157.兄妹の時間
今回は浅山兄妹の話。
(金村 正義視点)
「……お、そこに居るのは勇者の兄ちゃん達じゃねぇか!……ちょいと一杯どうだ?」
ん?
……夢都を散策していた俺チャン達は、何やら飲み屋街らしき通りでお楽しみ中だった様子の冒険者風のおじさんに話しかけられた。
「あ~……ごめんっしょ!」
「ふむ、ボク達としてはご一緒したいんだけど……」
「……僕達、まだお酒を楽しめる年齢ではなくてですね……」
当然、俺チャン達は酒が飲めないので断るが……
「あ?……心配すんな、俺達だって戦の前日に酒をがぶ飲みしたりしねぇよ。……これだって果物のミックスジュースだしな!」
「……なら、ご一緒するっしょ!」
「ボクも賛成だね……」
「ぼ、僕もご一緒します……」
……おじさんが飲んでる物が酒ではないと知り、俺チャン達もご一緒する事になった。
「がっはっは!……にしても、あんた等凄いなぁ!」
「ん?……何が凄い訳?」
「……だって、見るからに若いじゃねぇか。……それなのに、死ぬかもしれねぇ相手と何度も戦ったって聞いてんぞ?」
「あはは、それは……」
……若い、ねぇ……
この世界でも、その認識は変わらないか……
「……でもよぉ、そう考えると俺は不甲斐ねぇよ。……自分より全然若い奴等が、その命を懸けて魔王を倒そうとしてんだから……」
「……だけど、今回の作戦に志願してくれただけで……俺チャンは嬉しいっしょ!」
「そりゃ勿論、自分達の国の危機を前にいつまでも他人頼りってのも出来ねぇしな!……ここで命を張ってこそ、冒険者ってもんだ!」
「へぇ……」
「……そうかい……」
「そ、そうですか……」
……そんなおじさんの話を聞きつつ、俺チャン達もミックスジュースを注文した。
にしても、このミックスジュースはこんな夢都でどうやって作ってんだか……知らない方が良い感じか?
「じゃ、ジュースが来たら乾杯しようぜ!」
「お、良いっしょ!」
とにかく、そんな難しい事も今は忘れ……俺チャン達は偶然の出会いに感謝しながら、今の時間を楽しむ事にするのだった……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(浅山 藤四郎視点)
「……あ~、シトラスちゃん?……ちょっと今からお兄ちゃんと席を外すけど、絶対に着いて来ないでね?」
「分かったガル。……オレに聞かれたくねぇ話ってのは察したガルからな……」
「ははは。……あ、ラビィネルちゃんも勝手に覗かないでよ?」
「わ、分かったピョン……」
……ん?
俺と話?
……ハァ……仕方ねぇな。
「じゃ、行くか……」
「お、話が早くて助かるよ!」
「これでも長いこと、茜の兄をしてるからな……」
「そうだね~。……取り敢えず、あっちのバルコニーに行こうか?」
俺は茜の提案にすぐさま乗ると、近くのバルコニーへと向かう。
そして数分後、バルコニーへと到着すると……
「……うんうん、良い景色だね……」
「……御託は良い。……さっさと本題に……」
「分かってるよ。……うん、分かってるんだ……」
「……茜?」
最初は軽薄な態度で御託を並べていた茜だったが、すぐに真剣な表情を浮かべ……
「……正直に言って、もう限界かな……」
そう、呟いた。
対する俺はというと……
「何が限界なんだ?」
……優しさも何もなく、そう返した。
それに返された茜の言葉は……
「……怪我を負うのも嫌だし、死にそうになるのだって嫌……相手の手札が分かっても、グダグダな策しか思いつかないのも嫌……もう何もかもが嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌なんだよ!」
……という、茜の心からの叫びだった。
「茜……」
「でも、それと同じ位……この国の人達が魔王軍のせいで死んじゃうも嫌だし、シトラスちゃんやラビィネルちゃんに失望されるのも嫌だ!……私は結局、勇者に選ばれちゃう様な人間だから……この国を見捨てるなんて出来ない!」
「……茜……」
……限界が来ても、他者は見捨てられない。
茜だって命が惜しくねぇ訳じゃねぇ。
ただ、自分の命よりも罪なき他者の命を優先してしまうだけで。
そう思っていると……
「……お兄ちゃん、もしこの世界から自分達の世界に帰れるって聞いたら帰りたい?」
「……へ?」
元の世界に戻れるなら帰りたいか?
そう聞かれてNOと返せる程、元の世界に未練がねぇ訳じゃねぇ。
帰れるもんなら帰りてぇ!
……それが何処にでも居る一般人の答えだろう。
そして、畳み掛ける様に茜は口を開き……
「帰れるよ?」
「……ハァ!?」
「……ラビィネルちゃんの能力を上手く使えば、元の世界にだって帰れる……というか、世界間での行き来が可能になっちゃう。……ほんと、こればっかりは色んな別世界を調べてたラビリンス様々だけどね?」
「そ、それは……」
……元の世界に帰れる。
ラビリンスが別世界を調べていたお陰で、俺達は元の世界に……
……ん?
待て、このタイミングで聞く理由は……
「うん、そういう事だよ。……私だって帰りたいけど、それは魔王を倒してから。……もしかしたら、魔王との戦いで呆気なく死んじゃうかもしれないけどね?」
「……他の奴等には聞いたのか?」
魔王との戦いを前に、帰りたい奴だけでも……って事か?
そうなんだろ?
「……聞いてないけど、聞かなくても分かる。……3人とも、魔王との戦いに参加するよ……」
「……俺も3人ならそうすると思うな……」
兼人、司、正義……
3人とも、この世界を見捨てて元の世界に帰る様な奴等じゃねぇ。
……だが、俺は?
俺は、命を張れるのか?
「……お兄ちゃん、逃げるなら今だよ?……恋人を連れて、元の世界に逃げたって……」
「生憎、俺の可愛い恋人達も命を張れる側だ。……絶対、一緒に逃げてはくれねぇ……」
「……だよね……」
「それに……俺だって、そんな恋人達を置いて逃げるのは嫌だしな……」
「……そっか……」
多分、茜は俺の事を心配してたんだろう。
いくら兄妹仲が良くも悪くもないとはいえ、血を分けた家族な訳だしな。
だから、元の世界に帰るって選択肢を提示した。
……でもなぁ、そんな俺だって恋人達を見捨ててまで逃げたりはしねぇ!
「……茜が恋人達にさっきみてぇな無様な姿を見せたくない様に、俺だって恋人達から失望されるの様な姿は見せたくねぇんだよ!」
「……後悔しない?」
「後悔なんかしねぇ!……『俺がこの世界を救う!』なんて身の程知らずな事は口が裂けても絶対に言えねぇが、それでも俺は……」
「……ふ~ん、言ってくれるね……」
ーぽろっ……
茜は1つ残った、眼帯をしてねぇ方の瞳から涙を落とすと、静かに目を閉じる。
「……茜は相手の手札を知れてるかもしれねぇが、明らかに策士に向いてねぇ!……迷都攻略でのグダグダっぷりが良い例だ!」
「うっ……」
「かといって、俺だって策士は無理だ!」
「ずこ~!」
茜はわざとらしいオノマトペを口にすると、ずっこけのリアクションをとる。
「……つまり、何が言いてぇって……茜も俺も、出来る限りの事だけをやってりゃ良いんだ!……下手に出来ねぇ事に挑戦する必要なんてねぇんだよ!」
「……うん、そうだね……その通りだ……」
「だから……何か弱みを見せたくなったら、遠慮なく俺に見せろ!……今更失望したりしねぇし、何よりお互いに変な気を起こす心配もねぇ!」
「あはは……言えてるね……」
……お互いに変な気を起こす心配がないからこそ、存分に弱みを見せられる関係……
血を分けた兄妹ってのはそういうもんだろ?
「……取り敢えず、俺は魔王を倒したら恋人達と存分にイチャつきてぇ!」
「私だって、シトラスちゃんとラビィネルちゃんが嬢をやってるキャバクラって感じのプレイをしたい!」
「……中途半端に具体的な分、何かキモいな……」
「言ったな~!」
……結局、そこから俺達は軽く口喧嘩という名のじゃれ合いに発展した。
でも、その表情は……両者共に笑顔なのだった……
ご読了ありがとうございます。
茜は表面上明るく振る舞ってますが、実際は限界ギリギリです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。