135.ラビリンスの生き方
今回の話では少しだけ、作者の別作品のキャラが登場します。
後、一挙2話更新です。
(前話から数分後、ラビリンス視点)
『……座標の割り出し……完了しました……』
「割と早かったですピョンね?……じゃあ遠慮なく見させて貰いますピョン!」
……この世界に降り立って以降、見る事も叶わなかった私の同型機。
勿論、物言わぬ本体を見てもつまらないので、メインで使っている分身体でも見てみましょうピョン。
……そしてあわよくば、いずれ討ち倒す際に役立ちそうな情報を……
そう思い、"ラビリンスー5003"の観測を開始しましたピョン。
……………………
……………
……
…
……そこは、暗い会議室の様な場所でしたピョン。
「ラヴィ、よく来てくれたニャ!」
頭から猫耳、腰から2本の尻尾を生やした獣人?らしき女性が、そう話しましたピョン。
すると……
「そりゃ、来ないと色々面倒な事になるからのう……で、今回は何の用じゃ?……こう見えてワシも暇じゃないんじゃぞ?」
ラヴィと呼ばれた老人言葉の女性が、文句を言いながら用件を聞いていましたピョン。
……なるほど、この女性がこちらの世界に存在するラビリンス……"ラビリンスー5003"ですピョンか。
「いやニャにか用って程でもニャいニャ。……ただ、時々でも直接会っておきたかったってだけで……」
「……帰るのじゃ!」
「ニャんでニャ!?」
「何でも何も、ワシは忙しいと言ったばかりじゃろうが!……こんなんでも国立異能力専門高校の校長なんじゃぞ!?」
「それを言ったら、ミャ~はニャい閣情報統制室の室長ニャ!」
「それ今は関係ないじゃろ!」
ーガミガミ……ガミガミ……
……わ、私は何を見せられているんですピョン?
いや、何となく言っている事は分かりますピョン。
でも、私が求めていたものではありませんでしたピョン。
「……ハァ……ほんと、ラヴィはもっと肩の力を抜くべきだと思うニャ……」
「……その忠告を胃薬が手放せなくなったお主に言われるのも複雑な気分じゃな……」
「煩いニャ!……いくらラヴィが人間の味方とはいっても、結局人ニャらざる者にミャ~の気持ちは分からニャいニャ!」
「なっ!?……そういうお主も充分人とは呼べぬ存在じゃろ!」
「ミャ~は生物学的にはギリギリ人間ニャ!」
「ぐぬぬ……」
……ふぅ、何となく分かって来ましたピョン。
この世界のラビリンスは善性タイプ。
人間と共存し、平和を愛する者ですピョン。
……となると、これ以上観察する意味もありませんピョンね。
そう判断した私は、2人の会話を最後まで聞きもせずに観測を中止しましたピョン……
……………………
……………
……
…
「……さてと、とんだ無駄足でしたピョン……」
何か弱点が分かればと思ってましたピョンが、善性タイプであれば何も問題はありませんピョン。
『……観測中止……再開なさいますか?』
「いや、もう"ラビリンスー5003"はどうでも良いですピョン……」
……ほんと、反吐が出ますピョン。
人間という下等生物相手に仲良しこよし……
そういうタイプは善良故に弱点が多く、更に上昇志向にも欠けると来ましたピョン。
『観測中止……なお、平行世界の観測自体は引き続き継続いたします……』
「う~ん……諸々の進行を報告するシステムを単調な機械音声にしたまでは良いですピョンが、本当に誰かと話しているみたいで落ち着きませんピョン……」
……この"迷都 ラビリンス"には私とラビィネルしか居ないと分かっているのに……
分身体は全て自分、あの5体も自我こそ別個になっているとはいえ根本的な部分は私そのもの……
……ラビィネルについても、アレが私と話す理由もありませんピョン……
『……魔王化に必要なプロセスがあります……実行しますか?』
「しますピョン!」
……思考が堂々巡りになるだけなので、1度考える内容を切り変えますピョン。
『……魔王化に必要なプロセス完了まで残り……』
「……目下最大の課題は、私の魔王化が不完全という事ですピョンね……」
……迷都の罠は魔王化に必要なプロセスを実行するための演算回路として使っていて、警備用の分身体は数が多過ぎて操作が粗雑になっているという有り様……
あの5体の様に自我を別個にして独立させる案もありましたピョンが、独立させた全て分身体が私の立場を乗っ取らない確率は0ではないですピョンし……
現状、5体も独立させている事のリスクも考えると、分身体全ての自我を独立させるのは危険ですピョン。
そして極め付けに、今のままでは私の魔王としての能力は迷都内でしか使えないというのもまた……
「……出来れば完全体になるまで待って欲しいところですピョンが……それも現状だと厳しいでしょうピョンね……」
私が完全体になるまでに、勇者パーティーがここへ到着する可能性の方が高いですピョンし……
いやでも、虎人族の里でシトラにやられているって可能性も……
「いいや、この場合はあらゆる可能性を考慮すべきですピョンね……」
あ~あ、これから忙しくなりますピョンよ~!
そうして私は考えるのを一時中断し、今後の対策を練ろうとして……
「……そういえば、"ラビリンスー5003"も忙しそうでしたピョンが……何処か、楽しそうに見えましたピョンね……」
……もし、私が善性タイプのラビリンスだったら、どうなっていたのでしょうピョン?
ラビィネルと協力して、人間を魔王軍の侵攻から守っていたのでしょうピョンかね?
もし、そうなっていたら……
「……なんて、考えるだけ無駄ですピョンね。……何故なら、私自身がその"もしも"に対して嫌悪感を抱いているのですピョンから……」
私が人間を守り、共存する?
そんな"もしも"、死んでも嫌ですピョン!
「人間なんて下等生物と仲良しこよしだなんて、私なら絶対にお断りですピョン!……人間を蹂躙し、虐殺し、死後の尊厳すら貶める……その快感を味わえない人生なんて、何の価値もないですピョンし要りませんピョン!」
他人の不幸は蜜の味。
なぶり、殺し、死後の尊厳すら貶める事で味わえる快感は、言葉に出来ない程に甘露なのですピョン。
「ピョンピョンピョン♪……一般的に言えば、あちらが"善"で私が"悪"なのでしょうピョン。……それは間違っていませんピョン……ま、仮に人生をやり直せたとしても私は同じ事をしますピョンが……」
私は"悪"。
それは何があっても覆りませんピョンし、何より私自身がそれ以外の生き方を望んでおりませんピョン。
「……"ラビリンスー5003"が人間と共存している事実を知ったからといって、私のやり方は変わりませんピョン!……私はこれまで通り、"悪"の道を貫き続けるだけですピョン!」
さ~て、そろそろ本格的に勇者パーティーを迎え撃つ準備をしなければ……
「ピョンピョンピョン♪……泣いても笑ってもここが分岐点……勝てば魔王化負ければ終わりの大勝負ですピョン!」
……そうして改めて自身を鼓舞した私は、今度こそ勇者パーティーを迎え撃つための準備を始めるのでしたピョン……
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(ラビィネル視点)
「……アカネ達、ちゃんとラビリンスを討てるピョンかね~……」
あたちは1人、そう呟いたピョン。
……現在、憎きラビリンスは力を蓄えている状態……
狙うなら今とはいえ、あまりにも無謀……
と、そこへ……
「ピョンピョピョピョ~ン♪……ん?……ラビィネル、ま~た1人で黄昏てたんですピョンか?」
「お前は……確か、ラビリンス・ストーリー・ムーンだったピョンか?」
ラビリンスが生み出した特殊な分身体の内の1体、ラビリンス・ストーリー・ムーンがやって来たピョン。
「そうですピョン!……この度、ここで勇者パーティーを迎え撃つ事になったラビリンス・ストーリー・ムーンですピョン!」
「ん?……ここで、ピョンか?」
……ラビリンス、いったい何を考えてるピョン?
「……おっと、くれぐれも余計な希望を抱かないでくださいピョンね?……寧ろ、勇者アカネという希望を目の前で潰してあげますピョンから!」
「……そういう事ピョンか……」
ラビリンスはどうも、あたちの心を本格的に折りたいみたいピョンね……
……そして、ここを完全に手中に収める、と……
「あ~あ、早く来ませんピョンかね~!」
「……その時が、お前の終わりだピョン……」
「その言葉、そっくりそのままラビィネルにお返ししますピョン!」
結局、ラビリンス・ストーリー・ムーンとの会話は平行線に終わったピョン。
とはいえ、あたちに出来るのは勇者アカネの勝利を心から祈る事のみ……
……アカネ、どうか勝ってくれピョン……
ご読了ありがとうございます。
"迷都のラビリンス"は人間を虐殺し死後の尊厳すら貶める事に悦楽を見出だし、"ラヴィ"は人間と共存する事に生き甲斐を見出だしました。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。