15.下水道探索 危
ボス戦はボス戦でも、負けイベです。
……ただし、この世界観はゲームではなく異世界転移なので、下手しなくても普通に死にます。
(エルリス・フルウィール視点)
嫌な予感がする。
そう思たんは、ただの勘やった。
「……クイーンスライムが生まれとるのに王都がまだ崩壊してへんのは、多分エネルギー不足が原因やろ。つまり、エネルギーが満タンになってもうたら……あかん、急がへんと!」
ちゅうても、今のウチはただの商人や!
とてもやないけど、クイーンスライムを倒せる火力はあらへん。
……倒す策はあるっちゅうのに、ウチ1人じゃどうにもならへんのや……
「取り敢えず、まだ目ぼしい戦力が残っとればええんやけど……」
そう呟きながら、ウチは冒険者が集まっとった下水道の入口に着いた。
勿論、殆んど人は居らへんかったけど……
「だから、 《ピーー》 で 《ピーー》 の 《ピーー》 が 《ピーー》 なのが良くて……」
「む、無理だよ……ボクは……いや、行かないと……でもやっぱり……」
……卑猥な言葉を放つ女と、下水道に入るのを渋る男っぽい女が残っとった。
「……茜さん、いい加減にしてください……」
「司チャン、頑張るっしょ!」
いや、一緒に居る2人の男も何か特別な気はするけど……戦闘方面に使える感じやないな。
逆に、女の方が何か使える気がするわ。
……勘やけど。
「とにかく、時間があらへん!」
ータッタッタッ……
「「「「ん?」」」」
ーガシッ!
「「ぐへっ……」」
「ほんまにごめんやけど、この2人借りてくで!」
「え、あっ……はい。」
「え、どういう事っしょ?」
ウチは卑猥な女と男っぽい女の首をそれぞれ肘で挟むと、そのまま下水道に入って行った。
「えぇっ!?何これ……」
「ひぃっ!?……ぼ、ボク……下水道に……」
「2人とも……体縮めて歯を食いしばっといてくれへんか?」
「「え?」」
「返事!」
「「は、はい!」」
よし、了承はとったで。
「ふぅ……【神速】や!」
ーバビュン!
「「へっ……」」
ウチは駆けた。
冒険者と出くわしても大丈夫なように、わざわざ下水道の天井を姿勢を低くしながら駆けた。
……ただ天井を走れる程の速さやったからか、持ってた2人は気絶しとった……
「ま、後で起こしたるわ。」
こうしてウチは、下水道の最新部へと駆け抜けるんやった……
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(浅山 藤四郎視点)
「じゃあ、戻るか……」
「はい、そうですニャン。」
俺達はクイーンスライムを前に、どうにもならないと判断して帰ろうとしていた。
しかし……
「……ん?何か嫌な予感がするんだが……」
「はい、私もですニャン。」
何か嫌な予感がした。
その次の瞬間だった。
ードドドドド……ドババババ!
「「っ!?」」
そこら中の細い穴という穴から、ビッグスライムが大量に湧いて出たのだ。
「な、何だあれ!?」
「恐らく、通路以外に潜伏していたビッグスライムですニャン!」
「えぇ!?」
「通路のビッグスライムは粗方片付けられたのでしょうニャン。或いは、来ようとする度に冒険者に片付けられたという見方もありますニャン。」
「……マジかよ……」
「マジですニャン。」
何で急に……いや、まさか……
「……これ、俺達が攻撃したからじゃねぇよな?」
「そ、そんな訳……ないとは言い切れませんニャン。」
「というか、ビッグスライムがクイーンスライムに吸収されてってんだが?」
「……考え得る最悪の事態ですニャン……」
確か、ナフリーはビッグスライムをクイーンスライムの餌やり係だと言ってたよな?
つまり、あれは……
「エネルギー補給……か?」
「っ!危ないですニャン!」
「えっ……」
ーギュルギュル~!……ドシーン!
「……まさか、攻撃範囲が増えたとでも言うつもりですニャンか!?」
……先程まで俺とナフリーが立ってた場所は、先端をドリル状にしたクイーンスライムの触手によって破壊され、俺達が通って来た通路も塞がれてしまった。
「は、早く他の通路から脱出するぞ!」
「は、はいですニャン!」
こうなったら他の通路から脱出を……そう考えた矢先だった。
ーギュルギュルギュルギュル……ドガドガドガ!
「なっ……他の通路も塞がれた……」
「……きっと、エネルギー補給を終えて不要になったからでしょうニャン。外敵が大量に来た今、下手に道を開けておくのは危険ですからニャン。」
「だからって……」
クイーンスライムは他の通路への道も破壊し、俺達を完全に閉じ込めやがった。
……誰への解説でもないが、こうでもしねぇと平静を保てねぇ。
「……つまり、今のあたし達は正に袋の鼠……いつ死んでもおかしくないですニャン……」
「チュー!?」
「キシャァァ!?」
「そうか。……なんて、冷静になれたらどれ程良かっただろうな。」
ナフリーの従魔となったレッサーマウスとレッサーボアが怯えた様に鳴いているが、俺にもその気持ちが痛い程理解出来た。
「ご主人様、あたしの背中におぶられてくださいニャン。」
「ああ、分かった。……行けるのか?」
「……ご主人様、何でも諦めなければどうにかなりますニャン。」
「……なら、頼んだ。」
そう呟きながら、俺はナフリーに背負われる。
そして……
「それでは、逃げますニャンよ!」
ーギュルギュルギュルギュル~!
ービュン!
「うわっ!?」
ータタタタタタタタタタタタッ!
ーギュルギュル~!……ドガドガドガドガ!
「チッ、しつこいですニャンね……」
ドリル状の触手から逃げ続けるナフリーと俺。
なお、従魔達は俺達とは別れて隠れていたのだが、何とか難を逃れていた。
「俺達が上手く囮になれてるからか……いや、普通は逆だろ!」
「ご主人様!?」
「いや、こっちの話だ。」
だが、それもいつまでもは続かないだろう。
少なくとも、ナフリーがいつまで走り続けたとしても、いずれ限界が来る。
そうなったら俺達は……
「……ご主人様、どうかしましたニャン?」
「……死にたくねぇ。」
不意に、吐き出すべきではなかった言葉を呟いてしまった。
「え?」
「まだ死にたくねぇ!元の世界にも帰りてぇ!親にだってまた会いてぇ!好きだった漫画や小説、アニメの続きだって見てぇ!……こんな所で終わりたくなんてねぇんだよ!」
「……ご主人様……」
「確かに異世界転移で浮かれてた部分もあった!数週間ぐらいなら両親と別れててもあんまり実感が湧かなかった!けどなぁ……死ぬのは嫌なんだよ!」
「……まだ、諦めるのは早いですニャン……」
「俺だってそう思いてぇよ!……でも、もう絶望的なんだよ!これはただの悪足掻き、延命措置でしかねぇんだからな!……いや、ナフリーが悪い訳じゃねぇ。でも、もうここからは出れねぇ。」
「まだ分かりませんニャン!」
「……だったらナフリー、壁や天井壊せるか?」
「通常時なら何とか行けますニャン。……でも、今だとそっちを攻撃してる間にクイーンスライムにやられますニャン……」
「だから無理だって言ったんだ!」
俺達に突き付けられた絶望、それはどうにも覆せないものだった。
「……ご主人様……」
「ああ、これならせめて、死ぬ前に恋人が欲しかったな……いや、もう今更か……」
「ご主人様、それならあたしが……」
「……本心じゃねぇ恋愛なんて嫌なんだよ!……すまん、ちょっと気が動転しちまった……」
「……いえ、大丈夫ですニャン……」
そうして、俺は走り続けるナフリーの背中で考え続けた。
どうにかならないか、そして……せめてナフリーだけでも助けられないか、という事を……
ご読了ありがとうございます。
ここらで主人公とナフリーの距離を一気に縮めます。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。