137.逆恨みの復讐者
これを読んでいる読者の方々は、本当に何が面白くてこの物語を読んでいるのか、感想で教えてください……
作者にはこの物語の面白さが分かりません……
(金村 正義視点)
「……"かちかち山"、かい……」
「ん?……司チャン?」
俺チャン達の前に浮かぶ、赤いビキニアーマーを着用して手から炎を放っている特殊なラビリンス分身体。
そいつの名乗りから、ベースになった童話は"かちかち山"だと判断した。
……したんだけど、何か司チャンの様子がおかしい。
「あ~……貴女方を見ていると、心の奥底からイライラが湧き上がって来ましたピョン!」
「とんだ言いがかりじゃないか。……悪いのは明らかにボク達ではなくラビリンス、君の方だろ?」
「煩いですピョン!……その減らず口も今すぐ黙らせてあげますピョン!……【炎禍招来・火魑禍血野魔】ですピョン!」
「おっと、これはマズいね……【美しき双翼】発動さ!」
ーバサッ!……ぐいっ!
「うおっ!?」
ラビリンスが【炎禍招来・火魑禍血野魔】とかいう技を発動させようとした瞬間、司チャンは背中に翼を生やして俺チャンをお姫様抱っこで抱き上げた。
「よし、飛ぶよ!」
「分かってるっしょ!」
ーバサッ!
そうして司チャンが俺チャンを抱えて飛び立った直後……
「塵も遺さず燃え尽きると良いですピョン!」
ーボォォォォォォォォォ!
周囲一帯の地面を覆うレベルの業火が、ラビリンス・ストーリー・カチカチの手から放たれた。
「くっ……咄嗟に飛び立ってもギリギリか……」
「……道理で他にラビリンス分身体が1人も居ない訳よ。……確実に巻き込まれるからって訳ね……」
業火は目に見える範囲の地面全てを焼き尽くし、周囲の空間に黒色の煙が立ち込める。
「正義君、これは……」
「……うん、煙は吸わない方が良いし、炎もさっさと鎮火すべきっしょ……」
煙は両者の目眩ましにもなってしまう上、吸い過ぎると命に関わる……
炎も熱と煙を生み出し続ける……
この勝負、早々に決めないとヤバい事になるな……
と、その時……
「何もさせませんピョン!……【粉塵招来・禍喇死互那】ですピョン!」
ーサラサラサラ……
「……おっと……」
「この業火の中で……粉塵ってマジ!?」
ラビリンス・ストーリー・カチカチが放った信じられない言葉……
多分、元ネタは火傷を負った狸に辛子味噌を塗りたくったって場面なんだろうが……
それを粉にするって……
……茜チャンに聞いてなかったら危なかった。
でもま、初めて知った感は出しとくか……
「よし、出来る限り離れるよ!」
「頼んだっしょ!」
ーバサッ!
司チャンは急いでラビリンス・ストーリー・カチカチから距離を離した。
その次の瞬間……
ードゴォォォォォォォォォン!
「ふぅ……粉塵爆発、ボクも実物を見るのは初めてかな……」
「寧ろ、粉塵爆発なんて普通ならお目にかからないんだから当たり前っしょ……」
……目の前で起こった粉塵爆発を前に、俺チャン達は何とか被害範囲から逃げ出していた。
「チッ……生き残りましたピョンか……」
「それはこちらの台詞さ……それと"かちかち山"なんていう勧善懲悪の復讐譚をベースにしておきながら、当の本人は逆恨み……こんなの、物語が泣いていると思わないかい?」
ーピキピキ……
「つ、司チャン?」
あっ……
司チャン、思った以上にマジギレしてるな……
まあ、それもそうか。
"かちかち山"は、日本なら誰もが知っている昔話。
何の罪も無いお婆さんを殺してその肉をお爺さんに食わせた狸に対し、兎があの手この手で狸を痛め付けた上でぶち殺す……
現代だと色々マイルドにされている話とはいえ、そんな物語をベースに生み出されたラビリンス分身体が逆恨みで燃やそうとして来る様な奴だったら司チャンも怒るか……
「……ボクはほんの少しだけ、淡い希望を抱いていたのさ。……"かちかち山"をベースにしているのなら、多少は悪を憎む心を持ち合わせてくれているのではないかって……」
「司チャン……」
「くだらないですピョンね!……そのまま死んでくださいピョン!」
ーサラサラサラ……
「また芸もなく粉塵爆発かい……」
ーバサッ!……ドゴォォォォォォォォォン!
「……対処が手慣れてるっしょ……」
ラビリンス・ストーリー・カチカチは司チャンの話を遮って粉塵爆発を起こしたものの、それはまたもや回避される結果となった。
「あ~もう!……ちょこまかと逃げるのもいい加減にして欲しいですピョン!」
「ほう……ラビリンスにだけは絶対に言われたくない言葉だね。……やはり、いくら童話をベースにしようとも所詮はラビリンスか……」
「でも、着実に俺チャン達の活動可能範囲は狭まってるっしょ!」
……俺チャン達はこいつとの戦いで、【美しき王国】や【ありきたりな英雄譚】を切るつもりは毛頭ない。
何せ、これの後に魔王へ進化中のラビリンス本体との戦いもある訳で……
下手に力を使い過ぎて消耗するのは得策じゃない。
「ハァ……なら、そろそろボク達と君の戦いも終わりにするべきかな……」
「チッ……何を言っているのですピョンか?」
「……ああ、誤解しないで欲しい。……ボクは何も俗に言う舐めプをしていた訳ではないのさ。……ボクはただ、"かちかち山"をベースにした君となら、心の底から分かり合う事が出来るんじゃないかと思って様子見をしていたんだ……でも、それすらも失望という結果で終わってしまった……」
司チャンの声が、どんどん低くなる。
……いくら"かちかち山"をベースにして本体とは別の自我を持とうが、所詮はラビリンスの分身体。
それぐらい分かっていた筈だろうに……
そう考えていると……
「チッ!……本っ当にくだらないですピョンね!」
「ここまで聞いてもその反応かい……」
「貴女達が何を考えていたとかそんなの関係ありませんピョン!……私は何があっても、本体の雪辱を果たすだけで……」
ーもくもく……
「ゴホッ!ゴホッ!……そろそろ煙が本気で邪魔に那って来たね……まずは消火と行こうかな……」
「司チャン、ほんとに大丈夫な訳?」
ラビリンスの事だ。
どうせ個別の自我だからといっても【意識改変】が通じる様な仕組みにはなってないだろう。
……となると、俺チャンは完全にお荷物だ。
「……正義君、あまり無力感に押し潰されない様にね?」
「あ、顔に出てた訳?」
「……確かに、以前のボク達はラビリンス分身体にかなり手を焼かされた。……でも、今は違う……あの程度の相手なら、ボク1人で充分さ!」
「……そこまで言うなら、ここはお手並み拝見と行くっしょ……」
司チャンには、まだまだ手札がある……
俺チャンも知らない手札が、きっと……
「チッ!……まるで私が居ないかの様にだらだら話すくせに、油断はしていませんピョンね……だったら何度でも粉塵爆発を……」
「いいや、ここで終わりさ。……まずは火を消そう、【美しき慈雨】!」
ーポツ……ポツ……サ~……
「あ、雨ですピョン!?」
司チャンが【美しき慈雨】と唱えた瞬間、この場にポツポツと雨が降り、燃え盛っていた業火はみるみる内に小さくなっていった。
「雨も滴る良い女、というやつさ……」
「ふ、ふざけないで欲しいピョン!……とはいえ、火が使えなくなったとしても私は……」
「分かってるさ。……逆恨みの復讐者、その末路に相応しい死を与えてあげないとね。……【美しき神弓】10連射!」
「ふん、【防御障壁】ですピョン!」
火の勢いを小さくした流れで、ラビリンス・ストーリー・カチカチにトドメを刺そうとする司チャン。
勿論、ラビリンス・ストーリー・カチカチも【防御障壁】を展開するが……
「……これを見ているであろう本体は覚えておくと良いさ。……ボク達の技がいつまでも成長していないなんて思わない方が良いと……」
ーヒュンヒュンヒュンヒュン……
「な、何を言ってるんですピョ……」
ーパンパンパンパンパン……パリン!
「ほらね?」
「ピョン!?」
ーザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
【美しき神弓】から放たれた光の矢の内、5本はラビリンス・ストーリー・カチカチの【防御障壁】によって阻まれていたが……6本目が【防御障壁】を破り、そのままラビリンス・ストーリー・カチカチは5本の光の矢によって蜂の巣にされた。
「……ボク達は成長している。……以前受け切れたからといって、今回も行けるとは思わない方が生き残れただろうに……」
「ピョ……ピョン……あ……ありえない……ありえないですピョン……この私が……復讐を遂げられずに……死ぬなんて……」
ーバチバチ……ジジジ……
光の矢によって穴だらけになったラビリンス・ストーリー・カチカチは、全身から電子部品由来の火花を散らしながらそう嘆いていた。
「身勝手な逆恨みが行き着く先なんて、大抵はそんなものさ。……もしかしたら分かり合えるかもしれないなんて思っていたけど、それも出会うまでの虚しい希望だったよ……」
「う……煩い……で……す……ピョ……」
ーガシャン!
最後まで文句を垂れ流していたラビリンス・ストーリー・カチカチは、完全に壊れて沈黙した。
「「……………」」
その後、俺チャン達は最低限のラビリンス・ストーリー・カチカチの生死確認を行った後、何も言わずにその場を離れた。
……まだ、ここでやる事は終わっていないから……
ご読了ありがとうございます。
まずは1体。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。