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魔法少女のために僕ができること  作者: 白猫亭なぽり
第2章 魔法少女は穏やかに微笑む
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2.8 俺は、自分の気持ちに、正直に生きているだけだ!

雪村(ユッキー)よー、蒼一だって澄ました顔してっけど、似たよーなもんだぞ? 一皮剥きゃ(ケダモノ)さね。オープンなスケベかムッツリかの差でしかねーよ」

「隠そうとする気があるだけ、アンタよりずっと上等だよ」

「なあ蒼一、お前もああ言うタイプ好きだよな?」

「なんでこっちに矛先向けてきやがった」


 底抜けに明るいバカゆえに憎みきれないという点でずいぶんな得をしているこの坊主頭は、根掘り葉掘り問い詰める気構えらしい。面倒な部類の人間であることは間違いないので、突かれたほうも面倒そうな顔を隠さない。


「清楚な顔立ちだけどエロいカラダの女のコ、いいよな!」

「……サイッテー」

「テメェの(へき)に勝手に巻き込むんじゃねぇよ、中身だって大事だろ」

「下着の?」

「性格だよ!」


 日奈はいつしか、悟りでも開いたような落ち着きをもって、男子二人のやり取りをつぶさに眺めていた。ただし、大きな目だけは笑っておらず、可愛らしい顔が若干台無しではあるが。


「二人のスケベ具合が五十歩百歩だとしても、積んできた徳の質と量は違う、ってことね」

「あれ、俺、今ディスられた?」

荒城(こいつ)と一緒って思われるのは心外だぞ……」

「ま、荒城のスケベは今に始まったことじゃないし処置なしだからほっとくとして、厄介ごとになりませんように、とは祈ってるよ」


 荒城の煩悩にかまい続けているかぎり、話は堂々巡りにしかならない。日奈の手によって、話の軌道はあるべき方向に戻されつつあった。


「何人か、グロリアのことを親の仇みるような顔で睨んでる娘がいたんだけど、アンタたちはきっと気づいてないよね」


 互いに顔を見合わせる蒼一と荒城に心当たりなどあろうはずもなく、素直に教えを請う。


「自分の立ち位置とか、序列を脅かされたくない娘がいるのよ」

「グロリアちゃんが来て、注目がそっちに寄るのが嫌ってことか」

「そうそう。人によって程度はあるけどさ、自分を見ていて欲しい、って気持ちがどこかにあるわけ」

「雪村も?」


 蒼一の質問に対し、ちょっと答えに詰まった素振りを見せた日奈だったが、すぐに諦観混じりに笑ってみせた。


「高嶺の花にしちゃ、あの娘は眩しすぎる。嫉妬しないって言ったら嘘だけど、逆立ちしたって敵いっこないんだもん、するだけ無駄だよ。あの娘が短期留学で日本に来てるってのだけが唯一の救いだね」


 期限付きでやってくる女神は、少年たちだけでなく、少女たちの心まで千々(ちぢ)に乱す。それぞれのクラス内の位置づけが良くも悪くも固まってきた時期に、グロリアの来訪がどれほどの波紋を巻き起こすかなんて、誰も正確に見通せなどしないのだ。


「で、蒼一兄さん的には、グロリアちゃんってどーなのよ?」

「なんだよ、そのいい方」

「あの娘にしてみりゃ、オメーは異国で出会った、大好きな兄貴の面影のある男だからな」

「たしかにあの写真のひと、花泉に似てたね」

「初っ端からあんな愛情表現を見せつけるたぁ、さすが留学生(アメリカン)

「そもそも生まれ育った環境が違うだろうが」

「アンタに他人呼ばわりされたときのあの娘、みてなかったの? あの調子だと結構強めに運命感じちゃってそうだけど」


 何を期待してるんだか、と蒼一が鼻で笑えるのは、グロリアの事情をしる()()ゆえだ。彼女が学校に来ること事態が、魔法少女統括機構を後ろ盾とした壮大な茶番劇の可能性が高い。そもそも、グロリアは母親で、それ以上の愛情など生まれようがない。ロマンチックな関係に陥る可能性はゼロどころかマイナスだ。

 そうでないといけない。


「まあ、オメーの身の振り方に関係なく、俺は行くぜ!」

「どこに?」

「あの娘、秋には帰国すんだぜ? 恋人(モノ)にしたいんなら善は急げだ!」


 鼻息荒く宣言する荒城だが、勝算は限りなくゼロである。

 身も蓋もない言い方をすれば、グロリアは魔力で若返った未亡人。夫を失って一五年、朝起きれば位牌の前で手を合わせ、忙しくとも月命日(つきめいにち)には墓参を欠かさない。そんな二人の間に割って入り、グロリアを攫うなんて芸当ができるものがいようか。

 結末はわかり切っているのだが、蒼一もすべてを明かせる立場にない。


「あの娘もこれから大変だよね。こういう連中がぽこじゃか出てくんだもん。荒城、ちっとは断る方の身にもなんなよ」

「うるせー、お前に俺たちの気持ちがわかるか! こっちだって必死なんだよ! 女の子とイチャイチャラブラブしてーんだ! シてーの! ヤリてーの! わかる? ドゥー・ユー・アンダスタン?」

「アンタ、女のコのいる前でそういうこというか、フツー……?」

「俺は、自分の気持ちに、正直に生きているだけだ!」

「もうちっとちゃんとしたオブラートに包めよ……」


 荒城がスケベの権化であることは百も承知ではあるが、あけっぴろげな態度にも限界があろう。欲望を一切包み隠さないその姿は、(いさぎよ)さとはかけ離れたところにいる。

 残っていたクラスメイトも、頑なにこちらを見ぬ者、腫れ物に触るような目でみる者、おしゃべりを打ち切って教室を出ようとする者と様々だが、いずれも極力関わらないとする明白な意思を感じる。皆に助けを求めたとて視線を露骨にそらされ、答えるものはない。


「た、ただいま戻りました……」


 救いってないんだなぁ、と蒼一たちが天を仰ぎかけたその時、よりによって一番帰ってきてほしくない二人が教室に姿を表した。

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