81話 封門委員会 その5
「その外道会が壊滅した、外道会館の大虐殺に、邪神の使徒が関与しておる可能性が高いのじゃ……」
待てよ、大城戸老師の言葉を真に受けるならば、サイコロステーキ殺人鬼=邪神の使徒、ということになるのか……?
「老師、それでは、最近、世間を騒がせているサイコロステーキ殺人鬼が『邪神の使徒』ということですか?」
「ううむ、それがワシにもわからんのじゃ。分析班の中では、死体の配置などから『邪神への供物』として、あれだけ大量の人間が殺されたのではないか、という説も出ておる……。しかし、ワシ自身は、その説には懐疑的なんじゃ。本来、意味のないモノに、意味があると思い込んで、無理に意味を見出そうとしている可能性もあるからのう。ただ……」
「ただ……?」
「サイコロステーキ殺人鬼と呼ばれている者が、先ほど言った、異世界からの影響を色濃く受けた超能力者、ワシらは、古より呼称を統一していて『魔の法則を使う者』、『魔法使い』と呼んでおるが、『魔法使い』であることは間違いないのう。あと、奴がおこなったことからも、『邪神の使徒』かどうかは別として、邪悪な意志を持った存在であることは間違いない」
「そうなんですね」
外道会館の大虐殺については、社会的な大事件だったこともあり、私も警察から報告を受けている。外道会のヤクザたちは無抵抗だったわけではない。会館内にいた警備のヤクザが、虐殺者に応戦した形跡があるらしい。しかし、なす術もなく約170人の人間が惨殺された。
邪悪な意志を持った魔法使いが、今度は狙いを、この私がいる、この首相官邸に、定めないという保証はどこにもないのだ。果たして、警視庁の官邸警備隊と機動隊だけで、私を守り切ることができるのだろうか……。
「結局、ワシらの今の索敵能力では『邪神の使徒』が目立った動きをしたところを潰すしかないと思っておる。そのために、警察の協力部署からも、必要な情報を提供してもらっておるわけじゃが……。今回、ワシらが総理閣下に、直接、お目通りいただいたのには2つ目的がある」
「2つ……ですか?」
「今まで、社会的な混乱を避けるためにも、秘密主義で、一部の上層部や、警察・自衛隊の限られたセクションでしか、ワシらのことを知らなんだが、今後は、それだけでは十分に対応しきれない可能性がある。そこで、日本政府の全面的な協力を依頼したいのじゃ……。それが1つ目の目的じゃ。そのためにも、国のトップである、式田総理閣下に、ワシの方から現状を説明させていただいた……」
「わかりました……、日本政府としても全面的な協力を……、いや、正式な全面協力をお約束する前に、少し検討させていただいてもよろしいですか?」
よく考えたら、いくら官房副長官の紹介とは言え、この老人たちの言うことを真に受けすぎではないか? 一度、内調(内閣情報調査室)あたりに、この老人たちの素性や、話の信ぴょう性を審査させてから、返事をしても遅くはなかろう……。
「もぉ、シッキ-、いいかげんにしなよ!!」
そこへ急に、私と老師の会話に割って入る者が現れた。
封門委員会のメンバーのひとりである、ピンク髪のギャル風の少女である。ミニスカワンピース風の黒い袈裟を着て、ヒールの高い黒いロングブーツを履いている。
実は、私が老師と話している間も、耳をほじくったり、髪をいじったり、あくびをしたり、ダラダラした態度をとっていたので、気にはなっていたのだ。
「えっ? シッキ-というのは、私のことかね?」
「そうだよ、シッキ-。アンタのことだよ。他にいねぇだろうが……」
こんな小娘に、内閣総理大臣である、この私が、『シッキ-』などと、気安いニックネームで呼ばれるとは……。
「これ、サクヤ。総理閣下に対して、無礼であろう……」
老師がたしなめる。
「大体、じっちゃは、話が長すぎんだよ。グダグダ、グダグダ………。シッキ-もさぁ、トロいんだよね。『全面協力しますか?』に、答えは、YESか、NOだけじゃん。他に何があんだよ? ばっちゃが言ってた……、シッキ-は『慎重に検討してばかりで何もしない』って……」
サクヤと呼ばれた、ピンク髪の少女は、「もぉ、うんざりだ」という表情をしている。
「もし、すぐに答えが出せないって言うんだったらさぁ……」
そう言いながら、サクヤは、右手をパーにして開きながら、私の方へ右腕を伸ばした。
「アタシが出させてやるよ……」
すると……、私の体が、総理の椅子から、フワッと浮かび上がりはじめた。
とっさに総理の椅子にしがみつこうとしたが、浮上するスピードが速くて、つかみ損ねてしまった。
1、2秒間、私は、総理の椅子から、1mくらいの高さで、フワフワと浮かんでいた。
「こ、これはどういうことだ……」
うろたえる私をよそに、サクヤは動作を続ける。
うす笑いを浮かべながら、開いていた右手を丸めて、人差し指を突き出したかと思うと、グルグルと素早く、横長の楕円形を、何重も描いた。
すると、サクヤの人差し指の動きにあわせて、まるで洗濯機に入れられた衣類のように、私の体は、楕円の軌道を描いて、空中を猛スピードで引っ張りまわされ始めた。
「うおおおおおおおお」
スピードに翻弄されながら、私は叫んでいた。
奇跡的にも、内装や壁には当たっていないが、このままではいずれ、サクヤがコントロールを誤って何かに激突するのは時間の問題だった。
私は、必死に両腕で、頭をかばいながら叫んだ。
「た、頼むから、もう、やめてくれー!!」
「ねぇ、シッキ-、どうすんの? 答えはYESかNOの、どっちかだよ? アタシらに全面的に協力するか、しないか? 答えはYESか、NO、どっち?」
愉快そうに喋りながら、サクヤは、私の体を引っ張りまわすスピードを上げているようである。このままではバターにされてしまう。
「わっ、わかった……、YES!! YES!! 全面的に協力する……。約束する……」
そう言った途端、私を掴んで引っ張りまわしていた、見えない力が消えて、私の体は、執務室の床にドサッと落下した。
「シッキー、そうだよ。最初から、そう言っていれば良かったんだよぉ☆」
サクヤは嬉しそうだ。まるで、受け持ちの幼稚園児が、はじめて自分の名前をひらがなで書けた時の幼稚園の先生のような態度である。
「それにしてもさ、アタシ、思ってたんだけど……、シッキ-って、すぐに失禁しそうな名前だよね、キャハハッ☆」
そう言われた私のズボンは、股間のあたりが湿って変色していた……。




