122.茜の本質
書くのが久しぶり過ぎて、少し設定ミスあるかも……
(浅山 茜視点)
……ケールを発ってから、何日が経過したか分からない頃……
私は1人、馬車内の自室で物思いに耽っていた。
「……もう、残す魔王軍幹部も後僅かか~……私が抱える因縁に決着がつくのもそろそろかな~……」
私が抱える因縁……
1人は王虎将軍 シトラこと、シトラスちゃん。
もう1人は迷兎将軍 ラビリンス。
前者は最終的に和解したいけど、後者は確実に討ち倒したい。
……全く着地点が違う2つの因縁だけど、どちらも決着がつくのは多分近いんだろうな~。
「……そのためにも、まずは強くならないと……今のままじゃ、どうにもならない……」
ようやく【雷神の大槌】をある程度使いこなせる様になって来たけど、それでもシトラスちゃんに勝てるとは到底思えない。
……やっぱり、より強い神器を出せる様にならないと駄目って事だよね?
「……確か、こういう時は1度自分を見つめ直してみるのが良いって聞いた気がするな~……」
自分の新たな能力を開花させるためにも、改めて自分を見つめ直さないと……
そう思った私は、すぐさまベッドに寝転んで目を閉じた……
……………………
……………
……
…
さてと、それじゃあ自分を見つめ直そう。
とはいっても、これが結構難しい。
……"君は何者か?"
急にそう問われたとして、何か気の利いた答えを出せる訳がないのと同じだからね。
勿論、身も蓋もない事を言えば"浅山 茜"という人間だと返すだけで良い。
でも、それだけじゃ駄目な気もする。
ここで重要なのは、その"浅山 茜"がどういう人間かという情報だから。
……"浅山 茜"は"同性愛者"だ。
これは間違いじゃない。
でも、まだ足りない。
……"浅山 茜"は"同性愛者"で"変態"だ。
これも間違いじゃない。
ここで重要なのが、"同性愛者"="変態"だと認識されてはいけないという事。
私はこれまでの人生、家族以外に対しては外面をどうにか崩さずにして生きて来た。
何せ、私1人の行動が原因で、同性愛者全体に対して変な偏見が生まれてしまうかもしれないから。
……勿論、両親やお兄ちゃんはここまで私が外面を気にしてたのは知らないだろうけど。
家では結構はっちゃけてたし、こっちの世界に来てからも割と好き勝手してるし……
……そう考えると、私は恵まれてるんだと思う。
私が"同性愛者"で"変態"だと知っても受け入れてくれた両親とお兄ちゃん。
……お兄ちゃんに関してはハーレムを築いているのが羨ましくて嫉妬の八つ当たりもしちゃうけど、家族としての最低限の親愛は持ち合わせてるつもりだよ?
でもまあ、だからこそ時々こうも考える。
もしも、私が古い価値観の家に産まれていたら?
きっと、私は死ぬまで本性をひた隠しにしていただろう。
それ程までに私が持つ個性は異端で、受け入れられづらいものだから。
ある意味、生物としては欠陥とも言える程に。
……あ、主題から大きく逸れちゃった。
とにかく、そんなこんなで恵まれた環境で育った私はきっと、他人の苦しみが本当の意味で理解出来ていない。
シトラスちゃんが背負っているものが何なのかは未だに分かってないし、名前も知らない兎ちゃんが現在進行形で感じてる苦しみも分からない……
罪のない人達のために命を投げ出せても、その人達が感じてる苦しみまでは想像し切れないのが私という人間の本質とも言えるかな……
……そんな私も、嫌な思いを全くして来なかったのかと言われたらそれは違う。
あれは3年前、当時の私には熱烈に推しているアイドルが居た。
そのアイドルの歌は良かったし、ダンスもキレがあった。
何より、そのアイドルは清廉潔白な純粋キャラを売りにしてて、当時の私の心に突き刺さる程にはそのキャラが完成されていた。
……しかし、当時の私は浅はかだった。
そのアイドルが裏でプロデューサーの不倫相手になっていた事や、その事がバレて言い訳が出来なくなると途端に開き直って罵詈雑言を飛ばす程に性格が悪かった事を見抜けなかったんだから……
なお、私がその現実を直視してからしばらくは記憶があやふやになっている。
そして気付いた時には大量に購入していた筈のアイドルグッズは全て私自身が捨てていて、しばらく家族全員が私を怖がっていた。
当時の私はどんな表情でグッズを捨ててたの?
……とまあ、これが私が過去に負った苦しみ。
後にも先にも、私が心の底から絶望したのはこの時だけだった。
その上、この苦しみだってそのアイドルがそんな人物だと知らなかったとはいえ推していた私の自己責任。
……魔王軍によって理不尽に虐げられた人達の苦しみを理解するには役不足でしかない。
魔王軍によってこの国の人達が背負った苦しみは、その人達だけのもの。
環境に恵まれていた私ごときが理解出来る程、簡単な話じゃない。
……ああ、ようやく分かった。
私が目指すべき方向性。
私が成すべき事。
他人の苦しみは分からない。
それはきっと、同じ苦しみを背負わないと理解出来ないものだ。
だったら、私はその苦しみを薙ぎ払う。
薙ぎ払って薙ぎ払って薙ぎ払って、そのツケを元凶の魔王軍に全てぶつける。
シトラスちゃんが背負った"何か"も、名前も知らない兎ちゃんが感じる苦しみも、全てを薙ぎ払う。
……薙ぎ払ったところで根本的な解決にはならないのは分かってる。
それでも、何もしないよりはマシだ。
……そうと決まれば、行動あるのみ。
【雷神の大槌】で全身傷だらけになっていた私が、より上の神器を使えるのかと言われたら疑問しか残らないけど、きっと大丈夫。
【雷神の大槌】だって、ケールで使った時は死にかけになりながらも連発出来る程にはなってた。
人間のスペックなら確実に即死しててもおかしくない怪我だったのに、だ。
……やっぱりこのスキル、ある程度は肉体強度の底上げをしてくれるみたい。
なら、これに賭ける。
私がシトラスちゃんや名前も知らない兎ちゃんを助けるには、これしかないんだから……
……………………
……………
……
…
ーパチリ
「……他人の苦しみは寄り添えても理解は出来ない……だったらその苦しみの元凶を薙ぎ払ってしまえば良い……【戦乙女】の神器1番、【全能の長槍】!」
私が【雷神の大槌】より強い神器を顕現させたのは、ただの衝動だった。
……が、それは最善であり、同時に最悪な結果に繋がった。
ードゴォォォォォォォォォォォン!
自室に巻き起こる爆発。
どうして、私は冷静なのか?
どうして、私は無事なのか?
どうして、私は……
ーザシュ!
「いだっ!?」
突然左目に痛みが走ったかと思うと、左目から見える景色が喪失した。
……と同時に、脳内に溢れる知らない記憶……
「これは……まさか、北欧神話に出て来るあの物語そのもの!?……となると……うぐっ!」
自身の身に起こった異常。
脳内に溢れる知らない記憶。
私は何が何だか分からなかったが、惜しくもそこで私の意識は限界を迎える。
ードタドタドタ!
「おい茜!……大丈夫か!?」
「何が起こったんや!?」
ードタドタドタドタドタドタ!
部屋の外から聞こえる、お兄ちゃん達の声……
私はそれに返事をする事も出来ず、意識を手放す事になった……
ご読了ありがとうございます。
茜は何処まで行っても、力によるごり押しに行き着きます。
気が向いたらいいね、ブックマーク登録してくれるとありがたいですが、あくまでも気が向いたらで大丈夫です。
後、皆様がどんな事を思ってこの小説を読んでいるのか気になるので、感想くださるとありがたいです。