8話 サイコロステーキ殺人事件のニュース
目覚めると、窓から差しこむ陽ざしは明るかった。
ナギに、ひざ枕をしてもらって寝ていた気がするが、起きた時には、ベッドに横になっていた。ナギが俺を運んでくれたのだろうか、重かったろうに。
寝室には時計がなかったので、急いで、女神スマホではない、私物の方のスマホを起動させる。
時刻は“14:58”と表示されていた。9時間くらい眠っていたのか。
スマホを起動する際、メッセンジャーアプリにメッセージが溜まっていたらしく、未読9件という表示が一瞬、映った。
あと、以前に、牛丼の割引券めあてでインストールした、スピードニュースという、ニュース配信アプリがそのまま入っているのだが、3、4の最新ニュースが表示された。
一番上の目立つところに表示されていたのは、今、世間をにぎわせているバラバラ殺人事件の続報だ。
川崎市で6人目の被害者が発見されたらしい。
このバラバラ殺人事件であるが、従来のバラバラ殺人事件とは大きく、おもむきが異なる。
従来のバラバラ殺人では、例えば、頭・胴体・腕・脚などのパーツごとに切断された死体が発見されるケースが多いのだが、この連続殺人の被害者の死体は、もっと細かくバラバラにされている。
ニュースで報じられているところによると、被害者の死体は、衣類や骨・肉も含めて、一辺2cm程度の立方体状に切り分けられていたらしい。簡単に言うと、死体は、何千個ものサイコロステーキと大量の血液等が混ざったような状態で発見されたということだ。
そのため、この事件のことを、ネット上では“サイコロステーキ殺人事件”と呼んでいる。
死体の状態も不可解なのだが、このサイコロステーキ殺人事件の不可解な点はそれだけではない。
3人目の被害者は、世田谷区の高校2年の女子高生なのだが、友人と別れてから15分後に、路地裏で、サイコロステーキ状になって発見されているのだ。
しかも、現場の血の量や、外から移動させた形跡がないことから、女子高生は、その場でサイコロステーキ状に解体された可能性が高いという。
わずか15分の間に、どうやって、女子高生を、何千個ものサイコロステーキに変えることができるのだろうか。
ネット上では、それ専用の自作の裁断マシンを積みこんだトラックに乗っている犯人がいて、移動しながら獲物を探しているのではないかという噂もあった。
しかし、魔法というものが存在するという知識をえた、今の俺の見方は違う。
このサイコロステーキ殺人事件って、“魔法使い”のしわざじゃないのか?
思い起こしてみると、このサイコロステーキ殺人事件に限らず、最近、どうやってそんな事象が発生したのか、と疑問に思うような不思議なニュースが多いような気がする。これも、女神様が言う、向こうの世界が、こちらの世界に近付いてきている影響だろうか。
色々考えていると、腹が減ってきたので、リビングへ移動する。
そこにもナギの姿はなく、テーブルの上に、ラップがかけれたスープ入りのお椀とご飯ちゃわん、箸、コップ、あと手紙が置かれていた。手紙には次のようなメッセージが書かれていた。
大好きな大ちゃん教祖様
ナギのシフトはお昼の12時からなので、もう家を出ます。大ちゃん教祖様は、昨日はおつかれだったと思うので、起こさないで行くね。ゆっくり休んでね♡。
ナギ、今日は、大事なお客様の指名が一日入っている日だから、休めないの。
帰りは夜の12時頃になると思います。その間、大ちゃん教祖様の、身の回りのお世話をできなくて、ごめんなさい。
テーブルの上に、ナギ特製の奄美名物、鶏飯をおいていきます。おいしいから、温めてから、味わって食べてね♡。
大ちゃん教祖様に出会ってから、ナギの心の中のモヤモヤが晴れて、なんだかスッキリした気持ちだよ。ありがとう♡。
ナギより♡
「ナギのやつ……」
小学生や中学生の時に、母親が、置手紙といっしょに、テーブルの上に食事を置いていくということは度々あったが、女の子からこんなことをしてもらったのは初めてだ。思わず笑みがこぼれてしまう。
しかし、同時に待てよ、とも思う。結局、これって、最後の行の言葉もふくめて、俺があの子を洗脳して、自分の命令通りにうごくロボットにして、言わせているだけなんだよな。
洗脳しても、人格の100%全てが変わるわけではない。俺が洗脳魔法でいじるのは、頭の中の、ほんの一部だけだ。
だから、ある程度は、本音がふくまれているのかもしれない。しかし、それでも、これを見て、フフフっと笑う俺は、相当、気持ち悪い奴だな、と思う。
お椀の中には、うす黄色のスープが入っていた。ちゃわんに盛られたご飯のうえには、細かく刻まれた、鶏肉、卵焼き、シイタケ、ネギ、ノリなどの具が乗っている。
“とりめし”っていうの? それとも“けいはん”?
はじめてなので、食べ方もよくわからない。多分、スープをご飯の上にのせて食べるのだろうな。
試しに黄色いスープをご飯の上にかけてみる。
そして、ズズッとスープ漬けになったご飯を口にかきこむ。
うん、実にあっさりしている。食べやすい。ぜいたくを言えば、スープの味は、もう少し濃い方が俺好みかな。
ただ本当にあっさりとしているので、お茶漬け感覚で、いくらでも食べられる。ズズッ、ズズッと口の中に、かきこみ続け、あっという間に完食してしまった。
冷蔵庫から取り出してきた、食後の麦茶を飲みながら、くつろぐ。
さてと、腹ごしらえも終わったことだし、ムチムチ猫耳メイド女学院に行ってみるかな。
その前に、9件メッセージが溜まっていたようだし、メッセンジャーアプリの方もチェックしてみるか。
アプリを起動させた瞬間、メッセージが目に入った。
『畑くん、大丈夫? まさか家で倒れて動けなくなったりしてないよな?』
送り主の名前は、堀川店長となっている。バイト先のコンビニ店長の名前だ。
しまった!! 忘れていた。今日はシフトが入っている日だったのだ!! 誰かに替ってもらうにしても、早めに連絡しておくべきだった!! 俺としたことが、洗脳活動に夢中になって、すっかり忘れていた!!