4.一足遅かった
これがあと数分早かったなら。
彼があと数分遅かったなら。
きっとまた違った結末だった……
パタパタと店内に入っていく莉子を見送り、私は店の前で一人になった。
厳密に言うと一人じゃないけど。
(うわ、また見てる……無視だ無視、いちいち構ってられないし)
わざとのぼりのすぐ側に立って、視界をシャットアウト。
それでもなんか鬱陶しいけど……無視してそのままぼーっとスマホをいじる。
(……)
私の動き全てを舐め回すように見てくるそれ。
気にしないようにしてても、見られてる感覚がなんだか落ち着かなくて……
とうとう私は、声を出してしまった。
「……っ!何よもう、しつこいな!なんなの?!」
「影からジロジロジロジロ……!言いたい事あるなら、いい加減出てきたらどうなの!」
責めるようなキツい言葉に、あたふたと慌てながら姿を現した視線の主。
見覚えのある制服に身を包んだ彼は、おそらく同じ学校の男子生徒。
しかも……
「あれ?その学年章……もしかして同じ学年?」
私の言葉にコクリと無言で頷く。
(ふ〜ん。って事は同い年かぁ……)
へ〜。
……で、誰?
ごめん。全然名前が出てこない。
てか、多分聞いても分かんない。
とりあえず、他のクラスの人っぽい事だけは分かった。
「まぁいいや。ともかく……どこの誰だか知らないけど、いい加減なんか動いたらどうなのよ」
「え……あ、いや……」
「そうやって、いつまでもモジモジしてないでさ」
「その……だから……今、言おうと思って……」
(はぁ?!今更?!)
遅いわっ!って言いたいくらい。
でも、告白の緊張で体ガチガチの彼……きっと今何言っても聞こえないだろうから、言うのはやめといた。
「そう、ならよかった。じゃあそこで待ってて、莉子すぐ来るから」
「……」
「……」
彼はさっきからソワソワしている。
そりゃ、緊張してるのは分かるけどさ……もうちょい落ち着けって……
「さ……佐田さん、あの……」
「待っててって」
もう、待ってなさいって!そんな慌てなくても莉子はいなくならないっての!
「さ、佐田さんっ!」
「もう、何よ!大人しく待っ、」
いきなりバッと視界が暗くなった。
何が起きたのか分からない。
あまりに不意打ちすぎる行為に、脳の処理がまるで追いつけてなくて。
ふと気づいたら、焦点が合わないほど近くに彼の顔。
どんな表情なのか見えないくらいのドアップ、だけど肌の色にしてはやけに赤いような……
そして、視覚情報ばかりに気を取られていた私の唇にふわっと何かが触れた。
緊張でひどく硬直してて、その上さらにガサガサしてて……でも、ほんのり温かい何かが。
愛おしむように丁寧で、でも少し荒っぽい。
何をされているのかまだ思考が追いついていなかったけど……分からないながらも、そこまで嫌な気分ではなかった。
そうして、ぎこちないながらも優しく重なり合い……やがてゆっくりと離れた。
これだけの情報量、だけど実際はほんの一瞬の出来事で……それが離れていった時、私の口はまだ続きを唱えていたのだった。
「……てな……さい、よ……」
「光、お待たせ〜!」
不意に聞こえてきた莉子の声。
我に返りバッと慌てて彼から離れると、彼もまた何か感じたのか後ろに大きく下がった。
「……」
「……」
向こうが今どんな顔をしてるかなんて、見れない。
でも、きっと私と同じだろう。
顔が熱い……今すぐ発火しそうなほどに。
バケツいっぱいの氷水を頭から被りたいくらいの気分だ。
「でね、でね!実はね、光に渡したいものがあって……って、あれ?」
いつも以上に髪がツヤツヤで、何やら甘い香りのする莉子。トイレで色々と整えたんだろうか。
そして、その手には手のひらサイズの小さな紙袋が握られていて。
「光……」
しばらく間を置いて、紙袋がガシャっと地面に落ちた。
落ちた袋からは、なにやらさらに小さな箱と可愛らしいピンクの封筒がのぞいていた……
恋に勝ったも負けたもないけれど……結局のところ、早いもの勝ち。
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