるって。
「…………………………」
……あ~あ、ミスったな~。
シトラが出て来た時点で逃げときゃ良かったのに、わざわざ戦いに付き合ったりしたから~……
……あはは……
でも、不思議と後悔はしてないんだよな~。
「…………………………」
……何だかんだシトラは好きだったから、倒されるのも嫌じゃない。
運が良ければ、また復活出来るかもしれないし。
……あはは……
「………………………………………………………………」
あ、もうシトラの武器がすぐ横まで来てる。
そろそろ時間切れか~。
うん……やっぱ、死にたくないかもしれっ
ードンッ!グシャァッ!
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(ラビィネル視点)
「……うわぁ~、見事に肉塊だピョン……」
「グロいガルなァ……」
あたちとシトラスの前に転がっていたのは、かつてフェニルムだった肉塊……
……見てるだけで吐き気を催す"これ"を前にして、あたち達は後始末に頭を悩ませていたピョン。
というのも……
「……これでも復活するかもしれないってマジだピョンか?」
「う~ん、【争いなき世界に祝福を】を解いた瞬間に復活しそうな空気は感じるガル……」
……今はフェニルムも一時的に死んでるピョンけど、スキルを無効化させる【争いなき世界に祝福を】を解除した瞬間にまた復活する可能性があるピョン。
「……流石にずっと発動しておくのもキツいピョンし、そもそも【争いなき世界に祝福を】はあたちを除く2陣営の人物が争っている状態で一定範囲内に居る場合にのみ適用される技だピョンから……」
「それは作戦会議の時に聞いたガル。……ついでに、夢都に転移させるのも無理だって……」
「あれも転移させられるのは味方判定の人物かその持ち物に限定されるピョンから……この肉塊をシトラスの持ち物って判定にすれば……いや、やっぱりこんな制御不能な爆弾を夢都で抱えたくはないピョン!」
一応、策はあるピョン。
でも、それは納得するのが難しいものであって……
「……ま、王女殿下から言われてたフェニルム討伐自体は出来たって考えても良いガルかなァ?」
「念のため、1回立ち会って貰うピョン。……それはそうと、本当に後悔しないピョンね?」
「……殺せないならそうするしかないガルよ……」
……シトラスは苦虫を噛み潰した様な顔をして、肉塊を見下ろしていたピョン。
「じゃ、ミリセリア第一王女殿下を呼んで来るピョン!」
「頼んだガル……」
……何というか、不死持ち相手だとスカッとする結末は期待出来ないピョンな……
そう考えながら、あたちはミリセリア第一王女殿下を呼びに走ったピョン……
そしてミリセリア第一王女殿下がやって来ると……
「……これが、あのフェニルムですか……」
「そうだピョン!」
「ガル……」
ミリセリア第一王女殿下は口を手で覆いつつも、フェニルムだった肉塊を見下ろしていたピョン。
「……で、これを放置しておくとほぼ確実に復活するのですよね?」
「だから、これはもう封印するしかないピョン!」
「オレとしては納得いかねぇガルがな!」
フェニルムはほぼ確実にまた復活する……
それが分かっているなら、残る選択肢は1つ……封印だけだったピョン。
「封印……まあ、それでもシトラスへの恩赦は与えますけど……」
「何か悪いガルなァ……本来なら許されなくてもおかしくねぇってのに……」
「……貴女が残りの生涯、罪を背負って生きる気なのは分かりましたから。……とはいえ、当分は勇者アカネ預かりの身分になるでしょうが……」
「文句はねぇガルよ……」
……何か深刻な話をしてるピョンが、あたちを忘れてたりしないピョン?
あ、その顔は忘れてないって言いたげだピョンね?
説得力ないピョン!
「ハァ……ま、さっさと封印するピョン!……対象指定:フェニルム、【未来への贈り物】へ封印だピョン!」
あたちがフェニルムを【未来への贈り物】へ封印すると宣言した瞬間、あたちの前方にスイカ程度の大きさを誇る銀色の球体が現れたピョン。
すると……
ーウィ~ン……シュポッ!
「っ!?……肉塊が一瞬で……」
「ガルァ……やっぱ、ぶっ壊れガルな……」
球体は上下に別れると、その中に有った黒い球体がフェニルムの肉塊を地面に染み込んだ血に至るまで吸い込んでしまったピョン。
ーウィ~ン……
「ふぅ……これで封印は完了だピョン。……あ、一応言っておくピョンが、この球体の中は再び球体が開けられない限りは時間が停止した異空間になってるんだピョン。……だから、またこれが開かれるまでは……」
「……フェニルムは死んだまま、ガルかァ……」
フェニルムを完全に殺す事は叶わなかったピョンが、封印出来るだけで万々歳だピョン。
「もっとも、これに入れれるのは"物"限定だピョンから、フェニルムみたいな生命体を入れたい場合は最低でも1度は物言わぬ骸に変える必要があるピョンけど……」
「……流石に制約もあるガルよなァ……」
「そうじゃなきゃ、最初からシトラスの手を煩わせる必要もなかったピョンが……っと、そろそろミリセリア第一王女殿下は指揮にお戻りになった方が良いピョンよ?……一応、あたちもここに来たタイミングで【異世界兎物語】を放っておいたピョンが……油断は出来ないピョン!」
「そうですね……では、"それ"の管理はしっかりする様に頼みますよ?」
うおぉ……
圧がヤバいピョン……
「も、勿論だピョン!……もう永遠に開けない様にするピョン!」
「ふぅ……では、最後にフェニルム封印を知らせる合図の花火を上げましょうか……」
「そうするピョン!」
……こうして、あたち達はフェニルムの討伐……もとい封印を成し遂げたピョン。
ただし、この最終決戦においてフェニルム自体は大した驚異ではないピョン。
……毒蛇宰相も邪神も魔王も未だ健在……
喜んでばっかりも、いられなかったピョン……
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(俯瞰視点)
「ふむ、まだであ~るか?」
「まだでござる!」
戦場から少し離れた地点、そこに設置されている"ゴッドキラー1号"の操縦席にて、プルスレゼスと穂魂が会話をしていた。
「う~む……"その時"が来れば教えるとの事だったが、向こうがどうなっているか分からないとモヤモヤするのであ~る……」
「そう心配せずとも、拙者が死神長からの連絡を受け取る事になっているから大丈夫でござるよ?」
「ハァ……分かっていないのであ~る。……人間というのは自身が関われない事でも案外心配するものであ~るぞ?」
「それぐらいは分かっているでござるが……」
穂魂は死神長とプルスレゼスを繋ぐ伝達役を担っていたが、未だ"その時"の連絡はなかった。
「……こちらはもう、過去の英霊達を信じるしかないであ~るな……」
「邪神討伐、成功すると良いでござるが……」
……とまあ、2人はそんな会話をしていた。
その直後だった。
ーヒュ~……パンッ!
「む、今のは……」
「確か、炎鳥将軍 フェニルムが討伐された時の合図って言われてた花火でござる!」
ミリセリアが居た辺りで上がった花火を見て、2人はフェニルムが討伐されたという事実を察した。
「……ふむふむ、これは負けていられないのであ~る!」
「ハァ……この波に乗れると良いんでござるが……」
そうして、2人は思い思いの感情を抱きながら"その時"を待った。
……神界に居る英霊達を信じながら……
ご読了ありがとうございます。
ラビィネルは一見すると何でも出来る様に見えて、実際は制約多めです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。