161.総大将は堂々と
今回はミリセリア第一印象王女の話です。
(俯瞰視点)
「ひょえ~、地上は俺っちが思ってる以上に混沌としてるな~……」
フェニルムは飛びながら、そう呟いた。
彼の視線の先、その光景は……
ーごそごそ
「ぬおっ!?……私めが頭を潰した筈の魔物共が起き上がって来ましたぞ!?」
「こっちも首を刺した筈の魔物が起き上がってら!」
「こちらも同様の現象が……」
「……私の方で燃やした個体は復活していない事を考えると、生身の状態で残した場合に限りゾンビの如く復活するといった感じですの?」
……頭を潰そうが首を刺そうが動き続ける魔物に対し、人間側が狼狽えている光景だった。
「しっかし本当にスネイラ様の呪いは半端ないったらありゃしないな~。……俺っちが不死身じゃなきゃ、あの呪いの対象に含まれちまってたところだ……」
【凶魔獣化の呪い】は、寿命の大半を代価として歪な強化を施す呪い。
故に、不死身で寿命という概念すらないフェニルムは必然的にその呪いから逃れられたのだ。
「……ま、俺っちとしてはあんな混沌とした戦場に足を踏み入れるなんざごめんだけどな~。……さっさと敵の総大将の首を獲ってサボるか~……」
……何処までも怠けたがりなフェニルムは、文句を言われずにサボるために相手の総大将のもとへ飛んだ。
到着した瞬間に、勝負が決まると過信して……
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(浅山 藤四郎視点)
「はい到着~♪……いや~、ラビィネルちゃんのお陰で何とか魔王城まで来れたね~!」
「……改めて、何でもありだな……」
……俺、茜、司、正義、そして光枝さんの5人が今立っているのは、まさかの魔王城の入り口だった。
「……うん、ゾンビ化した魔物の軍勢は何とかスルーしたのだって、ラビィネルちゃんにかけて貰った【裏方は姿を見せず】の効果あっての事だからね……」
「確か、敵から一定距離離れた上で敵対行動さえしなきゃ絶対に誰からも気付かれねぇってぶっ壊れな技だったよな?」
「要は文字通り、裏方になり切れば敵からバレないって事だよね。……だからま、ここが限界。……魔王城への侵入は完全な敵対行動だから……」
「……ここまで来りゃ、俺達は裏方から登場人物にならざるを得ねぇしな……」
ラビィネルのぶっ壊れ技により、魔王城までやって来たは良いものの、隠密行動もここまでだ。
こっから先は、どうやっても相手に察知されちまう。
「……じゃ、そろそろ行くっしょ……」
「そうしようか……」
「そうでありんすね……」
「うん、賛成!」
「ハァ……」
そうして、俺達は魔王城へと足を踏み入れる。
と、その瞬間……
「……そういや、シトラスちゃんもこれかけて貰ってたっけ……」
「……初耳だが?」
「お兄ちゃんは知らなくても良いからね。……でもまあ、向こうもそろそろ登場人物になる頃合いかな?」
「な、何が何だか分かんねぇ……」
最後に茜が意味深な事を言ったが、俺達はそれを半分聞き流しつつ魔王城へ侵入するのだった……
……にしてもシトラスに隠密行動させるって、何が目的なんだか……
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(ミリセリア・ズンダルク・レブラトラ視点)
「総員、私の声を聞きなさい!……中央は充分、右と左に戦力を割くのです!」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
「「「「「「「おうよ!」」」」」」」
……総大将の役割は、士気の向上と戦場全体へ指示を飛ばす事……
私はそれを粛々と実行しつつ、戦う者達へ祈りを込めていました。
「……この戦いはラビィネルのお陰でこちらに犠牲者が出る可能性が大幅に減っているとはいえ……やはり慣れませんね……」
自身の策で多くの兵や民が死ぬ……
その重みに慣れる気配は、未だ皆無……
「……当のラビィネルとも合流出来ていないのも気がかりですが、見る限り撤退システム?自体は上手く働いていますね……」
こうしている今も、多くの兵や冒険者が傷を負い、夢都へと転移させられています。
……となれば、ラビィネルのアレコレも上手く働いているのでしょう。
しかし、それでも私の不安は消えません。
「……もう、あの別れは懲り懲りですからね……」
私はそう呟き、脳を並列稼働させながら過去に思いを馳せました。
……………。
………………………………。
…………………………………………………。
あれはそう、ラウルと最後の会話をした時の事……
「……ラウル、私が言わずとも分かっているのでしょうが、この任務に成功の見込みはありません。……言うなれば捨て駒同然です……」
「ああ、俺も分かっている。……丁度俺の部下達も、家族と最後の別れをしに行っているところだ……」
私が告げた残酷な現実を聞いても、ラウルは全く動揺していませんでした。
まるで、最初から死ぬ前提の任務である事が分かっていたかの様に……
「っ……私を恨んでください……最愛の恋人である貴方を死地に向かわせ、ここから先多くの民を切り捨てる事になる私を……」
「恨むかよ。……俺にとってミリセリア殿下は、仕える主であり恋人……である以前に、いつまでも手のかかる妹分だ。……あ、今の言葉は不敬罪になるから他の奴等に言うなよ?」
「……王族本人に対してそれを言いますか……」
……私にとって、ラウルは昔から頼りになる年上の従騎士でした。
ですから、恋仲になるのもごく自然な成り行きで……
……もっとも、どう考えても身分違いの恋という点を除けば、ですが。
「あ~……ミリセリア殿下は昔から取捨選択が得意だったな。……俺達が魔王を倒せずに殺され、悪足掻きで魔王の動きを止めたとして……それから起こるであろう魔王の配下による蹂躙で犠牲になる民を取捨選択しなきゃならねぇってのも大変だろうな……」
「……ええ、恐らく何度も死にたくなるでしょう……」
「だが、死ねねぇだろ?」
「そうですね。……私は死ねない……この命が尽きる日まで、私はこの国のために生きなければいけませんから……」
それが私に出来る償い。
簡単に死ぬだけでは、その罪は清算出来ません。
「……じゃ、後は頼んだぜ?……メアリー殿下の事はロウルに任せておくからよ……」
「ええ。……貴方ならきっと、この国の歴史書に書かれてある"一閃の勇者"に劣らない活躍を……」
「いやいや、かの英雄は速度と技術どちらも最高峰だったらしいが……俺は速度は最高峰でも技術は1歩及ばすだ……」
「……ふふ、たった1歩ですか?」
「ああ。……たった1歩、されど1歩だ……」
……とまあ、最後はそんな他愛もない話をして、私達は永遠の別れを済ませました。
思い返せば、私達は最後の最後までお互いを信頼しつつも……お互いを幸せに出来ませんでした。
ラウルは死んで今も魔王を縛り付けています。
私は守るべき民を犠牲にして罪悪感に潰されかけています。
ですが……
おっと、そろそろ物思いにふけるのは終わりにしましょう。
……敵が来ました。
………。
…………………。
……………………………………。
「……さて、やはり来ましたか……」
私の視線の先、そこには燃えながら空を飛ぶ敵……
……"炎鳥将軍 フェニルム"が、私めがけて降下を始めていました。
「やれやれ……さっさと総大将の首を獲ってサボろうか~!」
……本当に、話に聞いていた通りのサボり魔ですね。
とはいえ、私だって魔王軍に首を捧げるつもりはありません。
……私の首を捧げる相手が居るとすれば、それはズンダルク王国の民以外には居ませんので。
あ、そうこう考えている間にフェニルムがもうすぐそこまで降下していますね。
そろそろですか。
「ふぅ……シトラス、恨みを晴らす時ですよ!」
「言われなくても分かってるガルァァァァ!」
ーブンッ!……ブオォォォォォォォォォォ!
「うお~っ!?」
……私の少し前方。
そこには【裏方は姿を見せず】で姿を隠しつつ【覇王獣化】を発動していたシトラスが隠れておりました。
そしてそのまま思いっきり武器を振るって、フェニルムを衝撃波で吹き飛ばしてしまったのです。
「……シトラス、贖罪の機会を与えます。……"炎鳥将軍 フェニルム"を討ち倒すのです!」
「言われなくてもそのつもりだガルァ!」
……いやはや、囮になるのも大変ですね。
「ありゃりゃ~……思わぬ再会だな~……」
「ほんと、会いたかったガルよ。……オレの手でテメェを殺すためにガルが!」
……ふむ、あちらの事はシトラスに任せて大丈夫でしょう。
私は冷静に考えてそう判断すると、再び全体の指揮に戻るのでした……
ご読了ありがとうございます。
ミリセリアは心の底から冷酷になり切れずに苦しむタイプです。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。