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77話 封門委員会 その1

 私こと、内閣総理大臣、式田丈雄(しきだたけお)は秘書の報告を聞いていた。


「総理、民自党の調査局が実施した支持率調査によりますと、ついに内閣の支持率が15%を切ったようです。物価高が続いている、この数週間での支持率の下落は特に著しく、このままで行くと、過去最低だと言われた森田内閣の支持率9%に迫りかねない勢いです。総理、何らかの手を打ちませんと、党内をまとめることも、ままなりません。党内では、もはや半ば公然と“式田降ろし”の動きが出始めております」


 内閣総理大臣、何と甘美な響きを持った肩書きであることか。


 この椅子を手に入れるために、この式田が、どれだけの期間を忍従してきたことか。


 そう、私、式田丈雄こそが、第101代、日本国内閣総理大臣なのである。


 ちなみに、秘書が言っていた、森田内閣というのは、ITあいてぃー(インフォメーションテクノロジー)のことを『イット』と呼んでいたアホが、総理を務めていた内閣である。


「ううむ、何らかの手を打たねばな……、慎重に検討するとしよう……」


 私の口から「慎重」という言葉が出た途端、秘書の表情に「またか?」という、失望と呆れの色が浮かんだのを私は見逃さなかった。


 目の前にいる、男性秘書の年齢は30代後半、式田事務所の中では最年少の秘書である。


 川に落ちた犬は、徹底的に叩かれるということか。


 なぜ、お前のような若造に、この内閣総理大臣の式田丈雄が馬鹿にされねばならない?


 一層のこと解雇して、今後、他の議員事務所でも働けないようにしてやろうか?


 お前ひとりを社会的に抹殺することくらい、わけないんだぞ。


 この広島男児、式田丈雄をなめるんじゃない!!


 私は心の中で吠えたが、表面的にはポーカーフェイスを保っていた。


 いかんいかん、つい、カッとなってしまった。


 私は、やさしくて、ソフトなリーダー、紳士ジェントルメンなのである。


 自分で言うのもなんだが、私は、強権的な力を振るって、引っ張っていくリーダーと言うよりは、派閥間のバランスの上に立って、各派閥の声を聞きつつ、調和のとれた政権運営を行っていく調整型のリーダーなのだ。


 専横的なふるまいは、調和を崩しかねない。自重せねばならぬ。  


 私は口をグッと結んで、怒りをこらえた。


「あと、総理、本来であれば、このあと14時から、山辺幹事長(やまべかんじちょう)との面談予定だったのですが、急な変更で、封門委員会(ふうもんいいんかい)の方々との面談が入っております」


 封門委員会……? 


 内閣府の外局で、カジノ管理委員会というのはあるが、そんな名前の外局は聞いたことがないぞ。


 外郭団体か、あるいはどこかの利益団体の名前か?


「封門委員会? 私はそんな名前の団体を聞いたことがないが……、その面談の予定を入れたのは誰だ? 首席秘書官の瀬古か?」


 瀬古は、長年、私と二人三脚で歩んできた秘書の男である。


 私と瀬古は、政治家と秘書の2世同士なのだ。


 私は2世議員なのだが、私の父に、瀬古の父親が秘書として仕えてきた。


 瀬古は幼い頃からの親友でもあり、もっとも信頼できる側近のひとりでもある。


「いえ、今回の予定を直接、入れられたのは瀬古秘書官ではありません。木田官房副長官が、ねじ込んでこられたのです」


 官房副長官には、政治家から任用される政務担当と、中央省庁の次官級の仕事を経験したものが就く事務担当の2種類がある。


 事務担当の官房副長官は、各省庁のトップである事務次官の連絡会議を運営し、各省の利害を調整する等、日本の官僚機構のトップに立つ人物であると言っても過言ではない。


 警察庁出身で、警察庁長官を務めたこともある木田は、まさに、その事務担当の官房副長官であった。


「官房副長官が……、わかった、会おう……」


 やがて封門委員会のメンバーと思わしき面々が、総理大臣執務室に入室してきた……。

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