92話 幹部会議 その4 女神様の退出
第1回 女神教 幹部会議
開催場所、参加メンバー等については、89話、まえがきを参照のこと
気が付くと、俺は、元の会議室にいた。
両手の人差し指と親指で、∞のマークをつくったまま、突っ立っていた。
他の19名についても、同じような状態だった。
おそらく、さっきの幻を見たのは、俺だけだろう。
他の19名は眠っているような状態だったはずだ。
「どうですか、皆さん? 私との“繋がり”を感じることはできましたか?」
女神様が、会議の参加者たちに聞く。
「教祖様に、右手をかざしていただいた時と同じ光を見ることができました!!」
「再び、女神様と直接、繋がることができて光栄です!!」
参加者が口々に感激の言葉を話す。
“紫の海”にいた時の俺の目には、額にブッ刺さった触手から、何かを吸っているようにしか見えなかったのだが、信者視点だと、光が見えていたらしい。
何か、気になることを言っているな。
俺が手をかざした時と同じ光が見えた、ということは、日頃、信者を増やすために、俺がやっていることと、あの触手がやっていたことは、同じようなものなのだろうか。
もしかして俺自身が、女神様から見たら、少し変わった種類の触手のような存在なのかもしれない。
「信者の皆さんに、私との“繋がり”を実感していただけたようで、良かったです」
女神様が、参加者たちに微笑む。
「それでは、畑大悟、もう用件はありませんね?」
女神様が俺に聞く。
“紫の海”で女神様の本体と話してから、少しだけ、女神様の機嫌が良さそうに見える。
「あと、ひとつだけ、質問させていただいても良いですか? 女神様は、今、こうやって、姿を現しておらえるわけですが、確か、存在の力、魔力が大きすぎる存在は、別の世界に行くことはできなかったのではないですか」
「ああ……、そのことですか……」
女神様が、少し考えるような素振りを見せてから話す。
「今、皆さんが見ている、私の姿は実体ではないのです。皆さんの目を借りて、いわば幻を見せているような状態なのです。その証拠に……」
女神様が、前かがみになり、俺の頭の方に手を伸ばした。
本来ならば、女神様の手が、俺の頭にタッチするはずだが、立体映像の手は、俺の頭をスッと素通りした。
「ほら、手があたらないでしょう……。理解していただけましたか?」
「わかりました……」
「他には、もう用件はありませんね?」
再度、女神様がニコニコしながら聞いてくる。
女神様は目では笑っていても、腹の中では何を考えているのかわからない。
「ええ、女神様、もう大丈夫です」
「それは良かった……。それでは……、皆さんの、さらなる献身を期待していますよ。皆さんに大いなる祝福があらんことを……」
そう言うと、女神様は、大きな閃光を放って、姿を消してしまった。
会議室に残された、俺たち20名は、しばらく呆然としていた。
いち早く、気を取りなおした俺は、雷通の高塚局長に話しかけた。
「高塚局長、信者の認定条件は2つ。1つ目は、帰依の心、2つ目は、祈りの言葉を3回詠唱ということですが、どうですか? 行けそうですか?」
高塚局長が顎に手を当てながら考える。
「そうですな……。祈りの言葉が少し長くて、覚えづらいのと、3回というのは、回数としては多い気がしますが……、やれんことはないでしょう。いや、やってみせましょう!! 今までも、私はそうやってビジネスを成功させてきましたから」
高塚局長の言葉は、なかなかに心強い。
ちなみに俺が高塚局長に、やれるか、やれないか、聞いているのは、メディア戦略によって200万人の信者を獲得できるかどうか、ということである。
イケメンで有名な、ジャミーズ事務所の人気グループでも、シングルCDの売り上げが、累計で100万枚、行くか行かないか、というのが今の世の中である。
俺には、200万人の信者を獲得するというイメージが、なかなか湧かなかった。
だが、高塚局長が言うには、それも難しいことではないらしい。
女神様から使命を課された時から、ずっと俺の悩みの種だった。
手作業で、例えば、1日300人といった一定の人数を、等差的に増やして行くことはできるだろう。それなら容易にイメージできる。
しかし、それでは目標は達成できないのだ。
どこかで飛躍が必要だ。
俺は、その飛躍を、高塚局長に託していた。
高塚局長の言葉に勇気づけられた俺は、会議を進めることにした。
ホワイトボードを眺める。
ホワイトボードには、先日、俺が書き出した、会議で話し合うべき議題が書き並べられていた。
ちなみに、俺のメモをもとに、ホワイトボードに書き写す作業をしてくれたのは、寺田くんである。
「それでは、気を取り直して、会議を再開しよう。第一の議題から始めようと思う……、第一の議題は、『信者獲得とメディア戦略』について。雷通の高塚局長から、今後の展開について、説明してもらう。高塚局長、お願いします」
俺がそう言うと、高塚局長が自分の席で立ちあがり、説明をはじめた。
「教祖様から、メディア戦略を任されている、雷通のメディア企画局長の高塚秀夫だ。すでに何人かは知っている顔もいると思うが、以後、よろしく。私がこれから行おうとしているのは、史上類を見ない、大規模なメディアジャック計画である。私は、この計画を『グレート・マインド・ハック計画』と名付けた」




