1.私と莉子の事
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
目の前、すぐそばには……想いを寄せる相手がいる。
今が絶好のチャンス。言わなきゃ、あの言葉を。
「……」
でも、いざ伝えようとすると……これから起こる事への不安と恐怖で心がいっぱいになっていく。
『彼女』はきっと、この想いには全然気づいてない。
気づかないどころか、まさかこんな感情を持たれてるだなんて思ってもいないだろう。
なのに突然こんな事言ったら、もしかしたら迷惑かもしれない……
(……やっぱり、やめとこう)
喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んで、何もなかった事にした。
自分が何か言わなければ、何もない。いつも通りの平和な日常が続いていくだけ。
それでいい、それでいいんだ。
もし、この言葉を伝えてしまったら……きっと今のままじゃいれないから。
ああ、また言えなかった。
これでもう何度目だろう。意気地なし、情けない自分。
『彼女』の笑顔を間近で見た時、いつかはちゃんと言うぞと決めたのに。
でも、そのいつかがなかなか来ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学校からの帰り道。いつものように女子二人、お喋りしながらダラダラ歩いていた。
私、佐田光とその親友の莉子。
二人とも同じクラスってだけの不思議な仲だ。
仲は良い。自分で言うのもなんだけど、ずっと一緒にいても会話が途切れないくらい仲は良いのだ。喧嘩だってほとんどない。
でも、不思議な事にお互い何も共通点がないのだった。
むしろ、大体全てにおいてまるで正反対。
私が赤なら莉子は青、動と静。雰囲気としてはざっくりそんな感じ。
私は茶色がかった癖っ毛で、Tシャツにデニムみたいな動きやすくてラフな格好が好き。
莉子はサラサラ黒髪ストレートで、ブラウスにスカートとかフェミニンな感じの服装が好き。
これだけでももう、まったくの真逆。
休みの日の過ごし方だってそう、全く違う。
部活はお互い帰宅部だけど……私はアウトドア派で莉子はインドア派。
買い物行ったり遊びに出かけたりと外に出たいタイプの私と、自分の部屋で本でも読んでゆっくりしたい莉子。
流石に私が誘えば来てくれるけど、基本的に彼女は家にいるのが好きらしい。
あとそうそう、他に女子高校生の好物といえば恋バナ……だけど、好きなタイプもこれまた全然違う。
私の好きなタイプは知的で無口な人、できれば背が高くてメガネの。
でも、莉子は外見より中身派で……気が強くて物事をはっきり言える人だそう。
と、こんな感じに性格はまるで正反対だし、何か特別共通点があるって訳でもないけど……なんとなく波長が合うからと、なんだかんだいつも一緒にいたのだった。