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78話 封門委員会 その2

 総理執務室に入室してきたのは、5人の男女だった。


 ひとりは私が、よく知っている男だ。


 官房副長官、木田聡(きたさとし)である。


 センターが禿げ上がった、メガネの男だ。警察官僚として働いてきただけあって眼光は鋭い。ピシッと、黒いスーツを着こなしている。年齢は67歳と、若いとは言えない年齢だが、背筋もしゃんとしている。


 警察庁長官の経験者であり、2代前の総理の時代から、事務担当の官房副長官として官邸に務めている。


 各省庁の幹部の人事権を掌握している、内閣人事局長も兼任しており、事実上、日本の官僚機構のトップに立つ男である。


 もちろん東大法学部の出身で、露骨には口に出さないが、早和田(さわだ)大学出身の私を、いつも見下している。態度でわかる。


 あの傲慢な木田が、わざわざ同行するとは、この封門委員会(ふうもんいいんかい)というのは、何者なのだろうか?


 その封門委員会のメンバーと思わしき、他の4人だが、およそ総理執務室には、似つかわしくない風体の持ち主ばかりだった。


 4人中3人が、編み笠を頭にかぶり、服装は黒い袈裟、手には数珠という、修行僧のような出で立ちをしている。そして、合掌して、お経のようなものを唱えながら、執務室に入室してきた。


 4人のうちのひとりは、ヤギのような長くて白いヒゲに、白くて長い眉毛、いかにも仙人のような見た目をした老人だ。


 もうひとりは、髪の毛がピンク色で、年齢が十代半ばくらいのギャル風の女。黒い袈裟も、独自の着こなしをしており、原形をとどめていない。袈裟と言うよりは、袈裟をモチーフにデザインした、黒いミニスカワンピースと言った方が、正確かもしれない。脚に、ヒールの高い、黒いロングブーツを履いている。


 もうひとりは、年齢は20代後半くらい、身長は2m30cmくらいはあろうかという大男だ。縦幅も横幅も広くて、まるで存在自体が、分厚くて巨大な一枚の壁のような男だ。威圧感を与える体型とは対照的に、顔は、目が細く、純朴な田舎者風である。この男を見た瞬間、私がパッと思い浮かべたのは野球漫画『ドカ〇ン』の主人公、山田〇郎であった。頭に鉢巻きをまいている。


 そして、最後のひとりは、白い着物をきた、白髪の、3歳くらいの幼女である。肌も白いし、この女の子はアルビノなのかもしれない。ドカ〇ンみたいな顔をした大男に、左腕で担がれ、大男の左肩をまくらがわりにして、スヤスヤと眠っている。大男とのコントラストのためか、小さい体が、まるで人形のように見える。ドカ〇ンの娘であろうか? 保育園かどこかへ預けてから、ここへ来ることはできなかったのだろうか。


 私が、まじまじと封門委員会のメンバーを眺めていると、官房副長官の木田が口火を切って、話し始めた。


「総理、まずは(わたくし)の方から説明をさせてください。こちらにおられるのが、封門委員会の方々です。封門委員会は、(いにしえ)の時代より、異世界の干渉から、この国を守り続けてくださっている秘密結社なのです。ごく一部のセクションだけではありますが、警察・自衛隊も、封門委員会とは、協力関係を築かせていただいております」


 異世界の干渉だと? 何のことだ? 私はそんな話、初めて聞いたぞ。


 木田は続ける。


「私も、警察庁長官に就任することが決まった際には、先代の長官から、封門委員会からの依頼には、最優先で応じるように、と引継ぎを受けております。先代の長官も、先々代の長官から引継ぎを受けていたようでして、さかのぼると、どうも、明治期の内務省の時代からの引継ぎ事項のようです」


 戦前から、日本の官僚機構の、ごく一部は、封門委員会とかいう組織の存在を知っていたということか。


「某宗教団体が起こした、毒ガスによるテロ事件が目立っていたこともあって、オモテには出ておりませんが、90年代には魔力や呪術を使って、皇室や日本政府、あるいは“世界そのもの”を狙ったテロが、数多く(くわだ)てられておりました。私が30代後半で、警視庁公安部の課長として、その種のテロ対策を担当していた頃から、封門委員会の方々には大変、お世話になっているのです」


 ここで仙人のような見た目の老人が、口を挟んだ。


「あの頃、若造だった聡が、ここまで偉くなるとはのう……。時間の流れとは早いものじゃわい。それにしても、聡、お前さん……、禿げたのう。あの頃は、あんなにフサフサで、男前じゃったのに……」


大城戸老師(おおきどろうし)……、私も、今や、それなりの地位にいる人間なのです。その呼び方はおやめください。それに……、髪の話は関係ないでしょう?」


「それは、すまなんだ。ワシは、ただ、お前さんを“ハゲまそう”としただけなんじゃ……、フォッフォッフォッ」


 さぶっ、何だ、この寒いダジャレ好きのジジイは……。


 木田官房副長官は、老人に、さらに何かを抗議しようとしたが、一瞬、考えて、すぐに諦めたかのような表情になって、思いとどまったようだ。


 仙人のような老人は、今度は、私の方を向き、自己紹介をはじめた。


「式田総理閣下(かっか)、初めてお目にかかる。ワシは、封門委員会の(おさ)をしている大城戸浄玄(おおきどじょうげん)と申す者……、以後、お見知りおきくだされ……」


「こちらこそ、お初にお目にかかります。第101代、日本国内閣総理大臣、式田丈雄です。それで……、老師は、何の御用で、こちらに来られたんですか?」


 つい木田官房副長官にならって“老師”と呼んでしまった。それにしても、いつも肩書きを付けて名乗る時は、顔が、にやけそうになる。


 私の質問に対して、老師は、一呼吸、置いてから答えた。

 

「実は……、今、この世界に、かつてない程、深刻な危機が迫っておるのじゃ……」

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