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第十五話 新しい日常 中

 三十分後、俺は虫車ニャルトのベンチに座っていた。ゴトゴトと車体(虫体?)が動くたびに、俺の身体もぐらぐらと揺れる。隣に座っているドラヴェットさんも然り。


 その膝には、小さな網籠がちょんと置かれている。


「いかがですか?」


 ドラヴェットさんが、その網籠の中からサンドイッチを取り出した。「いただきます」と言って、頂戴する。シャワーを浴びたついでに着替えて、そのまま飛び出してきたから、朝食が摂れず仕舞いだったのだ。


 何故こうなっているかと言えば、ルィンドから直々に呼び出されたからだ。ドラヴェットさんは伝言役。


 飛んで行っても良かったのだけど、「せっかくなのでゆるりと参りましょう」と言われたので、そうすることにした。


 どうやら彼女も朝食がまだだったようで、俺にくれたのと同じようなサンドイッチをぱくついている。


 その様子は機械のように規則的で、しかも表情が変わらないから、まるで美味しそうに見えない。「食事」と言うより「補給」といった風情だ。



 実際のところは、めちゃくちゃ美味しい。



 異世界で生きていく以上、どんな食べ物が出てきても受け容れるしかない。たとえ地球人目線ではゲテモノであるとしても、文句を言わずに頂く覚悟だった。


 ところが、彼らの食性は人間と全く変わらない。主食は麦に似た粉を練って作ったパンだし、時々麺料理を見かけることもある。米はあるのかと期待したけど、そちらは残念ながら無いらしい。


 麦同然の植物があるように、他の野菜に関しても、地球の物と大差がない。例えばこのサンドイッチに挟まっている「ソイキス」の薄切りなんて、色と言い味と言い、まんまキュウリだ(いや、ちょっと甘味が強い……か?)。


 何にせよ、他の野菜も大体同じような感じで、見るも触るも御免こうむりたいというようなものはまず無い。


 一方、食肉事情は少し異なっている。


 どうやら大型の動物を飼うだけのスペースは無いようで、鶏みたいな生き物や、農耕エリアの水路で育てた淡水魚が中心になっている。ステーキみたいなガッツリした肉料理はまず期待出来ない。


 最悪、生体魔導工学で食肉目的の生き物を創ることも出来るそうだけど、ここではタブー扱いだ。


 創ろうと思えばいくらでも便利な生き物を創ることは可能だ。でも無反省にそれを繰り返した結果、ネビロスは大地から追放されてしまった。今でも地上で毒を吐き続けているのは、かつて人為的に創られた植物達だという。


 タブーは破るためにある、と地球の誰かが言った。もちろん詭弁だ。タブーはそれそのものに意味がある。


 あえて技術の一部を封じることで、明確な倫理の境界線を設定する……他の宗家はいざ知らず、それがクトーシュ家の選んだ道だ。


 ギーヴァというのは、彼らの二律背反を端的に示すものだろう。


 魔導工学によって大失敗を経験しながら、なおそれを完全に手放すことが出来ない。ギーヴァは生活どころか、彼らの身体の一部となっているからだ。


 だからこそ、己の扱える範囲の力だけを扱う。身の丈に合わないギーヴァは、かえって宿主の活力を奪うという。こういう文明を築き上げてしまった以上、ギーヴァは彼らにとって祝福であると同時に、呪いとなって圧し掛かってもいるのだろう。



 そして、そんなギーヴァを全身に宿して戦うよう創られたグランギオル(これ)は、ルィンドにとってまさに葛藤の塊なのではないだろうか。



 食べることも寝ることも出来る、兵器の身体。きっと俺は何かを食べるたびに、あいつがこれを創った意味を思い返すことになるのかもしれない……。


 そんなことを考えながら、サンドイッチの残りの切れ端を頬張った。

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