第四話 ドラヴェット 上
メイドさんが現れた。
もし日本の街中で見かけたなら、誰だって振り向かずにはいられないだろう。服が服なら、モデルか何かと見間違えたかもしれない。それくらいスマートな立ち姿のメイドさんだった。
髪の毛はルィンドに似た銀色。腰くらいまで伸ばした主人とは対照的なショートヘアで、頭の上にカチューシャ……とはちょっと違うな。白いレースのついた、あれ……そう、ブリムをつけてる。
何より肌の色が印象的で、これまた主人と好対照な褐色の肌だった。
「ドラヴェットと申します。どうぞお見知りおきを」
俺とそんなに歳が離れているようには見えないけど、姿勢や仕草から、もっと大人びて見える。 黒白の長いエプロンドレスを摘まんで、清楚にお辞儀をする姿はまさしくメイド。
「いや待ておかしい」
何が? とルィンドが首を傾げる。
「異世界だろ、ここ! メイドさんがいるのはどう考えても変だろッ!?」
「良いだろ別に。メイドの一人や二人くらい居たって。なあ?」
仰る通りです。と、ドラヴェットと名乗ったメイドさんは無表情のまま頷いた。
それで良いのか異世界……!?
「まあ少々真面目な話をすると、これも地球人(君ら)のせいなのだよ?」
「どういうことだ?!」
ルィンドは壁に掛けられた『モナ・リザ』の額を、愛おしむように撫でた。
「何度か言っているが、その身体は代々地球人の魂によって動かされてきた。場所や人種はバラバラだし、時代が移り変わるたびに考え方や文化も変わっていったがね。
ともかく色んな連中が、私に導かれてこのフォルモンドにやってきた」
「誘拐されて、の間違いじゃないのか?」
「そう。そう言って、怒った奴もいたよ。そのまま死を選ぶ者もいれば、何だかんだ言いつつ戦ってくれた者もいた。
……この絵を描いた男は、それはそれは面白い奴だったよ。元はイギリスとかいう国の貴族だったそうだ。確か百年かそれくらい前だったかな? 大きな戦争があって、出征中に戦死したと言っていた」
……教科書のことを思い出すまでも無い。その戦争のことなら俺も知っている。人類の歴史でも一、二を争うくらい悲惨な出来事だ。
毒ガス、潜水艦、そして飛行機……第一次世界大戦の前と後とでは、戦争の仕方が決定的に変わってしまった。
そして、実際に戦場に出ていた人たちは、誰よりも早くそれらの兵器の威力を体験させられた。
この身体に入っていた人がどんな死に方をしたかなんて、考えたくもない……。
「芸術家志望だったその男は、私の提案を嬉々として受け入れてくれたよ。これでまた絵が描けると言ってね。
で、ついでにメイドという文化も服ごと持ち込んでくれたというわけさ」
「ついでに午後のティータイムとフィッシュ&チップスとサッカー、テニス、クリケット等々もですね」
……いや、案外エンジョイしてたのか?
「大体の事情は分かった。けど、別にメイド服を採用し続ける必要は無いよな?」
「ある」
「何で」
「可愛いから」
そうですか。