139.亀の歩み
先に言っておきます。
【異世界兎物語】の技名に共通の規則性はありません。
(浅山 藤四郎視点)
「……チッ!……何で茜はこんなグループにしやがったんだよ!」
俺はラビリンス・ストーリー・トータスを前に、そんな事をぼやいていた。
俺は支援専門だし、ナフリーだってお世辞にも特別強いとは言えねぇ……
いくら目的が分かっていても、ぼやかずには居られなかった。
そう思っていると……
「ふぁ~……眠いですピョン……zzz……」
「ね、寝てやがる?……つっても、このタイプの相手ってゲームや漫画じゃ大抵ヤバい気が……」
俺達を前にして、呑気に眠ってやがるラビリンス・ストーリー・トータス。
だが、フィクションじゃこういうタイプに舐めてかかった側が死ぬのがお約束だ。
と、俺が悩んでいると……
「ご、ご主人様!」
「どうした、ナフリー?」
突然、ナフリーが焦り声で話しかけて来た。
それを聞き、俺は嫌な予感がした。
「……ご主人様、試しに1歩踏み出そうとしてくださいニャン!」
「え、まさかもうか?」
「そのまさかですニャン!」
ナフリーが真剣に言うので、俺は試しに足を踏み出してみるも……
ーのろ~り……
「ハァ!?」
「……1歩1歩が、とんでもなく遅くなってるんですニャン……やられましたニャン……」
俺の1歩は、とんでもなく遅くなっていたのだ。
……チッ、もう能力範囲内か!
と、そこへラビリンス・ストーリー・トータスが話しかけて来て……
「ふぁ~……【亀の歩み】ですピョン……この技は私から一定範囲の相手の歩みを、とてつもない鈍足へと変えますピョン……zzz……」
「なるほどな……」
こりゃ、カブを連れて来た方が良かったか?
……いいや、普通に避けられちまうだけだし、そもそも一緒に転移させられねぇだろうな……
にしても、まさか俺達のグループがこいつに当たっちまうとはな……
「……ご主人様?」
「足が遅くなってるが、見た感じ相手が攻撃して来る様子もねぇ……」
「ふぁ~……この【亀の歩み】は、私が攻撃しない事で確立される技ですピョン……ならば、このまま私は一定距離を保って永遠に逃げ続ければ良いですピョン……カチカチやイナバは恐れ知らずにも、自身が勝てない強者に挑んで負けるでしょうピョンよ……であれば、相手の心が折れるまで逃げ続ければ良いんですピョン……zzz……」
ーふわふわ……
「本当に卑怯だな……」
「攻撃しない事と引き換えに、相手を鈍足にさせるって充分無法ですニャン……」
攻撃しない代わりに相手を鈍足にさせる……
茜から事前に聞いてたとはいえ、自分達に当たると嫌な相手だな……
「……だからこそ、俺達が選ばれたんだろうがな……」
「ご主人様……あたしは行けますニャン!」
「ふぁ~……zzz……何をしても無駄ですピョン……」
さっきは文句を言ったが、茜がこのグループにした気持ちも分かる。
……とはいえ、ラビリンス側がこのグループで飛ばした意味が分からねぇ。
「おいラビリンス・ストーリー・トータス、どうして俺達がお前の相手に選ばれた?」
「ん~?……完全ランダムの筈だったんですピョンが……まるで魔法陣がどう変形するか分かってたかの様にグループで転移させられましたピョンね……」
あの魔法陣自体は、完全ランダムだったと……
そうか……
「……ほんとに完全ランダムになってたと思うと恐ろしいがな……」
……俺達が茜によってここに送り込まれた理由は、とんでもなく分かりやすく……単純なものだろう。
こいつの能力は、どんな強者でも歩みが遅くなり、永遠に目的を達成出来なくなる。
破る手段があるとすれば、鈍足にされて尚速く動ける事が求められる。
それこそ、エルリスさんの様に。
でも、エルリスさんは【神速】こそ速いが、ラビリンス分身体に決定打を与えられる手段を持ち合わせていない。
今のあの人は基本的にサポート向きだし、何より自前の攻撃力は恐らくナフリー以下だろうし……
「……だからアカネ様は、あたしとご主人様、そして終わった後の足としてバインをグループにしたんですニャンね……」
……他の奴等は、他のラビリンス分身体に回さざるを得なかったんだろう。
例えば正義辺りは単体だとラビリンス相手にはあんまりって感じだが、居るだけで司のモチベーションを上げる要素になる。
エルリスさん、メサイアさん、光枝さんを同グループにしたのも同じ理由だろう。
人は、特定の相手と居ると普段より実力を発揮出来るものだ。
……俺だって、そうだからな。
「……ラビリンス・ストーリー・トータス……お前に敗因があるとすれば、俺達を侮った事だ……」
「ピョン?……何を言ってい……ふぁ~……」
俺達による勝利宣言とも取れる発言を聞いても尚、ラビリンスは眠たそうにしてやがる。
……それが自身の敗因になるとも知らず。
「ナフリー……本当に、ここでこれを切っても良いと思うか?」
「……多分、他の方々は力を温存しているでしょうニャンが……そもそも、あたし達が魔王化したラビリンス完全体との戦いで戦力になれるとも到底思えませんニャンし……」
「……とはいえ、足を引っ張る訳にも行かねぇし……勝負は一瞬で決めるぞ!」
「承知しましたニャン!」
勝負は一瞬で決める。
今のラビリンス・ストーリー・トータスはとことん俺達を舐め腐ってるし、敵だと認めるに値するとすら思ってねぇ。
……それが俺達にとっての救いになってるとも知らずに。
「……ナフリー、愛してるぞ……」
「あたしも愛しておりますニャン、ご主人様……」
俺達は互いに、心からの愛の言葉を贈り合う。
……覚悟は出来た、後は決めるだけだ。
「ふぁ~……何をするか知りませんピョンが、取り敢えず【防御障壁】を展開しますピョン……zzz……」
ラビリンス・ストーリー・トータスも馬鹿じゃねぇ。
俺達が何かするのを察して、【防御障壁】を展開しやがった。
まあ、この場面で【防御障壁】を張らねぇなんて余程の馬鹿だけだろう。
「……それで防げると思うなよ?……食らえ……たった2秒の……【無制限の愛】!」
ーどくん!
「ピョ……」
ーバビュゥゥゥゥゥン!……パリン!ガキン!
……たった2秒とはいえ、【無制限の愛】を発動した瞬間に全身へと痛みが走る。
軋む骨、ちぎれそうになる筋肉、全身から噴き出そうになる血液、思わず吐き出しそうになる腹の中身……
その一瞬だけ意識が持って行かれかけ、俺の視界は暗闇へと誘われた。
……それから、視界が元に戻る頃には……
「ハァ……ハァ……ご主人様……お体は……大丈夫……です……ニャン?」
「何……とか……な……」
耳に聞こえるナフリーの声。
良かった、何とか生きてたか……
しかし、俺の視界は地面しか映っていない。
クソッ、顔が上がらねぇ……
声も上手く発声出来ねぇし、こりゃねぇよ……
と、その時……
「ピョ……ピョン……何……で……」
ラビリンス・ストーリー・トータスの声が聞こえて来た。
もっとも、その声は俺達と同じく途切れ途切れだったが。
「あっ……ようやく……顔が……上げられそうだ……」
何とか体力が少しずつ戻って来た俺は、ようやく顔を上げる。
すると……
「【防御……障壁】……すら……貫き……一瞬で……ここまで……来る……なんて……あり……え……ませ……ん……ピョン……」
ーバチバチ……ジジジ……
「ハァ……ハァ……まあ……代わりに……足は……一時的に……使えなく……なりました……ニャン……」
そこで視界に映ったのは、【防御障壁】すら貫いてラビリンス・ストーリー・トータスの胸を右手で穿っている、全身傷だらけになったナフリーの姿だった。
特に足がマズく、見るからに使えるか分からねぇレベルでズタボロになっていた。
「……あり……えない……です……ピョン……永……遠の……眠り……なん……て……私……は……」
ーバチン!……ドサッ……
自身が永遠の眠りにつく事実が信じられないと嘆きながら、ラビリンス・ストーリー・トータスは火花を散らして倒れ伏し、物言わぬ廃品と化した。
「バイン……」
「ブルルルルル……」
「お前に……出番をやれなかったのは……悪いが……この先の足として……頼む……」
俺は何とかバインに乗り、そのままナフリーもバインに乗せた上で進み始めた。
……が、それからしばらくして……
ーパカラッ!パカラッ!パカラッ!
「待ちなさいピョン!」
「殺しますピョン!」
「バイン、全速力で頼む!」
「頼み……ます……ニャン……」
「ヒヒィィィ~ン!」
……俺達は雑魚 (※当社比) のラビリンス共からバインに乗って全速力で逃げ続ける羽目になっていたのだった……
ご読了ありがとうございます。
トータス、呆気なかったですが超スピード持ち以外は完封可能です。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。