140.トランプ兵と案内人
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(メアリー・ズンダルク・レブラトラ視点)
「燃え尽きるのですわ!」
私は【無詠唱】で【地獄の業火】を発動し、敵の軍勢を燃やし尽くしますわ。
なお、その相手というのは……
「「「「「ピョンピョンピョン……」」」」」
「「「「「ハートの女王の御心のままに!」」」」」
……無数のラビリンス分身体と、トランプ兵の軍勢でしたの。
トランプ……それは過去の勇者様がこの世界に持ち込んだと伝えられる遊戯……
ですが、それが人の形をとって襲いかかって来るなんて私は夢でも見ているんですの!?
「ピョンピョン……やはり、魔王軍幹部を直接討伐した経験のある方々は強いですピョンね……チック……タック……チック……タック……おっと、女王陛下の機嫌がこれ以上悪くなる前に首をはねなければ……」
そう語るのは、白銀のビキニアーマーを着用して時計の長針と短針の様な双剣を持ったラビリンス分身体。
……その名は、ラビリンス・ストーリー・クロック。
私達がここに転移させられた時に、奴がそう名乗ったのですから。
そして、こちらの戦力は……
「ハァ……ハァ……倒しても倒しても次の雑兵が補充されてしまっておりますぞ!」
「これは大元を叩くしかなさそうっす!」
「いくら吸収しても吸収した気がしないデス……」
……ロウル、ダレス、ダルク、そして私の4人でしたの。
「チック……タック……チック……タック……」
ーパラパラパラ……
「またトランプ兵の補充ですわね!」
ラビリンス・ストーリー・クロックが次々とトランプを撒くと、そのトランプが次々とトランプ兵へと変化しましたの。
と、そのトランプ兵も次の瞬間には……
ーブンブンッ!
「メアリー様と私が大幅に潰しているとはいえ、雑兵潰しも楽じゃないのデス!」
クラーケンの足を背中から生やしたダルクに薙ぎ払われ、瞬時に使い物にならなくなりましたわ。
「……とはいえ、相手は雑兵だというのに情けないですわ……」
……ラビリンス分身体は数が多過ぎて操作が大雑把になっていますし、トランプ兵も所詮は雑兵……
ただ、あまりにも数が多過ぎましたの。
それで押されるなど、本当に情けない話ですわ……
「チック……タック……さて、そろそろ私も行きますピョンか……」
ーカ~ンカ~ン……
「おっと、大元が自分から近付いて来ましたぞ!」
「ここは私達がどうにかするっす!」
大元……ラビリンス・ストーリー・クロックが双剣を叩き合わせながら近付いて来ましたが、その前にロウルとダレスが立ち塞がりましたの。
「おやおや、そう来ましたピョンか……チック……タック……まあ、首をはねる相手が自分から来てくれたのは助かりますピョン……」
ースッ……
「隙がありませぬな……」
「見るからに強敵っすね……」
ラビリンス・ストーリー・クロックは静かに双剣を構えると、ロウルとダレスを見据えましたわ。
その直後……
「では……いざ参りますピョン!」
ーフッ……キィィィィィン!
「ぬおっ!?」
「は、速過ぎるっす!」
ラビリンス・ストーリー・クロックの姿が一瞬消えたかと思えば、次の瞬間にはロウルがラビリンス・ストーリー・クロックの双剣を盾で止めておりましたわ。
ただし、速さは圧倒的にラビリンス・ストーリー・クロックの方が上で……
「遅いですピョンね……」
ーキン!キン!キン!キン!
「ほい!ほれ!おりゃぁぁぁ!……攻撃を盾で防ぐのが精一杯ですぞ!」
「て、手伝う隙もないっす……」
ラビリンス・ストーリー・クロックは蝶の様に舞いながら双剣を振るい続けていましたの。
そしてロウルは防御しか出来ず、ダレスに至っては何も出来ない……
これでは、敗北の可能性だって……
「……こうなれば、私が……」
「いいえ、それはなりマセん!……私とメアリー様はこのまま、雑兵の処理に徹するべきデス!」
「で、ですが……」
「……今はお二人を信じマショう!」
「うぅ……」
……そうですわね。
今は、2人を信じる事しか出来ませんわね……
ーブンッ!ブンッ!
「……そう肩を落とさないで欲しいデス。……ところで、あのラビリンス・ストーリー・クロックという者の強みは何だと思いマスか?」
「強み?……そうですわね……」
「何でも良いデス。……気付いた事があれば……」
ダルクはクラーケンの蛸足を振るいながら、ラビリンス・ストーリー・クロックについて何か気付いていないか聞いて来ましたわ。
……ふむ、ここは【解析】を使ってみるのも良いですわね。
「ふむふむ……やはり、あの者は雑兵召喚以上の特異能力は持ち合わせておりませんわ。……速度も速いとはいえギリギリ常識の範囲内ですし、剣の腕も同じく常識の範囲内……」
「……やはり、アカネ様の言う通りデシたか。……ならば、私達がその速度を舐めていたというだけの事デス……」
そう。
ラビリンス・ストーリー・クロックは雑兵召喚以上の特異な能力はありませんでしたの。
……あの速度と剣の腕前は自前の技術。
生まれて間もない筈なのに、とてつもなく研ぎ澄まされたものでしたわ。
「ピョン!ピョン!ピョン!」
ーキン!キン!キン!
「むぅ……アカネ様から聞いた話では、この者のベースになった物語における兎は只の案内人に過ぎぬ筈だというのに……」
「こんなに強いってマジで言ってるっすか!?」
……確か、不思議の国の案内人的な立ち位置の登場人物でしたっけ?
それがこんな強さなんて……まあ思いませんわよね。
……ただまあ、所詮は案内人。
未だにロウル1人を討ち取れないとは……
先程の焦りは早急でしたわね。
「私めに防げぬ攻撃はありませぬぞ!」
ーキン!キン!キン!キン!
「……やはり、私だけでこの者を討つのは困難ですピョンか……ならば、先にあちらを……」
ーフッ……
「おや?」
いつまで経ってもロウルに掠り傷すら付けられなかったラビリンス・ストーリー・クロックは、いきなりダレスの方を見て姿を消しましたわ。
……無防備に見えるのが、実はダレス自身による罠とも知らないで……
ーバチバチバチ!
「ピョピョンッ!?」
「かかったっすね!」
案の定、いきなりダレスの前に現れたラビリンス・ストーリー・クロック。
しかし、ダルクの周囲には雷を纏った障壁が張られていて、ラビリンス・ストーリー・クロックはそれに感電して震えておりましたの。
ータッ!
「ハァ……ハァ……何をしましたピョン!?」
「【電気障壁】っす!……その名の通り電気を纏わせた障壁で、かつ強度も結構あるんすよ!……加えて攻撃を受ける直前に自動で展開される機能まで付けてて……あ、ロウルさん後はお願いするっす!」
「承知しましたぞ!」
「ピョン!?」
ーブンッ!……ギシギシギシ……ドシィィィィィン!
ダルクの【電気障壁】で全身に感電したラビリンス・ストーリー・クロックは後ろに退くも、直後にロウルの盾によるフルスイングを食らって近くの壁まで吹っ飛ばされましたわ。
「やったっすか!?」
「……いいや、まだですな……」
「ハァ……ハァ……電気に……今の攻撃……カチカチやイナバなら死んでましたピョンね……」
……まさか、ここまでしても生きているとは……
なかなかしぶといですわね……
と、その時でしたわ。
「あ~、クロック?……今良いですピョン?」
「っ!?……本体様ですピョンか!?」
ラビリンス分身体の内の1体を通じて、ラビリンスの本体がラビリンス・ストーリー・クロックに話しかけて来たんですの。
「そうですピョン。……単刀直入に言うとカチカチ、イナバ、そしてトータスが死にましたピョン……」
「なっ!?……カチカチとイナバはともかく、トータスまでもがですピョンか!?」
「そうですピョンね~。……でもでも、このままだとクロックだって他人事じゃないですピョンよ?」
「……分かっていますピョン……」
……ラビリンス本体とそんなやり取りを交わしたラビリンス・ストーリー・クロックは、途端に纏う空気を変えてこちらを見据えましたわ。
「……皆さん、警戒するべきですわね……」
「そうですな!」
「そうっすね!」
「……そうデスね……」
私は味方に警戒を促しましたの。
その、次の瞬間……
「……【チェシャ猫】……【狂ったお茶会】……【ハートの女王】……ケケケ……私の本気、食らうと良いですピョン!」
ーどぷん……
「ゴロニャァァァァァゴ!」
「キヒヒヒヒヒヒ!」
「首をはねろォォォォォォォ!」
地面の影がインクの様になり、その中から現れた数体の存在がラビリンス・ストーリー・クロックに追従しましたの。
「……2回戦の開始ですわね……」
「手強くなりましたな……」
「嫌っすよ……」
「弱音は吐かない方が良いデスよ……」
敵が増え、難易度が上がりましたわね……
それでも、私達がやる事は変わりませんわ!
「……ラビリンス・ストーリー・クロック!……貴女は私達が討ち取りますわ!」
「ケケケ……やれるものならやるのですピョン!」
ラビリンス・ストーリー・クロックも先程までと様子が変わりましたわね……
とはいえ、やる事は変わりませんの。
そう心に決めて、私達は再び奴等に向けて力を振るうのでしたわ……
ご読了ありがとうございます。
このラビリンスもまた、実戦経験が乏しいです。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。