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第九話 招集

 連れていかれた先は、俺にとっても見覚えのある場所だった。例の聖堂のように見える空間……ただ、メトネロフの騎士に吹っ飛ばされて開けたはずの大穴は、きれいに塞がっている。


 そこには俺やドラヴェットさん以外に、数百人のネビロスが集められていた。


 全員、武器や照明と思しきものを持っている。やはり顔つきや体格はバラバラで、まるきり犬みたいに見えるやつもいれば、人間とほとんど変わらないやつもいる。


 不安げに声を漏らしていた彼らも、壇上にルィンドが降り立つと、姿勢を正して口を閉ざした。



「諸君、昼間の疲れもとれないうちに呼び出してすまない。今日は本当にご苦労だった。まだちゃんとねぎらってやれていないことを申し訳なく思っている」



 ネビロスたちは神妙な面持ちで宗主の言葉を聞いている。壇上のルィンドも、昼間みたいなゆるい空気はどこへやら、指導者然とした立ち居振る舞いだ。


 そんな彼女を見ていると、大掃除の時にドラヴェットさんから教えられたことを思い出す。




 ルィンド・ニゥ・クトーシュ。ネビロスの歴史の中で、ただ一人現れた不老者。




 フォルモンドにはクトーシュ家以外にも六つの宗家があり、その頂点に立つ宗主はいずれも強大な魔力を備えた特別なネビロスたちだ。


 だが、そんな彼らでさえ、ルィンドのように千年以上の時を生きた者はいないという。ギーヴァを継ぎ足すように使って老化をごまかしても、歳を経るごとに魔力が衰えてしまい、最後は宿主として認識されなくなってしまうらしい。


 ルィンドだけは例外だった。ギーヴァを使って肉体の継ぎ足しをしなくても、自然な代謝のままで悠久の月日を生き続けている。


 そして、長生きを続けた分、この星でおこったあらゆる出来事を目の当たりにしてきた、歴史の証人でもある。


 正直、そんなに重要な存在だったなんて思っていなかった。


 ネビロスたちが崇め奉るのも当然だ。あの白騎士の忠誠といい、ネビロスたちは宗家の主に絶対服従している。ましてや、千年以上生きたルィンドなんかは、彼らにとっては生き神様のようなものなのだろう。



「まずは残念な事柄から伝えなければならない。メトネロフ家との交渉は破談に終わった。こちらから提案した講和条件も一方的に破棄された。恐らく、戦いはまだ続くだろう」

 


 はじめて兵士たちの間から不満の声が漏れた。ドラヴェットさんもかすかに眉根を寄せている。



「しかし、そう長くはかからない。すでにクスェル家やエブレプス家に連絡をとり、彼らも調停に動きつつある。フォルモンドの安寧を揺るがすような行為を彼らが許すことはあり得ない。


 だから我々は、自己の命を守るため、これ以上の犠牲を出さないための戦いをしよう」



 一見、かなり消極的な意見に思えた。俺が外様だからかもしれない。


 歴史小説とかでもよくある展開だけど、最初から援軍をあてにした戦い方をする将軍は、だいたい負ける。


 ……今、すごくスッと歴史小説って単語が出たな。よく読んでいたんだろうか。


 具体的な見通しの無い発言にも関わらず、誰一人それを非難する様子は無かった。厳しい言い方をすれば盲信と言えるかもしれないが、逆に言えば皆がルィンドを信頼しているということだ。


 それに俺も、ルィンドが最後に言ったことには、共感出来た。


 人の命を軽く考えるようなやつには、絶対に出ない言葉だと思う。


「……千年生きても、ああいうことが言えるんですね」


 誰に向かって言うでもなく、俺は呟いていた。


 隣に立っていたドラヴェットさんは耳ざとく聞いていた。


「宗主はそういうお方です」


 ドラヴェットさん、昼間も同じようなことを言ってたっけ。


 ただ、今気づいたけど、その口調はやっぱりどこか優しかった。


 ……ってな具合で、俺はちょっと油断していた。当事者意識ってやつが欠如していたと思う。





「グランギオルは戦いに加わっては下さらないのですか?」





 誰かがそんな爆弾を投下した。


 ルィンドの言葉に耳を傾けていたネビロスたちが、一斉に騒がしくなる。


「そうだ、グランギオル!」

「クトーシュの御旗!」

「今代の『インヘル』は、我々と戦陣を共にしてくださるのですか!?」


 それまで威厳たっぷりに話していたルィンドが、急に歯切れを悪くする。


「あー、えーっとー、うん。まぁ、鋭意交渉中ってことで」


 あいつの緑色の目は、たしかに俺の姿を認めていた。チラッ、チラッと、まるでカンニングでもするように。あ、ウインクされた。どうしろと。



「それはそれとして、さしあたり諸君にはメトネロフの置き土産が無いか探索してほしい。塔の上層部は調査済みだが、下層部までは手が届かなんだ。各自、瘴気による汚染に注意して……」



 ルィンドの言葉が終わり切らないうちに、背後の大扉がバンと開いて、一人のネビロスが集団を飛び越えていった。そのまま壇上のあいつの側に降り立つと、焦った様子で何か耳打ちをする。


 それを聞いているルィンドの表情が、見る間に厳しいものへと変わっていく。



「……諸君、緊急事態だ。


 塔に魔獣が放たれた」

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