133.各々の最終準備
ここからはvsラビリンスになります。
(俯瞰視点)
虎人族の里における一件が解決した日の夜……
「……さてと、ここに来るのも計画を伝えて以来でしたでヤンスかね~……」
とある場所にて、死神長がそう呟いた。
なお、その"とある場所"とは……
「ふむ……本当に久しぶりであ~るな……」
……デルレン商会ケール支部支部長にして、ケールの統括技師長も兼任しているプルスレゼスの数ある工房の内の1つであった。
「いや~、プルスレゼスさんも本当に息災で……」
「無駄話は良いのであ~る!……本来なら現世のアレコレに不干渉を貫いている死神が、吾輩を訪れているだけでも異常事態だというのに……」
プルスレゼスは死神長に対し、そう苦々しく告げた。
「おやおや、不機嫌でヤンスね?」
「そりゃあ、お主の事を先生やメサイア様、挙げ句の果てには弟子仲間にすら相談出来なかったんであ~るからな!……その上、ケールが魔王軍に侵攻されてもなお不干渉とは……」
「死神にはそういう規則があるから仕方ないんでヤンスよ!」
「煩いのであ~る!……吾輩に秘密兵器の作成を依頼しておいて、それは虫が良過ぎるのであ~る!」
プルスレゼスは苛立ちながらも死神長相手に文句を言い続けた。
対する死神長は、その文句に反論していた。
……が、いつしか文句の言い合いも終わり……
「ハァ……ハァ……それはそうと、秘密兵器の準備はどうなってるでヤンスか?」
「それはもう、準備万端であ~るが……こんなので、本当に邪神を引きずり出せるのであ~るか?」
邪神を引きずり出す……
そんなプルスレゼスの言葉に、死神長はしばしの沈黙をした後……
「邪神は蛸みたいな見た目をしてるんでヤンスが、生態も蛸みたいで……神界に生成した自身の縄張り内では縦横無尽かつ無敵の如く動き回るんでヤンスけど、これが自身の縄張りが作れない現世となると話は別。……地上に上げられた蛸の様に弱体化するんでヤンス!」
「……蛸って地上でもそこそこ動けるであ~るが?」
「あくまでも水中に比べたらって意味でヤンスよ!」
「そ、そうであ~るか……」
邪神を現世に引きずり出し、弱体化させる……
そんな無謀とも言える案を却下する者は、この場には居なかった。
「……そもそも、これまでだって邪神討伐自体は何度も神界で画策されて来たんでヤンス。……ただ、邪神は自分が勝てない上位神相手だとすぐに身を眩ませるでヤンスし、かといって邪神が逃げない戦力だとそもそも勝てないという悪循環……」
「嫌な相手であ~るな……」
「だからこそ、これまで邪神は生き続けていられたんでヤンスが……今回の作戦はこれまでのそれとは話が違うでヤンス!」
「ほほう?」
「まず、吾輩達死神や吾輩達が冥界から選りすぐった実力者の霊魂……英霊達が邪神の墨袋を破壊するでヤンス!」
「ほうほう……」
「で、そこをプルスレゼスさんに作って貰ってる秘密兵器で現世に引きずり出して……」
「……吾輩達が討つ、であ~るか?」
最終的には現世に丸投げ……
そうとも言える結論を、プルスレゼスは呟いた。
「……あっしだってかなり心苦しいんでヤンスが、現世においてあっし等は力を行使する事が出来ないんでヤンス……だから……」
「いいや、責めてはいないであ~るよ。……その様子だと、お主等もまた神界側で出来る限りの事をするのであ~るよな?」
「……分かってくれるでヤンスか……」
「いやはや……魔王軍が現れて半年が経過した頃に、いきなり"魔王を生み出した邪神を引きずり出せる兵器"を作ってくれと頼まれた時は心底驚いたであ~るが……ずっと他のネットワークからも隔離して作り続けていた甲斐があったのであ~る!」
「隔離していたお陰で、あのラビリンスにも秘密兵器の存在がバレなかったんでヤンスから、大したものでヤンスよ……」
他のネットワークからも隔離し、ケールが魔王軍の侵攻を受けた際も最後まで秘密兵器の存在がバレなかった事を心から称賛する死神長。
……が、プルスレゼスは意に介さず……
「ふぅ……もし、その時が来れば……吾輩の弟子仲間なんかにも声をかけて良いであ~るか?」
「ふむ……彼等の強さは申し分ないでヤンスが……いや、別に断る理由もないでヤンスね……それと、既に別方向からのアプローチは伝達役を通じてあちこちにしてるでヤンスし……」
「なんと……それはありがたいのであ~る!」
結局、2人がそれ以上話す事はなかった。
ただし2人とも、目には覚悟の炎が灯っていたのだった……
そして同時刻、魔王城にて……
「……だから~、虎人族の里が何故か消えたって俺っち言ってるだろ?」
「そ、そんなのあり得ませんシュル!……怒り狂っていたであろうバイコーンを用いた囮に、多方面から囲む様に進ませた雑兵……これを勇者とその仲間が対処している隙に、フェニルムさんが里の住民を直接人質にして勇者パーティーを屠るという作戦だった筈でシュル!」
「俺っちにそれを言われてもな~。……後、シトラもどっか行っちまったし~……」
「十中八九、裏切ったに決まっていまシュル!……前提として、シトラさんは人質を使って縛り付けていた様なものなのに……というかその人質だって今回は使い潰すつもりの方向で動きましたシュルし……」
「ラビリンスに続き、2人目の裏切者か~……え、これ大丈夫?」
「大丈夫じゃないでシュルよ~!」
ただでさえラビリンスが裏切って対処に追われている現状だというのに、シトラも推定裏切り済み……
他の魔王軍幹部は死に絶え、残る幹部はスネイラとフェニルムのみ……
この現実に対し、スネイラは頭を抱えた。
と、その時……
「ふん……余に逆らう者は軒並み捻り潰してやれば良いだけの事だ。……ああ、戦うのが待ち遠しい……」
「ドラグ様はそれで良いかもしれませんシュルが、魔王軍という組織としてはもう……」
「あ~あ、魔王軍ももうボロボロか~……」
「フェニルムさんは黙っててくださいシュル!」
幹部格ももう残り少なくなり、いよいよ背水の陣で挑まざるを得なくなったスネイラは、上司と部下が呑気過ぎて頭を抱えたくなった。
いくら魔王として勝利しても、魔王軍はもう壊滅寸前という現状を理解出来ているからこその考えだった。
「ってかさ~……もういっその事、勇者とかはラビリンスにぶつけちゃえば?……そしたら面倒事も減るだろ~?」
「うぅ……それが1番簡単な案でシュルが……どうも悪魔合体する気が拭えないんでシュルよ……」
「意味が分からないな~……」
……その後、最終的にスネイラは折れたが、最後まで勇者パーティーとラビリンスをぶつける事に対する不安は拭い切れなかった。
そしてその推測は、少し違う結果とはいえ当たる事になるのだった……
更に同時刻、迷都 ラビリンス中心部にて……
「ふむ、いつ勇者パーティーの皆様が来られても大丈夫な様に準備しなければなりませんピョンね……」
「……何をするつもりだピョン?」
「おや、ラビィネルですピョンか……何をするつもりかと聞かれれば、ここで勇者パーティーの皆様を皆殺しにして貴女の希望を打ち砕こうかと……」
「あたちの希望を、ピョンか……」
そこで繰り広げられるラビリンスとラビィネルの会話は、一見すると不毛にも思えるやり取りだった。
しかし、それでもラビリンスは言葉を続け……
「ええ。……ですので、少し趣向を凝らしてみようかと思いましてピョンね……今こそお出でなさい、【異世界兎物語】!」
「っ!?」
ーファ~ン!
「「「「「……ピョン……」」」」」
……ラビリンスが【異世界兎物語】と唱えた瞬間、地面に魔法陣が出現し、そこから5体の特殊なラビリンス分身体が現れた。
その分身体はそれぞれ赤、青、黄、緑、そして白銀のビキニアーマーのみを衣服として装備しており、中には特殊な武器を持つ者も居た。
「な、何ピョンか!?」
「この分身体達は、異世界の物語……それも兎が登場する作品を能力の基礎にした特別な分身体となっていますピョン……さて、それぞれ自己紹介をお願いしても良いですピョン?」
ラビリンスがそう5体の分身体に告げると、5体の分身体はそれぞれ声を上げた。
「チッ……私は、ラビリンス・ストーリー・カチカチと申しますピョン……」
赤いビキニアーマーを装備した分身体は、苛立ちながらそう答えた。
「ヒヒッ……私は、ラビリンス・ストーリー・イナバと申しますピョン……」
青いビキニアーマーを装備した分身体は、何かを嘲笑いながらそう答えた。
「よっこらせっと……私は、ラビリンス・ストーリー・ムーンと申しますピョン!」
黄色のビキニアーマーを装備した分身体は、手に持った大きな杵を振り回しながらそう答えた。
「ふぁ~……私は、ラビリンス・ストーリー・トータスと申しますピョン……ふぁ~……」
緑色のビキニアーマーを装備した分身体は、アクビをしながらそう答えた。
「チク……タク……チク……タク……私は、ラビリンス・ストーリー・クロックと申しますピョン……勇者の皆様を不思議な世界へと案内しますピョン……」
白銀のビキニアーマーを装備した分身体は、時計の長針と短針を模した剣で時を刻みながら、そう答えた。
「さあ、全員持ち場について客人をもてなしましょうピョン!……もっとも、客人の行き先はあの世ですピョンが……」
ーこくり……
そうして、ラビリンスと分身体達はその場を離れた。
……同時に、ラビィネルも口を閉ざす。
後に残るは静寂のみ、それがこの迷都 ラビリンスというディストピアの日常だった……
ご読了ありがとうございます。
魔王は健在なれど、魔王軍としてはもうボロボロ……
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。