162.双虎は挑む
はい、各地で大物との決戦開始です。
(シトラス視点)
「おいおい、それが同じ魔王軍幹部だった俺っちに言う事か~?」
「……オレの故郷を襲った事、オレは許してねぇガルよ!」
……オレはこいつが心底嫌いだったガル。
でも、何をやっても殺せねぇのを理解しちまったガルから、次第に殺意や恨みを抱かなくなっちまってたガル。
しかしまあ、未だに殺せるなら殺してぇ相手である事に変わりはねぇガル!
「ふ~ん?……ま、どうせ俺っちは死なないし好きにすれば良いよ?……ただまあ、気にはなるよな~……」
「気になるって、何がガル?」
「そりゃ勿論……シトラの罪が俺っちを殺した程度で不問になるのか?……って事に決まってるだろ?」
「……っ!」
あぁ、こいつも気付いたガルか……
さっきのミリセリア第一王女殿下からのお言葉……
フェニルムを殺す事を贖罪の機会とするってのはつまり……フェニルムを殺せば無罪放免って言ってるのと同じだったガル。
「いや~、確かにシトラは直接人間側の誰かを殺した訳じゃないとはいえ……シトラが魔王軍に与した事で巡り巡って死んだ奴等だって居ただろうに……それが俺っち1人を殺した程度でチャラになると、本気で思ってる?」
「……本当に死にてぇみてぇだガルな……」
んな事、オレが1番分かってるガル!
……だからこそ、未だに里の奴等とちゃんとした話すら出来てねぇガルし……
合わせる顔がないとはこの事ガルな……
「お~、怖い怖い。……で、この状況って何処まで想定内?」
「テメェに関する事ならここまで想定内だガル。……怠け者なテメェの事だガルから、手っ取り早く手柄を立てて戦線離脱するために総大将の首を狙うのは想像出来たガル!」
一応、乱戦の方に行く可能性も考えたガルが……こいつの場合はそれすら面倒に感じそうだガルからな……
足止めされるだけならギリギリでサボる口実にしそうだガルが……流石に乱戦は面倒臭く感じそうって勘は当たってたみてぇガル。
「へぇ~?……ま、ここまで想定通りなら……ここ最近は殺意すら向けて来なかったシトラが俺っちを殺す気になったって事だろ~?……となると、これはシトラが俺っちを殺す手段が手に入ったって考えた方が良いかな~?」
「……テメェ、意外に頭は回る方なんガルよな……」
フェニルムの推理は当たってるガル。
それこそ、面倒事を片付けようとしてる時は普段の何倍も賢くなるガル。
……もっとも、普段が普段な上に敵から足止めされる事すらサボる口実にするフェニルムが本気で頭を使う事なんて滅多にねぇガルが。
「ふむふむ……あ、念のため言っておくけど、ドラグ様が死ぬのを待って俺っちを消滅させるってのは無理だからね~?」
「ガル?」
「確かにドラグ様が作り出した魔物達はドラグ様が死んだら連鎖的に消滅しちゃうけど……その"死"すら、俺っちの【不死鳥】は否定しちまうんだよな~……」
「……ふん、それがどうしたガル?」
んな事、こっちはとっくに知ってるんガルよ!
「あれ?……もしかして知ってた~?」
「想像に任せるガル!」
「ほうほう……そうかそうか……なら、残る手段はスキルの封印か無効化ってところかな~?」
「っ……」
……やっぱり、時間稼ぎも限界ガル……
これ以上の会話は、フェニルムに情報を与え過ぎちまうガル……
そう思った瞬間ガル。
「ま、待たせたピョン!」
ーシュン!
「……遅いガルよ!」
ラビィネルが、この場に転移で現れたガル。
「ん~?……ラビリンス……じゃないな~?」
「あたちはラビィネル、こう見えて夢都の管理者を務めてるピョン!」
「ラビィネル!……会話はせずにアレの機会を待っとけガル!」
「ピョン!?……わ、分かったピョン……」
フェニルムの討伐にはラビィネルが必須だガル……
……とはいえ、ラビィネルが直接戦闘に加わる訳じゃねぇガルが。
「アレ、か……どうやって俺っちを殺すか、期待しとくよ~?」
「さっさとくたばれガル!」
その言葉を合図にするかの様に、お互い瞬時に足を踏み込んだガル。
直後、オレとフェニルムの間合いが重なり、そして……
オレとフェニルムの攻撃が、それぞれ衝突したガル……
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(タイガーラ視点)
「え~、あちらに見えるのは神界の大海……そこで蠢いているクラーケンの何倍も大きな黒い蛸こそが、今回の作戦で討ち倒すべき邪神でヤンス!」
「……うむ、蛸だな!」
「……蛸ですね……」
「……蛸だガル……」
俺達、つまり邪神討伐メンバーは死神長に連れられる形で、神界の大海にやって来ていたガルが……そこで遠目に見えた邪神の姿は正しく、クラーケンの何倍もデカくて黒いだけの大蛸だったガル……
「あ~……皆さん、想像の何倍も蛸だって感じの反応されちゃってるでヤンスね~……」
「……あれ、知能はどの位あるガルかァ?」
何かどっからどう見ても蛸な邪神を見て、俺は意外にも死神長に対してそう聞いてたガル。
「普通の蛸やらクラーケンやらと変わらないでヤンスよ?……ただ、1度逃げたら次の魔王誕生まで姿を見せない上、魔王が殺されたり自身に圧倒的な危険が迫ったら雲隠れするって習性さえ除けば……」
「……んな奴が、何で魔王なんか生み出すんだガル?」
「だからこそ、でヤンスよ。……邪神は神界だと上位神なんかの天敵が多いでヤンスから、そういった神が簡単には干渉出来ない現世を自分の住み処に変えるための"侵略部隊"兼"環境整備部隊"として、現世の環境に適応させた自身の眷属こと魔王を生み出しているんでヤンス!」
「……迷惑な話だガルなァ……」
それなら神界側でどうにかして欲しいところガルが……他の神相手だと邪神が逃げるんガルよな……
「……そんなこんなで神界側も対策として魔王の誕生地点があるズンダルク王国に勇者召喚の魔法を授けたんでヤンスが……その発動が最低でも魔王誕生から1年後になっちゃったのは申し訳なく思ってるでヤンス……何せ、異世界から人を召喚する魔法な分、制約も大きくなって……」
「……そう、ガルかァ……」
意図せず勇者召喚の魔法について軽く聞かされちまったガルが、多分それ以外だとどうにもならなかった感じの経緯ガルな……
「さて、他の皆さんは準備万端そうでヤンスけど……タイガーラさんはどうでヤンス?」
「ガル?……今更言うのも何ガルが、今の俺に生前程の力はないガル……それでも出来る事をやり切るだけガルが……」
「……死した者は【覇王】にあらず、でヤンスか?」
「そうガルかもなァ。……もし【覇王】が生きてりゃ、メサイアだってもっと早く……」
「……過ぎた事は言わないほうが良いでヤンス……」
……俺の【覇王】は、俺が死んだ瞬間から使えなくなっちまったガル。
理由は知らんガルし、俺としても死んだ以上は使う場面なんてねぇと思ってたガルが……
「……ほんと、何で俺が選ばれたんだガル?」
「ハァ……あっしとの戦いは参考にしないで欲しいでヤンス。……あの時は死者と死神って立場のせいで死者側の出力が制限されてただけでヤンスし……」
「ガル?……それ、初耳だガル!」
道理で俺の連続攻撃もメサイアの魔法もあんまり効いてなかったんだガルな……
「まあまあ、それは置いておくでヤンス。……確かに【覇王】が生きてたらあっしは一撃で沈んでたかもしれないでヤンス。……でも、【覇王】がなくたってタイガーラさんが実力者の英霊である事実は変わらないでヤンス!」
「……その言葉、信じるガルからなァ?」
ハァ……ったく、どうしたもんガルか……
ーぐいっ……ぐいっ……
「……準備運動でヤンスか?」
「ただ肩を軽く動かしただけだガル。……っと、俺も準備万端ガル!」
辺りを見渡せば、弓を構える者に拳を構える者、魔法杖を構える者に刀や包丁といった刃物を構える者……
……誰が誰かはあんまり分からねぇガルが、どいつもこいつも確かな実力者だって一目で分かるガル。
寧ろ、俺の方が分不相応な気すらするレベルだガル。
「……タイガーラさん、貴方も他の人達に並ぶ実力者でヤンスよ?」
「勝手に心読むなガル!」
「表情を読んだだけでヤンスよ?」
「知らねぇガル!……ってか、俺にばっか構い過ぎだガルァ!」
結局、俺は開戦のその時まで、死神長と馬鹿みてぇな会話をしてたガル。
……んで……
「【万雷】!」
ある英霊が放った雷魔法が、開戦の合図としてその場に鳴り響いたガル……
ご読了ありがとうございます。
元凶なのに魔王の前座にされる邪神……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。