132.情報の暴力
ようやくここまで書けました。
(金村 正義視点)
「ふぅ……【断罪の落星】!」
ーヒュンヒュンヒュンヒュン!
「【冥刃十字斬】でありんす!」
司チャンと光枝さんの攻撃が、フェニルムへと叩き込まれる。
……が、
ーバシュ!バシュ!バシュ!……スパッ!
「ほんと、無駄な抵抗は辞めな~?……俺っちを殺せないのは、よ~く分かった筈だろ~?」
フェニルムは体を貫かれようが両断されようが、何事もなく復活しやがる。
……これはもう、勝ちはほぼ絶望的だな……
「いやはや、ボク達ではここが限界なのかい?」
「う~ん、厳しいでありんすね~……」
「それが分かったら、さっさと死んでくれると俺っちも面倒が減って助かるんだけどな~……」
本当に、フェニルムは余裕の態度で俺チャン達を見下している。
……でも、肝心の俺チャンを気にしなさ過ぎだ。
ーフッ……
「近くまで来たっしょ!」
「……へぇ~?」
俺チャンは【幻影】で俺チャンの幻影を作った上で、これまた【幻影】を使ってフェニルムの近くまで来ていた。
……そして、ここまで近付けば……
「【意識改変】!……フェニルムは思考を止めろっしょ!」
俺チャンはフェニルム相手に【意識改変】を発動し、その思考を停止させようとした。
……だが、事態は俺チャン達に都合の良い方向には動かなかった。
「思考を停止、か~。……生憎、俺っちに洗脳の類いは効かないんだな~、これが!」
「「「なっ!?」」」
……チッ、そう来たか……
ラビリンスと同じく、幻影は効いても洗脳は効かないタイプか……
これは完敗っしょ……
「俺っちが持つスキルは2つ。……1つはこの不死性を司る【不死鳥】、そしてもう1つは洗脳の類いを一切無効化する【能天気】ってスキルでさ~……」
「【能天気】……まさにこんなフェニルムに相応しいスキルと言わざるを得ないっしょ……」
「さ~て……これで俺っちの勝ちはほぼほぼ確定的な訳だから、もう死んでくれても……」
……俺チャン達を前に無駄話をする余裕があるとか……
とことん舐め腐ってくれるっしょ……
……それがどういう結果をもたらすかも知らないで……
と、その時だった。
ーピカ~ッ!
「ん?……あれ、これから俺っちが向かう筈の虎人族の里が光って……」
……おっと、そろそろ頃合いらしい。
「司チャン!光枝さん!」
「悔しいが、潮時かい……」
「無念でありんすね……」
ーフッ……
「ふぁっ!?……き、消えた~!?」
俺チャン達は【幻影】で姿を消して、すぐさまフェニルムから距離を離した。
勿論、【幻影】で虎人族の里の場所をズラして見せるのもセットで。
「正義君、抜かりは?」
「ちゃんと方向をズラしておいたっしょ!……明らかな別方向に変えたらバレるけど、ちょっとのズレは案外気付かないものっしょ!」
「……結構余裕あるでありんすね……」
フェニルムにも【幻影】が効くのは俺チャンで確認済み。
……そう判断した俺チャンは、そのまま里の付近へと向かって……
ーシュンッ!
「……これも正義君の仕業かい?」
「いや、知らないっしょ……」
「……なら、どうして虎人族の里が消えたんでありんすか?」
「マジで知らないっしょ……」
……目の前で虎人族の里が消えるという異常事態に遭遇し、頭を抱える事になった。
幸いにも、それからしばらくして茜チャンが先導する他の皆と合流出来たけど……説明、頼むよ?
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(浅山 藤四郎視点)
虎人族の里の消失から数分程度が経過した頃、俺達は合流して馬車の横に集まっていた。
そこでは俺達が茜から説明を受けていたのだが……
「だ~か~ら~、別の空間に飛ばしたって言ってるでしょ!……ついでに、飛ばした里の時間は限りなく進まなくした上で!……まあ、代償として飛ばしてる間は【全能の長槍】どころか【雷神の大槌】すら使えなくなっちゃったけど……」
「……聞いても分からん……」
「あたしもですニャン……」
「私もですわ……」
「私めも理解が及びませぬな……」
「頭が痛くなって来たわ~……」
「妾もじゃ……」
「里1つを、別空間に、時間もほぼ停止させた上で飛ばしたんすか!?」
「この場合は空間魔法が近いのデショうが、流石に規模が大違いデスよ!」
「正義君、大丈夫かい?」
「ちょっとキャパオーバーが過ぎるっしょ……」
「……これ、兼人さんが知ったら卒倒しそうでありんすね……」
「オレの里……別空間……時間停止……理解が出来ねぇガル……」
何が起きたか説明する茜に対し、俺達は全員頭を抱えていた。
そりゃまあ、エルリスさんの魔法だったり馬車の仕組みだったりで空間魔法の類いは知ってたが……これは規模が段違いだろうが!
あれだ……言葉にすると短く説明出来るのに、実際の現象と合わさって一瞬だけ無○空処を浴びせられたかの様な精神状態になっていた。
「ま、それ以上は何とも言えないから……どうにか噛み砕いてね?……それとシトラスちゃん、1つ聞きたいんだけど……」
「ガル?……オレは……それどころじゃ……」
「問答無用!……シトラスちゃんは私の恋人になったって解釈しちゃっても良い♥️?」
「い……良いガルが……」
……え?
シトラスが茜の恋人になったって、それマジで言ってるのか?
余計に情報がキャパオーバーしそうなんだが!?
「よっしゃぁ♥️!……それなら、もうシトラスちゃんとあんな事やこんな事をしても♥️……」
「いや……ムードは……大切ガ……ル……」
「ムード?……シトラスちゃん、ムードなんてベッドの上で作っちゃえば良いんだよ♥️?」
「マジで……言ってる……ガルか……」
……なお、シトラスは未だに茜に背負われている。
つまり、逃げ場はないに等しく……
「そうと決まれば今すぐにでもエッ♥️!な事しちゃお~♥️!」
「辞めろ……ガル……」
「辞めないよ~♥️!……あ、皆もそろそろ馬車に乗り込んで出発しないと、正義君の偽装工作に気付いたフェニルムが来ちゃうよ~?」
ータッタッタ……バタン!
困惑するシトラスを無視し、茜はシトラスを背負ったまま馬車へと乗り込んでしまった。
……さて、それじゃあ俺達も乗るとして……
「……茜の事で限界だったから聞かねぇでおいたがナフリー、その馬?は何だ?」
「えっと、この子はですニャンね……」
「ブルルルルル……」
さっきまでスルーしていたが、そろそろナフリーが連れている馬らしき生物についても聞いておこう。
「……この子は魔王軍が囮にしようとしていた、バイコーンという神獣ですニャン……」
「バイコーン……ああ、ユニコーンと対になっているとかいう……」
「一応、見た目に反して理性的ですニャンよ?……処女の方を相手にしても、乗せはしないでも襲いかからないですニャンし……」
「そ、そうか……ちなみに、名前は?」
……ナフリーの従魔については、もう考えねぇ事にしよう。
「名前……バインなんてどうですニャン?」
「ヒヒィィィ~ン!」
「あ、気に入ってくれましたニャン!」
「よ、良かったな……」
駄目だ……
しばらく脳を休ませてぇ……
「……全員、一旦馬車に乗って出発するか……」
「賛成ですニャンね……」
その後、他の皆も首を縦に振り、俺達は馬車に乗り込んだ。
……次の目的地は迷都とも呼ばれる、ラビリンスという迷宮……
今度も何とか生き残れるように祈りながら、俺達が乗る馬車は出発するのだった……
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(俯瞰視点)
「ありゃ~?……俺っち、まだ幻影に惑わされてるのか~?」
虎人族の里付近を飛び回り、頭を抱えるフェニルム。
彼は何処を探しても虎人族の里が見つからない事に困惑していた。
「……ただでさえ、今はラビリンスとのアレコレがあるのにな~……あ~、面倒臭いな~……」
結局、いつまで経っても虎人族の里を見つけられなかったフェニルムはその場を飛び去った。
……後に残るのは、静寂のみだった……
ご読了ありがとうございます。
これにて、シトラスとの因縁は決着となります。
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後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。