141.不思議の国の末路
先に言っておきます。
あくまでも【異世界兎物語】は前座の中ボスです。
(メアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
「ケケケ……私の能力、【不思議の国】は異世界の童話の登場人物を再現するものですピョン!……そして私は案内人の"白ウサギ"から、【狂ったお茶会】の"三月ウサギ"へとベースモデルを変更しましたピョン!」
「それは……皮肉のつもりですの?」
ワンダーランド……
それは、この迷都が夢都と呼ばれていた頃の都市の名だと聞いておりますわ。
それが能力名とは……ワンダーランドを塗り替えたラビリンスらしい皮肉ですわね。
「……ケケケ、それがどうしましたピョン?……所詮、私のワンダーランドなんて本物とは違うディストピアだというのに?……ケケケ!……【帽子屋】、【眠りネズミ】、あのお姫様を殺しなさいピョン!」
「キヒヒヒヒヒヒ!」
「チュ~……zzz……」
ラビリンス・ストーリー・クロックは理解不能な返事をした後、私に2体の影を差し向けて来ましたの。
……その影は、シルクハットを被った不気味な男と、眠たげな2足歩行の鼠でしたわ。
「……その2体は私が相手しますわ!……ロウル、クロックを討つのですわ!」
「承知しましたぞ!」
私は端的にロウルへと指示を出し、クロックの相手を任せましたわ。
ただ、クロックの手札はまだまだあって……
「ケケケ……【チェシャ猫】、あのダルクとかいう女は美味い餌ですピョンよ?」
「ゴロニャァァァァァゴ!」
ーフッ……ダンッ!
"チェシャ猫"と呼ばれた巨大な猫の影が、姿を消してダルクに向けて襲いかかりましたの。
ですが……
「姿が消えようが感知する方法は山程備えているのデス……ふん!」
ーブンッ!……バシン!
「ニャゴッ!?」
視覚以外にも感知機能を備えていたダルクにとっては、何て事のない襲撃だったらしいですわね。
……クラーケンの蛸足で猫の頬へと華麗にビンタしていましたわ。
「ケケケ……あの猫も役立たずですピョンか?……【ハートの女王】、ちょっと頼みますピョン!」
「首をはねろォォォォォォォ!……でなければ、お前の首をはねるぞォォォォォォォ!」
「ゴニャッ!?……ゴロニャァァァァァゴォォォォォォォ!」
……未だにラビリンス・ストーリー・クロックの背後から動かない女王の様な影が脅しとしか思えない言葉を吐いた瞬間、巨大な猫は血の気を増してダルクに襲いかかりましたの。
「キヒヒヒヒヒヒ!」
「チュチュ~!」
同時に、私の前で隙を伺っていたらしい"帽子屋"と"眠りネズミ"もまた、私へと血の気を増して襲いかかって来ましたわ。
……となると、やはりアレは強制的に士気を高める影……
しかし、それも……
「脅しでやらせても、雑になるだけですわよ?」
ーボォォォォォォォォォォォォォ!
「キヒ……」
「チュ……」
ージュッ……
私は冷静に"帽子屋"と"眠りネズミ"に照準を合わせ、【地獄の業火】で灰も遺さずに燃やし尽くしましたわ。
そして、ふと巨大猫の方を見ると……
ーバリボリ……バリボリ……
「ニャ……ニャ~ゴ……」
「ふむふむ……影であるが実体を持つと……にしても、これもトランプ兵と同じで全くと言って良い程に食った気がしマセんね……」
あらあら、あの巨大猫も結局ダルクに食べられてしまってますわね……
……わざわざ巨大な口を作ってまで食べてるのは見なかった事にしますわよ?
と、それはさておき……
「なっ……なっ……こんな簡単に……【チェシャ猫】と【狂ったお茶会】が……」
「隙ありですぞ!」
ーブンッ!
「ピョン!?」
ーギィィィィィン!
……ロウルはラビリンス・ストーリー・クロック相手に未だ致命傷を与えられていない様子ですわね……
まあ、無理もありませんわ。
何せ、この場に居る敵で唯一自立思考が出来ているんですもの。
「チッ!……ちょこまかと……私めに討たれれば良いものを!」
「ケケケ!……こうなったら貴女だけでも……」
ーギィィィン!ギィィィン!ギィィィン!
「くっ……先程までよりも攻撃が重く、軌道も荒いですな……」
「……対応する登場人物を変えただけで、こうも変わるんすか……」
……アカネ様から聞いていたこの物語の特性として、登場する兎の登場する人物が1人でないという点が挙げられますわ……
先程までの案内人……"白ウサギ"は、主人公を不思議の国へと偶然にも誘ってしまった案内人と言うのも微妙な登場人物……
対して、今の"三月ウサギ"は狂気に染まったお茶会の出席者……
当然、先程までの技術が優れた剣術ではなく、荒く強い攻撃にもなりますの。
とはいえ……
「ピョン……ピョン……ピョォォォォォン!」
ーギィィィン!ギィィィン!ギィィィィィン!
「むっ!……隙ありですぞ!」
ータッ!……ブンッ!
「ピョン!?」
ラビリンス・ストーリー・クロックの荒い剣撃の合間に隙を見出だしたロウルは敢えて前に踏み出し、剣を振りかぶっている最中のラビリンス・ストーリー・クロックの懐へと滑り込みましたわ。
その直後……
「後ろの女王ごと沈ませますぞ!……【報復の盾】!」
ードシィィィィィン!
「ピョンッ!」
「首をはねぶっ!?」
ラビリンス・ストーリー・クロックと、その延長線上に居た女王の影へと、ロウルの【報復の盾】が突き刺さりましたの。
ただまあ……
「皆様!……私めは今、それ程のダメージは負って居りませぬ!……となれば、今の攻撃もミノガルの時と比べれば微々たるもの……」
ロウルの【報復の盾】は、自身が受け止めた攻撃の総合ダメージによって威力が変動する技……
となれば、双剣による攻撃を繰り返していたラビリンス・ストーリー・クロックへの報復が微々たるものなのは自明の理ですわね。
「ハァ……ハァ……ケケケ……そうですピョン……私はまだ……負けて……いません……ピョン……」
「く……首を……はね……ろ……」
当然、ラビリンス・ストーリー・クロックと女王の影は立ち上がろうとしますわよね……
まあ、次善の攻撃は既に準備万端なのですが。
「残念ですわね?……私達主従の絆があれば、この短時間で貴女を倒す攻撃を用意する事は簡単ですわ!」
ーバチバチバチ……
「なっ……そんなの……ありですピョン!?」
私が既に手から【裁きの雷撃】を放つ気満々なのを見て、思わずたじろぐラビリンス・ストーリー・クロック。
不覚にも直接攻撃をするタイプだったが故に、障壁すら張っていなかったのですわ。
「さあ、いい加減に死んでくれますわね?」
「そんなの……あり得ません……ピョン……私が……あの戦闘馬鹿にすら……劣るなんて……ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!」
「……障壁を張ろうともしないとは……ヤケクソになりましたの?」
不気味に笑うラビリンス・ストーリー・クロックを見ると、何か策があるのでは……と思わずに居られませんが……見た限り、何かしらの策がある訳ではなさそうですわね?
「【ハートの女王】!……貴女の命を代償にして……私を最大限強化するのですピョン!」
「く……首を……はね……ろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
ードロッ……
ヤケクソになったラビリンス・ストーリー・クロックは女王の影に影自身が自壊する程の強化をさせたらしいですが……これがどう出るか、ですわね……
「さあ、行きますわよ?」
「ケケケ……ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ!」
超絶強化を受けたラビリンス・ストーリー・クロックは、赤黒いオーラを出しながら狂喜に満ちた笑い声を上げていましたの。
「ふぅ……灰も遺さず散るのですわ!」
ードンガラガッシャァァァァァァァン!
「ケケケケケケケ!」
駆け出し始めたラビリンス・ストーリー・クロックに向けて放たれた、私の【裁きの雷撃】。
その着弾地点を見れば……
「……ハァ、現実とは時に残酷ですわね……」
ーザッ……ザッ……
「ケケ……あり得……ませ……ん……ピョ……ン……わ……た……しが……こん……な……末路……を……」
ードサッ……
……結論から言えば、強化のお陰かラビリンス・ストーリー・クロックは即死こそ逃れましたが……放っておいても短い命である事に変わりはなく、最期は惨めな言葉を吐きながら機能を停止させましたの。
と同時に、ラビリンス・ストーリー・クロックが召喚していたトランプ兵も消え去りました……
しかし……
「……さて、後は残りの雑魚共ですわね?」
「ハァ……まさか、もう5分の4が機能停止とは……所詮、完全覚醒を果たしていない私が製造出来る時点でこの程度ですピョンか……」
分身体の1体を通じてそう語るラビリンス本体。
……折角ラビリンス・ストーリー・クロックを倒した私達でしたが、まだこの戦いは終わりを迎える事は出来ないのでしたわ……
ご読了ありがとうございます。
狂気に染まろうが、実力差は覆せません。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。